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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第1章 introduction
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5 最初の授業

 亮夜がトウキョウ魔法学校に通い始めて3日目。いよいよ、今日から授業が始まる。

 魔法科とも称されるこの学校では、魔法を中心に様々なことを学ぶ。魔法実技を始め、魔法歴史学、魔法工学、魔法知識、それ以外にも現代で汎用的に使う授業である、現代語、歴史、体育、美術など、魔法との関連性が薄いのもある。

 ただし、全てを受けるわけではない。魔法学の大半は必ず受けなくてはならないが、魔法に関係しない授業の大半は受けなくてもよい。極端な話、すべての魔法授業を受けるなら、非魔法関連の授業はほぼ受けなくていいくらいだ。

 亮夜は、魔法学も非魔法学も、受けられるだけ受けることにしていた。

 彼が求めているのは確固たる立場。それを得るためには、さまざまな知識や実力を身につけなくてはならない。そのために、多種多様な授業を受けることにしていたのだった。




 魔法とは、存在を確認されてから2000年、一般の技術になって200年経った現在でも、全てが判明したわけではないブラックボックスの多い代物だ。

 魔法知識という授業では、この謎だらけの魔法を、歴史に残る偉人たちを交えつつ、学んでいくものである。

 魔法歴史学とは、魔法の生まれたルーツを、一から順に学ぶというものである。

 魔法の始まりは、2000年前、荒廃していた世界に、一人の老人がおこした奇跡から始まった。

 世界は、この奇跡の汎用化を始め、後に魔法と呼ばれるようになった。そして、その老人は、マギデウス__ニッポンでは魔法神__と呼ばれるようになった。

 このニッポンでは、魔法という技術が伝わったのはそう遠い話ではない。

 300年前に、ニッポンにやってきたエマ・ベアトリスが魔法の技術を教えた。すると、ある一人の女性が魔法を使いこなした。

 彼女の名は、明鏡御須貴。ニッポンにおいて、最初の魔法の体現者となった。

 やがて御須貴は次々と新たな魔法を作り出し、ニッポンに魔法を使える人物を増やした。この功績から、マギデウスの生まれ変わりと称される程の名声を得た。

 しかし、50年後、御須貴は何者かに暗殺されてしまった。犯人は彼女の弟子の一人であるとされているが、未だに真実は解明されていない。

 それでも、御須貴の教えた魔法の力は世界と比較して、遥かに早く発展し、200年前には、ニッポンは世界でもトップレベルの魔法国と化した。

 御須貴の末裔の明鏡王太は、より魔法の力を高めるべく、遺伝子に目をつけて、改造を始めた。

 100年前には、ついに生まれもって高い魔法能力を持つ子供を生み出すことに成功。その子供たちは、6種類の属性をそれぞれ専門的に使いこなし、火の「帥炎」、水の「等水」、風の「将風」、土の「尉土」、光の「佐光」、闇の「司闇」、とそれぞれ名を与えられ、彼らは、魔法六公爵と呼ばれるようになった。

 しかし同時期に、王太は暗殺され、一部のデータが流失。このデータを用いて、魔法力を強化した子供ができるも、六公爵の一族には及ばなかった。

 その一族たちはより魔法の力を求めて邁進した。やがて、彼らはエレメンタルズ(実際には六公爵含めそう呼ばれるが、六公爵を除いた意味で使用されることが多い)と呼ばれるようになり、ニッポンの魔法界において、魔法六公爵に次いで高い身分と実力を持つようになった。

