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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第6章 exam
61/121

6 亮夜VS礼二

 魔法試験6日目にして、最終日。

 この日は、実技個人戦であった。

 ここまででも、個人戦は行われていて、程度の差はあるが、最も大きな比重で見られるこの種目は、メインとして捉える人も多い。

 そして、今回は丸一日を使った勝負にして、指名式の真剣勝負だ。ある意味、最も気合の入る試験にして、最もプレッシャーのかかる試験だ。事実、別のクラスの勝負での勝敗が大きな明暗を分けると言っても過言ではないのだから。

 同じクラスとの対決以外にも、違うクラスとの対決も普通に用意されているのだが、離れていても精々二つである。

 しかし、驚いたことに、最初からその定石はかなぐり捨てられた。

 6つも離れている10組と4組の対決など、どう考えても勝負にならないと思われていた。その証拠に、5つ以上離れている階級での勝負は、今年度は4月の時の1組の恭人、10組の亮夜のみで、過去を遡っても、数えるほどしかない。それ以前に、一方的なリンチを避けるため、別のクラスでの対決は、双方の合意がなければ、実行されないという規則があるため、まず勝負にすら発展しないのが普通であった。

 それなのに、今年度は2回もここまで離れた差で勝負が発生している。しかも、低い方はどちらも10組の同じ人物であるというのも驚きであった。

 今、決闘場の舞台に立っているのは、4組の黄道礼二と、10組の舞式亮夜であった。

 事の経緯を知らない人物からすれば、以下に亮夜が(身の程を弁えないという意味で)愚かか、あるいは、礼二が(傲慢という意味で)愚かかという印象を持つだろう。

 背景を知っている人物ならば、礼二の機嫌を取るために、亮夜はわざわざ負けに来てあげているようなものだと解釈できる。

 しかし、亮夜の本心を見抜けた者は、誰一人いなかった。

 彼は本気で勝つつもりでいた。

 10如きの男が、4を持つ相手に。




 戦いの舞台は廃ビルを意識した、建物内__を再現したかのような部屋であった。

 これが荒野などだったりすれば、地の利を生かせないのでかなり厳しくなるが、ここはコンテナなどの置物がある。隠れることも、奇襲することも難しくない。

 それに、亮夜は自身の戦闘能力はそれなりに高く評価していた。

 決して驕り高ぶっているわけではない。

 純粋な魔法力ならば格段に劣ると、自分も相手も知っていた。

 しかし、亮夜にはそれを補う__というには微妙かもしれないが、知力と体力がある。

 冷宮恭人と違って、相手はただ少し優秀な魔法師であるのだ。

 それならば、多少の勝ち目はあると亮夜は考えていた。

 一方、対戦相手である礼二は案の定、亮夜を舐めた態度で見下していた。

 初めて会った時から、生意気な奴だと礼二は思っていた。

 自分や1組に対しても、小汚い生意気な態度を崩さず、不遜なやつだと礼二は気に食わなかった。

 一度、恭人にボコボコにされたことにより、礼二の鬱憤は少し晴らされたものの、今度は自分がボコボコにされたため、いつになくフラストレーションが募っていた。

 今、この公衆の面前で、亮夜を打ちのめすことで、屈辱を与えて、鬱憤を晴らすことが出来る。

 奴は所詮10だ。

 4を持つ自分に勝てるはずがない。

 わざわざ挑発しまくった甲斐があったものだ。

 礼二はそう薄ら笑いを浮かべた。

 自分が負けることなど、何一つ考えず、亮夜に対して悪意という名の敵意を向けた。

