8 閃光のプリンセス
魔法大戦が開幕して2日目。今日から実際に試合が始まるため、実質的にはこの日が開幕と言えるだろう。
この魔法大戦とは、7日に及ぶ若き魔法師たちが激突する、魔法界にとっては一位二位を争うビッグイベントだ。
__なお、ここでいう7日とは実際の試合する日数である。種目変更などの都合で、長い時には2週間にも及ぶこともあったが、最近は7日から9日程度で終わることが多く、今年も7日という短い日数となっていた。
学校別に大枠のポイント採点式で成績がつく他、一メンバーたちにも、成績がつくシステムとなっている。とはいえ、個人成績はほぼエレメンタルズで頂上決戦を行うことになるので、基本的には学校というチームで争うことになる。
特筆すべきポイントは、魔法公表同様、日本中継されており、家庭用の環境で見ることも可能ということだ。
また、単純に魔法を扱った派手なショーといっただけでなく、出場者は、美形と称される人が多い傾向にある。魔法能力が優れているということは、身体から弄られていることも多いため、そもそもの土台から美しい人物となるからだ。__言うまでもないが、このような背景は、一般人どころか、並の魔法師すら知らない。
ましてや、エレメンタルズの出身であるならば、大半が美形だ。
このこともあって、普段魔法に関わっていない人でも、この大戦だけは見るという人も少なくなかった。
そのために、チケットは魔法公表とは比較にならない争奪戦となっていた。
このことから、亮夜と夜美が一般枠とはいえ、恭人からチケットを受け取っていたということは、ある意味かなりのインチキだったといえるだろう。
朝食を摂った後、亮夜たちは最初の試合が行われる会場へと向かった。
一応、身分を隠して参加しているとはいえ、彼らも人である。同じ学校の仲間が参戦する試合を見に行くくらいの気前の良さと余裕はあった。
観戦するためのパスポートは、一般枠、学生枠、そして特別枠の三種類だ。最も、学生枠といっても同一学校に対して、おおよそ半分程度しか枠が空いていないため、結果的には上位の学生か、運のよかった学生しか入れない。入れなかった学生たちは、学校か自宅内で観戦するか、一般枠で妥協して入場するかしないと観戦することは出来なかった。
そして、それに応じて席の大雑把な割り振りもされている。
学生たちは、基本的に制服で参加することになっているため、区切られずとも嫌でも目立つ。
現在、亮夜は学内で格好の噂の種となっている。「4」の黄道礼二を破った事実は、多くの人物が話題の種としていた。また、夜美も新入生総代にして、圧倒的な好成績を残したことにより、既に魔法学生の中では噂で持ち切りとなっていた。
煩わしいと感じている亮夜にとっては、優先して避けるべきだと判断した。
そういうわけで、上手い事学生たちから離れた所に座った亮夜たちは、これから始まる「シューティング・バレット」に出場する雷侍宮正たちを応援し始めた。
人間にとって新たな可能性をもたらした魔法ではあったが、やはりというべきか、戦いに用いられることは多かった。最初の使用者の思惑から離れて、魔法という在り方は大きく変化した。
魔法大戦で使用される魔法のほとんどが、戦いに応用できるような魔法ばかりなのも、印象の変化が伺えるだろう。
「シューティング・バレット」は、早い話が狙撃戦だ。
試合会場内に多数出てくる的に、魔法で狙撃して破壊する競技で、実際の戦場においては、遠距離の銃撃戦や、奇襲された時の対処に応用できる。
最も、今のニッポンの人のほとんどが、そのような戦闘に役立てようという意思はない。
既に50年近く、国同士の戦いがないのだ。
ニッポン内での内乱こそ毎年のようにあるものの、規模で言えば被害に関わらず、小さいと言わざるを得ない。
