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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第4章 dark
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7 心理戦

 次の日の朝、目覚めた亮夜は、自分に抱きついている夜美を見詰めていた。

 こうして側にいると、気持ちが和らぎ、いざという時にも、確かな安心感をもたらしてくれる。そのことが、亮夜にとって凄く嬉しかった。

 自分の前では、甘えん坊か、頼れる人か、可愛げのある人と、年齢からは不釣り合いなバランスを見せてくれるが、こうして眠っている姿は、正真正銘の子どもかと錯覚させる程のあどけなさがある、と亮夜は客観的に見ている。亮夜個人として見るならば、絶対的信用から現れる、イオンと癒し、そして大人に成りかけている子どものアンバランスな色気を感じさせてくれた。

 そうやって強くかつ優しく見詰めていたからだろうか、夜美はむくりと起き上がった。

「ごめん、起こしちゃったかい?」

 時間は6時になる少し前だ。いつもの時間からすると、少しだけ早いのだが、そのことを謝罪する程には、亮夜は妹に対して大真面目であった。

「ううん、いい目覚めだったよ。おはよう、お兄ちゃん」

 それに対して、夜美はお世辞なのか、本心なのか分かりにくい答えを返して、兄に挨拶した。

「おはよう、夜美」

 亮夜もそれに倣い、いつもよりもいい笑顔__といっても、夜美以外からすると少し怖いかもしれない__を、妹に向けた。




 いつものように、朝の支度を終えた後、亮夜は夜美を会議室に引っ張ってきた。

 今日も亮夜は学校が休みであるが、夜美は今日も学校である。

 昨日打ち切らせた会話の続きだろうかと、夜美は思った。

「司闇対策だが、罠を仕掛けて説得することにした」

 夜美の予想は半分当たって、半分外れた。

 当たったのは、司闇一族の対策に関する会議。

 外れたのは、早くも方針が出ていたということだった。

 夜美は、本当の意味で、昨日の続きから行うかと思っていた。

 しかし、亮夜一人で考えた作戦が発表されて、夜美は驚いていた。

「でもお兄ちゃん。それが通じるの?とてもじゃないけど無理だと思うけど・・・」

「夜美の言うことは最もだ。だが、重要なのは、こちらの意識をはっきりとさせることだ。少なくとも、こちらに対して攻撃的な態度を止めてもらえばいいだけだ。これまでの情報をまとめると、僕たちが司闇一族の秘密を知っていることが、最も奴らを焦らせていることだと思う」

「大体分かったけど、そんなことが上手くいくの?」

「まず、夜美が持っていた司闇一族の連絡先を、外部からかける。そこで、奴らを廃工場辺りの、一目のつかない所に誘き出す。その場に、メッセージを置いといて、姿を出さずに知らせるというわけだ」

 確かに、計画としては悪くないし、作戦自体に失敗する要素はほぼない。

 不安があるとするならば、司闇一族が亮夜の誘導通りやってくるのか、仮にメッセージに目を通しても、都合よく攻撃を止めてくれるのかという所だ。

 だが、何もしないことや、少し逃げ出す程度に比べれば、対策としては確かだ。

「そうだ、夜美。無理を言って悪いけど、今日、学校を__」

「休むよ」

「そう、やす・・・早いな」

「あたしの出る幕じゃないならともかく、わざわざ頼むということは、そういうことを考えているからでしょ?」

「ありがとう。夜美は察しがいいな」

 夜美に学校を休んで手伝ってほしいと頼んだら、あっさりと承諾してくれたのを見て、少しだけ驚きながらも、作戦の続きを説明する。

「話を戻すけど、魔法開発施設の、探知魔法を開発している所にいって、その装置を貸してもらう。幸い、僕のコネクションであるから、少し金を出せば問題ないはずだ。それを使って、奴らの行動を感知する。純粋な魔法ではないから、奴らに見つかる可能性は低いし、万が一嗅ぎつかれても、宮正会長たちの手を借りれば、何とかなるだろう。それで、司闇一族のアジトを感知しておく」

「でも、そのためには、宮正さんたちと打ち合わせしておく必要があるんじゃないの?」

「もちろん、今からだ。正確には、この話が終わってからだけどね。後は、装備が__」

 今回の作戦を説明し終えて、夜美に協力させた。一応、夜美が協力してくれない場合は、感知作戦は中止にしておくつもりだったが、今回は杞憂であった。

 宮正と恭人に、多少の報告をしておいて(もちろん、虚実混合だ)、作戦の準備を始めた。




 亮夜が夜美を連れて向かったのは、町の外れにある廃工場。

 事前に、魔法開発施設の使用許可をもらって、ある程度の荷物を置いていった後、亮夜が記した電子データを、わざと廃工場の真ん中において、わざと闇の魔法を撒いてから、外に出た。

