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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第6章 exam
62/121

7 魔法大戦開幕

 魔法試験の激戦を終えて数日後。

 夜美に一通の通達が届いた。

 差出人は、トウキョウ魔法学校運営。

 つまり__。

「お、お兄ちゃん。いくよ・・・!」

 合格通知を目的とした、分厚い封筒を破いて、ゆっくりと開く。

 文明が発達して、電子的に連絡をすることが可能になったとはいえ、こういう重要なものでは未だに紙が使われる。また、セキュリティが別の点で優れているといった所もあるので、今でも紙が使われる理由は十分にあった。

 そして、その内容は__。

「やった、合格!!」

「よくやったね、夜美」

 小さく跳ねて喜ぶ妹を、亮夜はよしよしと頭を撫でた。

 しかも、1組の新入生総代に選ばれる。つまり、ナンバーワンとして入学したのだ。

「さすがだね、本当に1位で通過するなんて」

「お兄ちゃんのおかげだよ」

 夜美はそう言っているが、事実としては、「司闇」の血を引いているからという点は否定出来ない。二人にとっては認めたくないのだが、それは紛れもない事実なのだ。

「そういえば、生徒会を代表して、恭人さんから連絡が届いていた」

 亮夜がそう話題を切り替えたのを見て、夜美もそれに従う。あくまでも、魔法学校入学は二人にとっては「手段」だ。感慨深いといった感情は、ここでの二人にはなかった。

「1週間後の魔法大戦の話だが__」

 魔法大戦の招待状を送るから受け取るといいという内容であった。

 今回は一般枠なので、特別扱いされることはない。

 ちなみに、学生枠というものもあるのだが、あくまで学生団体として参加することになるので、現在、後ろめたい事情が多い亮夜としては歓迎すべきことであった。__「学生」から見れば特別扱いされていると言えるのだが。

 それ以外の準備なども考慮すると、何か裏があるのではないかと邪推したくなる程の優遇であった。

 そんなことは表に出さなかったものの、確かに事情としては気になる。

 亮夜は恭人のナンバーをプッシュした。

 時間としては、もう少しで午後になる頃。

 完璧主義である彼なら、仕事でなければ応答するはずだ。

 亮夜の予想通り、10秒もしない内に恭人は応答した。

「亮夜か。私に何の用だ?」

「恭人さん。先日送られた魔法大戦案内の件ですが」

「あれか。生徒会を通じて、舞式亮夜は良くも悪くも有名になりすぎている。学内での煩わしい声を避けるためにも、個人として行かせてやろうと思ってな」

 恭人のいう通り、「10」であるのに、「4」の礼二を破ったことは、学内では一大ニュースとして結構な騒ぎになっている。その中には、亮夜の快進撃をよく思わない上級生ももちろんいた。

 その程度のことは、亮夜も予想していたが、恭人たち生徒会がわざわざ特別扱いして連れて行ってくれるのは本当に疑問であった。

「それはありがたいのですが、僕のもう一つの立場を考慮しても、そのようなことを言っているのですか?」

「当然だ。一般に紛れ込めば、そちらの心配は大分少なくなる。学内の方は私たちが捏造するから心配するな」

 「司闇」の方はともかくとして、学校に向けては捏造一つで何とかしようとするのは色々気になるところもあるが、亮夜はその疑問を無視して、別の話題に切り替えた。

「そうですか。では、細かい案内などに関しては__」

「行くのか?」

「そちらのお話を聞いてから決めます」

「そうか。では、この情報を送っておこう」

 具体性を聞いて、それから亮夜は判断することになった。

 結果として、亮夜は夜美を連れて、魔法大戦を応援しに向かうことにした。




 3月9日。

 魔法大戦までいよいよ後1日。

 当日は混雑が予想されるので、それを嫌って早めに移動する人物や、会場を下見にやってくる選手や観客などがちらほら見られた。もちろん、運営側である政府の人間たちも既に集まって点検を行っていた。

 長期戦となるこのイベントは、近場にあるホテルは貸し切りとなる。出場選手に優先的に使用権を与えられるのは言うまでもないが、ずっと観戦し続ける観客としてもありがたいことであった。

