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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第3章 birth
26/121

7 司闇降臨

 その男は、ステージの中央に立つと、冷徹に見渡した。

「これが今の六公爵の実力か。随分、弱いものだな」

「全くでございます。この程度、闇理様に出てこられる程ではありませんでしたからね」

「そういうな。お前一人では、道具どもの徴収はできないだろ?」

 ただ話しているだけの男、司闇闇理と、司闇一族の部下である黒服の男。

 その二人がただ会話しているだけなのに、他のメンバーは誰一人手出しすることが出来なかった。

「ですが、当主様の命は、果たしました。こちらに」

 黒服の男がチップを闇理に手渡そうとすると、夫迅が「ウインド・ブレッド」を放った。

 チップを弾き飛ばそうとした風の弾丸は、闇理の人睨みで消え去った。

「何!?俺の魔法が・・・!」

「それで俺にたてつくつもりか?実に愚かな・・・」

 チップを懐に入れた闇理は、ゆっくりと六公爵の方に歩き出した。

「何をする気だ、司闇闇理!」

「お前たちにはどうでもいいことだ。俺と同じ力を持つ奴がここにいる。邪魔をするなら容赦はしない」




 黒服の男が現れる少し前、舞香はホール内で、恭人から尋問を受けていた。

「言っておくけど、ボクはその件と関係がない。残念だけど、キミの負けのようだね」

「なら、その端末は何だ?」

「キミたちは権力と力を振りかざすクズだ。ボクたちから全てを奪おうとする」

「とぼけるな!」

「これ以上は話の無駄だよ、冷宮恭人、雷侍宮正」

 舞香がそう言うと、客席から逃げるように素早く移動した。

 その移動を遮るかのごとく、宮正が雷を落とした。

「その話、詳しく聞かせてもらおう」

「ボクなんか、相手にしてていいの?外にRMGがいるし、内側には司闇一族がいるのに」

「それをどうやって知った!」

 宮正の「サンダー・ランス」が、舞香の胸を貫こうとする。

 舞香は魔法障壁を作って受け止めた。

 だが、弱まった「サンダー・ランス」とはいえ、舞香の動きを鈍らせるのには十分だった。

それでも、舞香は目立った隙を見せていなかった。

「もう一度、当てるぞ。次は外さない」

「ボク、亮夜のお友達だよ?そんなことしていいの?」

「アイツならわかってくれるさ。貴様に重症を負わせるだけの理由に」

「仕方がない。ボクの魔法、見せてあげる」

 舞香がそう言って、何の道具も使わずに魔法を放った。


 そして、宮正と恭人以外の全員は、地に伏した。


「ボクの魔法を凌ぐとはね。さすがはエレメンタルズといったところか」

「今のは、精神干渉魔法。私や宮正会長でなければ、あっさりとかかってしまう程か」

「それも、固有魔法だな。貴様、一体何者だ?」

 恭人と宮正が分析して、舞香に詰め寄ろうとする。

「残念だけど、お終いだよ」

 しかし、舞香はあっさりと話を切り上げた。

「司闇一族の一人がここにくる。ボクであろうと、今は戦いたくないしね。亮夜や哀叉に会いたかったけど、そんな時間もない。じゃあね、次はキミたちを見下してから会いたいよ」

