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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第5章 bygone
42/121

3 家族

「そう、あの時に健司君に会ったんだ」

「そういえば、あたしもその人のことはあまり聞かなかったなぁ」

「あれからしばらくは、何も思い出したくなかったからね」

「お兄ちゃん・・・」

「健司君とその家族は、僕に家族というものを教えてくれた。そのことは、今でも感謝している」

「・・・」

「・・・だから、夜美を絶対に守ると誓ったんだ。何があっても」

 もう少し話を続けて終わらせた後、亮夜は空いている一室を貸してもらった。

 明美が来客用の布団を敷いたことに、亮夜は疑問を覚えたが、それを口にはしなかった。

 司闇の屋敷では、ベッドを与えられていた。それに対して、これは客観的に見て、かなりの安物の寝床と見られた。

 しかし、何一つない外で一夜を明かすのと比べれば、かなりマシな待遇であることも理解していたので、余計なことを口にしない程度には、亮夜は良識があった。

「ゆっくりしていってね」

 そういって、明美は部屋を出た。

 今、亮夜は本当の意味で一人きりだった。

 この部屋は、たった今敷いてもらった布団以外、何もない和室だった。

 床に座って、じっくりと身の丈を考える。

 外の世界は、優しさに溢れている。

 使命から解放されて、こんなにのびのびできるのは初めてだ。

 魔法に手をつけることは禁じられているものの、この解放感に勝るものはない。

 だが__。

(夜美・・・どうしているのかな・・・)

 亮夜が本心からきょうだいとして想っている、夜美はどうしているのかは気がかりだった。

 再び、思考に沈む。

(ここにいる人たちはいい人ばかりだ。僕の家族たちとは比較にならないくらい)

(すごく・・・暖かい。そんな気分を、夜美以外に感じるなんて)

(・・・魔法って何なのだろう?)

(やっぱり、傷つけるための魔法は、おかしいのだろうか?)

(夜美がこの世界を見たら、どう思うんだろうな・・・きっと喜びそうだけど・・・)

 亮夜が思考にふけっていると、明美が亮夜を呼び出してきた。

 昼食の準備だそうで、手伝いに向かうことになった。

 今、作っているものは汁物。

 しかし__。

「あの・・・明美さん一人で作っているのですか?」

 司闇では、多数のメイドたちが様々な食事を用意してくれた。

 ここでは、明美一人で、昼食を作ろうとしている。

 単純に比較はできないが、明らかにこちらの方が、負担はかかりそうだと亮夜は思った。

「大丈夫よ、亮夜は奥の棚にある2段目のカップを取って」

 場所を確認して、亮夜はカップを渡した。

 その後も、指示に合わせて、様々な物を出した。

 それに合わせて、明美が次々と食べ物を作っていく。

 その手際を見て、亮夜はただただ感嘆していた。

 魔法や便利道具もないのに、こんな料理を作れるなんて・・・と本気で感動していた。

 食卓につき、亮夜は空いている椅子__他の椅子と比べて小さいことから、急遽用意したのが伺える__の横に立っていた。

「何をしている?座りなさい」

 拓郎がそう言うと、亮夜は少し慌てて椅子に座った。

「いただきます」

 全員が手を合わせて唱えたのを見て、亮夜も見様見真似で続けた。

 出されたのは、ご飯、みそ汁、魚。それに加えて、水、箸が並べられていた。

 司闇では、ゴージャスと言うべきか、貴族的な食卓が目立った。

 それに対して、すごく貧相だと亮夜は感じられた。

 外の世界では、こんなに貧相なものしかないのかと憐れみを覚えた一方で、それが建前を抜きにしても、なぜか不愉快ではなかった。

 幸い、どれも見たことあるもので、食べられるものでもあったので、戸惑いを覚えることはなかった。

 黙々と食べていると__。

「亮夜、おいしい?」

 隣に座っていた健司が声をかけてきた。

 亮夜の知っているマナーでは、食事中の会話はよくないとされていたが、明美や拓郎が咎める雰囲気もない。口を整理してから、亮夜は口を開いた。

「おいしい。こんなにおいしいとは思っていなかった」

 もしかしたら失礼なのかもしれないが、亮夜の本心であった。

「そう、良かったわ。おかわりもあるから、遠慮なく食べてね」

 幸い、明美には素直に受け取られた。

 一般的、あるいは変わった雰囲気がまたも出来始めていたが、亮夜はそれに呑まれる程、軽い性格ではなかった。

 ペースを崩さずに、綺麗に平らげた。

 それでも、食べ終わった食器をまとめて、亮夜は虚空に目を向けた。

 一番に食べ終わったのは、亮夜だった。

 だが、全員が食べ終わるまで退席するのは、やはり良くないことだと教え込まれたので、そのように従っていただけである。

「ねえねえ、明日、どっか行こうよ!亮夜も連れてさ!」

「こら、亮夜はあくまでもお客様よ?しばらくは家にいなさい」

「じゃあさ、後でゲームしよ!」

「宿題をやりなさい」

「母さん、友達が来たようなものだ。少しくらいいいんじゃないか?」

「お父さんがそうやって甘やかすから、健司は__」

「明日やる!明日やるからいいでしょ!!」

「もう、しょうがないわね。一時間にするのよ?」

「はーい」

 そんな、家族の話を聞いていると、心が揺さぶられる感覚に襲われた。

「亮夜、どうしたの!?健司が無理に誘ったから!?」

「お母さん、それは酷いよ!どうしたの急に泣いて!?」

 泣く?

