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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第6章 exam
67/121

12 策略

 深夜との接触は、亮夜たちにも、ステラたちにも、大きな衝撃を与えた。

 その夜、亮夜は、全く予想していない人物からの訪問を受けた。

 運が悪いことに、その時、亮夜は部屋のお風呂に入っていた。

 時刻は午後8時を過ぎたころで、遅いと言えば遅い方だが、誰かが訪れる時間としては、非常識になるかは、個人差が出るくらいの時間だ。

 __少なくとも、舞式兄妹からすれば、非常識と思えたのだが。

 浴槽でリラックスしていた亮夜は、夜美が慌てている様子を感じ取って、慌てて外に出ようとした。

 幸い、浴室から出た所で__浴室と通路の部屋の間に脱衣場があるため、直接見える心配はない__、夜美の様子を正確に感じ取って、あくまで心理的に慌てているということが分かったので、妹の前に痴態を晒すことはなかった。

「お兄ちゃん」

 3回くらい、この声を聞いて、ようやく亮夜は返事を返した。それまで、身体を最低限拭いて、タオルを巻く時間が欲しかったので、安易に返事を返さなかったのだった。

「どうした、夜美」

「ステラたちがあたしたちに会いたいって」

「ステラが?」

 ステラとは、この大会中に、1回直接会ったに留まっている。実際には、2回くらい離れて見つけているのだが、その時は声を掛けなかった。

 この部屋を調べたことはともかく、どうして急にそんなことを言い出したのは気になるが、生憎、時間がいいとは言えない。

「明日の朝まで、待ってもらえるだろうか」

 亮夜がそうメッセージを伝えると、夜美はドアからドア越しにステラにそう伝えた。

 ステラは受諾して、去った。

 用件が終わったことを夜美から聞いた亮夜は、巻いていたバスタオルを脱いで、再び浴槽に入った。




 次の日の朝、朝食を食べ終わった亮夜と夜美の前に、特徴的な二人が現れた。

 一人は、黒服の地味だが綺麗な顔立ちをしている少女。

 もう一人は、これまた黒服の、美形で儚げな印象を与える青年。

「考えてみたら、場所の指定を忘れていたよ。ごめん」

「あんな非常識な時間に来たボクたちも悪かったよ。今から話してもいい?」

 昨日の夜、亮夜たちの部屋に訪れた、ステラと佳純だった。

「それはいいけど、こんな所で話していいのかい?」

 しかし、亮夜はいきなり話の腰を折った。

 これから話す内容は、想定している内でも、かなりのシークレットとなることは容易に想像が出来る。

 もし、深夜や政府上層部に情報が漏れたりすれば、立場が悪くなるのは避けられないので、亮夜はわざわざ分かっているはずの警告を投げ込んだ。

「大丈夫だよ、僕が遮音魔法をかけている」

「夜美」

 亮夜が夜美に目配せをして、その意図を受け取った夜美は、同じく遮音魔法を張った。

 音は空気を伝って聞こえるのだが、遮音魔法は、空気の振動を変化させて、音を通さなくする魔法だ。応用も聞きやすく、超音波から、風魔法への障壁など、多岐に渡る。

 夜美も遮音魔法を使ったのを見て、ステラと実行者の佳純は顔を顰めた。

「・・・僕たちを信用していないと?」

「話の内容からして、徹底した機密性を保つのは普通ではないかな?」

 ある意味で信用していないと解釈された佳純たちに対して、亮夜は建前論でやりすごした。

「そろそろ聞かせてほしい。一体、何の話だ?」

 いきなり本題に切り込んだ亮夜に対し、ステラも佳純もポカンとした表情を晒した。

「相変わらず、キミは身勝手というか、マイペースというか・・・」

「呆れている場合じゃないだろう。僕が話すよ」

 ステラが呆れている中、話のバトンタッチをした佳純が、代わりに答えた。

「昨日、亮夜君のことを兄と呼ぶ、女の子がいてね。夜美君よりは見た目が年上だったよ」

 それだけで、亮夜はその人物が司闇深夜だということが分かった。夜美も気づいていたが、見た目を出されて、そちらに気をとられていたため、驚きより何とも言えない不愉快な表情を見せていた。

