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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第1章 introduction
3/121

3 出会い

 次の日。亮夜は一人で、魔法学校へ向かった。悪者たちと絡まれるといったことはなく、普通に魔法学校に到着した。

 その玄関のそばには3人の女性と2人の男性が1人の男性を取り囲んでいた。

 亮夜が近づくと、一人の派手そうな女子生徒がこちらに向かってきた。

「運命に導かれた者よ、我が名は雷侍宮正。舞式亮夜、貴様に一目かかることができて至福の・・・」

 余りに意味不明な宮正生徒会長の発言に亮夜は戸惑ってしまう。

「雷侍さん、その話し方は初対面の人に使うべきではありません。ええと、舞式君。今の発言は、生徒会長はあなたと会うことができてうれしいといっています」

 一人の男子生徒が宮正を止めて、意味不明な発言の解説をする。しかし、宮正ともう一人の男子生徒が反発した。

「ちょ、ちょっと、颯樹!我が崇高なる演説を台無しにしないでいただけるか!」

「おい、桐谷!会長様が困っているではないか!」

「会長、大平君、つまらないことで意地を張らないでください。僕たちの茶番に舞式君も冷宮君も巻き込んではいけませんよ」

 どうやら、生徒会のメンバーが冷宮恭人に用事があるような感じだった。

 しかし、この生徒会のメンバーはやたらと曲者ぞろいのようだ。

 独特すぎる話し方をする、生徒会長の雷侍宮正。その会長を止めて、颯樹と呼ばれた男子生徒は、見た目だけを見ればすごく女性的であり、桐谷に容赦なく突っかかった不良に見間違えそうな見た目を持つ大平と呼ばれた男子生徒、さらにその離れにはものすごく面倒くさそうにしている女子生徒に、特徴のつけようのない女子生徒と、やたらと個性的であった。

「・・・しかたない。すまない舞式君、私の芝居につきあってもらって。悪いが後で時間をもらえないだろうか。今はこちらの冷宮君と交渉をしているのだ」

 普通のしゃべり方をされて、亮夜は戸惑いを隠せなかった。人は何事も大きく変えられると違和感を覚えるのは必然的だからかもしれない。しかし、今は宮正の質問に答えるのが先であった。

「分かりました。後程伺いますが、どちらに赴けばよろしいのでしょうか?」

「昼休みに生徒会室に来てほしい。場所は分かるか?」

 亮夜は学内の構図をある程度知っている。生徒会室の場所は、彼は知っていた。

 質問に肯定すると、宮正は楽しげな笑みを浮かべた。それは、話の終わりを意味するものでもあった。

 その意味を捉え、亮夜は先を急ぐことにした。

 1つの強い意識を無視しつつ。




 亮夜が1年10組の教室に着くと、既に20人近くがこの教室にいた。1クラスは基本的に30人なので、亮夜は比較的遅くにきたことになる。

 指定された座席につくと、近くにいた大柄な男子生徒に声をかけられた。

「よっ、俺の名は高本陸斗。よろしくな、舞式」

 唐突に自己紹介され、どう対応すればいいのか亮夜は分からなかった。

 亮夜が魔法世界に顔を出したのは彼の運命が変わったあの時以来だ。あの時は特別な教育をされており、今、目の前にいる陸斗のような気前のよさそうな人物は魔法世界で会ったことはなかった。それでも、亮夜は陸斗とすぐ仲よくしようという気にもなれなかった。

そんなことを考えていたのは、あの時に植え付けられた絶望を亮夜はまだ払拭しきることができずにいたからだ。

あの時、大切な親友を失ってしまった。

自分が弱かったばかりに。

自分と仲良くしたばかりに。

二度とあんな辛いことに遭わせたくない。

その恐怖が、亮夜の深い交わりを避ける大きな原因となっていた。

 彼にとって救いがあったとするならば、周りの雰囲気を見る限りでは中学の一般教育を受けた生徒たちのように、親しげにふるまう人物が多かったということだ。

 それならば、フォーマルにふるまえば問題ないだろう。

 亮夜はそう判断して、陸斗に形式的な返事を返すことにした。

「こちらこそよろしく頼むよ、高本君」

 亮夜の読み通り、陸斗は喜びを見せた。

 しかし、ここからは亮夜の読みが外れていた。

「おう、じゃあ早速だが、お前の得意魔法って何だ?」

 今度はプライベートな話題に突っ込まれて、また返答に悩まされることとなった。

 それと同時に、この陸斗という男子生徒は魔法世界の事情をあまり理解していないように亮夜は感じた。

 魔法は既に一般人にもある程度理解されている程度にはメジャーだ。しかし、魔法の本質というものは誰一人理解していないとされている。それ以前にどんな魔法が存在しているのかを証明しきった人物すらいない。それが理由だからなのか、魔法師には秘密を抱えている人物も少なくない。

