9 4つの結末
魔法協会サイド__。
宮正の呼び出した「宮正親衛隊」に続いて、恭人の呼び出した冷宮配下の魔法師、そして、多数の私用の魔法師部隊が次々と到着した。
目的は、各地にいた重要人物や一般人の保護。
それが終わったのは、睡眠ガスが切れて、一般人の多数が目覚めた時だった。
RMGと司闇一族が散々に暴れていたが、重傷者こそいたものの、最終的な犠牲者はいなかった。
「報告は、私達冷宮が行う。会長は鏡月哀叉たちへの事情徴収、残りの人々は、会場の修復か一般魔法師の護衛を伴って帰還させてください」
面倒な報告書の製作は自分が担当することにして、宮正には舞香との関連があったと思われる、高本陸斗、花下高美、そして、鏡月哀叉への三人に向けて、事情徴収を依頼した。そして、残りのチームは、安全確保と修復を指示した。
それらが終わった恭人は、早速一室を貸してもらって、報告書の製作に入った。
「なんだって!?藤井がそんなことを言い出したのか!?」
「事実だ。我も目を疑ったよ」
「亮夜君と・・・あんなに仲良くしたがっていたのに・・・」
「・・・起きたことは起きたことだ」
「・・・」
舞香の衝撃的な行動を伝えた時、陸斗はただ驚いて、高美はショックを受けた様子を見せた。__なお、陸斗と高美も参加しているのは、舞香がいた席の側にいた亮夜との知り合いだからということである。
しかし、哀叉だけは、何の反応も示さなかった。
それらに対して宮正は、親身に、あるいは冷徹に答えを返した。
「鏡月哀叉。お前はどうなんだ?驚くべき事実を聞かされて、貴様の意思は漂白されたのか?」
いつもの調子を取り戻しつつある宮正は、哀叉に向けて、改めて尋ねた。
「会長、すみません。私では、何のお役にも立てないと思います」
「そうは言うが、藤井舞香が去る直前に、お前のことを指して会いたがっていた。そのことに心当たりはないのか?」
詰め寄ると、哀叉はいつもの無表情な顔に、わずかに悲しそうな顔が加わった。
「ああ、無理に話さなくてもいいぞ」
「大丈夫です。・・・私が、3年前に、親を失ったことはご存知ですか?」
「ああ。気の毒なことに・・・」
陸斗と高美は、その発言に驚いていた。一般人基準で育った二人には、身内を亡くしたというのは、すごく驚くことだった。
「私はその時から一人暮らしをしております。政府にも、援助金をもらっているのですが、最近は特に不足していて・・・」
最近、司闇一族の暴走と、RMGの台頭により、政府施設などの修復に資金を回される事態が増えていることは、宮正も知っていた。
「ある日、舞香さんは私に接触しました。自分たちのプロジェクトに協力するなら、資金を出すと」
「それはどういうことだ!?」
「ですが、私は断りました。それでも、度々交渉されに来ているのです」
宮正の質問に答えず、哀叉は自分の事情を話し終えた。
「・・・今の話、ひとまず我の元で預かっていいだろうか?」
「はい」
代わりに、宮正がこの件について首を突っ込んでいいかと尋ねると、哀叉は承知した。
この中で、舞香が愛姫ステラであると知っているのは、哀叉だけだった。
そのことについては、(亮夜とは違って)口止めされていることもあって、黙っていた。
そう言われなくても、誰もが明らかにされたくない事情があることを、哀叉は分かっていた。
舞香の誘いを断ったのは、舞香の背後にいる者こそ分かっていないが、どことなく胡散臭い感じのする話であったからだ。
たまに来て、その度に断っているのだが、最近では、少量の資金を渡してくれることもあった。
そのことが、ますますプロジェクトの怪しさを強めていた。
しかし、その話に、自分はともかく、亮夜が含まれているのかが分からなかった。
一体、亮夜も含めて何を考えているのか。
哀叉には不気味で、気になることだらけだった。
六公爵は、何とか動ける程には回復していた。
しかし、この戦いで受けた傷は、心身ともに大きかった。
後日、司闇一族への対策会議を開くことにして、この件は終わらせることにした。
RMGサイド__。
RMGのリーダーである総帥は、部下から受け取った報告データを目に通していた。