「お前は生意気な奴だ。この俺がその身体ごと叩き割ってやろう!」

「よろしくお願いします。そう簡単に負けはしませんよ」

 カウントダウンが始まり、礼二と亮夜はお互いに掛け合った。




 実技試験といっても、そうガチガチに詰め込まれているわけではない。

 場合によっては、休息のための時間が与えられているということもある。

 この時間の割り振りが理不尽とも思えるかもしれないが、表立って抗議するものはいなかった。

 そんな中、現状ナンバー1の地位を獲得している恭人を始めとする生徒会の一部は亮夜と礼二の試合を観戦していた。

「あの舞式がこんな勝負を受けるとはな!意外と熱い一面があったとは驚いたぜ!」

「会長もきっと食いつこうとしたでしょうに、試合が振り分けられるとは残念でしょうね」

「いや、確実に残念がっているよ。雷侍さん、このような勝負大好きだから」

「舞式君、大丈夫かな・・・」

 この時間、試合があったのは、宮正と、書記の一人である唐沢佐紀。残りの4人がこうして集まっていた。

「少なくとも無様な試合はしないだろうな」

「冷宮君は随分舞式君のことを高く買っているんだね」

「アイツは成績で評価されにくい所は強いからな」

「でも、どうしてこんなことに・・・」

 副会長の佐藤花子が嘆くかのように呟く。生徒会のメンバーは程度の差はあれど、亮夜の歪な実力を認めている。この戦いが割に合わないと理解しているであろう彼がこの舞台に立つなど、考えにくいものであった。

 ただ、恭人だけは違う方向に意識を巡らせていた。恐らく彼は、見栄や意地に拘らず、自分以外の誰か__友人なのか、それとも対戦相手でもある礼二なのかは分からない__のために勝負を受けたのではないかと考えていた。

 そろそろ試合が始まる時間になったので、恭人は意識をモニターに向けようとした。

 その時、外の視界に無視できないものが飛び込んできた。

 それは、黒い予想が立ったこともある3組のクラス委員長でもある鏡月哀叉。

 彼女も亮夜の試合を見に来たのだろうか。

 それとも、亮夜を__。

「冷宮君?」

 会計の颯樹に声をかけられて、トリップしていた意識は戻った。

「何でもない」

 恭人は二つに意識を割いて、亮夜の試合を見守ることにした。




 礼二が使うのは、片手で使える魔法銃。

 一方の亮夜は、タクトを片手に持っていた。

 例によって、フットワークの勝負に持ち込むことを亮夜は狙っていた。

 とはいえ、この程度の相手になれば、魔法抜きで速攻をかけるのは困難だ。安易に接近した所で、カウンターされるのが容易に想像できる。

 まずは、相手の動きを伺って、どの魔法を使うかを視る。

 彼の目に映ったのは、炎魔法「ファイア・ウォール」。

 包囲されると予想した亮夜は、大きく移動して躱す。

 続け様に出来上がる炎の壁を、亮夜は次々と回避した。

 続けて、「マギ・バレット」を連射するのを、亮夜は無駄の少ない動きで回避しながら詰め寄る。

 魔法の発動速度から言えば、3メートルくらいが限界だ。それ以上近づけば、普通の魔法でも回避が難しくなる。

 その距離を保ちつつ、手を出しても届かないという状況を作り出し、相手の隙を伺う。

 ワンパターンに飛んでくる魔法は、先読みせずとも反射神経さえ備わっていれば、回避することは可能だ。別の魔法に警戒しつつ回避していたが、どうやらその心配はなさそうだ。

 10数秒も攻撃を繰り返していれば、魔力は枯渇する。魔法のキレが全体的に悪くなった所を見て、亮夜は飛び込んだ。

 魔法で対抗できないと判断した礼二は、一旦引くことを選択した。相手がここまで魔法らしきものを使用していないとはいえ、武器的には相手の方が有利だ。無抵抗にやられる必要などない。

