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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第4章 dark
33/121

5 次の一手

 生徒会室を後にした亮夜は、すぐさま校長室に行くことになった。

 「少し時間をください」と言って、亮夜が校長室に行ったのは、予定より3分程遅れた後だった。

 そのことに、校長先生が表向き、不満を持った態度は見られなかった。

 亮夜は校長先生専用の机の前に立ち、校長先生は偉い机に座っていた。

 体格は相応にふくよかで、50代だと思われる。威厳も十分な、校長先生に相応しい見た目をしていると言えた。亮夜はそのことを全く気にせずに、心の中で早く帰りたがっていたのだが。

「舞式君、この件のことは分かっているね?」

 想像はしていたが、非常に面倒なことに巻き込まれたと、亮夜は思っていた。

「君には後日、魔法協会__」

「その件ですが、校長先生、先ほど、「雷侍」と「冷宮」が預かるとおっしゃっていました」

 要件を伝える前に、亮夜は事情をさっさと説明した。

 これは半分が事実で、半分が嘘だ。

 事実なのは、「雷侍」と「冷宮」が状況を把握している事。

 嘘なのは、雷侍宮正と冷宮恭人しか、情報を渡していない事。つまり、どちらも一族として知っているわけではなく、個人的にしか知っていないということだった。

 この報告で、亮夜は司闇一族に関連した情報を信じ込ませた。

「既に事情徴収は終わらせています。エレメンタルズの権限により、この件は最高機密とすることも決定しています」

 根回しは万全に済ませていることを説明して、校長先生を沈黙させた。

「・・・しかし、この件は学校の問題にも発展している。いくら、君たちがそう取り決めようと__」

「相手は「司闇」です。魔法六公爵内でも、あらゆる点で例外がまかり通っている相手に、そのような常識が通じると考えないでください」

 再び事情を知りたがろうとする校長先生に対して、亮夜は出来の悪い生徒に警告するかの如く、話せない理由を伝えた。

 もし、このセリフを正確に理解できるなら、亮夜の素性を疑う声が出るに違いないだろう。

 しかし、相手は校長先生だ。

 魔法六公爵の裏の事情を知らない相手に、亮夜のセリフに隠された裏のメッセージを見抜けるはずがなかった。

 それでも、魔法界に携わっているなら、司闇一族の恐ろしさは有名だ。

 そのことを知っている校長先生は、これ以上食いつくことは出来なかった。

 その一方で、40歳近く離れているはずの一生徒相手に、徹底的に言い負かされて、確かなフラストレーションが溜まっていることを自覚した。

 これが、冷宮恭人だったら、まだ納得がいって、精神的に余裕がでるだろう。

 だが、今話している舞式亮夜は、所詮はただの10組だ。クラス委員長という肩書を持つだけのただの小童だ。

 そのはずなのに、なぜこんなにも言いしれない不気味な思いをしているのだろうか。

「・・・もういい。その件は終わりだ。分かっているとは思うが、今日を含めて、二日間休校だ」

 これ以上話すと、不愉快な想いをするに違いない。

 そう思っていた校長先生は、一つ報告を加えると共に、亮夜を下がらせた。

 今回の襲撃事件により、修復と安全確保のための時間が必要だった。休校とするのは当然のことだった。

 ちなみに、ここにはこの二人以外はいなかった。夜美は、亮夜が魔法保護室に隠れさせて、他の先生は、校長先生が拒否させた。

 妥当な対応だと思って、亮夜は校長室から出た。




 魔法保護室には特に被害はなく無事だった。

 決着がついた後も、哀叉はこの部屋にいた。

 そこに、亮夜が夜美を連れて戻ってきた。

 事情を大雑把に説明して、亮夜は再び出た。

 つまり、哀叉と夜美は二人きりであった。

 なのだが__。

 沈黙が続いていた。

 無理もないだろう。

 ほんの少し前に、司闇一族が襲撃に来て、終わらせた直後に、当事者と言える亮夜がいないのだから。

「無事でよかったね」

 しばらくの無言が続いて、最初に口を開いたのは夜美だった。

「はい・・・恭人さんや宮正会長のおかげで、助かりました」

 この発言だけを見ても、一般人なら何とも思わないだろう。

 だが、魔法師が名前で呼ぶということには、それなりの意味があった。

 血族が大きな意味を持つ魔法界において、名字はコードネームみたいなものだ。

 個人を区別する意義が必要な上位世界では、名前で呼び合うことが多い。

 最も、魔法六公爵の場合、それぞれの役目という認識が先に出ているからなのか、こちらは名字で呼び合うことの方が多い。

 先ほど、哀叉は雷侍宮正や冷宮恭人を名前で呼んだ。

 つまり、そういう世界に慣れているという可能性が高いと夜美は思った。

 とはいえ、それを突っ込むのは野暮というものだ。

「凄かったよ。さすがは雷侍と冷宮だったなと思った」

 夜美が名字で呼んでいるのだが、こちらは役目という意識で見ているということを、哀叉にも理解できた。

 夜美本人は、下っ端とはいえ、司闇とまともに戦えていたという事実に驚いていた。

 自分のおかげで何とかなったと、そう思っていないと言えばウソになる。本人は否定すると思われる__ついでに亮夜も__が、傍から見れば自惚れているとしか言いようがなかった。