 今でも、新たな魔法を求めて、魔法界は発展を続けている___。




 というのが、魔法歴史学の大まかな内容である。亮夜は、この歴史の真相の一部を知っているが、特に明かす気もなかった。

 その真相は、一般人は知るべきではないし、政府も知られたくないと理解しているからだ。

 もしかすると、保身に走って黙っているのかもしれない。

 いずれにせよ、隠すだけの理由は存在しているので、亮夜はこのおかしな点を指摘することはなかった。

魔法工学とは、魔法と化学を複合した特殊技術を学ぶ科目である。

現在、多くの所で使用される魔法師向けの乗り物や、魔法技術を利用した機械など、一般向けにも役立てるようなものもある。

これらの構造を知るほか、実際に自分たちで作るのが、この科目でなすべきことだ。

魔法実技とは、様々な魔法を実際に習得することを目指した実戦要素も持った科目である。

魔法を実際に使用する関係上、ほぼ毎日のように行う科目で、最も学ぶ回数も多い。

これ以外にも、一般科目をはじめ、多数の科目があるが、ここでは説明を省く。

これらが、魔法科生徒たちが学ぶ授業である。




 肝心の亮夜は、魔法知識と魔法歴史学は問題なく理解し、魔法工学も前者2つほど優れた成績ではなかったが、及第点と言える程度には優秀だった。

 この点だけを見れば、10組で収まるような器ではないだろう。

 しかし、魔法実技に関しては、亮夜は極めて成績が悪かった。

 魔法を取り扱う関係上、魔法実技は大きく重要視される。よほど他の科目で優れている成績があるならともかく、この実技が悪ければ、総合成績は致命的な物となる。

 亮夜の魔法実技は、一言で言えば最悪であった。

 この授業は、教室ではなく、1階の魔法実技室を使って行われる。ただし、魔法実技のタイプによっては、別の教室を使うこともある。

 たとえば、最初に使われた教室は、魔法陣や精密機械が置いてある、魔法を発動させることを重視した魔法実験室だった。

 魔法実験室には、亮夜を含む10組の生徒たちがそろっている。

 最初の課題は、魔法弾を発射する魔法「マギ・ブレッド」で、的に当てるというものだった。

 用意された補助装置には、「マギ・ブレッド」の魔法式が投入されており、これに魔力を注ぎ込むだけでイメージすることなく発動させることが可能だ。腕を上げていけば、セットされている魔法式を上書きして、範囲や規模を強化することも可能だが、今回は発射方向を調整する程度に留まっている。

 10組の腕ならば、少し頑張ればできる程度の課題だった。

 しかし、亮夜はかなり苦戦していた。

 まず、最初にただ魔力を注ぎ込んで発射する。

「・・・くっ・・・」

 うめき声を出しつつも、亮夜は周囲に満ちた精霊を集め、補助装置に注入して発動させる。

 この時点では、他のメンバーと大きな差がつく程ではなかった。

 問題は、次の課題の、制限時間までに発射するものだった。

 同じように魔力を溜めて、補助装置に注入する。

 発射までに80%程の魔力を注入した所で、急に中断した。

 亮夜の集中が切れたのだ。

 肩で息をしつつ、痛みの引かない体をおして、再び発動しようとするも、今度は65%で中断してしまう。

 再度発動させようとした時は、10%にも満たない状態で、亮夜は背後に吹き飛んだ。

「舞式君!?」

 亮夜が尻餅をついたのを見て、慌てて10組の女子生徒が駆け寄って声をかける。

 彼女の名は花下高美。ショートにした髪と、イヤリングが特徴的な少女だ。

「大丈夫!?」

「うん、何とか大丈夫だよ」

 亮夜が再びコンソールに向かおうとするのを見て、高美は制止する。

「だめだよ!どう見ても舞式君、大丈夫そうに見えない!少し休みなよ!」

 確かに周りを見ると、自分の事を心配げに見つめている人物が多い。無理をしても成果が出にくいと判断した亮夜は、部屋の隅で休むことにした。

 幸い、端末には一時保存機能がある。1人が遅延して、周りも巻き添えで遅れるリスクはかなり減っている。現に、亮夜が使っていたコンソールの前に、別の人物が使っている。

 その様を見つつ、亮夜は自分の相変わらず情けない体に溜息をつくのをこらえていた。

 亮夜が魔法を使用しようとした時、彼の意識に一つの現象が具現化していた。

 それは、幼いころに起こしたトラウマ。

 そのことを亮夜は知っているし、割り切ってもいる。

 かつて、亮夜の身に起きたある事件が、彼の意識に致命的なダメージを与えた。

 これにより、彼の意識の半分以上が損傷をおこし、上手く思考することが出来なくなっていた。

 妹の献身的なリハビリにより、一般人としては少し感情表現に乏しい程度には回復している。

 だが、魔法師としてはあまりに致命的なことになっていた。

 壊れた意識の代わりに植え付けられたのは、多大なトラウマ。それに対し、精霊の探知、魔法の創造、精霊の変換、魔法の具現化、魔法の発動、魔法を扱うためのプロセスはいずれも意識を強く割かなければ発動させることができない。