 幸い、移動するだけの魔力は残っていた。だが、移動することしかできず、壁に激突しそうになったのを、壁キックで回避した。

 亮夜はそれを追いつつ、タクトをしまった。

 代わりに取り出したのは、魔法剣。

 ビームサーベルを展開して、間合いを詰めた。

 追い詰められた礼二は、魔法銃から強引に魔法剣を作るという荒業に出た。

 二つの剣が、弾き合う。

 亮夜の剣が振り下ろされると、礼二の剣はそれを受け止めた。

 続けて、魔法性質を変更して、切れ味を増した礼二の剣によって、亮夜はバランスを崩すものの、そのまま下に潜り込むことで回避する。

 すれ違い様に斬りかかるものの、礼二はジャンプすることで回避した。

 魔法銃から魔法を発射するが、亮夜は剣をかすらせるのみでやり過ごす。

 二人の剣術と、亮夜の体術、礼二の魔法が戦局を変えつつも、大局的には膠着していた。




 二人の激しい戦いには、見ていた観客も多いに湧かせた。

「負けるな、黄道!」

「行けー!!」

「頑張れ、舞式!!」

 一瞬の攻防が次々と繰り返され、戦闘技術が疎い人には、展開に追いつけない程の速さであった。

 礼二が猛攻を仕掛けるが、亮夜は剣をしまって、回避を繰り返す。

 あえて袋のねずみに追い込まれてから、剣を展開し直して、逆襲に転じた。

 その一撃は、礼二に直撃するものの、決定的なダメージとはならず、少し怯ませる程度に留まった。

「なるほど」

 メンバーの中でも、特に戦闘技術に長けている恭人は、亮夜の戦い方に感心していた。

 彼の見る限り、亮夜はここでもテクニカル重視な作戦をとっている。

 必要以上に魔法を使用せず、牽制と回避に上手いこと体術を組み合わせて、戦闘力を大きくカバーしている。その上、状況も活かしたカウンターを一気に仕掛けることや、切り崩されてもすぐに立て直すといったハイレベルな技術を見せている。

