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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第4章 dark
30/121

2 最悪の来訪者

 次の日、二日続けて学校を休んでいた亮夜は、夜美を連れてトウキョウ魔法学校に到達した。

 亮夜が夜美を一目見ると、夜美はそれを察して頷いた。

「もしもの時は頼む」

「分かっているよ、気を付けてね」

「君もね」

 夜美は亮夜の言葉不足な発言を正確に理解して、自宅に戻った。

 夜美を連れてトウキョウ魔法学校に来たのは、入学式以来だ。

 今回は、万が一のことを考えて、夜美が同行した。

 自分の状況が分かっている以上、亮夜に拒否する理由はなく、いつもより早く出て、夜美を中学校に遅刻させないように手早く送り返した。

 結果として、無駄骨ではあったが、何も起こらずに何よりであった。

 いつもと比べて早い学校では、人はそんなに多くない。

 ひとまず亮夜は二日休んだ分の状況を確認すべく、自分の教室へ向かった。

 確認した所、課題が一つあった。

 幸い、亮夜ならば容易に終わる課題だったので、あっさりと終わらせた。

 早く来すぎたので、やることがない。

 図書館に入って__暇な時はこうして本を眺めることが多い__、久々に歴史の本を眺めようとしたが、不愉快になりそうなので止めることにした。

 その後も何しようか考えては、精神的に不安定になりそうなので考えるのを止めるというプロセスを何度か繰り返した。

 やがてどうしようかと本気で悩み始めた時、見知った女性から声を掛けられた。

「おはよう、亮夜君。もう大丈夫なの?」

 今、登校したようである高美から声を掛けられたのだ。

「おはよう、高美さん。学校に来られる程度はね」

 高美に挨拶を返して、もう少し時間が経つと、陸斗がやってきた。

「おはよう、亮夜。無事で何よりだったぜ」

 表向き、亮夜と夜美は襲撃事件が起きた直後に逃亡したことになっていた。その後、学校に欠席を2連続で表明したということになっていた。

 亮夜は前者のことに、余り意識を割いていなかったが、陸斗の言いたいこと自体は分かっていたので、普通に返した。

「おはよう、陸斗君。あれから大変だったんだ。いろいろ」

「へー。ま、お前とまた会えるのは嬉しいぜ」

 そう発言した陸斗だったが、亮夜がどこか悲しい顔をしていたことに気づいた。

 彼のことを好きだと言っている(と思われる)舞香を思い出しているのかと、陸斗と高美は解釈した。




 魔法学校の郊外。

 黒服の男の二人組が陰に隠れていた。

「やはり、アレなのか?10組の亮夜がそうだというのか」

「呂絶様と闇理様は、亮夜は生きているとそう言ったはずだ。疑わしい者は捕獲するに限る」

「しかし、ここ二日、ここの亮夜は学校を休んでいるらしい。もしや、我らに感づいて引きこもっているのではないか?」

「馬鹿いえ、偶然だ。それより、ここの生徒を人質にした方が早い。もし、決裂か間違いであったら、人質を実験台にも使える。一石二鳥とはこのことだ」

「分かった。計画通り行くぞ」

 二人組は、二手に別れて、校内に潜入した。




 その二人が潜入した時、亮夜の感覚が鋭敏に反応した。

(まさか、バレたとでもいうのか?)

 授業が始まる直前ではあるが、行動は少しでも早い方がいい。

 そう判断した亮夜は、陸斗と高美に伝えた。

「陸斗君、高美さん。また調子が悪くなってきた。魔法保護室でしばらく身を休めることにする。もし、知らない人が来たり、呼び出しがあったとしても、行先は伝えないでくれ」