神祖魔法を生成、使用するために作り上げられた装置のデータだ。
「成程、奴は上手く動いてくれたようだな。これがあれば、確実に神祖魔法をわが物にできる。早速、この装置の大型版の開発を始めろ」
そう指示しつつ、データを送り飛ばして、一つ目の件は終わりだ。
二つ目は、スパイが得た、個人的な方のデータだった。
結論から言えば、有益な情報はなかった。
こちらはあまり満足のいかないようで、少し不愉快な様子を見せた。
「奴め、今回は最低限の仕事しかしてくれなかったか」
「マスター、そう言わないでくださいよ」
そこにいたのは、総帥一人ではない。
太っている大男もそこにいた。
「僕だったら、絶対無理だな」
「お前はそうだろうな。・・・一番怪しまれない奴を選んだが、失敗だったか。いや、生きてくれただけよしとするか。それより、そっちはどうだ」
「お、繋がっただな!」
大男がキーを押すと、スクリーンに、その情報が映し出された。
「ほう・・・司闇一族の奴が他の六公爵を蹴散らしたか。相変わらずだな、あいつらは。実に不愉快な奴らだ」
「僕たち、それを超える力を手に入れるんだったな?」
「ああ。全てを、圧倒的な力で支配する。我らの無念を果たすためにな」
二人して、悪巧みをしている表情を浮かべた。
「一度、四天王を全て集める必要がある。ここから、本格的に資金をつぎ込むからな。そのためにも、愛姫ステラには、一度、こちらに戻ってもらおう」
「楽しみなんだな」
総帥がそう締めると、大男はどうにも解釈しがたい返事を返した。
司闇サイド__。
司闇闇理が森の中に降りようとした時、何かの物体が、高速で空を飛んだ。
その場に降りて、魔法を調べたが、追いつくのには苦労しそうだったので、追跡するのは止めることにした。
今回はここで引き上げることにして、部下を呼び出した。
「一人いないな、どうした?」
「申し訳ありません、連絡がつかないようで」
「死んだか」
闇理はそう端的に返した。
「良かったのですか?せっかく有用な魔法師を攫うチャンスでしたのに」
「そんなの、いくらでもできる。それより、俺と同じ力を持つ者を感知した。今回は逃げられたが、そっちを追う方が先だ」
「まさか、あの最悪の」
「馬鹿いえ、6年前に死んだはずだ」
「あの事件は最悪だったな」
「お前達」
部下たちが小声ではあるが、雑談を始めたのを見て、闇理は冷徹に制止した。
「その話は後だ。帰るぞ」
闇理がそう指示すると、少数の黒服の男たちは、跡形もなく姿を消していた。
司闇一族は、「闇」を得意とする魔法六公爵の1つ。
その他詳細は一切不明。
家系も、アジトも、規模も、ほとんどが不明となっている。
今回の件でも、ある程度しか判明していない。
次期当主に司闇闇理、実力は六公爵を遥かに凌ぐ、さらに反射魔法の技術も先んじて完成していた、といったくらいであった。
そのような手は明らかになったが、それでも、余りに不明な点は多い。
当主の名も公にされていない。
その名は、司闇呂絶。
知る人ぞ知る、司闇の当主だ。
その当主、呂絶と、次期当主、闇理、その他大勢が、会議用のテーブルで向かい合っていた。
「只今、報告にあがりました、父上」
「うむ」
「神祖魔法のシステム奪取に成功。詳細はこちらのチップに。その過程で、他の六公爵と戦闘し、全員を撃退しました」
「さすがだな、ワシの息子よ」
他の出席者も、うるさくはしていないが、称賛の目を向けたのは、同じだった。
「こちらは不確定情報ですが、あの裏切り者の話です。ミッション終了直前、我らと同じ魔法を検出しました。この点から、奴らは生きているという可能性が高いです」
その発言を聞いた時、全員が憤慨しているような様子を見せた。
「奴ら」は、この司闇一族始まって以来の、最悪の重罪人であるからだ。
「いつの話だったか」
「6年前です、父上。もし、本当に亮夜と夜美であるとするなら、今度こそ処刑するべきだと、私は考えます」
「そうだな」
闇理の提案を、呂絶は受諾した。
他の参加者も、ほぼ全員が同意見だった。
亮夜サイド__。
夜美の全力で飛んだ魔法は、果てしなく遠い場所にまで飛んだ。
