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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第6章 exam
59/121

4 試験開幕

 魔法試験。

 それは、魔法学校に通う生徒たちが今までの技術を結集して挑む、大きな試練の一つである。

 魔力、学力、技量、知力などを総動員して数々の試験に挑む。

 そして、この成績の上位者は、魔法大戦の出場資格を与えられる。

 故に、魔法師にとって、プライドをかけた戦いとなる__。




 2月24日。

 その日の魔法学校は、静寂と緊張に包まれていた。

 ある者は、会議室に腰を落ち着け、ある者は、屋外に立ち、ある者は、屋内の部屋に立つ__。

 7月の1学期末魔法試験、12月の2学期末魔法試験同様、各地の会場を解放して、今回は1週間に渡る大激戦となっていた。

 筆記試験は、日数にしておおよそ1日半。実技試験は、様々なルールがあるものの、冗談抜きの長期戦だ。

 後に開かれる魔法大戦も、おおよそ似たルールである。というより、魔法大戦の予選という実情もあるので、ルールを似せているのは必然でもあった。

 最もそれは、内定候補者ら上級組にとって意義のある者で、下級組はルールが近いからといって、攻略的な意味合いはない。あえていうなら、大会の低レベル版に、自分も挑めるという程度だ。

 亮夜からすれば、そんな感慨は割とどうでもいいのだが。

 彼ら10組に課せられた最初の課題は、同クラス内での対戦であった。

 基本ルールは決闘スタイルで、致死性を与える技以外ならば、概ね何でもありの勝負だ。

 今回は、勝ち上がり方式ではなく、リーグ戦である。ただ、全組み合わせは流石に時間がないのだが、対決数から言えば、凄まじい回数の勝負となる。酷くなると、次の試合のことを考えてわざと負けるとか、勝負ではなくて、試合として考えているかのような状況まで見られることもあった。というか、魔法的なスタミナに不安を抱えている亮夜は、何試合かはまともに戦う気を最初から捨てていた。魔法を使わずに決着をつけられるなら、それが彼にとってベストであった。

 組み合わせの都合上、男女対決もありえる。この場合、双方が合意した場合に限り、接触攻撃が許可される。言うまでもないが、セクハラを避けるためだ。

 このルールの都合上、亮夜がパフォーマンスを出せる範囲は大分限られている。以下にスタミナを考慮して、的確に勝利を重ねられるかが重要であった。

 __初っ端から、女性と対決で、接触攻撃は禁止とされたからだ。

「よろしくお願いします、亮夜君」

「こちらこそ。手加減はしないよ」

 亮夜の知り合いの一人、花下高美が最初の相手であった。

 一応、魔法で攻撃する手段はなくはないのだが、消耗戦は出来る限り避けるべきだ。そうなると、わざと長期戦に持ち込んで、相手の隙をつくのが、最も無難とは言えそうだ。

 一方、高美からすれば、亮夜の身体能力は極めて脅威であった。身体接触を禁じられているとはいえ、無防備な所から魔法を撃たれれば、ひとたまりもない。そもそも、高美は実践的な魔法の使い方は不得手であったので、根本的に相性が悪すぎた。