「おい、亮夜!?」

「亮夜君、どういうこと!?」

 二人の制止を無視して、亮夜は階段を降り始めた。

 地下に降りて、一人になった時に、亮夜は懐から端末を取り出した。

 端末で、夜美にこう伝えた。

 司闇一族が襲撃に来る可能性がある、と。

 それを終えた時には、魔法保護室に着いた。

 この魔法保護室は、魔法的な影響がなく、とても物静かな部屋だ。

 落ち着くことや、外部からの感知から隠れるのには便利な部屋だった。なお、後者のことに関しては、非公式であり、自分で調べないと分からないものだったりする。

 魔法感受性が強い人などにとっては、落ち着くことに最適な部屋だった。

 亮夜がその部屋を開けると、驚いたことに先客がいた。

「鏡月さん!?」

 夏休みの時、ステラのいたビルから出てきた時のように、また驚くべきタイミングで哀叉に会うことになった。

「亮夜!?」

 やはり、哀叉にとっても意外だったようで、亮夜と同じく驚いた表情を見せていた。

「どうして・・・ここに?」

「三日前のケガがぶり返してね。保健室に頼るのも嫌だったから、ここで身を休めることにしたんだ。鏡月さんは?」

「・・・わ、私も似た理由です。ここはすごく落ち着くので・・・」

 そう話していると、亮夜の端末が振動を起こした。道具の都合上、知らせる方法が色々あって、振動ならば、音を鳴らさずに分かることができる。

 その端末には夜美と表示されていた。

「もしもし、お兄ちゃん。さっき書いたことは本当なの?」

「確証はないけど、その可能性は高い」

「じゃあ、行くよ」

「えっ」

「もし、あたしが行かなくてお兄ちゃんを助けられないくらいなら、学校なんて休むよ」

「・・・一応、そっちも気を付けてくれ。君を狙う可能性、ないとは言えないからな」

 万が一を考えれば、幾らでも用心しすぎるに越したことはない。

 そう判断して、夜美の早退をあっさり許可して、通話を切った。

 その間、小声ではあったが、側にいた哀叉には聞こえていた。

「今のは、夜美さん?一体、何を話していたのですか?」

「・・・もしかすると、君の考えていることと同じかもしれない」

 哀叉が内容について尋ねると、亮夜はいくらでも解釈のしようのある答えを返した。

 亮夜が探知用装置を使って(もちろん、自前で開発したものだ)、侵入者を探り出そうとした時__。


 ブーッ!!ブーッ!!


 滅多にならないサイレンが鳴った。

「現在、司闇一族の配下がこの学校に襲撃してきた。彼らの要求は、1年10組、舞式亮夜を引き渡せ、と。舞式亮夜君、今すぐ職員室に来なさい」




「・・・こ、これでいいのですか?」

「ああ、上出来だ。これで奴を来させる」

 職員室。そこに黒服の二人組が侵入してきて、見せつけに一人を倒して、放送室をジャックした。

 仲間を残して、一人で来た男に、一人の先生が尋ねてきた。

「君たちは一体、舞式君に何の用かね?」

「それは、先に死にたいと言っているのか?」

 男は魔法銃を突きつけた。

「安心しろ、俺たちは亮夜を攫いにきただけだ。奴が大人しく来てくれるというなら、悪いようにはしねえ」

「待て!」

 入口の方から声が聞こえてきた。

「誰だ!」

 その方向に振り替えると、冷宮恭人が立っていた。




 その衝撃ニュースには、誰もが驚きを隠せていなかった。

 三日前の、魔法公表襲撃事件に続いて、司闇一族が、今度は自分たちの学校を襲撃しにきたのだ。これで驚かないのは、余程豪胆な者か、相当なのんきものくらいだろう。そんな人はこの学校にはいなかったのだが。

 当事者ではない1年10組以外は、魔法道具を持って最大限に警戒したり、机の下などに隠れたり、現実味が湧いていないのか、何があったのか話し合う生徒たちと、様々だった。魔法師としての自覚が強い、つまり、魔法経験を積んだ者程、適切と思われる対応を取っていた。

