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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第4章 dark
29/121

1 戦いの爪痕

 魔法学会公表において発表されたのは、神祖魔法。

 更なる魔法を期待した中に発生したのは、襲撃事件だった。

 幸い、犠牲者は出なかったが、事件の奇妙さに不安を持つ人は少なくなかった。

 RMGと司闇一族が現れたのは何だったのか。

 一方、司闇一族に目をつけられた亮夜と夜美。

 彼らを結びつける物は何なのか。

 それぞれの思惑が巡り合う中、更なる事件が起きようとしていた。

 魔法協会トウキョウ第3支部。

 魔法六公爵の内、帥炎、等水、将風、尉土、佐光の5つ、つまり司闇以外の六公爵全ての当主たちが、会議室で顔を見合わせていた。

 数日前、魔法公表襲撃事件が発生して、その後始末がようやく終わった。

 その間にもある程度話をしていたのだが、徹底的に話し合う必要があると、誰もがそう思っていた。

「では、これより、魔法六公爵緊急会議を始める」

 定例会議は9月と3月、1年に2回行われる。それ以外に、緊急を要する事態が発生した時は、緊急会議という形で行われる。

 それ以外でも、ネットを使った軽い連絡は度々行われるのだが、今回のように話し合う件や重要度が高い場合は、こうして顔を合わせて話すのだ。

 なお、六公爵は住んでいる所がバラバラで、集まるのも一苦労だとされている。無論、バラバラなのは、各地に起きる事件などに目を光らせて、パワーバランスを保つためである。

「まず、司闇一族に関する情報だ。何か意見のある者は」

 年齢の関係なのか、事実上の議長となっている佐光秀兎に対して、真っ先に口を開いたのは、等水蕭白だった。

「奴の目的は、自分と同じ力を持つ者と言っていました。もしかすると、あのホールの中に司闇の名を隠している者がいるということでしょうか」

「仮にそうだとしたら、なぜそんなことを?」

 蕭白の発言に対して、疑問をぶつけたのは、将風夫迅だ。

 しかし、全員が沈黙を起こしてしまった。

 言うまでもないが、考えていないということではない。

 単に、それを言うには根拠が弱すぎると思っていたのだ。

 それは、司闇一族のことを余りに知らないということからも伺えるだろう。

「・・・それはともかく、誰が司闇一族の人間なのか、推測できるのはいないか?」

 話が膠着したため、秀兎は話題を変えた。

 今度は沈黙を起こすことはなかった。

「やはり、睡眠ガスで眠らなかった人でしょうか」

 そう発言したのは、夫迅。

 彼自身も事件の時に、睡眠ガスにいち早く気づいて、睡眠ガスの排除を行った。

 夫迅は、司闇一族が睡眠ガス程度でやられることはないと思っていた。

「しかし、当時の監視カメラは破損していた。だが、トウキョウ魔法学校の冷宮殿の息子と雷侍殿の娘から有力な情報が入っている」

 秀兎は想定外のことにより、そこから進めることに難があることを説明すると同時に、既に手に入れてある情報を明かした。

「あの二人が言うには、同じく学校の生徒、舞式亮夜、その妹である舞式夜美、当人たちは一番怪しいと言っていた藤井舞香の3人が、睡眠ガスを回避した人物の一部だということじゃ」