 そのことに、哀叉が気づいた様子もなかったが。

「そういえば・・・お兄ちゃん大丈夫だった?」

 そのことを考えたのかは定かではないが、夜美は話題を変えた。

「亮夜が・・・ですか?」

「うん、ここにいたけど」

「少し落ち着いていない程度には大丈夫でした」

 そう聞いて、夜美はほっと息をついた。

 立て続けにトラウマを誘発させる現象が起きて、亮夜の精神状態が心配だったが、どうやらその心配はなさそうだった。

 兄妹は、双方、依存していることを強く自覚している。お互いが心の支えになっていることを、どちらも知っていた。

 だからといって、幾ら依存し合っているといっても、24時間、ずっと一緒にいることができるはずがない。

自分がいない状態で、亮夜の精神状態がまだまともだったことを確認できて、心から安心感を覚えていた。

「よかった・・・」

「初めてお会いした時から思っていましたが、夜美さんは本当にお兄さん想いなのですね」

「もちろんだよ!お兄ちゃんとあたしは・・・・・・とっても仲良しだから!」

 哀叉の二人への兄妹愛を微笑ましく見ているような発言に対して、夜美は思わず一般常識に照らし合わせて危険なことを口走りそうになったが、何とかごまかした。

「少し・・・羨ましいです。私には・・・そんな仲のいい人がいませんから」

「哀叉さん・・・」

 夜美は哀叉が3年前、親を失ったことは知っていた。

 自分たちはそれよりも早く、親を見捨てたが、親がいない悲しみ自体は共有できた。

 だが、決定的に違う部分があったから、かける言葉が見つからなかった。

「あ・・・ごめんなさい、湿っぽい話なんかして」

「いいんだよ。ねえ、哀叉さん、あたしは友達だと思っている?」

 夜美は、亮夜を含まずに、自分とは友達であるかを聞いた。

 それは、ブラコン的な意味で、兄と別の女性を近づけさせたくなかったという意味合いではない。

 あくまで、亮夜を真っ当に想っているから、敢えて踏み込ませないように尋ねたのだった。

「え?ええと、その、仲は悪くないと思いますが・・・」

 それに対して、哀叉はそのようにしか返せなかった。

「・・・そうだよね、人の心って、本当に難しいよね・・・」

 夜美は何かを悟っているかのように、そう呟いた。

 哀叉も完全に理解できているわけではないが、夜美の葛藤を朧気に察したようだった。

 その時、入口から扉が開いて、亮夜が入ってきた。

「戻ってきたよ」

「お兄ちゃん!」

 亮夜を一目見ると、夜美は亮夜に抱きつかんばかりに、駆け寄った。

「哀叉さんに失礼なことをしなかったか?」

「もう、あたしをいくつだと思っているの?」

「人のこと言えたもんじゃないけど、君は精神年齢かなり幼いからな」

「だって・・・」

 二人だけのムードが出来かかっていた中、哀叉は恐る恐る亮夜に声をかけた。

「あの、亮夜・・・。今、私のことを哀叉って・・・」

「ん・・・ああ、不満だったかい?」

「いえ・・・」

 理由を尋ねようとしたが、結局、哀叉は質問を引っ込めた。

 代わりに、亮夜から二日間学校が休みという情報を受け取った。

 どう説明したらいいか分からない心が、哀叉を支配し始めていた。




 家に帰った亮夜と夜美は、様々な身支度を済ませた後、地下の機密性がある会議室で向かい合っていた。

「今日のことについてまとめよう」

