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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第3章 birth
25/121

6 不穏なる者

 充也博士の発表を上で見ていた亮夜は、その内容にただ感心していた。

 だが、そのまとめは、この後に行わなくてはならなくなった。

 亮夜が僅かに不愉快なものを感じると、急に夜美の口を塞いだ。

 その様子に、周囲の人は何事かと、声をかけようとする者もいた。__舞香とか、高美とか、陸斗とか、舞香とか、後ろの人たちとか、舞香とか。しかし、亮夜はそれを全く気にせず、大真面目な顔で、夜美の口を塞ぎ続けていた。

 急に口を塞がれた夜美は、慌ててもがき始めるが、亮夜は本気の目を向けて、アイコンタクトを送った。

 その指示で、夜美は気づいた。

 睡眠ガスが、この会場に撒かれていることを。

 夜美は左手で、自分の口のそばに持っていくと同時に、頭の中で、魔法を組み立て始めた。

 範囲は、周囲球状の1メートル。

 定義は、酸素だけを通すフィルターの設定。

 それを頭の中のみで組み立てて、発動させた。

 すると、睡眠ガスは外に押し出され、内側には、酸素が残った。

 魔法を放ち終えると、亮夜が塞いでいた手は離れた。

 呼吸を取り戻して、夜美は周囲を見渡した。

 この側で、睡眠ガスに抗って起きていたのは、亮夜と、夜美と、舞香のみだった。




 もちろん、睡眠ガスは、特別枠の所でも発生していた。

 だが、その対応は、亮夜とは格が違った。

 将風夫迅が感覚のみで気づいて、即座に夜美と同じく、睡眠ガスをシャットアウトする魔法を放った。

 だが、夜美のものとは、その規模も桁違いだった。

 なんと、ホール全体を魔法で括った。

 睡眠ガスは、あっという間にホールから押し出された。

 特別枠は全員無事だった。

 だが、その周辺から遠ざかるにつれて、睡眠ガスにやられた人物が増加していった。

 とはいえ、あくまで成分的には睡眠ガスだ。

 2、3時間眠ってしまう程度だけの問題なので、無理に解除に焦る必要はなかった。

 それよりは、この睡眠ガスを起こした犯人の捜索だ。

 第2、第3の事件を起こす前にとっちめなくてはならない。

 そう判断した六公爵たちは、周囲に散らばった。




 トウキョウ魔法学校生徒会チームも、全員が無事だった。

「会長、いかがいたしましょう?」

 そう尋ねたのは、颯樹だった。

 事態が事態だ。思いもよらない行動をとることもあり得たので、颯樹はひとまず、皆への確認も兼ねて、宮正に指示を仰いだ。

「これを起こしたのは、恐らく司闇一族だ」

 いきなり宮正の衝撃発言に、恭人を含んだ生徒会メンバーは凍り付いた。それどころか、この付近を守ることにした佐光秀兎も、驚きを隠せていなかった。

「確か、雷侍殿の娘さんだったね。それは本当かね?」

 秀兎がそう尋ねるのも無理はなかった。さらに言えば、生徒会も全員が宮正に疑問の目を向けていた。

「この警備を潜り抜けて、睡眠ガスをばら撒いた。そんなことは、司闇一族以外にできるはずがない」

 いつもの癖の強い発言は鳴りを潜めて、宮正は端的に答えた。

 あくまで分析という形で説明をしたのだが、全員が納得した。

 事前に、亮夜からの伝言を受けていなければ、宮正はそのような推論には至らなかったに違いない。

「いくら、我らエレメンタルズや六公爵たちが動けるとはいえ、相手は司闇一族。油断は決してできません」

 宮正がさらに忠告を重ねた後、秀兎は端末を取り出した。

 ただの端末ではない。

 警備員や六公爵全員に通信できる特殊形態の端末だった。宮正も、今回は一緒に所持していた。

 ただし、通信を送ることができるのは、六公爵5人が持つ端末だけだ。それ以外は、受信、あるいは返答しかできず、こちらから周りに指示することはできない、受信専用の端末になっていた。複数人が複数人同士で連絡し合ったら、確実に混乱を起こすからだ。