「3人とも、聞かない名だな」

 そう返したのは、帥炎豪太良。

 残りの3人も似た反応をしていた。

「舞式亮夜の成績は、10組。これは外していいじゃろう。残りの二人は、魔法的なデータが一切記録されていなかった」

「ならば、藤井舞香という人物が怪しいんじゃないか?」

 尉土霧也が、秀兎の推測から、答えを予想した。

「あの3人の内だとするなら最も可能性が高い。だが、確実に当てる方法がない以上、下手に動くべきじゃない」

 しかし、秀兎は確証がないと間接的に答えた。

「いずれにしても、次に司闇一族や彼らと遭遇することになったら、最大限に警戒せよ」

「はっ」

 代わりに、対策案を出すことで、こちらの話は終わりだった。

「次はRMGの話じゃ。奴らが今回現れた理由は、神祖魔法を狙っている可能性が高い。よって、季利充也博士の周辺警護を行うよう手配する。異論はないか?」

 秀兎がさっさとまとめたことに関して、何も異論はなかった。六公爵にとって、RMGはチンピラや不良組織といった程度の認識しかしていないことが伺える。

「さて、最後に我らの戦力の強化方針じゃ。分かっているとは思うが、これ以上奴らに独走させてはいかん」

 この話になった途端、全員の空気が張り詰めたように感じた。

 やはり、襲撃事件の敗北が大きいのだろう。

 司闇一族次期当主、司闇闇理の前に、六公爵5人の当主は、敗北した。

 殺しこそしていないから、完全なる独裁者ではないということは分かるが、それは些細なことだ。

 魔法六公爵は、ニッポンにおいて最強を名乗る、基本属性6つを司る団体だ。

 それを、立場上は同じである司闇に、5つの一族がまとめて倒されたことに、面目丸つぶれであった。

 さすがに報告者である冷宮恭人が気を利かして、勝負に関する情報は一切を明らかにしていないので、一般人が知ることはないが、敗北した事実はある。

 それもあるが、司闇一族配下の男に、仕留めることも出来ずに取り逃がしたという事実も、実力差を示す指標になっていた。

 以上のことで、決定的すぎる程に実力差があり、パワーバランスのためにも、これ以上司闇一族の独走を許してはならないのだった。

「奴らがどうやって強くなっているのかも不明だ。無理を承知で、調査団を用意すべきではないか」

「無茶を言うな、将風殿。過去にこの手のことは何度も行ったが、いずれも失敗。将風殿もそれを目の前で見ているだろう?」

「なら、大規模にすれば!」

「帥炎殿、それは司闇一族に戦争を仕掛けるも同じだ。実力差は分かっているはずだ。最悪、ニッポンを乗っ取られるぞ」

「その手はあきらめて、やはり我々が第一に強化を急ぐべきではないか」

「・・・それしかないな、尉土殿。問題はどうやって司闇一族以上に強くなるかじゃ。奴らめ、まだ完成していない反射魔法まで作りおって」

 秀兎を中心に問答を重ねて、妥協みたいな案(実際、誰もが妥協のように感じていた)で、何とか方針は決まった。

「魔法開発を急がせるか。いや、合同訓練を実施すべきか・・・」

 曖昧かつ不安を残した内容ではあったが、ひとまず、魔法界上位の政策は定まった。




 亮夜と夜美が家に着いたのは、あれから日が昇る少し前だった。

 そして、二人とも休養という理由で学校を欠席した。

 徹夜で学校など、どう考えても無理だ。

 身を守るどころか、職務を遂行することすら出来ない。

 そういうことで、家についてから早速眠ろうとした二人だったが__。

「うわぐぁあ!!」

「お、お兄ちゃん、大丈夫!?」

「大丈夫じゃないし、痛いし、怖いよ・・・」

 夜美も恐れていた、亮夜のトラウマが強く表れて、全く眠ることが出来ていなかった。

 なお、全身の損傷も治っていないので、勢いで起き上がって、激痛も味わっていた。

 もちろん、自分もすごく眠いが、兄はそれ以上の地獄を味わっている。

 6年前、ここに連れてきた時のように。

 もしかして、自分たちは精神的に何も成長していないのではないかと、夜美が不安に思う程だった。

 だが、そういうことは後でもいい。

 今は何とかして、亮夜を安心して眠らせないといけない。

「そうだ、お兄ちゃん、睡眠薬あったよね」

「・・・あるよ」

「今はそれを使おうよ。とにかく今は頑張って寝ないと!」

 亮夜に許可をとって、睡眠薬を持ってきた。無論、意識制御成分を含んだものだ。

 普段は、魔法能力もほぼなくなってしまうので滅多に使わないのだが、今は四の五の言っていられないと、二人とも分かっていた。

 夜美が飲ませてくれた睡眠薬は十分に効いた。

 それでも、夢の世界に行っていたのは、2時間程度だったが。

「いくらそれで寝られると言っても、連続服用はさすがに・・・」

「うん・・・そうだよね・・・」

 また眠るためには、再び睡眠薬を服用しなくてはならない。

だからといって、この手の薬を短時間で使用するのは、二人とも抵抗があった。

そうなると、この夜__いや、眠れない時間は、地獄そのものだった。

「お兄ちゃん・・・もう先に寝てていい?」

「頼むから僕を一人にしないで・・・」

 色々な意味で夜美に依存してしまった亮夜に、夜美にまともな睡眠は当分、訪れることはなかった。

「ごめん・・・夜美。僕のわがままでこんなに起こすことになって」

「謝らなくていいよ・・・。お願いだから早く治って・・・」

 二人はもう意識すら怪しい状況を、何時間も延々と繰り返していた。

 事態が変わったのは、二人が寝始めてから8時間後、日が落ち始めた頃だった。

「・・・もう無理。少し一人にするけどいい?」

「早く戻ってきて」

 起きて寝て、起きて寝て、もう数える気すらない程繰り返した夜美は、自分の身だしなみと食事、お風呂を整えるべく、ベッドから抜け出した。

 もう眠気の限界寸前で、非常に危うい感じで動いていたが、それでも自分のこなすべきことを行って、兄妹の部屋に戻って来た。

 しかし、ベッドにいた亮夜は、

