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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第5章 bygone
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14 魔法解放の序章 前編

「あの時、夜美に嫌われなくて、本当に良かったよ」

「あの時は・・・ちょっと嫉妬しちゃって・・・」

「そうか・・・でも、こうしていられるのは何よりだ」

「その裏で頑張る必要もあったからね。勿論、お兄ちゃんのためにもね」

「うん。僕と夜美、二人いたから、こうして生活できたんだ。それは、今も昔も、変わらないさ」

 亮夜と夜美が普通の生活を送る上で重要なポイントは3つ。

 1つ目は、目立ちすぎないように立ち回る。言うまでもないが、司闇に見つからないようにするためだ。

 2つ目は、「普通」というものに慣れる。使用人などがいない中で、生活しないといけないからだ。

 3つ目は、資金を定期的に入手できる方法を確立する。脱走時に1億円はあったものの、既に半分近くを使ってしまっている。

 そういうわけで、普通の生活というものに、いやでも亮夜と夜美は巻き込まれなくてはならなかった。

 そして、もう一つのポイントがある。

 それは、力を身につけて、「司闇」に対抗できる術を身につけることである。

 生活が安定していくにつれて、夜美は当初の目的を思い出し始めた。

 このような状況になったのは、全て闇理を始めとする司闇一族のせいだと夜美は決めつけていた。

 ある日の夜、今の大型ベッドではなく、二人並ぶのがやっとなサイズで眠っていた夜美だったが、突然、亮夜に起こされた。

 眠くて不機嫌そうな顔を亮夜に向けたが、当の亮夜はそれ以上に不愉快で苛立った顔を見せていた。

「お、お兄ちゃん。どうしたのこんな夜中に?」

 真夜中にトイレに行くといったことも何回かあったが、今回はそれとは違う様子に感じる。

 何か亮夜に悪いことをしてしまったのではないかと思って、どうしようかと焦り始めると、亮夜が口を開いた。

「少し気分が悪い。悪いけど、このまま話に付き合ってくれないか?」

「う、うん」

 いつもの優しげな口調ではなく、どこか棘を感じる話し方。やはり夜美がいけないことをしてしまったと、何を謝るかを考えていた。

「夜美、何か邪念を抱いていないか?」

 しかし、亮夜の発言したことは、夜美にとってあまりに予想外なことであった。

 どのことかと、頭を必死に悩ませていると__。

「いや、邪念というより、うーん、恨みみたいなものだ。自覚はないか?」

 先に亮夜が分かりにくい正体を言ってくれた。

 それならば、ただ一つ。

「あの人たちのことは・・・」

「やはり、そうか・・・」

 固有名詞こそぼかしているが、この二人には、何が言いたいかはすぐ分かった。

「夜美。今、僕は君とダイレクトに密着している。夜美の精神状態が僕の方にも影響が出てしまうんだ」

「もしかして、そのせいでお兄ちゃんはイライラしているの?」

「そんなところだ」

 原因がすぐ分かったことには、二人ともほっとしていた。

 だからといって、それをすぐに解決することは容易ではないのだが。

「・・・すぐに気持ちを改めるなんて、簡単じゃないよ・・・」

「・・・だったら、別のことを考えてみたらどうだ?楽しいことを考えれば、気は紛れると思う。・・・。・・・よし、夜美から不愉快な気持ちが消えているな」

「・・・うん」

 言われた通り、亮夜と普通の生活をする妄想を膨らませて、夜美は意識を切り替えた。

 その後は、特に問題もなく眠ることはできた。




 結果的に、根本的な目的を忘れていた夜美は、次の日の朝、亮夜と向かい合っていた。

「魔法の腕前を上げる?」

「うん、一応、あたしたちも魔法師だからさ。もし、あの人たちと戦うことになった時にさ、力をつけとかないと困るんじゃない?」

 確かに夜美の意見は一理ある。それどころか、後回しとはいえ、司闇と戦ううんぬんはともかく、それも計画には入れていた。

 しかし、相手は魔法六公爵最強の司闇。以前読んだ本と、目の当たりにした実力から言って、どうあがいても苦戦は避けられない。

 血族の才能はともかく、資金やフィールド、装備を考慮するまでもなく、明らかに理想論であると言えるくらい、実力差があった。