このようなことがあっても、大半の人は普通の事件だと思ってしまい、関与する余裕もないので、ある意味で平和ボケを起こしていた。
そして、この大会も、己を賭けた戦いというわけではなく、学校一のビッグスポーツという印象になっていた。
事実、この競技も前半は個人戦、後半は対決戦であることからも、競技性が重視されていると言える。
さすがに、裏の事情を知っているエレメンタルズ、魔法六公爵などはそんな腑抜けた態度は見せないが、気合自体は、彼らに負けないくらいの勢いを、一般魔法師は持っていた。
「宮正会長、今年こそ負けないよ!」
トップバッターをかざる3年1組の瀬川朱里は、少し冷めている雷侍宮正に強くアピールをしていた。
「ふっ、楽しみにしている」
彼女とは、入学してから上位争いをしていた仲だ。最も、この試合において、一度も宮正に勝ったことはないのだが、そのことを口にする程、宮正も朱里も、愚かではなかった。
士気が当初から不安定だという事実が、彼らの気を揺らしていたからだ。
選手選考を行った後、魔法試験において少数のメンバーが入れ替わるということは予想していた。
だが、亮夜が礼二を破ったというニュースは、多かれ少なかれ選手に動揺をもたらし、いくつかの選手は、プレッシャーに負けたというかのように、成績が無視できないレベルで落ちてしまった。
結果、黄道礼二を始め、10人近くの選手がとっかえひっかえされることになってしまった。
例年では、多くても3人程度だったのに、今回は緊急の入れ替えを要しなければならない選手が多数存在したため、魔法試験が終わった直後に、生徒会も追加メンバーも、そして既存のメンバーですら、大忙しとなった。
その結果、全員が無視できない疲労を抱えたまま、魔法大戦に臨むこととなってしまったのだ。
なお、ここで落ちた人物の多くが、礼二の不甲斐なさより、亮夜の番狂わせに意識を乱されていた。そういう点では、よくもわるくも上昇意欲があったと言えるだろう。
__このような背景があったので、宮正がトップバッターをとらずにほっとしていたのは、何よりもチームメイトであった。
これ以上、意識の乱されることがあれば、空回りするのが、自分でも想像できたのだが、そのようなことにならずに、全力を出すことが出来そうだった。
試合会場は、台座のある高台。
それまでの道以外は、高所恐怖症にはつらい大きな空間となっている。
壁をよく見ると、石が綺麗に並べられているように見えて、細かい階段のようになっている。
会場の真ん中に立った朱里は、愛用の魔法道具である魔導書を所持して闘志を燃やしていた。
そして、試合開始と同時に、その精神は会場に飛ばされた。
彼女の得意技能は、精神現実投影。
魔法を操る精神で、世界を視ることが出来る強い索敵性を持っていた。
これならば、的がどこに現れるかが容易に分かる。
それが、どんなに小さかろうが、真下から現れようが、全方位から現れようが、どのように現れても、的ならば視て感じることが出来る。
そして、朱里は手に持っている魔導書から魔法を呼び出す。
卓越した投影技能の副産物なのか、得意とするのは光魔法。
光の針を作り出し、的を貫く。
出現した直後に魔法を発動させ、貫く様は、観客を湧かせた。
しかし、数も出現頻度も凄まじい。
朱里は、一帯をまとめてかけるような大魔法などは苦手だ。
単純な魔力でいうなら、「2」や他の出場選手と比較すると、1段と劣る。
それでも彼女が出場できる程の好成績を修められたのは、精神現実投影による、強力な感知能力があってこそだ。
やがて、出現頻度が激しくなってくると、魔法による始末にタイムラグが出始める。
明らかに、朱里の魔法より、的の出現速度の方が速くなり、徐々に撃ち漏らしを起こし始めた。
最終的な成績は、96点だった。__96個壊したわけではなく、100点を基準にした成績評価である。