 次に、公衆電話に向かって、夜美が記憶していた電話番号に電話をかける。

 ここでつながるかどうか、亮夜も夜美も不安視していたが、意外とすんなりとつながったことに、内心驚いていた。

「(ご用件をどうぞ)」

 どうやら、直接電話に出る気はないようだ。

 そもそも、司闇一族の電話番号を外部の人間が知っているのは、亮夜たちくらいしかいない。

 相手からすれば、不審者__この場合は敵対者と言うべきか__やいたずら電話などの方がよっぽどあり得るので、直接会話に出ないのは当然とも言えた。

 亮夜たちはそのことに気づいていないものの、電話が繋いだだけラッキーだと思った。これが出来なければ、適切にコンタクトする難易度が大幅に上がってしまうので、とりあえず情報を送れるのは、歓迎すべき情報であった。

 事前に決めたセリフに、合成ボイスを重ねてダイレクトに送った後、相手の確認もせずに、二人は電話を切った。




 司闇一族の施設の1つ、通信施設。

 普段、なるはずのない電話が鳴って、管理者は少し慌てていた。

 相手の番号は不明。

 つまり、公衆電話などからかけてきたということだ。

 形式上、電話回線の1つは用意してあるのだが、この番号はおおやけにされていない。仲間達が使うにしても、専用の秘匿回線を使うことの方が多い。

 このような形で知っているというと、あの二人であるという可能性がかなり高いと、管理者は思った。

 形式的なテンプレの合成ボイスを使って、要件は聞き出そうとする。

 普通の電話ならば、とても褒められたものではないが、ここは「司闇」だ。この程度の外道行為など、この中では日常茶飯事だ。

管理者の予想通り、声の主は電話を続けた。

「(亮夜と夜美の音声データが廃工場にて発見された、場所は__)」

「(該当者2名の姿は発見できず。なお、このデータは3時間以内に回収しなかった場合、自動的に破棄される。以上)」

 ひとまず、このデータを闇理に送ることにした。

 彼から返ってきたメッセージは、3時間経つ直前に回収に向かうということだった。




 亮夜たちは魔法施設に戻り、密室に閉じこもっていた。

 夜美が音声データ周辺をゆるく探知している中、亮夜は宮正と恭人の二人と連絡をとっていた。

「何、司闇の奴らを呼び出しただと!?」

「やり方は伏せますが、相手にある物を回収させるのが目的です。ここで、刃を交えるつもりはありません」

「しかし、私たちに依頼しておくのは、万が一を考えてだろうな?」

「ええ、一応。遠くから探知魔法を使っているくらいですから」

「亮夜、お前らしくないな。その程度なら、この私が余裕で見つけられるというのに」

「一応、最先端技術です。それに、襲ってきたなら襲ってきたで考えもあります」

「言ってみろ」

「ここは魔法施設が密集している場所です。幾ら奴らでも、総合的に不利益になることはしないでしょう。仮に来ても、地の利と装備は十分にあります」

「随分な楽観視だな。次期当主クラスの奴らが来たら、どうするつもりだ?」

「・・・それ以上は手の内を明かすことになるので伏せます。肝心の作戦ですが、司闇一族が僕たちの方を狙ってきた際にスムーズに行動できるように手回しをしておくことをお願いします」

「・・・お前のことだ、考えはあるだろうが、無理はするなよ」

「亮夜、他に言っておくことはあるか?」

「作戦開始から、3時間以内が勝負です。もし、3時間経っても、奴らの姿が現れないならば、この作戦は中止とします。残り、2時間40分程です」

「承知した」

「気をつけろよ」

「お願いします」

 そうまとめて、亮夜は通信機を切った。

 最初、ここに移動するまでは、夜美が大雑把に自分の魔法で見張っていたが、確認は出来なかった。

 ここに来た後、探知魔法装置を借りて、交代しながら、廃工場周辺を見張っている。

 最初の数十分で来ないのを見て、亮夜は時間切れ寸前が勝負だと判断した。

 もし、自分が相手の立場ならば、ギリギリまで待ってから、回収に向かうだろうと考えられたからだ。__そんなことを客観的に考えてはいるが、本当に同じ立場だとするなら、適当な時間に現れるつもりであったという、亮夜はかなり意地の悪い考えをしていた。

 言うまでもないが、あくまで可能性だ。

 0か100でないなら、どちらもありえる。

 交代で見張り続けて3時間を迎えようとした頃、亮夜の探知に、ある異常が引っかかった。

(来たか・・・)