「僕の推測だが、彼女は司闇深夜である可能性がある。ああ、あの「司闇」だよ。だとすると、君たちは身元を偽っている可能性がある」

 早くも真実に近づかれて、亮夜も夜美も内心焦りを覚えていた。

「聞かせてもらいたいな。君たちの本当の姿は何なのかと」

 その難題に答えたのは、亮夜であった。

「その人物が「司闇」であるかは置いておくとして、僕たちは紛れもない、「舞式」の一族です」

「では、君のことを兄扱いしていたことは?」

 やはり、その程度で誤魔化されることはなかった。

 ここまで知られている以上、多少は真実を伝えなければ、到底納得はしてもらえないだろう。個人情報として、黙秘を貫こうとしても、戸籍偽装が台無しになる危険が無視できない。

 もはや、多少は明かすことしか、この場を切り抜けることは出来なさそうだった。

「・・・僕たちは昔、司闇一族の居住地にいました」

「何だって!?」

 推測で、亮夜たちの立場を当てたとはいえ、目の前に司闇のことを知る人間がいたことに、佳純は驚きを隠せなかった。ステラに至っては、驚愕を隠そうともしなかった。

「その時の実験の一つに、つながりを利用しようとしました。そこで、僕たちを、きょうだいとしました。あくまで、義理の」

「つまり、血の繋がっていないきょうだいと?」

「ええ。最も、義理とはいえ、あんな奴らをきょうだいと思ったことは、一生の恥ですが。しばらくして、僕たちは逃亡しました」

 佳純は、亮夜と夜美を見詰める。

 真実を暴き出した亮夜に、迷いが存在しない。まるで、話す内容を始めから決めているかの如く。嘘とするには、あまりに用意周到か、それとも、全てを決めていた台本通りか。恥とした際にも、憤りを感じるほどの、威圧感を感じたのも、より深い謎を生む。

 一方、口を開いていない夜美は、ただ、まっすぐ見詰めていた。いつものような調子を感じさせる、落ち着いているとも解釈できる姿を。

 つまり、このようなやりとりを、何度も繰り返しているのは間違いない。それが真実であれ、嘘であれ、空想であっても、真実を見破る、もしくは真実と断定するのも困難だ。

「・・・では、質問の内容を変えさせていただきたい」

 唐突に質問の内容を変えた佳純に対して、誰一人、大きな反応を見せなかった。

「「司闇」の実験、どこまで知っているのかな?」

「佳純さん」

 しかし、質問の内容を明かした直後、亮夜はいきなり話を切り込んできた。

「これ以上の話は、第3者のプライバシーを損なうことになります」

 それを言うならば、「司闇」が戸籍偽装を示唆させることを発言した時点で、プライバシーを損なっているはずだが、そのことに突っ込む人物はいなかった。

「しかし、奴らはニッポン屈指の非合法集団。体裁すら怪しい奴らに、そのような建て前が通用すると考える必要はないだろう」

 代わりに、佳純は別の観点から、話を引きずり出そうとする。

「では、犯罪者相手ならば、どのようなことも許されると言いたいのですか?」

 しかし、亮夜の極論に近い返しに、佳純は絶句した。

「念のため言っておきますが、下手に情報を漏らせば、司闇に消されます。そもそも、話が一つ済んだ後に、もう一つ用件を尋ねるのは、図々しいと言えるでしょう」

 どう考えても、無茶苦茶としか言いようのない、亮夜の理論。しかし、佳純も、ステラも、反論することも、口を挟むことも出来なかった。

「これ以上話し合っても、お互いに利益は生まないでしょう。それでは、失礼させていただきます」

 もはや話し合うという雰囲気ではない。

 亮夜は、夜美を連れてこの場を去った。




 朝から精神的に苦労するハプニングがあったが、どうにか切り抜けたその後、亮夜たちは試合の観戦を行っていた。

 今日で、魔法大戦も最終日。

 この時点で、トウキョウが十分な差をつけ、オオサカ、フクオカと続く。

 理論上、逆転される可能性はあるものの、現実的に見れば、トウキョウの優勝は決まったようなものだ。

 最後の競技は、「ウォーズ・マジカル」バトルロイヤル戦。

 志願者全員が参加し、8つのブロックに分かれて、最後の一人になるまで戦うという、最も激しい戦いが予想されるものだ。そして、勝ち上がった8人の決勝戦が行われ、戦いを志す者には、最も注目が集まる競技とみていい。

 メンバーの振り分けは精々、エースをどのように配分するかといったくらいだ。エレメンタルズを始めとする最強格がまず上がることを考えれば、エースを一点集中して、確実に決勝に進むか、バランスよく振り分けて、強敵と戦うリスクを減らすか、という大きくわけて2択ではあるのだが。