例によって夜美をかばって地面に激突した亮夜は、「軸」を動かせなくなる程のダメージを負った。
「大丈夫、お兄ちゃん!!」
「夜美、周囲の様子は?」
ある程度場所を選んだとはいえ、町中に落ちなかっただけましだ。もし、これが町中に落ちていたら、ビルが崩壊しかねない程の衝撃だっただろう。山の中に落ちたとはいえ、穴ができる程には強い衝撃だったから。
「大丈夫だけど・・・そもそもどこまで飛んだの?」
二人が着いたのは、トウキョウの西にあるヤマナシ辺りだ。何と、数十キロ以上飛んでいったのだ。
「かなり遠いのだけは想像できるね・・・」
亮夜はそう返した。
「夜美、僕の体、回復できるかい?」
「任せて!」
ひとまず脅威は去った。最低限の魔法を使っても問題はないだろうと亮夜は思っていた。
とはいえ、いくら回復魔法といっても限界がある。
あくまで、損傷した部分を魔法で無理やり修復しただけだ。
少しダメージを負ったりすると、また元に戻ってしまう。
「一人で動くのが精いっぱいか」
回復魔法を受けての自己評価がこれだった。
「それでお兄ちゃん、これからどうするの?」
「とりあえず、家へ帰ることにするけど・・・」
そもそもどこなのか分からない。
これが大問題だった。
「どっちいけばいいの?」
「こっちなのは確かだけど、余りに遠すぎる。下手をすれば、一晩かかっても帰れないかもしれないね・・・」
「そんな!?」
既に亮夜は全身が重症相当、夜美も度重なる魔法の使用により、万全とは言い難かった。
この場を、司闇一族などに襲われたら、ひとたまりもないだろう。
「だけど、つべこべ言っている場合じゃない。二日くらい学校休んで休養をとる。後はそれでいいとして、このまま家に帰ろう」
「分かったよ・・・」
亮夜も夜美も、現実的にとれる行動は分かっていたので、文句こそ言ったが、拒否はしなかった。
もし、ホテルに泊まったりすれば、亮夜のケガを治すまで、離れられない事態になるだろうと、亮夜はそう考えていた。
だから無理をして、二人で夜の道を歩むことにした。
ちなみに、ここまで装備は持ち込んでいる。さすがにサングラスは衝撃で壊れているし、それ以外も、亮夜の魔法銃も壊れていた。
幸い、ブレスレットなどはまだ動かせるので、コンディションはともかく、武器自体はあった。
道をある程度聞きながら、バスや地下鉄を駆使して、ある程度楽して帰り道を進んでいった。
夜美がその話を切りだしたのは、その帰り道の途中、周囲に人がいない時だった。
「お兄ちゃん」
「何だい?」
「大丈夫だった?あの人に会って」
「正直言って大丈夫じゃない。今も心を緩めたら、また悪夢に襲われるような・・・そんな気がする」
「まさか、ここで会うなんてね・・・」
「高を括ったのが間違いだったか・・・」
「・・・全部間違いだとは言わないでよ、お兄ちゃん」
「・・・そうだね。神祖魔法。きっと、あれが僕たちの復権のカギを握る・・・」
「何か考えているの?」
「また思いついた案がある。とりあえず、今日の件終わってからだけどな」
「うん。大丈夫だよ、あたしがついている」
「妹に守られるのは少し情けない気もするけど、頼りにしているよ」
「お兄ちゃんは情けなくなんかないよ」
「うん?」
「あの時から、お兄ちゃんの目標は一度も崩れたことがなかった。今もこうして、まっすぐに進めていることが出来ている。その強さを持つお兄ちゃんが、弱いはずがないよ」
「ありがとう、夜美。そういえば、こんな話が__」
二人は、暗い道を仲良く歩いていた。
心身が深く傷ついたのを感じさせないかのように、二人は和気あいあいと話していた。
その心は、まだ、闇に染まってはいなかった。
恭人の報告より__。
10月2日、魔法公表襲撃事件が発生。
トウキョウ本部にて、神祖魔法を発表し終えた午後3時頃、司闇一族とRMGが襲撃。
魔法協会本部は破損したが、魔法による修復を確認。
死亡者も確認されなかった。
二組の目的は一切不明。
現在、調査続行中。<記>
こうして、魔法公表襲撃事件の幕は閉じた。
だが、当事者は、誰もがこれで終わるはずがないと思っていた。
<続く>