ここに出場する選手からすれば、90点台はざらにある。
悪くはないが、良くもないといった具合だ。
しかし、本当に運がないのは、同時に出場する選手の中に、雷侍宮正が含まれているということだった。
14番目、最後から2番目に、宮正はついに姿を現した。なお、朱里はこの時点で3位、もう一人は92点と既にランク外となっている。ちなみに、現在の1位は100点であった。
そのような万全以上のパフォーマンスを出さないとトップにはなれないのに、宮正の顔に不安はなかった。
いつものように、不敵に笑みを浮かべつつ、魔導書を手にして、会場に立った。
「ようやく、宮正会長のおでましか」
観戦していた亮夜は、宮正の登場に僅かに心を揺さぶられた。
「以前と・・・随分雰囲気が違うね」
「「雷侍」だからね。どの程度暴れるか、少し楽しみだ」
いつになく楽しそうに眺める亮夜に、夜美ははしゃぐ弟を見ているような懐かしさを覚えていた。
試合が開始すると、まずは電撃が的を破壊していく。
個別に短く作り出した電撃は、速度に優れ、連射能力に優れる。
的が増え始めると、一つの大きな雷を作り出し、薙ぎ払うかの如く破壊し始めた。
「サンダー・ウィップ」とも呼ばれる電撃の鞭。
殲滅力に優れたこの魔法を、2つ、3つと作り出し、激しく破壊する。
さらに的が増えると、電撃の鞭を天に飛ばして、雷の力を天に集中させた。
やがて、的が消える時間が近づいた時__。
凄まじい雷が、会場に降り注いだ。
余りの轟音と閃光に、並の観客では、ショックを起こしかねない程で、中継が一時期止まってしまったほどであった。
最も、実際の会場においては、特殊な魔法障壁が張られていて、普通の魔法では到底破壊することの出来ない強度となっているので、一応の被害が出ることはない。
「エクレール・ディザスター」。通称、雷の災害。
集中的に落ちる雷が、的を破壊する。
さらに、雷から迸る閃光が、的を逃がさず、全てを消し飛ばした。
「しかし、このような隠し玉をそうそうと出していいのか?」
その様は、魔法をよく知っている亮夜や夜美ですら感嘆せずにはいられなかった。
一方で、このような切り札をこんな衆人環境で出していいのかと、亮夜は疑問に思わずにいられなかった。
この「エクレール・ディザスター」は、「雷侍」の切り札とされる、特別な固有魔法。
まず、大量の雷の精霊を一定空間に集める。
そこから、空間の端に自分の使う魔法を反射する特殊な魔法を放つ。
後は、その状態で雷を発生させて、ぶつける。
一度発動させると、雷が落ちた後、反射を起こして、再び雷が放たれる。これを繰り返して、凄まじい勢いで雷が発生する。
まともな勝負で使われれば、雷の数で押されて黒焦げになるのがオチという、恐るべき雷魔法だ。
しかし、反射の都合上、広範囲だと狙うのが難しいという難点がある。実際には速すぎるため、大して欠点にはなっていないものの、種が分かれば対応のしようはあった。
だが、宮正の場合、発生させた雷から派生して、閃光を放つことも出来る技能を持つため、精度をカバーすることは十分に可能だ。
この競技においても、討ち漏らした的を、閃光で狙うことができる。
宮正の父である現当主ならば、雷の制御が少しだけ出来るため、多少の欠点はカバーできるが、この魔法をまともに制御しようとすると、確実に精神が追い付かなくなってしまう。
そもそも、反射を制御することでさえ、かなりの難易度を誇る。雷を発生させたまま、反射壁を保つのは、「雷侍」にしか出来ないといって過言ではない。普通の魔法師では、どちらかしか出来ないか、反射制御が崩壊するのが当たり前だ。魔法式が一族内でしか公表されていない以前の問題で、切り札というのに相応しい難易度であった。
圧倒的な速度と破壊力を引き換えに、コントロール能力を犠牲にしたが、反射という技術で大きくカバーした災害に匹敵する凶悪な雷魔法。