 亮夜もその事実を間近で見ていた人物で、秘密にする重要性をよく理解していた。

 陸斗のように堂々と尋ねるような態度は魔法世界とは疎い関係だったと言えるようなものだった。

「高本君、魔法に関することは軽々しく人に言うものじゃない。君はもしかして魔法教育を専門的に受けていないのではないか?」

 亮夜本人は全く意識していなかったが、このセリフを正しく理解できる人物なら挑発ととらえられても仕方のないものだった。

 しかし、陸斗は偶発的な嫌味に全く気付かずに亮夜の発言に驚いていた。

「よくわかったな。俺は中学の時に、魔法科をとっただけだからな。それはそうと、さっきのは悪かった。詫びというわけじゃねえが、俺の得意なのは土属性の魔法だ」

 亮夜はただ返事を返しただけで、それ以上の問答は重ねないことにした。

 よく見ると、既にあちこちで小さいグループで早くも話題が飛び交っている。

 その中には先ほど亮夜と陸斗がしたような会話も混じっていた。ただ彼らと違うのは、亮夜が止めたような会話がなく、滞りなく話していたということだった。

 考えてみたら、この10組はなんとかこの魔法学校に入学できたという人物がほとんどだ。つまり、魔法世界にあまり浸っていないということになる。亮夜は例外としても、そのような常識を知らない人が多いのは仕方のないことだった。

 自分はイレギュラーな環境で生きていた。

 その事実を改めて亮夜は感じ取った。




始業1分前、真正面、つまり机に座ってまっすぐ見える壁にある映像が映し出された。

その映像には、亮夜たちより一回り年上のいかにも教職員な感じの男性が立派な机にかけていた。

「10組の皆様、おはようございます。私は10組の担任を務めさせてもらう新玖 安堂といいます。今回はこのような形で当校のシステムについて説明させていただきます」

 直接、先生が現れず、映像で説明を始める安堂にざわつく声もあったが、亮夜はざわつく程驚く態度を見せなかった。

 この学校におけるクラス分けは、基本的に魔法の腕前で振り分けられる。数字が若い程、腕のいい魔法師が集まっているシステムになっている。つまり、そちらに優秀な指導役を多数つけるのは、実力主義的にはあっている。その分、10組のような実力が劣るクラスは、質的にも、量的にも、指導役が不足することになってしまう。

 今の教育はわざわざ教師が前に出て、あれこれする必要性は少なくなっている。ほとんどが3D映像などを用いて、目の前に出る必要がないからだ。

 とはいえ、通信の関係上、目の前にいるかどうかで、対応の質に関しては格段に異なる。

ここに教師がいないこと自体はおかしな話ではない。だが、最初の学校紹介のように繊細な対応が要求されやすい場面でいないのは、多くの人にとっては予想外であったということだろう。

