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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第6章 exam
58/121

3 嵐の前触れ

 2月14日を終え、少し経った頃。

「久しぶりだな、愛姫ステラ」

「・・・お久しぶりです、リーダー」

 RMGの総帥は、部下の一人、愛姫ステラと連絡を取っていた。

「先日の件だが、お前以外にも、東雲佳純にも同行してもらうことにした」

「・・・そうですか」

 普段のステラなら、もう少し生意気な態度を見せてもおかしくないはずだ。いや、それ以前に、妙にしおらしく感じる。

 念のため、総帥は一つ水を向けてみることにした。

「・・・不服ならば、一人で行っても構わぬのだぞ?逆に、佳純に任せても文句はない」

「・・・大丈夫です」

 しかし、総帥の思い過ごしだったようだ。

 総帥の目的は、意外なことに世界平和であった。ただし、亮夜や政府が掲げる世界平和とは少し異なり、威圧によるコントロールをベースとして目指している。

 そのこともあってか、総帥は部下をそれなりに大切にしている。

 もし、ステラの体調がよくなかったならば、本当に仕事から外して休養させようと思っていたくらいであった。

 結局は、意味のない仮定であったが。

「詳細はまた後日。それまで、以前出した任務を集中させてもらおう」

「・・・了解しました」

 しかし、言葉はともかく、話し方には不安が見られた。

 おいそれと追及するわけにもいかず、一度は許可したと納得したことにして、総帥は連絡を切った。




「はー、疲れましたわ!」

 トウキョウの某所、ステラの表向きの住宅にて、通信を終えたステラは思いっきりため息を吐いた。

「結局、亮夜に渡しそびれてしまい・・・散々でしたわ!」

 一人しかいない、この状況だからこそ、ステラは素を遠慮なく出すことが出来る。

 本名、藤井舞香である彼女は、亮夜に因縁をつけた結果、逆に惚れているかのようなこととなってしまい、以後、亮夜を以下に自分のものにしようかと策を張り巡らせていた。

 しかし、ステラとしての仕事が多すぎて、個人的に誰かに会いにいく時間などなかった。もちろん、バレンタインのためのチョコをプレゼントするといったことも叶わなかった。それ以前に、亮夜と会ったのは、10月の襲撃事件__厳密には、襲撃事件が発生する直前の発表会である__が最後で、以後、顔を合わせてもいなかった。

 仕事をするのは個人的な感情や野望を抜きにしても嫌いではないのだが、ここまで続くことになると、さすがにイライラが募ってき始めていた。

「でも・・・ボク以外にも、佳純さんが来るなんてね」

 とはいえ、こんな負のスパイラルに囚われるのは、悪いことしかないので、意識的に仕事の口調に切り替えて、意識ごと変えた。

 東雲佳純は、ステラにとって、よきビジネスパートナーにして、兄貴分である。

「久々にいい仕事になりそうだ」

 現場に来る相棒を想像すると、ステラの顔に自然と笑みが浮かんだ。




 時は流れ、3月に入ろうとしていた頃。

 生徒会では、あることのための最終調整を行っていた。

 何かというと、魔法大戦のための調整である。

 魔法大戦とは、毎年3月に行われるビッグイベントである。

 高校生に相当する魔法科生徒たちが、専用のコロシアムで激突するという、甲子園などとも一部で言われるようなものだ。純粋な対決から、スポーツや曲芸じみた種目まで、極めて幅が広く、全国的に見ても一位二位を争う規模の大きさだ。政府からの中継などがされていることを始め、魔法科生徒たちにとって、ここが屈指の花形となる舞台であった。

 勿論、そのための準備も抜かりなく行われ、出場選手に選ばれる時点から、この戦いは始まっていると言っても過言ではなかった。

 といっても、最終的な内定は3月冒頭で決着がつく魔法試験が終わってからである。しかし、それ以前に大戦に向けての準備を行うのは当然といってもよく、そのために生徒会がある程度の選抜を行うのは定例となっていた。なお、ある程度というのは、魔法試験の成績の都合で降格、そして緊急的に昇格といった事態が発生する可能性があるからである。

