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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第4章 dark
31/121

3 司闇との対決

 時刻は少し前に遡る__。

 夜美は中学校で、普通に授業を受けていた。

 まだ専門性が進んでいない中学校では、極一部の選択を除いて、全員が共通で受けるような授業構成になっている。

 つまり、夜美は皆と同じく普通に机に座って、授業を受けていた。

 そこに、机の中に隠してある端末が振動した。

 予め本を立てて、先生や周囲から見えにくくした状態で、端末を開く。

 亮夜が製作した端末は、機能を大幅に削った代わりに、電波の構造を変えることで、盗聴などを防ぎやすくする、保守的な端末であった。

 その端末には、司闇一族の襲撃の可能性が記されていた。

 夜美は急に立ち上がり、先生に報告した。

「先生、兄が緊急事態だと言うので、早退します」

 それを言い放つと、周囲の確認もとらずに、荷物をまとめて出ていった。

 教室から出た夜美は、端末のモードを切り替えて、亮夜と通話した。

「もしもし、お兄ちゃん。さっき書いたことは本当なの?」

「確証はないけど、その可能性は高い」

「じゃあ、行くよ」

 亮夜と話をしている時点で、既に早退していたが、そのことを欠片も気にせずに、夜美はそう話した。

「えっ」

「もし、あたしが行かなくてお兄ちゃんを助けられないくらいなら、学校なんて休むよ」

 夜美にとって、亮夜は何よりも大切なものだ。その亮夜を助けるためならば、現実性はともかく、世界に喧嘩を売る覚悟だってあると夜美は思っていた。

「・・・一応、そっちも気を付けてくれ。君を狙う可能性、ないとは言えないからな」

 こうして会話はしているのだが、ブレスレットはちゃんと腕に巻いていて、周囲の最低限の警戒も怠っていない。

 しかし、亮夜に改めて注意されたので、気を引き締め直して、亮夜のいるトウキョウ魔法学校に向かい始めた。

 学校の外に出て、周囲を警戒しながら、時々魔法による高速移動で進んでいく。

 少し進んだところで、不穏な気配を感じた夜美は、周囲の警戒を強める。

 そして、屋根に張り付いて見張っていた男を見つけて、「サンダー・ボルト」を落として、動きを止めた。

 それ以降も、意識に引っかかっては魔法を放って迎撃して、周囲の安全を確認してから家の中に戻った。

 服を着替えて、戦闘用の服や武装を揃えて再び外に出た。

 魔法学会に行った時どころか、ステラの所に向かった時よりも道具は多い。

 魔導書、ブレスレット、魔法銃に、煙幕弾に、サングラスに、魔法チップと、一人で使うにしても過剰すぎる量だ。それでも、動きの鈍りがほぼ見られないのは、魔法による移動が上手いからなのか、単純に身体能力に優れているからなのかは、評価をつけにくい所だ。

 その後も襲撃を一回やり過ごして、夜美はトウキョウ魔法学校に到着した。

 その周囲には、黒服の男が複数いた。

 何かを待ち伏せているかのように、魔法を用意していた。

 夜美がそれを離れて見ていると、別の声が聞こえてきた。

「亮夜・・・10秒・・・職員室・・・学校・・・殺す・・・」

 その程度しか聞こえていなかったが、男たちが慌てずに魔法を続けているのを見て、敵だと確信した。

 夜美が放った魔法は、「シャドー・マインドナイフ」。精神に直接攻撃する闇の魔法だ。

 いかに優れた司闇一族の配下とはいえ、不意打ちで撃たれれば、決定的なダメージになる。

 二人倒した時には気づかれたが、結果的に学校に仕掛けられた大魔法は中断された。

「貴様、まさか・・・!」

 一人の男がそう口にする前に、夜美の「シャドー・マインドナイフ」が効いて、倒れた。

 それと同時に、学校の一室が爆破して、そこから現れたのは、同じく黒服の男と、冷宮恭人だった。

「!!」

 爆破に気をとられた隙に、もう一度「シャドー・マインドナイフ」を放つ。

 その一撃で、隠れていた黒服の男は全員倒れた。




 恭人が先生と共に黒服の男を追い出した後、外に向かった先には、2方向に人物がいた。

 玄関には、雷侍宮正ともう一人の黒服の男。

 校門の側には、見知らぬ人物がいた。

 黒服の男たちと同様、黒い服を着ているが、明らかに体格が小さく、素顔もサングラスで見えにくい。だが、恐らく女。側には黒服の男たちが倒れていた。少々信じ難いが、この人物が倒したと、推測できるだろう。