 単純な戦闘能力ならば、亮夜は礼二と互角どころか、彼を上回っていると、恭人は判断した。

 そして、その予想は、今、現れることになった。

 3度、二人が斬り合う。

 ここで、亮夜が踏み込んだ一撃を、礼二が魔法で高速移動することで回避したのだった。




 ここで、礼二に回避されたのは、想定していたこと。

 それどころか、それを誘っていた。

 このタイミングならば、魔法を使う隙を与えられていた。

 そして、このタイミングならば、回避に使うことを優先するはずだ。

 予想通り、使う魔法は移動魔法。

 大きくこちらに飛んでくるタイプで、すれ違い様のカウンターを狙うつもりだっただろう。

 無理やり剣先を変えつつ、宙がえりの如く、後ろへ大きく飛んだ。

 わずかに礼二の方が早いものの、亮夜の方が高い。

 亮夜の素早い一撃に、礼二は受け止めるものの、衝撃はしっかりくる。

 結果、亮夜は上に、礼二は下に弾き飛ばされた。

 追撃は出来ないものの、ダメージとしては十分だ。

 空中で受け身をとる余裕があった亮夜に対して、礼二は地面に叩きつけられた。

 しかし、亮夜は無理に追撃せずに、礼二が起き上がるのを待った。

 ここで下手に攻撃しても、魔法を撃たれれば、逆襲される危険がある。

 魔法を見切るには、それ相応の集中が必要で、攻撃しながら見切るというのは、いくら亮夜でも難しいものであった。

 しかし、その判断は誤りであった。

 礼二は追撃されなかったことを疑問に思いつつも、再び立ち上がり、魔法を発動する準備をする。

 一度目は、数で押しても回避された。

 ならば、広範囲の魔法をしかけたいのだが、あいにく魔法銃に用意している魔法では、強力な魔法はない。

 安易に接近戦を仕掛けても、相手の方が一枚上手で、決定打にはならない。

 つまり、亮夜に致命傷を与える手段が存在しないということであった。

 だが、その事実を認めたくない礼二は、魔法銃から別の魔法を放つ。

 炎の弾丸「ファイア・バレット」を乱射し始めた。

 発射位置だけを変えて、亮夜を集中砲火させる。

 ここで、誰もが驚くべき行動に、亮夜は出た。

 何と、彼は炎に突っ込んで、礼二に突撃し始めた。

「何だと!」

 もし、いつもの態度なら、馬鹿げたことと高笑いしていただろう。

 だが、この土壇場で、自覚していないながらも追い詰められていた礼二には、呆気にとられる行動と捉えられた。

 もちろんそれは、観客たちも例外ではない。

 そして、当の亮夜は、そのような雑音と灼熱を一切気にせずに、礼二に突っ込む。

 この一撃をこのように対処されるとは、礼二にとって完全に想定外で、思考を奪うのには十分衝撃的なことであった。

 やけになった礼二は、魔法銃からありったけの魔法を乱射する。

 しかし、ただ撃つだけの制御されていない攻撃など、亮夜にとって躱すなど容易なことだ。

 亮夜と礼二の距離の間は、ついに1メートル程までに詰めていた。

 ここで、亮夜は再び魔法剣を展開して、一気に斬りかかった。

 精神状態が平常とは程遠い状態で、礼二がまともに対応することなど出来るはずがなく、次々と直撃を受けた。

 全身を焼く痛みと、魔法を使い続けることで、締め付けられる痛み。

 このことを無理やり無視しつつ、とどめに自分の身体で燃えている炎を、亮夜は魔法剣に宿した。

 さりげない高等技術__現象として残ったものを、別の魔法で書き換えて自分のものとするには、無の状態で発生している現象を自分で制御し直さないといけないので、かなりの高難易度のテクニックである__を披露しつつ、炎と化した剣が礼二に振り下ろされた。

 炎の斬撃により礼二は吹き飛ばされて倒れた。

 この一撃により続行不可能とみなされ、「10」の亮夜は「4」の礼二に勝利した。




 誰が予想したのだろうか。

 亮夜が礼二に勝利するというとんでもない下克上を。

 ジャッジが下された際、目の前の状況を理解できずに声に出せなかった。

 少しの静寂の時が流れて、ようやく大きな歓声が出た。

 この下克上に上級生からブーイングの声__不正だとか、インチキだとか、卑怯だとか__が上がったのだが、その声がかき消される程の歓声であった。

 もちろん、生徒会観戦組も大いに盛り上がった。

「すげええええ!」

「嘘でしょ!?」

「驚きました」

「さすがだな・・・!」

 恭人ですら、感嘆をあげる程で、それだけ亮夜の勝利は衝撃的であった。

 無論、単に亮夜が勝利したというネームバリューだけではない。

 二人の剣術を筆頭とした目まぐるしく変わる戦い。

 「10」の乏しい技術を補うかの如く、様々なハイレベルなテクニックを見せた亮夜。

 二人の戦いは意外すぎる形で盛り上がる結果となった。

 少し離れた所から、小さくほっとした声が聞こえる。

 恭人がその先を見ると、哀叉が我が事のようにほっとした表情を嬉しそうに見せていた。




 試合の後、亮夜も礼二も救護室に送られることになった。

 二人とも炎を纏って戦い続けており、亮夜には、服こそ焦げなかったが、全身を火傷していたように見えていたからである。一方の礼二は、切り傷と火傷を負って、服の一部が損傷していた。

 実は、亮夜の意識はちゃんとあり、水魔法で消火してもらった後、そのまま運んでもらっていただけだった。とはいえ、火傷によるダメージが思ったより大きいため、さすがに安静にはしていた。

 わざわざ救護室を抜け出した後で。

 回復魔法には心得があるので、時間さえかければ回復するのは難しくないし、下級組を見下す礼二と一緒にいるのは抵抗があったので、魔法保護室へ身を隠していた。

「・・・よし」

 誰もいないことが分かって、初めて亮夜は勝利したことを喜んだ。

 今回の対決は、勝算は決して大きくなく、どちらが勝ってもおかしくないくらいの確率だと亮夜は見込んでいた。

 それが、実際に勝利できて、彼は久々に勝利することの喜びを味わった。

 無暗な自己顕示欲がないと思っている亮夜には、優先的な上昇意欲はなかった。実力を身につけるための上昇意欲はあっても、認められたいための上昇意欲はそれほどなかった。いや、実際には、「司闇」を見返すために実力や実績を身につけると考えれば、ある意味では間違っていると言えるのだが。

 ここで礼二に勝利するメリットは、それほど大きくないと考えていた。

 たかだか「4」に勝ったところで、「司闇」を上回る名声とはならない。

 千里の道も一歩からという部分があるとはいえ、このタイミングで急ぐことはないのだ。

 亮夜からすれば、偶々勝っただけだ。

 一部分の抜きん出た能力を活用したとはいえ、運よく勝っただけだ。

 傷ついた身を癒しつつ、亮夜は瞑想に入ることにした。




 その後、亮夜が脱走したことについては、それほどのお小言をもらわずに済んだ。

 一方、魔法試合は、恭人や宮正を始めとする、エリート格の真剣勝負が次々と見られ、観客を多いに湧かせた。

 こうして、魔法試験は終わった。

 亮夜は、2学年への進級を認められることとなった。

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