 亮夜はタクト、高美は魔導書を持って、スタジアムを連想させる会場で向かい合っている。

 そして、ジングルが鳴り、戦いの火蓋が切って落とされた。

 高美の予想に反して、亮夜は動かなかった。

 彼は、高美の魔法を避け続けて、消耗を狙っていた。

 無理に落ち着けた高美は、魔導書から「マギ・ブレッド」を呼び出し、次々と亮夜に放つ。

 しかし、10組の、それも実戦に向いていない相手の攻撃魔法など、亮夜にとっては恐れるものではなかった。__本来なら。

 魔法を組み合わせず、単発で飛んでくる魔法は、パターンさえ読めれば、それほど苦労せずに躱せる。

 とはいえ、高美は魔法の細かい制御が苦手だ。

 魔導書から魔法式を呼び出しても、魔法を正確に再現することが出来ない。

 言い換えれば、高美のスペックでは、魔法にバグが生じてしまうということだ。

 魔法を予知して行動をとれる魔法師からすれば、ある意味、かなり厄介といえるものであった。

 飛んでくるはずの魔法が飛んでこないこともあれば、時間差で魔法が発動するなどの予想不可能な事態にアドリブで対応しないといけない。

 亮夜も、当初は魔法を察知して対応した。だが、2発目あたりから、魔法式とは違う現象が発生している。

 変な軌道に飛ぶだけならいいとして、突然の高速で魔法弾が襲い掛かったり、途中で無散して、別の魔法が発動するなど、ある意味で亮夜の精神をじりじりと削り取っていた。

 戦いは、どちらが有利なのか分からぬまま、2分近く高美の攻撃が繰り返された。

 高美は、魔法の制御を捨てて、発動を次々と繰り返して、亮夜を翻弄する。

 亮夜は、その魔法の対処にてんやわんやだ。隙を見て魔法を撃ち込む余裕はなかった。

 そんな中、水鉄砲の如く飛ばした水魔法「アクア・シューター」の不規則な動きが、亮夜に襲い掛かった。

 回避直後に不意打ちの如く飛んできた魔法に、さすがの亮夜も対処できずに、吹き飛ばされた。

「ぐあっ!」

 ダメージ自体は大きくなかったが、精神的な疲労は大分蓄積している。

 ここから勝つプランもなくはなかったが、控えめに言ってもリスキーすぎる。

 この勝負は降参して、次の試合に備えることにした。

「まいった」

「ウソ!?」

 この結果には、当事者の高美を含めて、誰一人想定することが出来なかった。




 最初から敗北するという、幸先悪い結果であったが、あくまで高美との魔法的な相性が悪かっただけだと、亮夜は思っていた。

 その証拠に、次とその次の男性陣との対決は連勝した。長期戦にうまく持ち込んで、隙だらけの所を狙って倒す、速攻で瞬殺と、亮夜のペースで試合を制することが出来た。

 続く、女性との対決も、やはり長期戦からの粘り勝ち。陸斗との久々の対決も、隙を作らせないような魔法の使い方をして、亮夜を手こずらせたものの、陸斗の移動に合わせた不意打ちの一撃で勝利を掴み取った。

 その後も、2回ほど敗北して__1度目は精神的限界によるリタイア、2度目は時間切れまで戦った後、判定負け__、万全とまでいかずとも、成績自体はこの時点で陸斗などと並んで同率1位であった。

 午後からは、筆記試験。例によって、亮夜は圧倒的な点をつけて終わらせた。

 次の日は、魔法行動戦。

 言い換えれば、アスレチックタイプの身体能力テストだ。

 魔法学校や魔法協会が抱えている施設のいくつかを借りて、駆け抜けるという、実戦重視の試験であった。

 事前に振り分けられたくじで、クラス内のメンバーは3分割される。亮夜には、高美が側にいた。

「亮夜君」

 少し言い淀んでいる口調で、高美は亮夜に声をかけた。

 昨日、亮夜が高美に敗北するなど、ほぼ全員が想定外といえる結果であった。無論、高美本人もそうであり、まぐれで勝ったと思っていた。

 高美から見て、亮夜は優しい一面がある一方で、プライドが高いと思っている。あんな敗北をした後、感情的に不安を抱えているのではないかと、高美は不安に思っていた。

 だからといって、友達である彼を無視するのは、高美には出来ないことであった。

 しかし、声をかけにくいと思っていたから、ぎこちないことになってしまっていたのだ。

「高美さん、どうしたんだい?」

 とはいえ、亮夜はそのように思われていることを知らない。そして、高美の予想に反して、亮夜の胸中は彼女に対して称賛を抱いていた。

 半ば事故で負けたとはいえ、あんな不確定な魔法を使いこなした所に、彼は感心していた。

 亮夜の魔法では、高美とは別ベクトルに不安定な部分があるのだが、彼女のようにトリッキーな使い方が出来れば、戦術の幅が広がるということに、彼は気づかされたからだった。

「ええと、その・・・」

 気持ちは、口にしなければ伝わりにくい。双方、向かい合っているだけでは、心は通じ合わないだろう。無論、この二人も例外ではない。

「・・・きょ、今日は頑張ろうね!」

 何かを言おうとしているのは、亮夜も気づいていた。だが、無理に問いだすのも、彼のスタイルに反する。

「そうだね」

 彼はただ、分かりやすく返事を返した。

 亮夜からすれば、円滑に進めれば、特に問題がなければ、それでいいと思っていた。

「それにしても、この施設、かなり立派だなぁ・・・」

「そうだね。何があるかドキドキするよ」

 話は、今日挑む試験にシフトしていた。

 この施設は、外から見たら、学校と同程度に大きな建物であった。似たような施設がトウキョウ内に複数あるが、この施設は、洋館を連想させる__亮夜からすれば、司闇の屋敷を思い出させるので、少しだけ不愉快であった__外観となっていた。