 つまり、どちらかといえば、味方だ。

 それでも形式的には、どういう立場かは、はっきりさせたかった。

「お前、何者だ!」

 恭人がそう口にする。

「名乗る程の人じゃない。君たちの味方だよ」

 夜美はそう返した。

 亮夜と話し合ってから、自分たちの素性が司闇一族にばれている可能性は分かっていた。そう、「可能性」は、分かっていた。

 まだ知られていない可能性がある。

 そうであるなら、変装して、口調も変えて対応する方がいいと、夜美は考えた。

「そうか、なら、こいつらを倒すのを手伝ってくれ!」

「了解!」

 どうやら、確定的に味方のようだと、恭人は密かに胸を撫で下ろしていた。

「貴様の部下たちも、そちらの者が倒してくれたようだしな。もう逃げ場はないぞ!」

 玄関にいた宮正も、二人に協力するような発言をしつつ、既に集まっていた黒服の男二人に啖呵を切った。

 ちなみに、素顔の夜美を知っている宮正も、黒服サングラスの人物が、夜美だと気づいていなかった。

「おいおい、やべーぞ!雷侍に冷宮に・・・あいつはともかく、完全に包囲されたぞ!」

「落ち着け、一人ずつ仕留める」

「誰からだ?」

「あの黒服の奴からだ。離脱地点を確保する方が先だ」

 複数同士での戦闘の時、戦い方は様々だが__弱い奴から倒して、頭数を減らす、強い奴から倒して、士気の崩れなどを狙うなど__、この二人は、配置的優位を取られている、黒服の人物から倒すことにした。