「・・・その事を抜きにしても、魔法は十二分に扱えるようにした方がいいな。よし、魔法訓練施設という場所があったはずだ。今日はそこに向かおう」

 しかし、亮夜はその現実論を口にしなかった。

 それは、少し前に残っていた記憶から構築された失敗談が原因であった。そこで、話の進め方を変えたのである。

「うん!」

 そういうわけで、二人は魔法訓練施設に向かうことになった。




 ここでのルールや料金に関しては、読んできた本などから、特に迷うことはなかった。

 二人が選択したのは、「AI型魔法バトルシステム」。

 コンピューターから入力される、魔法現象に近いものを引き起こして、魔法で対処するという、実践さながらのトレーニングだ。

 まずは、少し低い程度のレベルに設定して、亮夜が挑む。

 最低限の魔法道具はあったが、今回はレンタルした魔法銃を選択した。汎用性重視の一品である。

 魔法の内容を読み取ろうとする。

 ここで、亮夜の意識に異常が起きた。

 突如、全身が滅却された。

 身を焦がす熱さに、亮夜はたまらず身を縮める。

 __というのは、勘違いだったようで、実際に燃やされていない。

「・・・?」

「お兄ちゃん?」

 今のは何だったのか。

 もう一度、別の魔法を発動する。

 今度は、足元から棘が生えてきた。

 亮夜は飛び上がったが、こちらもそんなことは起きていなかった。

 自分の知らないことが次々と起こることに、恐怖を感じる。

 また別の魔法を放った。

 今度は、沢山の欲にまみれた女性が自分に手を__。

「うわあああ!!」

 気が付いた時には、夜美に抱きついていた。

「お兄ちゃん!?どうしたの汗びっしょりだよ!?」

「・・・夜美だな。うん、夜美だ」

「本当にどうしたの?」

 幻覚だと亮夜は決めつけていた。

 しかし、奇妙なことにどれも見覚えがある。

 自分が体験したことのないはずなのに、体験したと認識して、強烈なショックを感じた。

「・・・僕は休む。夜美は思う存分、腕をふるってくれ」

「・・・お兄ちゃんがそう言うなら」

 その後、夜美は圧倒的な好成績を残した。

 亮夜は結局、何もできずに帰った。




 家に帰った後、様々な小さな魔法も試そうとした。

 しかし、どのような魔法を使用しても、その度に恐ろしい幻覚を引き起こす。

 吐き気や眩暈まで起こしそうになったため、夜美から無理やり止められることになった。

「もうだめだよ、お兄ちゃん!安易に魔法を使っちゃ!」

「はぁ・・・はぁ・・・どうしてだ・・・」

 口ではそう言っているが、原因が何なのかは、二人とも察しがついていた。

 ここまで調べて分かったのは、この幻覚を引き起こすのは、魔法を発動するプロセス中、どこでも発生することと、出力に応じて、この幻覚の強さが異なる、そして、亮夜が実体験したと思われるものに強く影響されているということだった。

「やっぱり、あの時に・・・」

「・・・夜美。過ぎたことを言ってもしょうがないだろう」

「でも!あの人たちは、お兄ちゃんから魔法を取り上げたも同じなのに!!」

「・・・だからといって、恨んでいて解決するのか?」

 少し不愉快げな口調から、夜美は無理してその先を考えようとしていないと理解した。それに、兄の言っていることも一理ある。

「いずれにしても、厄介なことになったのは確かだ。違うスキルを身につけることが必須になっただけだ」

 言っていることはその通りなのだが、夜美には無理しているように感じた。

 気づいた時には、夜美は亮夜に優しく抱きついた。

「お兄ちゃん。あたしだからって、妹だからって、気を遣わなくていいんだよ。たまには、本当のことを言ってみたら?」

 それと同時に、亮夜に拒否されなかったことに、内心ほっとしていた。

 色々な兄の反応を見てきたが、我を忘れて自分に抱きついてきたことが、最も強い反応だと夜美は思っていた。

 その時の言葉から、亮夜は女性たちにあんなことをされたのだと思った。

 それを施設内で聞いた時、その人物たちに怒りを覚えた一方で、あんな目に遭わされた兄に同情していた。

 それだけのことをされて、特に女性に不信気味な態度をとっていたことに、哀しさを覚えた。__現在でも治っていない、一部の女性に対するセクハラ目前の愚痴に関しては、呆れているのか、本気で注意できないのか、聞き流すことしか出来ていなかった。