「まず、メンバーはこれでどうだろうか」

「今年の1年は少し質に難があるな。恭人以外はどうも・・・」

「今から梃入れをするわけにもいきませんし・・・」

「やはり、この私が総力を挙げるしかないか」

「そうは言っても、出場できる回数はルールの都合で限られています。山を張る所が重要ですね」

「幸い、エレメンタルズは他に「魚瓜」しかいない。同学年ならば確実に勝ったものだ」

「でも、別学年もあるんでしょ?」

「昇格候補の者たちに優秀な奴はいたか?」

「内定者の中に不安材料が多いという点も気になるな・・・」

「いずれにせよ、我ら生徒会の的確な指示が重要だ。そのためにも、この魔法試験で崩れないことを願う」

 このように、会議は難航していた。

 そもそも、不確定要素の多いこの状況下で、適切な作戦を組めと言う方が、無理があるかもしれない。




 勿論、そのような空気でドキドキとワクワクに包まれていたのは、学内においてほぼ例外はなかった。

 一方、そのように驕り高ぶっていたからなのか、学内で度々問題が発生していた。言うまでもないが、1年においてもそれは例外ではなかった。

 このような状況を危惧して、1年のクラス委員長たちは、久々の緊急招集となっていた。

「本当は、お前達を呼ぶ必要もないのだが、重要案件である以上、手伝ってもらおう」

 初っ端から協力する気も見せずに、しぶしぶ始めようとしたのは、1組のクラス委員長の次元楼次だ。

「確かに委員長とはいえ、5組以下が関わっていないにも関わらず、呼び出してすまない」

「申し訳ありません」

「精々、俺たちのために役立ってくれよな、おい?」

 2組の池和林也が丁重に謝罪した後、3組の鏡月哀叉が一言だけ謝り、4組の黄道礼二は、いつものように高慢な態度を見せた。

「それで、今回の目的は何ですか?」

 社交辞令みたいなものが繰り返された中、10組の舞式亮夜は、単刀直入に斬り込んだ。

「生徒会からの通達だ。この時期の生徒は、第一学期末魔法試験以上に、精神的に追い詰められる生徒が多い。つまり、ちょっとした小競り合いが発生しやすいということだ」

 楼次が発言したそれに関しては、亮夜たちの周囲でも起きていたことなので、全員が納得したかのような表情で聞いていた。

「そこで、この時期に限っては、生徒会と我らクラス委員長に限り、阻止用の魔法使用が許可されている」

 このことを聞いて、ほぼ全員が驚きの顔を見せた。例外はというと、亮夜くらいであった。

「言うまでもないが、攻撃するための魔法ではない。喧噪を止めるための必要武力だ。もし、誤った不適切使用があれば、生徒会が総力をあげて捕獲にかかる」

 魔法は、あくまでも人智を超えた力だ。そのような力を無差別に振るえば、確実に戦争の火種となってしまう。特に、一般生活や教育現場で使う分には、その点をよく理解した上で必要な分だけ魔法を使わなくてはならない。

 実際、学内でも取り返しのつく範囲とはいえ、数か月に一回くらいは誰かが小競り合いで重症を起こしている。

「それぞれの持ち場はスタンダード。各組の見張りをすればそれで十分だ。なお、我らに特例で魔法を使用する許可を与えられた件に関しては、全校に通達済みだ」

 つまり、事実上の攻撃の許可を与えられているということだ。理不尽な文句が少しはましになる__と考えていながらも、魔法より物理で抑えた方が大体早いので、自分には意味がないと亮夜は考えていた。