 なぜそう見えたのか。

 涙を流しているから、泣いているということなのか。

 でも、何故__。

 亮夜の思考は、まとまらなくなった。

「・・・すみません、ご馳走様でした。少し、一人にしてもらっていいですか?」

 許可をもらって、亮夜は自室に戻った。

 止まらない涙に奇妙さを覚えて。




 一人になった亮夜は、追加された小さな椅子に座って、思考に更けていった。

(どうして、僕は泣いていたんだ?)

(心が震えた時に、泣くという動作があったはずだ)

(僕は、何に影響されたんだ?)

 それは、先ほどの、突然、涙を流した事。

 知識としては、亮夜は知っていた。

 だが、司闇においては、不要な心として、捨てさせられたものだった。

 その時の亮夜は、少しの疑問も抱かぬまま、それを実行した。

 しかし、今、涙という形で、その感情が出ている。

(捨てきれなかったのか?そのことを・・・)

(・・・いや、捨てられなかったんだ、きっと)

(捨てたと思い込んでいただけなんだ)

(でも、それが、どうしてこのことに繋がる?)

(心があるから、泣くのか?)

(・・・そんなはずはない)

(僕が弱いからなのか?)

(魔法はともかく、僕は司闇の人間としては不完全だ)

(やはり司闇の教えは正しいというのか?)

(・・・それはない。アイツらが正しいはずがない)

(どんなに強く見えても、優しさが決定的に足りない司闇が、正しいはずがない)

(・・・僕が間違っていることを、教えたかったのか?)

(今までのやり方を変えて)

(でも、僕は信じない。これが事実だと認めたくない)

(だとしたら、これは何だ?)

(何が正しいんだ?)

(今の僕は何だ?)

 思考は徐々に、迷宮の彼方へ彷徨って行った。

 何も分からないこの事実。

 だが、何かが変わろうとするのかは、亮夜は理解していた。

(・・・何も分からない。僕は__)

 それが、何の変化なのかは、この時の亮夜には分からなかった。




 どれだけの時間をかけたのだろうか。

 全く纏まらない思考を意識の彼方に飛ばして、我に返った時には、短針が3を指していた。

 事前に聞いておいた、その他諸々の雑用の場所に赴いて、そして用意されていた道具も使って、身だしなみを万全にした亮夜は、再び自室で意識を彷徨わせていた。

(・・・)

 今回は、長針が一周しても、ロクな考えが出てこなかった。

 答えを出せないことに苛立ちを覚え始めていると、ノックする音が聞こえる。

 その主は、健司だった。

「亮夜、入っていい?」

「いいよ」

 少し前だとしても、思考の迷宮から脱するために、入れていただろう。

 まして今なら、特別入れる理由も、拒む理由もない。

 扉を開けると、健司が入り込んできた。

「亮夜、これからゲームしよう!」

「ゲーム?」

 知識としては知っているが、どの意味合いでゲームということなのかは分からなかったので、オウム返しに聞いてみた。

「とにかく、こっち!」

 健司に連れられて、一室に案内されると、コンピューターよりは小さい程度の中くらいの機械がセットされていた。

 ボタンが多数ある小型機械を、健司が自分の分も含めて、二つもってくる。

 亮夜は、それを受け取った。

 簡単な説明をした後、大きめの機械と手に持っている機械のスイッチを入れた。

 すると、テレビに映像が映し出された。

 この小型の機械を操作して、遊ぶということであった。

 おおよそ1時間かけて、レースゲームや協力系アクションゲームを楽しんだ。

 やはり、知っていても実際に遊んだことのない亮夜であったが、うならせるのには十分であった。

 魔法に励んでいる身としては、積極的に遊ぶことはできないのだが、科学を重視したゲームも悪くないと思った。

 それにしても、プレイしている最中は、やたらと健司が楽しそうに思えた。

 夜美と遊んでいる時との感覚に近いが、それとはまた別の感情を感じた。

 家の手伝いを手軽に行った後、自室で再び思考に沈む。

(夜美は妹。今の健司君は、何と言えばいい?)

(関係的に見れば、夜美は・・・)

(・・・そもそも、どうして夜美には素直に優しくできたんだ?)

(僕と似ているからか?)

(その点は、健司君に近い)

(いや、兄さんたちがおかしいだけか・・・)

 言葉に出来ない感情が再び、亮夜を支配した。




 その後も、健司と明美と拓郎の会話を聞くたびに、亮夜の心の迷いが強くなっていった。

 食事もお風呂も、勝手が違ったのだが、緊張的な居心地の悪さは感じなかった。

 高さの低い布団に入っても、疑問は続いた。

(これで、一日か・・・)

(今までのことに、すごく疲れていた気がする)

(そういえば、いつ、どうやって帰るんだろうな)

(・・・いや、今はこの生活に意味を見出す方が先だな)

(せめて、この気持ちを理解しないと)

 こうして、亮夜の居候生活(?)の一日目は、終わりを迎えた。

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