 最も、観客といっても、単なる善良な観客なだけではない。

 これだけ人の集まる場においては、良くも悪くも目をつけられるものだ。

 ホテルのとある一室において、アイドルをやっている女性が、ある男性に二人きりで会うといったことは、非常に話題になるものだ。

 __本来なら。

「よく来たね、ステラ」

 彼の目の前にいる愛姫ステラは、普段のキラキラした服・印象とは打って変わって、黒を基調にしたマントとフードをつけていた。外から見れば怪しい人としか言いようがないのだが、彼は彼女の立場をよく知っているので、そのことを言及しなかった。素顔の化粧も普段との印象をがらりと変えた、子供らしさが目立つものであったので、ホテル内でチェックを受けた際にも、難なく素通り__誰一人ステラと気づかぬまま__できた。

「久々にあなたと組むことになるなんてね、佳純さん」

 ステラを呼び出した男性は、東雲佳純。ステラより一回り年上で、身長や見た目もモデルや芸能人をやっているのではないかと勘違いするかのような好青年だ。一方で、男には不釣り合いな儚げさも兼ね備えていて、仲間達の女性陣からはカリスマの如く崇められていた。ちなみに、彼もステラと同じ黒装束である。

 ステラも、男性に対しては利用しているマネージャーはともかく、色々因縁のある舞式亮夜を除いて、唯一本心から相手をすることが出来る相手であった。

「あの黒い人には劣るけど、君は隠密性に優れている。直接的な魔法の腕は一番の僕が協力すれば、いざという時も安心だ」

 佳純は表向き、個人の魔法企業を経営しているが、その実はRMGの幹部の一人だ。そういう点では、ステラも同じだ。

「さてと、君を呼んだ理由は、総帥様から緊急の連絡が入ったからだ。心して聞いてくれ」

 適当な世間話を済ませた後、佳純は端末のスイッチを押して離れた椅子に座った。

ステラもそれに倣った。

「二人とも、無事に会場に潜入できたようだな」

 音声のみで発せられるが、二人にはそれが自分たちの崇める総帥であることがすぐに分かった。

「先ほど入って来た情報を報告する」

 その言葉に合わせて、ステラと佳純は身を引き締める。

「司闇一族のきょうだいの一人、司闇深夜が会場に潜入したことを確認した」

 司闇一族は秘密主義を重視しており、ほとんどの情報が明らかにされていない。

 ただ、司闇一族が化け物にして、最も警戒すべき相手の一人であるということは、表社会だろうが、裏社会だろうが、変わらない事実だ。

 もちろん、RMGも例外ではなく、二人は一層身を引き締めた。

「現在与えている任務の優先度は下げる。深夜への警戒を優先し、任務遂行が困難であるなら、司闇一族の調査にあたれ」

 総帥がそう言い残すと、端末の電源は切られた。

「まさか、司闇一族がここにいるとはね」

 ステラは、プライベートな口調で、フランクに佳純に語り掛けた。

 ステラは素が曖昧だ。ボーイッシュなのも、お嬢様なのも、演技であるのだが、動揺したりすると、混ざって不自然な態度が出てしまう。逆に、気分を変えるために、わざわざ違う自分を見せることもあった。

 最も、佳純はステラのことをよく知っているので、そのようなことがあっても訝しむことはないのだが。

 しかし、佳純からの返事は返ってこなかった。

「佳純さん?」

「あ、ああ、ごめん。少し考え事をしていた」

「相変わらずだね」

 どうやら、佳純は思考に囚われていたようだ。

 穏やかな見た目から想像しやすいが、佳純は妙におっとりしていてマイペースな部分がある。ステラも、周りの人間もたまに振り回されることもあるが、どうにも憎めないというか、楽しいというか、ともかく、佳純への印象は悪くないのだ。