 亮夜がそう話すと、夜美は頷いた。

 帰る途中、話をしたがっていた夜美だったが、どこかで聞いている人がいるかもしれないと亮夜に諭され、この会議室までそれを話題にしようとしなかった。

「まず、夜美があいつらを捕らえた時の話をしてくれ」

「向かう途中に、司闇一族の配下たちがあたしを見張っているような気がしたから黙らせたんだ。学校についた時に、何かヤバい魔法を使おうとしていたから、それを止めた時に宮正さんと恭人さんが現れたんだ」

「そうか・・・。しかし、よく夜美一人でそんな簡単に突破できたな」

「まあ、あたしの方が格上だったからね。適当な部下くらいなら、あたし一人でもなんとかなるよ。それで、二人と協力して倒した所にお兄ちゃんが現れたというわけ」

「今回は格下の相手だったか。司闇一族は、他のことに手を回している可能性が高いな・・・」

「でも、あたしのことがバレそうになったから、慌てて止めたんだよね」

「つまり、僕たちが司闇亮夜と司闇夜美であることを突き止めていないわけか」

 まず分かったのは、自分たちのことは決定的にバレていないということだ。

「・・・できれば、その名前は止めてくれる?「舞式」の方が素敵でしょ?」

「少し言い換えればよかったな・・・。でも、生きている事はバレていると考えるべきだ。事前に、この件の主導権を僕が全て握っておいて正解だったよ」

「絶対、お兄ちゃんの芝居を台無しにしていたと思う」

 恭人と宮正に情報を出した時、亮夜は嘘を混ぜていた。

 本当は、司闇一族の人間であるということを隠していた。

 それ以外は、ほとんどが本当だ。

 また、襲撃事件の後、亮夜はこの件の事情を説明する時は、全て自分に任せてほしいと、夜美に話しておいた。

 だから、亮夜が説明していた時、夜美は可能な限り黙っていた。

「それはともかくだ。「雷侍」と「冷宮」の名を借りることができたとはいえ、奴ら相手に決定的な有効打とはならない。安易な情報戦では、返り討ちにされるのが、夜美には分かるだろう?」

「そうだよね・・・。まだ確定的に見つけられていないとはいえ、油断は出来ないからね。せめて、あたしが抜け出した時に場所を覚えていれば・・・」

「夜美のせいじゃない。むしろ、よく頑張ったよ、あの時は。奴らを牽制するためのパーツが不足している可能性が高い以上、どう動くべきか・・・」

「そういえば、魔法公表の前に話した、見つかった時の策は?」

「司闇一族だけが知る秘密を、他のエレメンタルズに流すと、脅す作戦があった。でも、司闇一族が中途半端に僕たちを知っている。下手に接触をしても、待ち伏せて捕らえられるか、そもそもやってこないかのどちらかになりかねない」

 現状の不利な状況を纏めて、亮夜はため息を吐いた。

 夜美は、一旦部屋を出て、水を亮夜に差し出した。

 一杯分を飲み干してから、亮夜は今後の方針を話す。

「いずれにしても、牽制できるだけのキーを手に入れる必要がある。明日は幸いに休みだ。宮正さんか恭人さんにお願いして、政府のセクションに忍び込もう」

「・・・それ、犯罪じゃないの?」

「人聞きの悪いことを言わないでくれ。見学という名目で、情報を手に入れるだけだ」

 二人に個人用のメールを飛ばして(会議した時にもらったものだ)、ひとまず終わらせることにした。

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