「あはは、夜美が沢山いるー」

「幻覚見てるよ、お兄ちゃん!?」

「夜美が沢山僕を呼んでいるー」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」

「僕は何て幸せ者だー。こんなに夜美に心配してもらえるなんてー。あああー」

「しっかりしてー!!!」

 幻覚を起こしていた。




「夜美・・・。一体、僕は何をしていたんだ?」

「お願いだから言わせないで。お兄ちゃん程ではないけどトラウマになったから」

身体的に意識を取り戻させて、何とか亮夜は正気に戻った。

夜美は顔を赤らめて、必死に何かをこらえているような表情をしていた。

「せめて、お兄ちゃんが意識的にやったならまだ・・・」

「本当に悪かったと思っているから許して・・・」

「分かっているから罪悪感も持たないで。しばらくそういう話題止めてよね・・・」

「わかったよ・・・」

 何があったのかは伏せるが、それは本当に、大変なことになっていたのだった。

「お兄ちゃん、ご飯食べる?」

「食べたい」

 話を何とか変えさせて、夜美は亮夜にご飯を食べさせ始めた。

 無性にお風呂に入りたいのだが、今、入っても意識的にリラックスできないに違いない。

 仕方がないので、亮夜の治療を最優先した。

 無理やり覚醒していた意識を活用して、亮夜に治癒魔法をかけて、再び夜美は亮夜と共に夢の世界へ向かった。

 それから12時間が経過して、夜美は目を覚ました。

 ようやく、眠れない地獄が終わったようだと夜美は思った。

「・・・」

 しかし、地獄はまだ終わっていないようだった。




 救いがあったとするならば、亮夜の回復が十分に出来ていたということだった。

「まさか、この年になってこんなことになるとはね・・・」

「この2日、あたしたち何してるんだろう・・・」

 治癒魔法もかけ直して、最低限動ける程度には回復した亮夜は、夜美とともに目の前の惨状の後処理を行っていた。__何があったのかは、兄妹のために伏せさせていただく。

 早く話を切り替えたかった二人だったが、亮夜が先に、時間に関係する話題を夜美がしていたので、それに乗っかってみた。

「夜美はもしかして、6年前のことを思い出しているのかい?」

 回復したこともあって、こうして普通に会話できる程度には活動できる。

 後処理が終わって、亮夜に遅れて着替えていた夜美は返事を返した。

「うん・・・あの時、お兄ちゃんはまだいなかったから覚えていないと思うけど・・・。昔に戻った気がしたよ。6年前もお兄ちゃんがこんなことやってさ」

「そうか・・・。とにかく、今回のことは悪かった。僕が未熟だったばっかりに・・・」

「お兄ちゃんは悪くないよ。久々にすごく疲れたけど」

「本当によく頑張った。今日も僕は休みをとるけど夜美は」

「あたしも!もう一日、休養が欲しいんだ!」

「・・・まあ、今回は仕方ないか」

 答えを返した後、しばらく労った後に、二人とも学校を休むことにした。

 亮夜はともかく、夜美は健康的には特に問題はない。

 本人は気づいていなかったが、お風呂やらそっちのことはロクにしていない状態であった。この状態で学校に行くのに抵抗があったと後で気づくに違いないので、結果オーライというべきか。

 対して亮夜は、病み上がりというのに相応しい状態だった。もし、トラウマが再発したら、恐ろしく面倒なことになるので、安定させるためにも、もう一日休むのは無難と言えた。

 二日ぶりにお風呂に入り(念のため説明しておくと、今回は兄妹別々で入った)、食事をとった頃には日が昇っていた。

「・・・なにしよう。久々にゲームでもする?」

「情報収集が先だ。この二日、ずっと休むのに必死だったからな」

「そうだったね」

 亮夜も(最低限)回復したが、二人とも色々な意味で外に出る気はなかった。

 暇を持て余していた夜美に対して、亮夜はそう提案した。

 二人が地下のコンピュータールームに入って調べたのは、二日前の魔法公表に起きた事件の事だ。

 その記事には、司闇一族とRMGが襲撃したが、人的被害は発生せずに終結したと記されている。

 亮夜には、そんな単純なことではないと分かり切っていた。

「検閲が酷いな・・・」

「どうして、そう言えるの?」

 しかし、夜美にはそこまでとは思っていないようだった。

 亮夜は、自分の知っている知識を、夜美の覚えていることに合わせて説明を始めた。

「司闇一族が化け物だということは夜美も知っているはずだ」

「うん」

「現場にいたはずの六公爵を蹴散らせる程の実力を持っている・・・いや、他の六公爵が弱いだけか。とにかく、抜きんでている実力がある以上、ただで済まないはずだ」

「そう・・・かぁ。じゃあ、RMGは?」

「やはり神祖魔法を狙っただろう。何に使うかは分からないけどな」

「この記事じゃあ、特に被害はなかったって」

「どうしてないと言い切れるんだ?魔法師相手に」

 相手が夜美しかいないとはいえ、随分な言い草だった。亮夜は司闇一族を基準にして評価しているから、そのようなことを言えた。しかし、その事実に二人とも気づいていない。

 RMGによる被害に関しても、未知の魔法を示唆させる形で夜美に警告した。

いずれにしても、ロクな情報がないと亮夜は思っていた。恐らく知っているはずの宮正か恭人から情報を得たいが、どう聞けばいいかが問題だ。

亮夜たちが司闇一族の一員の疑いを掛けられていたことを(お互いに)知っていないが、デリゲートな話であることには変わりない。

「・・・この件は一旦中断しよう。とりあえず今日は無理せず過ごそう。明日、ちゃんと学校に行くためにもな」

「うん」

 話を打ち切って、今日急ぐべき作業は終わりだ。

 その日は、亮夜と夜美は家でゆっくりと過ごした。

 翌日には、不完全ではあるが、亮夜も夜美も回復していた。

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