「待て!」

 宮正が止めようとするが、舞香はあっさりとホールから去った。

「会長、言いたいことは沢山あると思いますが、ひとまず皆を助けましょう」

「そうだな」

 倒された仲間を助けるため、宮正と恭人は、精神干渉魔法を解除するために、魔法を放った。

 全員を元に戻した所で、闇理が現れたのだった。




 その気配を感知した時、夜美は恐怖した。

 亮夜が慌てて感知を中断して、夜美にほとんどの意識を向ける程に。

「どうした、夜美!?」

「お兄ちゃん・・・あの人が・・・ここに来ている」

 その発言を聞いた途端、亮夜は全身の震えが発生したことを自覚した。

「アイツが・・・まさか・・・」

「駄目だよ、お兄ちゃん!今すぐ意識から追い出して!!」

 亮夜がそれを考え出そうとしたのに対して、夜美が大慌てで亮夜に抱き着いて、思考を止めさせた。

 虚ろになり始めた亮夜の目は、夜美の愛で(?)元に戻った。

 それでも、亮夜と夜美の体の震えは止まらなかった。

「すまない・・・迷惑かけたね・・・」

「どうする?ホールの方から来たみたいだけど、今すぐ逃げないと・・・!」

 かつてない程の恐怖を、亮夜も夜美も感じていた。

 夜美のアドバイスを参考にして、亮夜は逃走案を捻り出した。

「やむを得ない。東に全速力で逃げよう。その前に、魔法のダミーを大量に張って、誤認させる」

「そんなことできるの?」

「やらないよりはマシだ。とにかく今は、逃げることだけを考えるんだ」

 消極的かつ短絡的な作戦であるが、亮夜も夜美も考え直す余裕はなかった。




 大量の闇魔法が放たれた。

 闇理の放った「グラビティ・ホール」が、ホール全体に解き放たれたのだ。

「ワシが凌ぐ!お前さんたちは闇理とやらを追い出すのじゃ!」

 秀兎がそう指示している間に、次々と同じく球体の光、「ライト・ボール」が「グラビティ・ホール」に向けて相殺しようとする。

 属性には、相性がある。

 炎と水、風と土、光と闇が該当する。

 この二つは相互互換の相性があり、ぶつけ合うと、普通は弱まる。

 それ以外の組み合わせの場合は、強い方が弱い方を打ち消し、同属性の場合は、強い方が弱い方を飲み込んで強化される。無属性も含むが、性質そのものが異なる場合は、このケースは適用されない。