 宮正と恭人にメッセージを送った後、夜美と交代して、感知を強化させた。




 廃工場にやってきたのは、黒服の男たち。

 言うまでもないだろうが、司闇一族の配下たちだった。

 全員が黒マントを連想させる服に加えて、黒いサングラスを着用している。傍から見れば、誰が誰なのか、全く分からないだろう。

 しかし、この5人の中、一人だけは正しく区別出来ていた。

 それは、司闇一族次期当主の、司闇闇理だった。

 通信部から連絡を受け取った闇理は、時間ぎりぎりに回収に向かうことを告げた。

 罠であるかもしれないと考えてはいたが、この自分たちであるならば、敵う相手などいない。純粋な敵に恐れる必要はない。

 しかし、冒す必要のないリスクは避けるべきとも考えていた。

 圧倒的な力という形で、政府すら退けているのだが、本当の意味で孤立してしまえば、何かと都合は悪くなる。

 だから、散々に悪さはしているのだが、全て意味があるように繋げていた。

 今回に関しても、わざわざ行くメリットは感じえない。

 だが、敢えて乗っかってやろうと思っていた。

 このメッセージを出したのは、亮夜たちであるという可能性が高いのだが、生の視点で状況を確かめるべく、わざわざ部下を連れて来てやった。

 __結論から言えば、ただの気分である。

 周囲を確認しておいたが、特にそれらしい反応は見当たらない。

 相手からすれば、確実に罠を張るだろうと思っていたのだが、期待外れだっただろうか。

 いずれにせよ、このメッセージを受信すれば分かることだ。

 使い捨ての端末を用意して(ウイルスなどの危険を回避するためである)、メッセージを解読した。

(あなたたちなら、良く知っているはずの亮夜だ)

この一言で、あの亮夜であることは確定した。

(訳あって、こうして連絡を出した。今の僕たちに、本心から対立するつもりはない)

 やはり、夜美も生きていた。

 上から目線じみた発言に対して、一人が激昂したが、闇理はそれを止めて、続きを聞く。

(姿を消したことは申し訳なく思っている。だが、これが僕たちとあなたたちにとっての最善であると、僕は思う)

 姿を消したのは、亮夜ではなく夜美なのだが、そのことに突っ込む人はいなかった。

 一方、達観した発言に、配下の4人は激昂した。

「なんだよアイツ!なーにが最善だ!」

「俺たちを裏切りやがって!」

「いや、裏切ったのは夜美・・・だが、それは同感だ!」

「使えない奴がどの面下げて言ってんだ!」

「いい加減にしろ、お前ら」

 しかし、闇理だけは冷徹に4人を止めた。

 その言葉に、4人は落ち着きを取り戻す。

「仮にも任務中だ。いくらアイツのことだからといって、冷静さを失うな」

 驚く程、固まった4人は、ロボットの如く、興奮の色は失せた。

 彼らにとって、闇理は絶対服従の相手だ。

 ここにいる理由は様々だが、全員が闇理を始めとする司闇一族に忠誠を誓っている。いや、誓わされている。

 この4人は、比較的位の高いメンバーだ。

 それは、かつての亮夜をよく知っていたと同時に、闇理のことをよく知っていた。

 冷酷かつ冷徹な彼を、個人的にも怒らせてはならないと、深く心に刻み込まれていた。

(あなたたちの知る亮夜はもう死んだはずだ。戻る資格も、今の僕にはない。これ以上交わることがなければ、お互いに困ったことにはならない)

 5人は無言のまま、次の言葉を待つ。

(もし、連絡をもらえるというなら、今度は、ただの「亮夜」として会うことになる。このメッセージはこれで終わりだ。お互いにとって、不利益でないことを願うよ)

 それが、亮夜らしき人物が残した、メッセージだった。




 探知魔法でこの光景をチェックしていた亮夜たちは、メッセージは受け取ってもらえたということは分かった。

 そして、最大の問題である、このメッセージから、どう行動するかだ。

 彼らは、屋外へ移動して、魔法を駆使して、影の如く消えているかのように移動した。

 魔法の心得があるならば、長距離に一瞬で移動したように感じ取られるが、どのように移動したかを見破るのは、並の魔法師では不可能だ。

 しかし、相手は夜美である上、探知魔法を使用できる環境にある。

 影から影へ飛ぶ「シャドー・ステップ」と、純粋な跳躍魔法を駆使して、非常に効率よく移動しているのが、夜美には分かった。

 そして、とある山に差し掛かって、ある魔法を使うと、新たな道が開けた。

 その先を調べようとするが、特殊な魔法を夜美は感じた。

 亮夜にアイコンタクトで、危険を知らせる。

 亮夜の答えは、終わりにしていいということだった。

 魔法を解除して、夜美は大きく息を吐いた。

「お疲れ様。ひとまず、十分な成果は得られたようだね」

「悪いけど、少し後にしていい?」

「・・・行っておいで。僕も先にすることがあるからね」

 夜美が少し慌てて部屋を出た後、亮夜は宮正たちに電話をかけた。

「お二人とも、司闇一族は帰還したようです」

「亮夜の考えは杞憂であったな」

「計画は上手くいったのか?」

「ひとまずは。とにかく、お二人ともお疲れ様でした。結果的に無駄骨となってすみません」

「いや、無事で何よりだ」

「ああ、安全確保が大事だからな」

「ありがとうございます」

 そう言って、亮夜は電話を切った。

 荷物を纏めていると、夜美が戻ってきた。

 これで、ここでの作業は終わりだ。

 二人は、家に戻ることにした。

 亮夜たちの装備も結果的に全て無駄であったが、どちらもケチをつけることはなかった。

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