 オリエンテーションは休憩をはさみつつ、3時間で終わった。座学から体育まで様々な説明をされて、改めて学校を理解した一同の心には強い期待感が膨らんだ。

 昼休みになり、亮夜は生徒会室に向かった。この学校の生徒会室は4階で、亮夜は2つ階段を上って、さらに長い通路を通って、2つの大きな立派な扉の前に着いた。

 ノックをして入室の意思を伝えると、中から許可が下りたので扉を開けて入った。

 生徒会室は縦長の大きな机を筆頭に、右側にも長めの机、左側に様々な__ダイニングサーバーのようなものなど__が並んでいて、そして右奥にも大きめの机があった。

 そして、中央の大きな机には生徒会長の雷侍宮正を始めとした生徒会メンバー6人が集結していた。

「よくぞ来た、縁を結びし者よ。空白の場所に休めるとよい」

「・・・この椅子に座ればいいということですよね?」

 亮夜がそう尋ねると、宮正を含めた全員が頷いたので、亮夜は左側の下座にあった椅子に腰を下ろした。

「さて、舞式亮夜。既に食物の儀式を__」

「長いので僕が代わりに話します。もう昼食を済まされましたか?」

 玄関で桐谷颯樹と呼ばれた男子生徒が話を変えて、質問する。

「大丈夫です。既に食べ終わっています」

「そうですか、食べながら君と話をしたいと思っていましたがまあいいでしょう。・・・会長、お願いですからそっぽを向かないでください」

「また・・・颯樹に話をとられた・・・」

 途中まで亮夜に話を向けていた颯樹であったが、宮正がそっぽを向きだしたのでご機嫌とりにかかる。

「雷侍さん、僕たちを紹介してくださいよ。茶番の必要はないですからね」

「・・・君は実にクールな奴だ。まあいい、そろそろ本題に入るか。では亮夜君・・・この呼び方でいいか?」

 急に話を振られて亮夜は少し戸惑った。

 いきなり、宮正は亮夜のことを名前で呼ぶと言い出したのだ。この様子では深い付き合い__邪推的な意味ではなく__を望むのか、単にフレンドリーなだけなのか判断をつけにくいところだが、亮夜は肯定を返した。

「そうか。まず、私の右前にいるのが副会長の佐藤花子だ。左前にいるのが私のフィ__」

「3年の桐谷颯樹です。よろしくお願いします」

「颯樹、何も紹介を自分でやらなくともいいではないか。せっかく私が__」

「また余計なことを言い出そうとしたではないですか。何度も言いますけど僕とあなたはただの友達ですからね!」

 突然始まった宮正と颯樹の言い合いに亮夜も生徒会メンバーも呆れてしまう。

「あの、先輩たち、私たちが招いていることを忘れていないでください」

「ああ、すまん。颯樹、いい加減に契約を交わせばいいものを・・・」

 宮正の右前にいる女子生徒が二人の言い争いを止める。それに応じた宮正は紹介を再開することにした。__颯樹は不満そうにしていたが、誰一人気に掛ける様子はなかった。

「で、副会長の隣にいるのが書記の唐沢佐紀、颯樹の隣にいる大男が同じく書記の大平武則だ」

「唐沢佐紀。よろしく」

「同じくよろしく頼む。大平とでもよんでくれ」

「は、はい・・・」

 だるそうに返事をする佐紀、逆に大らかに対応した武則と、多種多様な反応を見せられ、亮夜はどのようにふるまえばいいのか戸惑ってしまう。それでも基本的な事は忘れておらず、丁寧に接していた。

「亮夜君。これより乾杯の儀を行おう。皆、遠慮なく楽しんでくれ。そこのドリンクバーは自由に使って構わんぞ」

 その一声に生徒会の男子たちは盛り上がる一方、佐紀は相変わらずだるそうにしており、逆に花子は破天荒ぶりに慌てふためいていた。

 亮夜は、最初はどうすべきか迷ったが、宮正が誘って、武則に連れられたので、多少羽を伸ばして楽しむことにした。

 宴が始まって5分ほどたち、盛り上がりは一旦沈んだ。改めて席に座った6人は亮夜を中心にした話題になっていた。

「さて、亮夜君。貴様は我の力をもってしても正しく計ることはできぬ。今まで何をやっていたのだ?」

 その発言に亮夜を除いた4人が動揺する。

「・・・独学で魔法を学んでいました。この学校に入るので精一杯な成果でしたが・・・」

「ほう、独学とはいえ、魔法学校に入学できるのは本当に稀だ。最もまだまだ成長の余地はありそうだな」

 3人は__佐紀のみ反応しなかった__続く発言に驚きを隠せなかった。

 宮正の言う通り、魔法を扱うことに限って言えば、現在の技術ではほとんどの人が可能だ。だが、魔法学校に通うことや、実践で使うという点になると、それなりに限られてくる。小学校や魔法塾を始め下積みできる場所も存在している(学校においては選択式である)が、亮夜の発言のように専門教育なしにこのレベルに達する魔法師は極めてレアであった。

「我は貴様に運命を感じている。貴様が望むなら、いつでも契約を施そう」

「・・・ありがとうございます」

 宮正の発言の意図をくみ取り、亮夜は肯定を返した。

「スゲーな、もう宮正会長の言葉を理解できるなんてな。俺は理解するのに1か月かかったぜ」

「何だ、貴様ら。そんなに我の言葉が難解であるか」

「違う言葉を理解している気分ですよ」

「桐谷さんの言う通りです。友達と話しているときに違和感ができるくらいですよ」

 武則の言葉に対し、宮正、颯樹、花子の3人が次々と意見を述べる。ノリが軽くなって、和やかな雰囲気が生まれた。一方、正論を叩きつけられた宮正はぐうの音も出ないという感じで震えていた。

「さて、間もなく至福の一時の終焉を迎える。全員、帰還せよ!」

「失礼します」

 亮夜は席を立ちあがり、生徒会室を後にした。残ったメンバーたちはすっかり眠ってしまった佐紀を起こそうとしていたのだった。

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