 その当事者、1年10組も上位陣と似たような反応だった。座学だった彼らは、机の下などに隠れて、様子を伺っていた。

 亮夜に比較的近い、陸斗と高美はこの件について話し合っていた。

「亮夜はこのことを分かっていたのか?」

「分かっていなかったら、わざわざ口止めさせる必要もないと思う」

「・・・このこと、黙っておいた方がいいよな?」

「・・・冷宮君と雷侍生徒会長なら、何とかしてくれるかも」

「それはいいが、どうやって連絡をとるつもりだ?」

「・・・」

 しばらく話し合っていると、10組の担任、新玖安堂がやってきた。

「舞式君は、ここにいないのか?」

 陸斗はそれを、亮夜を売り渡すと解釈した。

 出ていこうとする陸斗を、高美は止めた。

「花下!?」

「今、陸斗君が行ったら、亮夜君の居場所を知っていると言っているようなものだよ」

 止められたことは悔しいが、言っていることはまぎれもなく正しい。

 陸斗はその場から動かずに、皆に合わせて、「いなくなりました」と答えた。

「そうか・・・。感づいて逃げたのか?」

 後で考え直したら、大恥になるに違いない__一般的に解釈したら、に限る__ことを口にしながら、安堂は教室から出ていった。




 恭人と、黒服の男は向かい合っていた。

「お前は確か、冷宮の息子だったな。俺たちに勝てるというのか?」

「お前たちの蛮行は目に余る。私は「冷宮」として、お前たちを許さない」

「威勢は確かだな。だが、俺たちのことを分かっててここにいるのか?」

「ああそうだ。だけどな、一魔法師として、引き下がるわけにはいかないんだよ!」

 そう言い放つと同時に、銃口から「アイス・ブレッド」を黒服の男に放った。

 しかし、瞬間移動の如く、飛び上がることで回避した。

「よかろう、手始めにお前を血祭にあげてやろう!」

「そこだ!」

 次々と「アイス・ブレッド」を放つが、黒服の男にはことごとく避けられていた。

「ならば!」

 「アイス・ボール」を真上から落として、避けられたのを見て、魔法制御を手放した「アイス・ボール」を、内側から分解して、氷のナイフとして男を切り裂こうとした。

 そのナイフは、短い間隔で次々と飛んでいく。

 だが、黒服の男は闇の壁を作り出すことで、ナイフを全て封じ込めた。

 そこに、まだ退避していなかった先生が、「ライトニング・ビーム」を放った。

「先生!」

「冷宮君、君といえども荷が重い相手だ。連携して攻めるぞ」

「そうはいくか!」

 反撃するチャンスとして、一気に攻め込もうとした恭人たちに対して、黒服の男は冷静に通信機を出した。

「もはや、お前たちに勝ち目はない!」

 二人は何も答えずに魔法を続けようとしていた。

「それで、生徒たちが死んでもか?」

 冷徹に呟いたその一言。

 思わず、先生と恭人は怯んでしまう。

「今、外で俺たちの仲間による魔法の仕込みが整った。発動させることで、全てを闇に沈めて抹殺する」

「「!!」」

 通信機を拡張して、放送室の方にもハッキングして、男は叫んだ。

「おい、亮夜!ここにいるのは分かっている!後10秒やる!今すぐ、職員室にまで来い!さもなくばこの学校ごと、貴様を殺すぞ!!」

 まさか、学校丸々人質にとるとは、恭人も先生も想定外だった。しかも、相手が別動隊である関係上、人員を割くことも出来なかった。

 命のカウントダウンが進む。

 10、9、8__。




 魔法保護室に隠れていた亮夜は、この状況に対して、態度にこそ出していないが、非常に焦っていた。

(奴らめ、まさかここまで行う卑劣な奴らとは)

 何らかのアタックを行ってくることは、亮夜も予想していたが、まさか学校ジャックまで行うとは、完全に想定外だった。

 身を隠したこと自体は間違っていないと思ってはいたが、自分の事情に、皆を巻き込んだことには抵抗があった。

 皆の命を(勝手に)賭けられている状況下、亮夜はどうにか打開案を捻り出そうとしていた。

 だが、どう考えても現実的な作戦はない。

 それでも、ここでどうにかしなければ、確実に終わる。

 探知装置を使って夜美を探し出そうとすると__。

(・・・どうやらまだ、運命は僕たちを見放していないようだ)

 まだ、希望は失っていないことを確信した。

 急に焦りが見られなくなった亮夜を見て、哀叉はなぜかほっとしていた。




4、3、2__。

 カウントダウンが目前まで迫った時、事態は転機した。

「おい、どうした、何が起こった!」

「な、何者かが突如襲撃」

 ザー__。

 不快なノイズ音だけが、職員室内に響いていた。

「くそっ、作戦変更だ!こうなったら、俺とともに片端から捕らえるぞ!!」

「そうはいくか!」

 放送室から向かっていた相方に向かって、通信していた黒服の男に対して、恭人が魔導書から「ブリザード」を放ち、職員室内を埋め尽くした。

 さらに、「ブリザード・ボム」で、氷の力を持った爆弾を作り出して、壁を爆破した。

 吹き飛ばされた壁から、吹雪が一気に外へ流れ出る。

 魔法を使う体制を立て直した男は、恭人に向けて魔法を放とうとするが、先生が男を突き飛ばして、外へ追い出した。

恭人の起こした吹雪は、恭人サイドの方は弱められていた。そちらにいた先生は、身体的強度が、この時点で黒服の男を上回っていたのだ。

外へ追い出された男は、すぐさま体勢を立て直して、中庭まで逃げた。

玄関から現れたのは、雷侍宮正と、続いてもう一人の黒服の男。

職員室から現れたのは、冷宮恭人だった。

そして、校内外部の茂みから現れたのは、この学校の生徒ではない、舞式夜美であった。

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