 __などと考えていた昨日の自分を叱責してやりたい状況に、亮夜は遭遇していた。

 想定していた危機以上に、校内は荒れて、あちこちで騒ぎが起きていた。

 特に4組と5組は大きく荒れて、生徒会なども多く駆り出される事態となった。

 そんな中、10組の二人が喧嘩を起こしているのを見て、亮夜が止めにかかろうとした時。

 突然、通路の奥から、強烈な風が亮夜たち3人を襲った。

 亮夜は間一髪躱すも、残りの二人は直撃して気絶した。

 この魔法は、どう考えても10組で出せる代物ではない。

 つまり、部外者が亮夜たちを攻撃したということだ。

 その通路の先に立っていたのは、長身とまではいかずとも、中々の背の高さ。

 滑稽な顔と髪を持ち、微妙に着崩した制服からも伺える、傲慢な態度が目立つ人物。

「どういうつもりです、礼二さん」

 1年4組のクラス委員長、黄道礼二が魔法を放ったと、亮夜はすぐに分かった。

「てめえに代わって、仕留めてやった。これだから10はだめなんだよ」

「重要なのは、被害を抑えること。幸い、重症を負っていないとはいえ、力尽くすぎます」

「あ?実技最低のてめえが言えたもんじゃねえだろ。というか、よくそれで委員長が務まったな」

「魔法以外なら、多少の心得はありますからね。そういうあなたこそ、僕より上の階級でありながら、騒ぎを抑えられていないではないですか」

 礼二の難癖に対し、亮夜は正論で返した。さらに、状況を分かっていた上で分かりやすく嫌味も加えた。

「10の出る幕じゃねえよ!お子ちゃまは貴族たちの苦労というもんがわからんからな!」

「よく言いますよ。権力と実力しかみられず、人道などどうでもいいと言わんばかりの態度に、苦労などと言われても困ります」

 分かりやすく反応した礼二に対し、亮夜は露骨に皮肉たっぷりに返した。

 もし、この言葉を正確に理解できる相手なら、確実に不愉快な思いをすることになるだろう。ある意味、魔法界の負の一面しか見ていない発言であるからだ。

 そんな背景を抜きにしても、不快感を与える分には十分すぎるわけで、礼二は完全に逆上していた。

 気が付けば、周囲には野次馬が多く集まっていた。当初、礼二に吹き飛ばされた二人も戸惑いを見せつつ、亮夜と礼二を見守っていた。

「その減らず口、ここで叩き割ってやるか?」

「ルール外の戦いなど、御免被ります」

 最終警告とも捉えられる発言に対して、亮夜は相変わらず冷静に返した。

「何の騒ぎだ」

 一触即発となろうとした時、新たな人物が舞台に上がって来た。

「恭人さん・・・」

「冷宮様!聞いてくださいよ、10組のアイツが・・・」

 思いがけない相手が登場して、亮夜はまだ冷静さを保てていたが、礼二は堂々と冷宮恭人に媚びを売り始めた。

 あんまりな態度に、野次馬たちはため息を吐いて呆れたが、幸いなことに礼二には聞こえていなかった。

 最も、恭人はこの程度で動じる程、甘い性格でも、流されやすい性格でもなかった。

「またお前が問題を起こしたのか。お前の魔法行使権は没収する」

「そ、そんな!」

「同学年の奴らはこんなのばかりで嫌気がさしてくるな。おい、礼二。さっさと来い!」

 皮肉にも、亮夜の発言の半分が現れる形となって、礼二は恭人に引っ張られた。ここまでの経緯を見ていなければ、亮夜の皮肉はここに現れることになっていた。最も、そこまで思考の回る人物も、気づいた人物もいなかったのだが。

「くそ、どうしてこの俺が!おい、10!!」

 礼二はみっともないを通り越して、無様としか言いようがない態度で、亮夜に吼えた。

「魔法試験でぶっ潰してやる!そのことを忘れるなよ!!」

 半ば狂ったかのような態度を見せながら、礼二は亮夜に宣戦布告した。

 亮夜はそれを、警戒する眼差しで引っ張られていく礼二を鋭く見詰めた。

 これだけの騒ぎもあってか、10組内で起きた喧嘩はうやむやにされた。




 その後、生徒会の臨時の下部組織を作り上げる事態にまで発展する程、事態の深刻さが増した。

 1年4組、1年5組、2年2組を筆頭に起きた暴動が、この少人数で対応しきれなくなる程、規模が大きくなっていた。

 あんまりな事態に、遂に生徒会で最終警告が出された。

 内容は、生徒会が出動する事態になった場合、対象者は魔法試験受験資格をはく奪するというものであった。

 さすがの横暴に、非難した生徒はいたものの、これだけの威圧感を出した生徒会に堂々と異議を唱える強者は現れなかった。

 こうして、学内の不安は沈黙した。

 だが、亮夜や恭人、宮正といった人物は、この状況に不安を覚えていた。

 内側に無理やり抑え込まれた不満を、彼らは恐れていた。

 幸いなのか、魔法試験開始までに、更なる暴動が発生するということはなかった。

 2月24日。

 遂に、魔法試験が始まった。

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