「・・・一体、総帥様はどこでそんな情報を手に入れたのかということだよ」

「あのデブのことじゃない?」

 気の置けない相手だからなのか、ステラは容赦ない暴言を吐いていた。

「・・・ステラ、そういう言い方はよくないよ」

 同僚に対して容赦ない発言と、女の子として良くない発言をしたので、佳純は優しく注意した。ステラは、少し身を縮めて俯く態度を見せた。

「それはともかく、いくら裏社会においてエキスパートが集まっている僕たちでも、司闇のセキュリティを突破できるとは考えにくい」

 佳純が何を言いたいのか分からず、ステラは佳純を見詰めている。その姿は、免疫が無ければたちまち魅了されてしまうだろう。もちろん、佳純がその程度で惑わされることはなかった。

「司闇一族のメンバーにきょうだいがいることを当然のように語り、しかも、うち一人の名前まで分かっていた。それどころか、動向まで掴んでいる。僕たちが言うのもおかしいが、これは異常だよ」

 ここまで言われて、ようやく事態の異常さに気づいたステラは、再び緊張のある顔つきになった。

 少なくとも、過去にRMGが司闇一族の動向を掴んだ試しがない。それなのに、今回は具体的すぎるといっていい程、動向を把握している。

 一体、どちらかに何があったのかと、佳純は気になって仕方がなかった。

「佳純さんは考えすぎなんだよ。そうやって苦労を背負い込んだから、ここに来たんでしょ?だったら今やるべきことを考えるべきだよ?ボクもついているしさ」

 迷いを振り払ってくれたのは、暫定的なパートナーであるステラであった。

事情は理解しても、その解釈は個人の要素が大きい。ステラと佳純の受け取り方は、かなりの差があった。

 佳純は、ステラを見習って、楽観的に考えて、方向性を切り替えた。

「そうだね。今は任務の遂行が優先だ。計画は事前に立てた通り。1日目は会場の調査を優先しよう。頼んだよ、ステラ」

「任せて!」

 打ち合わせを終えて、ステラは部屋を出た。

 それを見送る佳純の顔には、少しだけ笑顔が浮かんでいた。




 そして、3月10日。

 いよいよ、魔法大戦の開幕日だ。といっても、実際に戦いが始まるのは翌日からであって、この日は選手の入場などで終わる。

 会場は、トウキョウの外れの郊外。山に面した会場は、神々しさとただしれぬ威圧感を与える。さらに、多数の小さな会場が用意されていて、国の私有地となっているだけあって、屈指の大きさを誇る舞台であった。

 亮夜と夜美は、普通に近い服装で、会場に向かっていた。

 舞台が舞台なだけあって、ニッポン全域で中継されるどころか、噂では、海外からも紛れているらしい。

 それだけの場所であるので、あからさまに違う格好をすれば、嫌でも目立つ。

 木を隠すなら森の中、と言わんばかりに、二人はなるべく一般的な感じで突入することにした。

 事前に恭人から受け取った一般__実情的には特別に近いが、形式では一般となっている__チケットを差し出して、この一帯で通じるパスポートを手に入れる。

 その後、ホテルでチェックインを済ませた。

 部屋割はある程度の振り分けからの早い者勝ちだ。このために、早めに実地に向かった亮夜たちは、妥協がほぼない中、二人部屋を獲得した。

 ある程度素性を知っている担当には、少々不審な目を向けられたが、安易に騒ぎにするわけにもいかなかったのか、詰問をされることもなかった。__ちなみに、魔法大戦中は、魔法学校は休校扱いになるので、出席数などを気にする必要はなかった。

 ここまでは、亮夜たちは確かな計画を組んでいた。

 だが、開会式が始まるまで__つまり、夕方になるまで__何をすればいいのか分からなかった。

 パンフレットなどは読まずとも大体理解しているし、調べ物はともかく、研究や修行はここで出来るようなことはない。特別会いたい人物もいないので、控えめに言っても暇としか言いようがなかった。

 部屋に置いてある端末なら、政府直接管轄の代物で、特別なデータを閲覧することも可能だが、この程度の情報なら、亮夜のコネで十分調べられるものばかりだ。だからといって、全くの無用というわけではないのだが、少なくとも、今から積極的に調べる気にもならなかった。