 しかし、先制したのは恭人。

 「ブリザード」を中心に発生させて、動きを鈍らせる。

 その隙に宮正の、天からの狙撃、「スナイプ・サンダー」が、黒服の男の一人に直撃した。

 いち早く離脱したもう一人の黒服の男は、夜美に向けて、ナイフを持って突撃していた。

 その刃が届く前に、夜美は「アース・クエイク」により、巨大な山を作り出して、男を上へ吹き飛ばした。

 その隙に再び、宮正の魔法が放たれようとした。

 だが、一撃目の「スナイプ・サンダー」を凌いだ黒服の男が、宮正に魔法を放とうとした。

「宮正さん!」

 夜美が移動魔法で、強引に宮正を飛ばすことで、不意打ちで放とうとした「シャドー・クロウ」__影から闇の爪を召喚して切り裂く魔法__は、宮正に当たらなかった。

 しかし、この移動によって宮正の魔法は中断されて、空に飛ばされた黒服の男への追撃はなかった。

「すまない。しかし、その声、どこかで聞いたような・・・」

「くっ!」

 宮正の疑問によって生じた隙をついて、男たちは闇の弾丸を何発か放った。

 それを、夜美の「ダーク・ウォール」によって破られることなく防いだ。

 その状況に、夜美本人を除いて、全員が驚いたが、それを一々言葉や態度に出す程の隙とはならなかった。

 「ダーク・ブレッド」を防がれて、「ブリザード」の対応の手が薄くなり、ダメージを余分に受けただけの黒服の男の所に、恭人の「アイス・ニードル」が襲い掛かる。

 氷の針が次々と襲い掛かるが、強引に上へ飛ぶことで回避した。

 「ブリザード」の制御力を「アイス・ニードル」に使った今、その力は弱まっている。

 確かなチャンスを見て、男たちは「ブラック・ホール」を放った。

 しかし、夜美の「ホワイト・ホール」__光の力で強烈に押し出す光魔法__の前に、

「ブラック・ホール」はすぐに消滅した。

「何だと・・・貴様・・・一体・・・」

 自分たち司闇は、ニッポンにおいて最強の魔法師チームと自負している。

 流石に格が違いすぎれば例外はあるが、エレメンタルズ程度に遅れをとることはないと思っていた。

 だが、現実は、次期当主の恭人、当主の娘の宮正、そして、素性不明の黒服の人物に、確実に押されていた。

 そう呟いてしまうほど、追い詰められていたのだ。

「終わらせよう!」

 宮正が「サンダー・プリズン」__電撃で牢獄を作り出す雷魔法__を放った。

 電撃の牢獄が男たちを取り囲んだ。

「おのれ!」

 追い詰められようとも、彼らはさらに抵抗した。彼らは負けることを知っていなかったのだった。

 いや、勝負において負けることを知っていても、戦いにおいて負けることを知っていなかったというべきか。

 知っていないからこそ、負けることを否定して、己を無理やり勝利のステージへ導こうとする。

 そのことを、夜美はよく知っていた。

「終わらせる!」

 ここで夜美が繰り出したのは、「ブラック・ホール」。

 雷の牢獄の前に作り出したそれは、黒服の男たちを吸い寄せようとした。

 しかし、目の前にある雷の牢獄に阻まれたことで、男たちは雷に直撃した。

「恭人さん!」

「ああ!」

 恭人が最後に放ったのは、捕獲型の氷魔法、「フリーズ・ゾーン」。

 直接指定して凍らせる、精密性に優れた魔法だ。

 男たちが痺れて、ロクに動けない中、この魔法は最大限に生かされた。

 全身を丁寧に氷漬けにしていく。

 一人を凍らせて、もう一人もそのまま凍らせた。

 重力と雷と氷、3つの複合で襲った強烈な攻撃は、司闇一族配下の男たちの意識を刈り取った。




「・・・どうにか勝てたか。感謝する」

「礼には及ばないよ。司闇一族から皆を守れた。それが何よりだよ」

「この男たちはどうする?魔法協会に送るか?」

 礼を言い合った宮正と夜美。それらに対して、恭人は、この黒服の男たちの処遇を尋ねた。

「情報を聞き出すというなら、無駄だよ。奴らの力には、真の情報を引き出せないようにプロテクトを仕掛けられている」

「そうか・・・。しかし、どうしてそれを知っている?六公爵でさえ知り得ないことだぞ?」

「そんなことはいい。それより、この人たちをどうしても、結果的にはあまり変わらないのが事実だろう」

「なぜそんなことまで知っている?貴様は一体、何者なのだ?」

 黒服の女性らしき人物が答えたのは、六公爵でさえ判明していないことであった。さらに、どう処分しても__殺そうが、人質にしようが、情報を盗み出そうとしようが__、大して効果がないことまで聞かされて、二人の疑念はますます強まった。

「・・・それより、人質は無事かい?」

 夜美は話題を切り替えて、話をそらそうとした。

「僕なら、無事だよ」

 校舎の影から現れたのは、舞式亮夜だった。

「僕の妹が、世話になったようだね」

 亮夜がそう発言すると、宮正と恭人は、黒服の女性らしき人物に目を向けた。

 サングラスをとって、素顔を晒したのは、亮夜の妹、舞式夜美であった。

「皆、ありがとう。僕のために、命を賭けてくれて」

「いや、我がエレメンタルズの使命を果たしたまで。礼には及ばぬ」

「随分、いい経験をさせてもらった。お前が礼を言う必要はないが・・・まあ、受け取っておこう」

「頑張ったよね、お兄ちゃん!」

「ああ、よく頑張ったね、夜美」

 三人に向けて頭を下げると、三人はそれぞれ違った態度で対応した。

「この人物たちは、出来れば証拠を残さずに処分すべきだ」

 亮夜は、捕らえた男たち(全員が気絶しているのは、亮夜も確認していた)の処遇について、そう提案した。

「それは・・・殺せと言っているのか?」

 恭人の目が、鋭く細められる。

「そんな大層なことを言ったつもりはないよ。信用できる機関に預けるべきだと言ったんだ。少しでも手がかりが残されていたら、確実に奴らは利用するだろうからね」

 それに対して、亮夜は確実に保護、あるいは捕縛できる所に送り込むべきだと主張した。ついでに、中途半端な対応に対する問題点も加えた。

「分かった。我が雷侍一族が責任をもって始末しておこう」

 宮正が名乗り出て、自分たちで処分すると伝えた。

「ありがとうございます、宮正会長」

 亮夜と夜美は頭を下げた。

 宮正が自分の部下に回収を命じて__表向きはそうしておかないと、色々不都合な点があるからだ__、恭人は、学校側に事件は終わったと報告に向かった。

 二人の用事が終わった後、兄妹は宮正と恭人に再び向かい合っていた。

「さて、亮夜と、夜美だったな。二人には、これから生徒会室に来てもらう」

「!」

 二人は声にこそ出していないが、やはりかと思っていた。

 あれだけ、世間どころか、六公爵ですら知っていない司闇一族の情報を次々と出したのだ。

 尋問されるのは、当然だと思っていた。

「恭人、お前にも出席してもらおう。我らの立会人を兼ねて、お前も来い」

「分かりました」

 宮正は、恭人にも同席を命じて、亮夜と夜美を連れて、生徒会室へ向かった。

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