 闇に対して、光で対抗することで、闇を相殺することができる。

 だが、闇理の放った闇魔法と、秀兎が放った光魔法は、闇理の闇魔法の方が上だった。

 地面や客席に到達する前に、秀兎がもう一度放つことで、ようやく無効化できた。

 それだけで、秀兎は分かってしまった。

 次期当主である闇理相手に、現当主である自分でも、敵う相手ではないと。

 だが、人数の差は圧倒的だ。5対1ならば、勝ち目はあるだろうと高を括った。

 霧也の「クエイク・ストーン」により、次々と鋭い土の柱がせりあがる。

それを、闇理はあっさり回避した。

すかさず、蕭白の「ウォーター・バースト」、夫迅の「ビッグ・ウインド」による、強烈な水の流れと、猛烈な強風により、闇理を外へ追い出そうとする。

範囲も広大だ。ジャンプやステップ程度で逃げられるものではない。

闇理はそのまま流れに沿うように、外へ吹き飛ばされた。

 時間は多少稼げた。

 今なら、作戦を練り直す時間を、少しだがとれる。

 闇理を追撃するか、会場の客を避難させることを優先させるかだ。

 だが、相手は司闇一族の次期当主。

 気を抜けば、5人もいるのにやられかねない。

 今、ここで闇理と戦うことが、最善だ。

 5人がアイコンタクトで瞬時にそう決断を下して、吹き飛ばされた闇理を追った。

 その闇理は、特にダメージを受けた様子もないようで、平然と立っていた。フードの頭の部分はとれているが、濡れている様子も、髪が乱れている様子もなかった。

 その顔は、感情がない、もしくは殺人に慣れすぎた、冷たい顔立ちをしていた。

 意外と年は若いようで、宮正よりは年上といったくらいだろう。

 当事者たちは、そんなことを考えている余裕はないのだが。

「お前はもう帰れ。ゴミの回収はいい。俺はこいつらと遊ぶ」

 いつの間にか側に寄っていた黒服の男を下がらせると、闇理はマントを広げて、手を自由に使えるようにした。

 まず、闇理が放ったのは、「ブラック・ホール」。黒い球体に相手を引きずり込もうとする。

 5人は魔法も併用して踏ん張り、その最中に、豪太良が「ファイア・ブレッド」を放った。

 「ブラック・ホール」に直撃するも、効果はなかった。

 お返しとばかりに、闇の光線、「ダーク・レーザー」を5人に向けて放つ。

 それぞれが障壁魔法やウォールで壁を作るも、闇理の力の前では無力だった。

 次々と体を貫かれ、バランスを失った5人は、「ブラック・ホール」に引き寄せられて、闇理の目の前に引きずり出された。

 「ブラック・ホール」を解除するのと、闇理が飛びのいたのは、同時だった。

 秀兎は「ライト・ウォール」を張ることで、「ダーク・レーザー」の威力を弱めた。

 それでも、膝をつく程度にはダメージを負っていたが、わざとやられたフリをしていたのだ。

 闇理の目の前まで接近したのを感知して、「ライト・レーザー」を一気に発射した。

 それを、闇理は余裕をもって回避した。

 だが、闇理の手から離れたことは、僅かな隙を作るのと同じだった。

 秀兎は、4人を治癒魔法で回復させて、何とか態勢を立て直した。

「随分歯ごたえがないな。新魔法の実験台には丁度いいか」

「させるか!」

 闇理がそうつぶやくと、豪太良は、貫く炎の一撃、「フレイム・ランス」を放とうとした。

 炎の槍が、闇理に飛んでいくイメージを、豪太良はしていた。

 しかし、実際には、発動しなかった。

 それどころか、豪太良が膝をついていた。

 その一撃は、目に全く見えずに、豪太良に当たった。

 闇理は、何も起こらずに、佇んでいた。

「何を・・・した・・・俺の魔法に・・・」

 そう答えても、返ってくるはずがないだろうと、豪太良を含めて、全員が思っていた。

「これが、俺たちとお前たちの差だ。反射魔法、いいものだろう?」

 しかし予想に反して、闇理は答えを返した。

 闇理の使用した魔法は、「ミラー・オブ・ダーク」。

 相手の魔法を感知して、自分の力で強制的に魔法を上書き。そのまま対象を変えてぶつけ返す恐るべき魔法だ。

 「ダーク」とつくのは、「闇魔法」で上書きする、つまり、「フレイム・ランス」を「ダーク・ランス」として、無効化してカウンターしたのだ。

 理屈だけでは簡単そうに思えるが、かなりの超難易度だ。

 この魔法は、相手の魔法を読み取る特殊な魔法と、読み取った魔法の情報を上書きして、構成そのものを変える特殊な魔法で構成されている。

 どちらも、今の一般技術では不可能である上、後者に至っては、相手が魔法を発動させる前に、魔法を読み取って自分の力で上書きするという、そもそも扱うのに、非常に難易度の高い技術であった。