「そうだな・・・。全員に告ぐ!相手は司闇一族!最大限に注意して、周囲を警戒せよ!!」

 秀兎がそう報告しているのを見て、生徒会は集まった。

 宮正は、司闇一族の可能性が高い、という程度に留めていたが、秀兎は決めつけていた。魔法六公爵の司闇一族への確執を感じ取りながら、指揮者として、その迷いのなさに感心していた。

「すごいですね、会長。六公爵に指示させるなんて」

「この後、どうしますか?ここで護衛していますか?」

「俺たちは6人だ。固まって行動した方がいい」

「家でのんびり見ていた方が良かったよ」

「唐沢さん、そう言わないでください。今、僕たちの命がかかっていますから」

「私と恭人はどうにかなるとしても、颯樹たちが不安だな・・・」

 戦力的に言えば、六公爵に次いで、まともな方だ。だが、それは、宮正と恭人だけに絞って考えた場合の話だ。

 他のメンバーは、身もふたもない言い方をすれば、足手まといだ。

 相手は、非道なことを平気で行う司闇一族なのだから、下手に戦えば人質にされるのが、宮正にも、恭人にも、容易に想像できた。

(考えてみれば、なぜ奴らが襲ってくるのだ?)

(奴の目的は何だ?)

(亮夜が知っていたことを棚にあげるにしても、どうして、このタイミングで・・・)