 それなりの時間、悩んだ末に二人がとったのは、身を休めることだった。

 何があるかわからない中、休める内に休むというのは、決して間違った選択肢ではないだろう。




 トウキョウ魔法学校の選手たちが会場に到着したのは、亮夜たちが到着した後、午後に入った頃だった。

 生徒会のメンバーは大なり小なり名前が売れているので、彼らが姿を現すと、魔法大戦のファンたちは歓声を上げた。その中でも、エレメンタルズにして、学校屈指の実力者である雷侍宮正、冷宮恭人には、特段強い歓声を送られた。

「さすがの人気だな」

「会長こそ」

 そして、二人は当然と言わんばかりに、クールな態度を崩さずに通り抜けた。

 彼らがやってくるのに使った交通手段は、学校お抱えのバス。

 各学年、男女10名ずつの総勢60名を運んだバスは、駐車場へと向かった。




 現在、魔法学校がある所在地は、トウキョウ、オオサカ、フクオカ、ホッカイドウ、そして、今年開校した最新鋭のセンダイの5つ。なお、イシカワ、ヒロシマにも魔法学校が建つ予定があるのだが、政府の発表としては未定だ。

 今年度の魔法科生徒でエレメンタルズを始めとする名門に所属するのは、トウキョウの冷宮恭人以外にも、フクオカに一人いた。

 その名は魚瓜翠華。

 彼女の実家は、シコクにあったが、6年程前に、司闇一族の襲撃事件により、一族は滅びかけた。今や残っているのは、彼女とその弟のみ。なお、司闇一族が襲撃に来たことは、表向き判明していないものの、確証がないだけでほぼ確信されていた。

 それぞれの選手団は、この戦いの地に時間差で続々と集まっている。

 翠華が現れたのは、ホッカイドウの選手団が到着した後、トウキョウの選手団が一息ついたころの時であった。

 たまたまホテルの外で準備をしていた恭人と、翠華は顔を合わせることとなった。

「久しぶりだな、翠華」

「そちらも相変わらずだな、恭人」

 二人が会ったのは、半年前、魔法協会襲撃事件の時以来だ。

 事件が解決した後、翠華は恭人に面会を求め、情報を吐き出させた。恭人は、特に秘密にすることもなく、素直に公開した。

 結果的に見れば、翠華の行動は無意味であったが、そのことを口にする程、二人は生意気ではなかった。

「トウキョウの代表はお前か。まあ、当然か」

「ここにお前がやってくること自体、少し驚いた。変わりはないか?」

「おかげ様でな」

 長身の美女と、長身の美少年。そして、どちらも名門に相応しい威圧感。この様子では、並の胆力では絡むことも出来ないだろう。セリフ自体は友好的に見えると思われるのに、お互いのメンバーが一歩離れたところで様子を伺っていることが、その裏付けであった。

「お前に恩義があっても、ここでは容赦しない。お前と相まみえること、楽しみにしている」

「ああ」

 翠華の挑戦状を、恭人は平然とした顔で受け止めた。

 内心では、強者との戦いを前にする、武者震いを確かに感じていた。

「冷宮」

 とはいえ、仲間たちに対応できない程、恭人の心を揺さぶっていたわけではない。そもそも、彼の方針からして、そのようなことは断固として認めなかった。

「どうした」

「あの翠華さん、中々美人っすね」

「・・・お前はまず、勝ち上がることを考えろ。そういう話はそれからだ」

 もちろん、このような厳しい態度は、本心から出している。同じチームのしょうもない雑談など、恭人にとっては邪魔としか言えないものであった。




 その後、会場において、魔法科生徒の選手宣誓が行われた。

 一学校60名の5組分の総勢300名。

 これだけの人数が揃うのは、実に圧巻と言えた。

 1つ、魔法師として誇りある戦いをすること。

 1つ、仲間を思いやる戦いをすること。

 1つ、相手にも礼節をもった戦いをすること。

 1つ、全霊をもった戦いをすること。

 それこそが、この魔法大戦で戦う魔法師に相応しいものといえた。

 この合意を持って、いよいよプライドをかけた決戦、魔法大戦が始まるのであった。


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