 結果として、オオサカだけ、帥炎勝太以外のエースは一点集中させるという、2極をとり、それ以外は無難にバランスよく振り分けた。

 まず、宮正が電撃であっという間に薙ぎ払い(「エクレール・ディザスター」は、殺傷性が高すぎる為、使用禁止となっていた)、4試合目は、勝太の一本勝ちだった。

 7試合目は、恭人とフクオカの魚瓜翠華の一騎打ちとなり、苦戦しつつも恭人が下した。

 決勝戦は、宮正、恭人、2年と他の3年の一人が勝ち上がってトウキョウは4人、勝太と3年によるオオサカが2人、ホッカイドウの2年、フクオカの3年で戦うこととなった。

 普通に考えれば、エレメンタルズ二人に加えて、人数が明らかに多いトウキョウか、六公爵の血を引く人物がいる、オオサカが優勝候補だ。

 そして、その予想は現実となった。

 この二組の戦いに巻き込まれる形で、あっという間にフクオカは脱落。一方、ホッカイドウはトウキョウの2年に一矢報いた所で、勝太にまとめて倒された。同時に、オオサカの3年も恭人に倒されて、仕返しと言わんばかりに、トウキョウの3年も倒された。

 わずか30秒にして、宮正と恭人、そして勝太による、変則バトルという状況になっていた。

 このケースは、二人にとって予想していたことだったが、ここまで早くこの状況になるとは思わなかった。

 勝太の異常すぎる攻撃能力と耐久力を打ち破らなければ、勝ち目はない。

 事前に打ち合わせていた作戦通り、恭人が時間を稼ぐ間に、宮正が強力な魔法でガンガン攻撃を仕掛ける。

 いくら勝太でも、恭人と宮正のコンビプレーは容易に対応できるものではなかった。

 やがて、魔法が枯渇し始めて、勝太にも明確にダメージが目立ち始めて、息を吐き始める。

 しかし、恭人もダメージを受け続けて、少しでも気を抜けば倒れかねない、状況に追い込まれていた。

 一気に勝負を仕掛けるべく、恭人と宮正の二人がありったけの氷と電撃をぶつける。

 ゆらいでいた、勝太の障壁魔法がついに壊されて、クリーンヒットとなった。

 だが、勝太も仕掛けておいた地雷式の炎魔法を起動させて、二人を激しく燃やした。

 あまりに激しい戦いであるがために、会場もどんどん壊されていた。そして、この魔法で、遂に会場は崩壊を起こして、惨事となった。

 3人は、それぞれ魔法を直撃して、倒れている。

 少しの沈黙が続いた後、最初に立ち上がったのは、雷侍宮正だった。

 恭人と勝太は立ち上がる気配がない。

 その結果、「ウォーズ・マジカル」団体戦を制したのは、トウキョウの雷侍宮正であった。




 3人の対決になった時点で、トウキョウの総合優勝は決まっていたが、「ウォーズ・マジカル」の優勝と、個人成績で宮正が優勝したことによって、歓声はさらに響き渡った。

 残すは、閉会式のみ。

 出場者の負傷を最低限直す時間が必要なので、今は休息時間となっていた。

「おめでとうございます、会長」

 全身火傷の結構なケガを負っている恭人だったが、今は治療室のベッドで起き上がれる程度は回復していた。

「礼を言うぞ」

 彼の目の前にいるのは、優勝した宮正。彼女も火傷を負っているものの、使用していた服が少し焦げる程度で済んでいた。恭人のように、身体がロクに動かせないという程ではなかった。

「それにしても、あの時、私を守ろうとしたのはなぜだ?」

 試合の最後に勝太からの魔法を受けた時、恭人は宮正に障壁魔法を張った。結果として、身代わりになったということを、宮正と、勝太だけが気づいていた。

「・・・」

 その問いに、恭人はいつものように即答することが出来なかった。

 それどころか、なぜあのような行動をしたのかも分からなかった。

 あの時、あのままだったら、自分も宮正もやられていた。

 あの短時間では、障壁を張るのは、不完全かつ一人だけ。

 合理的に考えるにしても、生き残れる確率はほぼ同程度だった。

 今の恭人では、その答えを出すことは出来なかった。

「・・・ふっ、まあいい。後輩から優勝のトロフィーを頂いたということにしよう。感謝する」

 ここで、恭人は宮正に勝たせてあげたかったという可能性に気づく。

 しかし、結局、恭人を納得させるだけの理由は出てこなかった。

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