そうであるにも関わらず、妹とはいえ、女である自分に好意を向けてくれていることには、感謝するばかりであった。

「・・・ふっ。夜美には敵わないな、僕は・・・」

 妹の洞察力の良さに感心しつつ、亮夜は迷っていた本心を打ち明けることにした。

「・・・魔法師を辞めたくないというのは本当だよ」

「・・・あたしだって応援したいけど、さっきのお兄ちゃん、見ていて堪えられなかった・・・」

「・・・すまない」

 予想はしていたが、結局はお互いに罪悪感を募らせることとなった。

 その日は、いつもよりしっかり抱き合って二人は眠った。




 頼みの一つ、魔法技能を失った亮夜だったが、魔法師という力を捨てたわけではなかった。

 今は、あくまで魔法が使いにくいだけだと、亮夜は思い込むことにした。そして、魔法の使用に関わらない技術を伸ばすことを優先した。

 まず、本を徹底的に読んで、さらに多種多様の知識を身につけた。中には、専門性の強い本も混じっていて、より特徴的な情報を得た。

 夜美と協力して、家を改造。地下室を追加した他、家の間取りを一部調整した。

 また、身体能力の強化にも励んだ。

 緊急性の高い用事を終わらせた二人は、毎日数時間を目標に、運動を始めた。さらには、柔術や体術と、物理的な戦闘能力の強化も工夫して行った。

 そして、亮夜たちは廃棄処分所にあった魔法検査装置やコンピューターを手に入れて__ゴミ捨て場に置いてあったものを勝手に回収することは、ここでは法律違反ではなかったからである__、調査を始めた。いずれも旧式であるとはいえ、電子的にデータを纏められることや、色々公にしたくない遺伝子情報を持っている二人には有難かった。

 ついには、資金回収を目指して、個人住宅に交渉まで始めた。幸いなことに、子供二人でやってくる姿には、色々気にする部分が多かったようで、お手伝いという名目で、仕事のシステムを得ることができた。

 これにより、多少の資金と一般的な情報を得ることができるようになった。

 しかし、資金と言っても一食、よくて1日の生活費であり、先を見据えて考えるならどう考えても無理があった。

 とはいえ、千里の道も一歩からである。それに、情報も得られるので、モチベーションの向上にもつながる。

 ある時、とある会社の情報を得ることに成功した二人は、早速潜入して、一計を講じることで話をつけることに成功。小さいながらも、無視できない成果を見せた二人に、確かな資金を与えた。

 これを利用して、亮夜たちは魔法施設の中枢にも乗り込んだ。着々と成果を出したことで一目置かれるようになり、魔法仕事の最先端に関わることが出来るようになった。

 あくまで子供という立場を利用して、少し古いものの、仕事道具を家に持ち帰ることに成功した。また、他のいくつかの施設にも同様の手を使って、設備を入手した。

 これにより、資金収入源、一個人としては優秀な設備を手に入れて、生活する分には安泰となった。

 独自の研究施設を手に入れた亮夜たちは、各地で手に入れた専門書を使って、このシステムたちをフル稼働させた。特にこちらの技術を手に入れていた亮夜は、下手な大人顔負けの知識を持って、個人用のラボと言える程のセッティングを行った。

魔法開発を重視したこのシステム群は以降、亮夜と夜美が魔法、もしくは武力を行使する際の拠点かつ補給所となる。

 無論、このことは公にされてはいなかったが、小学生としては、明らかに異常な成果であった。

 手始めに亮夜が取り掛かったのは、魔法道具のメンテナンスであった。

 精密機器__というには無理があるかもしれない__である魔法道具は、強度自体は万全だ。そもそもの用途が戦闘など、荒っぽい使われ方を想定しているため、少し振り回したり、乱発しただけで壊れては使い物にならないからである。

 一方で、内部の設計に関しては、魔法の力に呼応して動く特殊なシステムが組み込まれている。このシステムの一部に魔法式を入れることで、特定の魔法を容易に発動することが出来る。

 問題は、この魔法式を入れるということが、専門的で難易度が高いということであった。

 魔法式で魔法を再現するだけでもかなり難しく、専門教育でないと到底扱いきることはできない。

 さらに、強度や範囲といった部分も式で再現しないといけない。それが、固定であろうと、不定であろうと。

 無論、魔法式を直接扱うという関係上、無駄があれば、その分効率が悪くなる。

 __要するに、かなりの熟練者でないと、個人の手に負えるものではない。

 これの対策として、一部の魔法機関では、魔法式をセッティングできるシステムや研究者などが動員されている。

 亮夜はこれを、個人で再現を目指した。

 あちこちで身につけた知識とイメージと式のインプットを駆使して、試作用の魔法道具の改造に取り掛かる。

 大量に出された情報を一つ一つ確認して、知識と合わせて、法則性を探す。

 これらを纏めることで、必要な情報というのを見つけ出した。

 後は、必要な魔法を、式として再現を目指す__。

 最初に彼が作った魔法は、風を使ったお手軽な移動魔法であった。

 それ以降も、様々な魔法を、必要に応じて製作した他、暇つぶしに覚え書きとして保存してきた。

 他の装置も使って、魔法道具から、薬品まで、亮夜の小学生離れした数々の知識から、大量の道具を生み出して、時には有名会社に交渉して、資金の元手の1つにもした。

 これで、亮夜と夜美が行動する上での地盤は万全だ。

 そして、本格的な目的を定めたのは、ある事件を解決してからであった。

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