 つまり、魔法を発動させる度に、ほぼ全ての意識にアクセスしていることになる。

 その結果、亮夜は魔法を発動させると、トラウマが具現化して、自分を精神的に苦しめることになってしまった。

 このハンデは魔法師として大きすぎるハンデだ。それどころか、魔法師をあきらめるべきだったかもしれない。

 それでも亮夜は魔法師として歩む道を決めた。自分の野望の1つのためには、自分の力こそ最も相応しいと理解しているからだ。

 だからこうして身を削りながら魔法を使う。己の僅かな未来のために。




 疲労が大分とれて、それなりに思考ができるようになった頃には、5分程経過していた。

既に最後の課題まで進んでいるメンバーもいる中、亮夜はコンソールに戻って再び魔法を発動しようとする。

またしても、全身を突き刺すような痛みに襲われるが、無理やり押し切って、強引に魔法を発動させて課題を終わらせた。

しかし、余りに強引に発動させたため、激しい吐血を起こしかけた。幸い、それ以上に痛みが酷かったので、血を吐く程の余裕はなく、醜態を晒さずに済んだ。亮夜本人としては、この程度の恥など、どうでもいいと考えているが。

それでも、膝をついて、激しく息をするほどには疲労していた。意識を取り戻しつつ、次の課題の内容を確認する。

次の課題は、魔法を短い間隔__今回は2秒以内__で発動させるというものだった。

あくまで、間隔が短ければいいので、二つの魔法を発動寸前まで準備して、最後に少し魔法力を注ぎ込むだけでもいいものであった。

亮夜もその方法にならい、__準備するのに他の人物と比較にならない程の時間がかかっていたのだが__極端な苦労をせずに終わらせた。

最後の課題は、「マギ・ブレッド」を特定の方向に放つのを三回繰り返すものだった。

魔法式の発射方向を自分の手で上書きして、適切な方向を狙う。この作業を三度繰り返すという最も時間のかかる課題であった。

魔法式と呼ばれているものは、イメージとして具現化したタイプと、大量の文字で構成された式そのもののタイプがある。

ほとんどの場面で使われている前者のものは、このイメージを一部崩した上で、自分の意識で上書きすることで、発動現象__例えば、方向や発動範囲などだ__を変えることができる。

一方、後者の式は、文字から直接書き換えなくてはならない。どこを変えるのか、それが分かっていなければ、想定外の現象を引き起こす可能性が高く、精通していなければアレンジなどできないものだ。

その反面、極めれば、イメージとは比較にならないほど、精密かつ安定した魔法を生み出すことができる。魔法研究の際にも、こちらの魔法式を構築、解読して、開発している。新たな魔法を生み出す際にも、こちらの手法が使われている。

亮夜は、ある程度なら直接書き換える術をもつ。方向を変えるなら、彼の腕なら、気後れする必要はない。

最も、発動に苦労する点は変わらない。それでも、亮夜は時間までに、どれも一発で成功させて、最初の魔法実技を終わらせることができた。




 一魔法師以上に目立たないように立ち回りつつ、確実にノルマを突破していく亮夜。

 この学校では、競争意識が強いこともあって、頻繁に成績の順位が開示される。さすがに名前公表はないが、人数は分かる。

 何が言いたいかというと、他の組より優れているか劣っているかが、容易に分かってしまうことだ。

 さすがに普段の授業では、クラスの中の順位しか公表されないので、このような劣等感に苛まれる恐れは少ない。

 さらに言えば、クラス変更自体は、1年おきに行われるので、取り戻せる範囲なら、差し迫って大きな影響はない。

 それでも、成績が劣っているという事実は、上位組にとっては、無視できないものだろう。

 亮夜は、魔法実技は、屈指の最底辺だったが、それ以外は、ナンバーワンと言える成績ばかりだ。

 学校の先生たちも、イレギュラーすぎる成績を見て、どう対応したものか迷ったほどだった。だが、魔法実技が最底辺で、それ以外は他のクラスと総合的に比較してもナンバーワンといったように完璧でもなかったので、特別措置をとることもなかった。

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