 この試験は、運で選ばれた順番で、一人ずつ順番に突入して突破していく試験となっている。チェックポイント式で、指定時間までに突破できなければそこで終了だ。

 亮夜が走るのは、3番目。高美は9番目であった。なお、待っている間は、別館に用意された部屋で、アンケートを書き込むことになっている。

 そちらのモニターで他の人の活躍を眺めながら、アンケートを書いていると、亮夜の番が来た。

 魔法道具は、指定されたものをレンタルで持ち込むというルールとなっている。亮夜の使うものは、彼が独自にチューニングしたものであり、汎用性重視であろうコレを使うのは厳しいが、ないよりはましだ。

 用意されているのは、魔法銃とタクトが様々なタイプで用意されていた他、魔導書、杖、さらには魔法剣やブレスレットまで用意されていた。

 汎用性を重視するなら、魔導書かブレスレットを持ち込むべきだろう。

 機動力を重視するなら、ブレスレットのみで挑むべきだろう。

 安全を確保するなら、持ち込めるだけ持ち込むべきだろう。

 少なくない時間悩んだあと、亮夜はブレスレットと魔法剣を選択した。彼は、負担のかかりにくい武器と、汎用性を選んだのだった。




 この選択には、多くの人物が驚きを隠せなかった。それは、高美も、中継で繋げられる学校にいた上級生たち全般、そして、先生たちもだった。

 一般的な認識では、魔導書だけを持ち込むか、得意分野の魔法銃かタクト、そしてブレスレットを使うというものであった。

 それが、この舞式亮夜はあろうことかブレスレットと魔法剣を選択した。

 亮夜のことをよく知らない上級生は笑っていたが、先生などの一部の博識者は面白そうな顔で彼を見ていた。

 彼のアンバランスでありながら高成績であることを知っている人物たちは、亮夜がどのような戦いをするのか、楽しみにしていた。




 カウントが終わり、亮夜はいよいよ突入した。

 入口には、上へ行けという看板のみ。しかし、階段らしきものは見当たらない。まともな手段では、2階へは行けないということだ。

 亮夜は、階段を踏み台にして、2階へ上がり、次の部屋へ滑り込んだ。

 次の看板には、宝箱から本物のカギを探し出すというものだった。

 数と時間からして、まともに探し出せば、時間が足りない。

 まず、亮夜はゴールの扉を見て、カギの形を探る。

 そして、魔法感知でカギを探った。

 多少の意識の圧迫が襲い掛かるものの、この程度ならば、少しの精神的ダメージで済む。

 その場所は、左から4つ目、奥から2つ目の場所__。

 本物のカギを手に入れて、次の部屋へと突入した。

 今度は、監視センサーに引っかからないように、1階の方へ向かうというものだった。

 暗い部屋では、良く見えにくいものの、センサーの仕掛けは2流であった。光と魔力がそれなりに出ているので、どちらかに感受性が強いならば、見切るのは難しくない。

 そして、亮夜は魔法の感知能力に優れている。感知の度合いにもよるが、精神の負担は少なくて済むので、効率よく通過することが出来た。

 10組の平均的な結果を超えて、今度は魔法を使った謎解きだった。とはいえ、亮夜にとって厄介なものではなかった。

 その後も、兵器破壊、隠し通路を探す、短い時間での高速移動、真っ暗部屋の捜索、大量のセンサー回避、壁に触れずに上に上がる、空中で的当てなどの仕掛けがあったが、最終的に亮夜はどれも突破した。司闇の所で戦闘技術を身につけていた彼にとって、魔法をあまり使わずとも、突破できる代物であった。

 遂には、屋敷を抜け出して、完全制覇した。




 1年1組のエリートでようやく制覇できるかどうかという難易度の物に対して、1年10組の舞式亮夜は、これを完全に突破してしまった。

 当初は、インチキや、難易度の調整ミスではないかと、一部で騒がれたものの、所々に写されていた映像では、そのようなミスは見当たらず、むしろ亮夜の身体能力・魔法運用能力の高さが引き立っていた。

 それを考慮しても、まともにやればまず全員が脱落するこの試験を、10組の彼がなぜ突破できたのかを、証明しきれる人物はいなかった。

 それだけ、舞式亮夜という人間は、異常であったのだ。

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