「会長?」

 宮正がそう思考に沈んでいると、恭人が声をかけてきた。

「・・・この会場に、舞式亮夜がいる。彼に会えば、少しは事態が変わるかもしれない」

「どういうことですか、会長!?」

 全員がそれぞれの反応で疑問を口にしても、宮正は全く気にも留めなかった。

「どこかにいるはずの亮夜を探そう。先に言っておくが、亮夜の周囲のことについては、全員詮索するなよ」

 宮正はそう口にして、亮夜がいると思われる上階の客席に、歩いて向かい始めた。




 その亮夜本人はと言うと__。

 既にホールから脱出して、夜美と共に脱出経路へ向かっていた。

 舞香は、皆を守ると言ったので、ホールに残してきた。

 薄情者と言われても文句の言いようがないだろうが、亮夜たちからすれば、それどころではなかった。

 この時点では、可能性でしかないが、この睡眠ガスを送ったのが司闇一族だとしたら、一刻の猶予も許されない。

 他のチームが送ったとしても、脱出できる内に脱出してしまうのが得策だ。

 相手の目的は分からないが、こちらにも六公爵を始め、強力な魔法師が多数いる。

 「施設」を守るのであれば、それで十分と、亮夜も夜美も思っていた。

 だが、「個人」を守るのであれば、いくら六公爵でも、至難の業だ。

 ほとんどの人物が睡眠ガスで眠らされている上、犯人は何者か、何人なのか、目的は何なのか、何一つ分かっていない。

 その状況下で、この広い会場を守るなど、どう考えても不可能に近い。

 無論、実力も分からないのに、高美や陸斗、その他大勢の客を守るために残るには、逃げる理由と比較して、不明瞭と言えた。

 何より、六公爵たちの前で、本当の立場が明らかにされてしまえば、その先を想像するだけで憂鬱になってくる。

 そのリスクを考慮すると、今はこっそり逃げてしまう方が、合理的だ。

 本当は、亮夜も夜美も、残って皆を守るべきだと思っていた。

 だが、見栄を張って無謀な賭けに出るよりは、合理的に避けてしまった方が、亮夜たちにとって都合がいい。

 無駄に命を犠牲にすることと、命がけで仲間を助けるのは、全く別のことだ。

 ここでごく数人も助けられるか怪しい絶望的な戦いに挑むより、未来に賭けて逃げた方が、最終的にはましだと、亮夜は苦渋の決断を下して、夜美もそれに続いた。

 5階から脱出した亮夜たちは、物陰から外の様子を伺った。

 その外では、警備員と、沢山の男たちが乱闘を繰り広げていた。

 黒服ではない所を見て、司闇一族とは、別のチームだろうと亮夜は推測した。

 それでも、危険が迫っていることには変わりない。

 だが、状況も分からないまま、下手に助け出すと、そのまま引きずり出されて、結局戦いに巻き込まれることになる。

 まずは、敵や味方がどのくらいいるのかを調べるのが、先決だ。

「夜美、外の感知を頼む。僕は内部を感知する」

 夜美が頷くと、二人は物陰に隠れたまま、状況を調べ始めた。




 その頃、内部では、魔法六公爵が宮正から受け取った情報を広めて、厳重警戒態勢に入っていた。

 等水蕭白と尉土霧也が通路を捜索して、上階のホールを帥炎豪太良と将風夫迅が二人がかりで警備している。

 下階のホールを、佐光秀兎と、残ったメンバーで警備している。

 そして、生徒会メンバーは、亮夜がいた可能性のあるホールを見回っていた。

 すると、普通に起きている女性がいた。

 何やら端末を動かしていたが、宮正たちに気づくと、閉まってこちらに向いた。

「お前はどうするつもりだ?」

 宮正がそう尋ねると、その女性はこう返した。

「友達を守るため、ボクはここを守っています」

「そうか、所で、顔が良く似た男と女の二人組を知らないか?」

「もしかして、舞式亮夜と舞式夜美のこと?」

「知っているのか!?二人はどこに!?」

 宮正とその女性、藤井舞香が話している間、残りの5人は周囲を見渡していた。

「あの二人、睡眠ガスから逃れて、そのまま脱出しました」

「自分のことを優先したか、亮夜。・・・おいお前、なぜ普通に起きている?」

 恭人がそう亮夜を評価していると、不自然な点に気づいた。

 この辺で、席が空いているのは2つ。

 亮夜と夜美が脱出したのだから、2つ空いているのは普通だ。

 そして、(恭人から見て)この女以外は全員が眠っている。

 つまり、この女は睡眠ガスを避けたということになる。

 亮夜と夜美がこの場にいないのはともかく、恭人としては不自然に思えた。

「どういうこと?」

「睡眠ガスをどうやって避けたかということだ」

「・・・10組の亮夜が避けているのだから、ボクが避けてもおかしくないでしょ?」

「ごまかす気か」

「冷宮、お前なあ、コイツを疑っている場合か?司闇一族の方を警戒すべきだと思うが、コイツが司闇一族の人間とはそう思えねえ。疑心暗鬼じゃねえか?」

 恭人がさらに詰め寄るのを見て、武則が止めようとする。

 その点に関しては、生徒会全員がそう思っていた。

 恭人もそう思っていたが、彼が気にしているのは、その点ではなかった。

「だったら、なぜこの場で動けている?亮夜たちはともかく、睡眠ガスに対応できたのは、将風殿くらいだ。明らかに事前に分かっていなければ避けられるはずがない。何より、その女が隠した端末は何だ?」