 この魔法を発動できる場合、まともに魔法を撃つのは不可能に近い。

 処理速度を超える、速度か回数で撃つか、相手よりも根本的な魔法技術を上回って、ハッキングを弾き返す力がないと、反射魔法に抗うことはできない。

 よりによってこれを使うのが、司闇闇理だ。彼は六公爵を上回る力を持つので、魔法技術で対抗するのは不可能だった。

 回数、速度で対抗するにしても、闇理にはまだ隠している手段で、それに対応するのも可能だ。

 そのことを5人は知らないが、今、目の前で見せた魔法のカウンターは、戦意を削ぐのには、十分すぎた。

「それなら、これでどうだ!」

 蕭白が放とうとしたのは、「バブル・ホールド」。

魔法による泡で、闇理の動きを封じようとした。

しかし、泡は蕭白の所に、闇の泡として現れた。

「ぐああ!!」

 重力を含んだ泡は、蕭白を閉じ込めて、地に押し倒した。

「いいものだ。これ程愉快になる魔法はあるまい?」

「尉土殿。ワシに考えがある。二人で同時に放つ」

「分かった」

 秀兎が、霧也に耳打ちをして、そう指示した。

 先ほどの現象は、相手に魔法を読み取られて、その魔法を乗っ取られて利用された物だと、秀兎は推測していた。

 それならば、二人がかりで撃てば、反射される前に発動できるのではないかと判断した。

 霧也は「ストーン・プリズン」、秀兎は、「フラッシュ・アサルト」で、動きを封じて、奇襲を狙おうとした。

 闇理は、二つの魔法を感知して、すぐに魔法を中断した。

 意識の中に入り込まれていないことを、霧也も、秀兎も感じていた。

 そして、魔法を放った。

 石の牢獄は発生せず、光は闇理に当たらなかった。

 代わりに、霧也が倒れていた。

「どうした、尉土殿!」

「急に強いショックが・・・」

「おお、思ったより効いたな」

 先ほど、闇理が代わりに放ったのは、「ショック・アース」。

 土の魔法に反応して、強烈な精神ショックを与える。

 土属性の「ストーン・プリズン」を発動させようとした霧也は、これに直撃して倒された。

 物理的なダメージはなく、怯ませる程度の威力だが、実戦で喰らってしまえば、致命傷だ。

「おのれ・・・」

「さて、これ以上は時間の無駄だ。そろそろ眠ってもらおう」

 闇理は、目を閉じて意識を集中しようとする。

 夫迅と秀兎が、闇理に魔法を次々と仕掛けるが、ことごとく躱されるか、受けても平然としていた。

「終わりだ!!」

 闇理が大きく手を広げると、黒い波動が、放たれたように見えた。

 その波動に当たった夫迅と秀兎は、あっという間に倒された。

 その意識には、凄まじい恐怖心が、全てを支配していた。

「少しはいい実験台になったな。・・・あっちか。俺と同じ力を持つ者は」

 六公爵を一捻りした闇理は、その感知に従って、歩き出した。




 舞香を取り逃がした宮正たちは、正面玄関から出て、退路の確保を目指した。

 RMGの敵たちと、魔法協会を守っていた警備員が、到達した頃でも、戦闘が続いていた。

 それを、宮正と恭人の広範囲の雷魔法と氷魔法によって、あっという間にけりをつけた。__残りの生徒会メンバーが戦う必要は全くなかった。

 そして、これからのことを、警備兵と二人で話していた時だった。

 凄まじい衝撃が、一行を襲った。

 その場で立っていたのは、宮正と恭人だけだった。

「大丈夫か、みんな!」

「・・・精神的ダメージを負っているようだ。命などには問題ないが・・・」

 恭人がそう分析するのを見て、宮正は胸を撫で下ろした。しかし、それ以外は問題だらけということを、宮正は、はっきりとわかっていた。

「RMGは全滅したようだが、問題は司闇一族だ。ここを狙われたらひとたまりもないぞ」

「宮正会長の援軍はどうなっていますか?」

「既に呼び出してから30分は経っている。もう来てもいいはずだが・・・」

「ここまで運頼みになるとはな。私も、会長も、六公爵もいるのに」

 思わず愚痴を言った恭人に対して、宮正が先輩として締めた。

「達観している場合か、恭人。今、できることをしなくては、助けられるものも助けられなくなるぞ」

「すみません、会長。しかし、この状況下では・・・」

 恭人の言う通り、状況は不明慮、分かっているだけでも、かなり厳しい状況だ。

 RMGと司闇一族が手を組んだかはともかく、二つのチームが敵として立ちはだかっている。

 睡眠ガスにより、大半の人物が眠らされた。

 六公爵は、司闇一族の者と戦闘している。

 こちらは、RMGを撃破したものの、宮正と恭人を除いて、全員が倒れている。

 亮夜と夜美、そして、疑惑のある舞香は姿を消した。

 __この状況では、いつ絶望的な状況になるかは分からない。

 それでも、できることをして、皆を助けなくては、エレメンタルズの名折れであると、二人はそう教えられていた。

「せめて、ここを守ろう。司闇一族は六公爵の皆に託すしかあるまい」

「そうですね。これ以上の被害を防ぐためにも」

 司闇の脅威は六公爵に任せ、二人は周囲に隠れているかもしれない脅威に対して、全力で対応することにした。




 夜美が放ったのは、闇の魔法。

 ただし、そこに魔法は定義されていなかった。

 ただの闇の魔力として、周囲に解き放った。

 亮夜も同じく、闇魔法を放って、感知的な目眩ましを狙った。

 十分に魔法を解き放ったのを確認して、亮夜は夜美に声をかけた。

「・・・いくよ!」

「うん!!」

 二人は、夜美の魔法によって、超高速で東の方向へ飛んだ。

 弾丸の如く、一直線に飛ぶ亮夜と夜美。

 しかし、突如襲った波動が、二人を崩した。

 継続的な魔法ではなく、始発のみに定義していた魔法は、一度崩れた飛ぶ方向を、修正されることはない。

 敷地内の森の中、二人はその森の中に墜落した。

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