それが、雷の災害、「エクレール・ディザスター」である。
宮正は、この光速の電撃からさらに閃光の電撃を追加発生させられる技術を持ち、その容姿と閃光の電撃を放つ姿から、魔法界の一部では、「閃光のプリンセス」と呼ばれていた。
一見すると、仰々しくて少し照れを覚えるかのような異名だが、実際のところ、センスのずれている宮正にとっては大歓迎であった。
魔法界の上位に相当するエリートたちは、このように何らかの異名をつけられることが多い。中には、自分から名乗るケースもあるが、魔法の名門でもないのに、異名がつけられれば、ニューエースとして歓迎される。最も、魔法六公爵当主といったランクになると、異名ではなく、一族の名で呼ばれることの方が多くなるが、「特別な名」という意味では、問題なく通じている。
苦情が外で出る程の雷を落として、的を完璧に破壊した宮正は、106点__内6点はパフォーマンス賞というおまけ的な感じであった__という圧倒的な点数をつけて、見事を予選1位で通過した。
「見たか!これが「閃光のプリンセス」、雷侍宮正の実力だ!!」
とどめに宮正が咆え、会場は圧倒的歓声に包まれた。
「シューティング・バレット」の本選は、上位4名で行われる。
トウキョウ魔法学校からの本選出場者は宮正のみ。朱里は、宮正が106点、15人目の選手が98点を出して逆転したため、落選した。
さすがにこのレベルになると、同じ学校からの本選出場はかなりレアとなる。
「宮正さん、頑張って!」
「雷侍、負けるなよ!」
宮正も、既に敗退した二人からの激励を受け取って、再び会場へと向かった。
本選は、1対1の同じルールだ。
ただし、同時出場することになるため、相手に舞台を制されないように魔法を使うことが重要だ。
また、的の出現パターンも、色わけされている(魔法的な情報でも異なるので、感知できないことはない)ので、自分の色のみを破壊しないといけない。うっかり相手の的を壊してしまえば、ペナルティがつき、最終的に不利となる。
ただし、最終的な点数が同じ場合、どちらが多く壊したかで決着がつくというルールはあるため、極端な話、「エクレール・ディザスター」で全部破壊してしまえば、宮正の勝ちは決まったも同然だ。
とはいえ、この競技でこのルールが実行されたことは過去に一度もないし、そもそも、宮正はそのような力尽くな戦法をとる気もなかった。
あくまでも、ルールに則って、宮正は勝つつもりでいた。
宮正との対戦相手は、ホッカイドウの選手。
彼は、風魔法で破壊するのを得意とし、発動速度に優れた風の斬撃と、範囲に優れた竜巻を発生させて、98点を出した、強敵だ。
とはいえ、宮正からすれば、それほど恐れる相手ではなかった。
試合が始まると、風と電撃が宙を舞った。
だが、電撃の方が、スピードも発動頻度も上だ。
「エクレール・ディザスター」は、範囲内の超高速電撃で攻撃する魔法だが、宮正はそれに加えて、閃光電撃により、精度に優れた魔法としている。
そして、その閃光は、自力でも出すことが可能だ。
「エクレール・ディザスター」を発動させる際、発動条件の都合で、内部のフィールドは宮正に支配されている。
つまり、閃光を零から発生させることが出来るのだ。
しかも、反射に魔力を注ぐ必要もない上、電撃そのものの維持も必要ないので、魔法的な負担はぐっと減る。
さすがに攻撃能力は劣るが、元々、感知も兼ねることが出来るので、宮正の処理能力ならば、的の破壊など、容易いことであった。
おまけに、魔法的な空間が宮正に支配されているので、相手は満足に魔法を使うことが出来ず、時々不発となってしまう。
このような状況で、宮正に勝つなど、不可能に等しかった。
決勝戦も、少し張り合えた程度で、宮正の快進撃は止まることを知らずに、優勝することとなった。