 亮夜のことを棚上げしているのはともかく、恭人の発言は理に適っていた。

 ここまで言われて、仲間たちもようやく舞香の不自然な点を疑い始めた。

 その舞香は、窺い知れない感情を、宮正や恭人に向けた。




 恭人が舞香に尋問をしていた(?)頃、1つ下の客席を捜索していた帥炎豪太良と将風夫迅が、一つの空いている客席を見つけた。

「間違いないな、将風殿、既に司闇は動いている」

「ああ、私が報告するから、帥炎殿は周囲の捜索を任せる」

 夫迅がそう告げると、端末に敵は既に動いていると報告した。




 その報告を受け取った等水蕭白と尉土霧也は、会場の玄関に先回りしていた。

「どう思う、尉土殿?」

「今の所、人的被害が内部で出ていないのが妙だ。RMGだとするなら、この点には納得いくが・・・」

 外にいた警備員からの報告では、睡眠ガスが撒かれたと同時刻に、RMGと思われる一団が襲撃にやってきたとのことだ。

「雷侍殿の娘が嘘をついた、あるいは間違った情報を出したということになるな」

「拍子抜けだったな、ワハハ」

「気を抜くな、犯人はまだ確保されていない。尉土殿、周囲の警戒は俺がやるから、尉土殿は目の前の警戒を頼む」

「よっしゃ」

 確かに情報や報告が不自然ではあるが、実際に目の前で事件は起きている。

 それを改めて理解した霧也は、いつでも魔法を放てるように前方を警戒した。

 すると、魔法の閃光を感じた。

 魔法による障壁で、その一撃を防いだ。

「そこだ!」

 蕭白が感知して、そう指を指すと、その人物が奥へ逃げたように感じた。

「追うぞ、尉土殿!」

「任せろ、等水殿!!」

 二人は逃げた何者かを追うべく、通路に向けて進軍を開始した。

 二人が追いかけていった先には、元々いたホールだった。

「ホールの中に逃げたか!」

「気を抜くなよ、すぐに対応できるようにしろ!」

 蕭白と霧也が扉を開けると、攻撃は飛んでこなかった。

「追い詰めたぜ、いくらお前とはいえ、俺たち六公爵に勝てると思うなよ」

「油断するな。だが、もはや逃げ場はない」

 明るい所に映し出されたその人物は、黒服の男だった。

 その人物が入ってきたのを見て、ホールに散らばっていた三人も次々と集結した。

「ここまでだな。早く投降しろ!」

「お前の悪事、許されると思うなよ」

「おぬしに光はない。その名に相応しい処罰を受けるが良い」

 霧也が、蕭白が、豪太良が、夫迅が、秀兎が、その黒服の男を取り囲む。

 そして、豪太良と霧也の魔法が放たれた。

 豪太良の強烈な炎で焼き尽くす「インフェルノ」、霧也の大量の小岩が黒服の男に降り注ぐ「ストーン・レイン」で動きを封じようとした。

 だが、その男にはあっさり躱され、あっという間に包囲を抜けられた。

 夫迅の「インサイドオブ・トルネード」__竜巻をぶつけるというより、竜巻を使って閉じ込めることを重視した風魔法__や、秀兎の「ライトニング・フラッシュ」__光を発生させて、目を眩ませる光魔法__も、あっさりと回避された。蕭白の「ウォーター・トルネード」__渦潮で足を捉える水魔法__に、豪太良の「コロナ・ライン」__凄まじい熱を線上に発生させる炎魔法__のコンビネーションで囲もうとするが、渦潮を消し去ることで、あっという間に突破された。

 次々と六公爵たちが魔法を放つが、その男にはことごとく無力化、対処された。

 黒服の男は、まるで時が来るのを待つかのように時間を稼いでいた。

「これが六公爵の力か。なんと弱い・・・」

 遂には、そのような煽りまで入れ始めた。

「これでは、私一人で任務を果たせるではないか。次期当主様に来ていただく程ではなかったな」

 ステージに立った男は、徹底的に馬鹿にするような発言を繰り返した。

「六公爵の名など・・・おお・・・遂に来てくださったか」

 更なる煽りを加えようとした時、それを感知した男は、突然跪いた。

 ステージにあった壁は壊されて(装置は六公爵が動き出す前にどかしておいた)、その奥から別の男が現れた。

 その男は、黒服の男と同じ黒服。だが、体形的には少し若く見える。その男と違ったのは、フードを被っていたということだ。

それだけ身を隠しているのに関わらず、その男の威圧感と存在感は、六公爵の当主たちに負けていないどころか、遥かに凌駕していた。

「お待ちしておりました、闇理様」

 その男こそが、司闇一族次期当主、司闇闇理だった。

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