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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第3章 birth
24/121

5 全ての始まり

 照明が落ちたホールに、大きな変化があったのは、ステージからだった。

 そのステージは、四角の部屋に建てられた円形の台の上。歌や舞台劇に使っても違和感のない、その上に、案内役の老人が現れた。

 その老人は、今回の発表の内容を説明した。

 発表内容は、神祖魔法の現代への利用。

 発表者は、10年前に、ユニゾン魔法が実在して、現代でも使用できる可能性を証明した季利充也博士。

 充也博士がステージに立つと、ざわめきは静まり、一体的な緊張をもたらした。

 年齢は50を超え、六公爵の当主たちのほとんどよりも年上だ。同じく博士の印象を与えるのに、佐光秀兎がいるのだが、彼は見た目と風格と中身が一致していないのに対して、充也はどの点をとっても博士の印象を与える、生粋の博士系人間だった。

 そして、遂に世紀の大発表となる公表が始まった。


 それが、後の大事件に繋がることを、誰一人、知る由もなかった。


「皆様、本日は私のために、お集りいただき、誠にありがとうございます。それでは、早速、私の発表を、始めさせていただきたいと思います」

 充也がそう前置きして、発表を始めた。

「今回、私が発表するのは、神祖魔法の現代への利用です」

「神祖魔法とは、古の時代、魔法神様のみに許された魔法です。魔法神様は、愚かなる我らに、救いをもたらしました。やがて、その力を、我ら人間が扱えるように、汎用化したものが、今、私たちが魔法と呼んでいるものです。それと同時に、我らは一つ、目を背けていました。魔法神様自らが扱いなさった魔法を」

 話が一旦途切れる。

「今まで、我らは、その力に近づくことを畏れ多いと思っていました。魔法神様が扱った同じ魔法を、我らが再現しようとするなど、おこがましいものでしたから。ですが、今回、この神祖魔法の可能性について、解明することに成功したのです」

 再び話が途切れる。実際に聞こえてはいないが、ざわめきを誰もが感じていた。

「こちらをご覧ください」

 充也がそう言うと、ステージ奥のスクリーンに映像が映し出された。

 その映像には、神様を模したような老人が映し出されている。

「我らは、魔法神様が扱った神祖魔法を、汎用化して魔法を扱っています。言い換えれば、神祖魔法の力一部を、魔法として扱っているのです」

 魔法を纏っているかのような老人の側に現れた矢印は、外へ伸びていった。

 その矢印は6つに分かれて、それぞれが、違う紋章を指していた。

「そして、魔法は大きく分けて6つの力に分けられています。炎、水、風、土、光、闇。それは、精霊の力と、同じ力です。現に、魔法六公爵という、魔法界の6つの頂点があるということからも、この6つの力が、今の魔法の基本と言えるでしょう」

 なお、魔法六公爵が6つの頂点、つまり、同格に最高であるというのは、厳密には誤りである。

 誰もが口にしない上、当事者も認めようとはしないのだが、闇を得意とする「司闇」だけは、別格の実力を持っていた。__ちなみに、他の5つの序列は、ないに等しかった。

「そこで、今回、6つの力を複合する技術を開発しました」

 充也がそう説明すると、ステージの奥に巨大な装置が現れた。

 中央の巨大な塔のようなマシンに加えて、6つに枝分かれした、それぞれのマシンがあった。

 そして、それぞれのマシンに対して一人ずつ魔法師が、つまり、7人の魔法師が、装置の前についた。

6つの小型のマシンに立つそれぞれの魔法師が、それぞれ魔法を放つ。

それぞれの属性で分かれた力は、どれもかなり小さいが、全く同じ魔力だった。

「全く同じ魔力というのは、どれだけ熟練した魔法師であっても、相当に難しいこと」

 充也の言うとおり、全く同じ魔力で魔法を発動させるのは非常に難しい。

 魔法式の定義には、必要な魔力が記されていることも多いが、多少なら、魔力が過剰であっても、問題なく発動できる。

 だが、その多少というのが、今回のケースでは曲者だった。

「そこで今回、魔力のリミッターをセットしました。これにより、魔法の心得さえあれば、同じ比率にすることができます」

 実際に属性を組み合わせる技術や、属性の性質を変化__冷宮の得意とする「氷」や、雷侍の得意とする「雷」のことである__させる技術は、既にある程度の調査が進んでいる。

 だが、それを6つの属性全てで行うには、針に糸を通す以上の緻密な魔力バランスが要求されるのだった。

「さらに、装置の魔力バランスを徹底的に調整したことで、魔力の暴走を起こさずに、形を保つことに成功しました」

 今までも、神祖魔法を再現するために、この技術を使った科学者は少なくなかった。

 だが、ごく僅かなズレで失敗した、属性を組み合わせるポイントを誤ったなどの失敗が続いて、この時までに再現できたことはなかった。

 それが今、6つのそれぞれの現象を起こそうとしている魔力は、装置に吸われていき、中央の大型マシンに集中している。6つの魔力は小さなガラスの球体に送り込まれ、強烈な魔法反応を起こそうとしていた。

「そして、これが、合成魔法で作り上げた、神祖魔法の源です」

 中央に立った7人目の魔法師が、一切の属性を省いて、作り出された小さな魔力の源を制御した。

 その源こそが、神祖魔法であった。

 全ての色が複合的に混ざった、白を超越した何かと言うべき物質が光っている。

 今まで声を抑えていた観客が、小さな歓喜をあげた。

「さて、ここからが本番です」

 それに合わせて、さらなる緊張が、観客を襲った。

 充也が手に持っていたスイッチを押すと、ガラスの球体のごく一部が開いた。

 魔力制御された神祖魔法が、ゆっくりと外へ出ていく。

「この力を、私達はまだ、ごく一部しか扱うことができません。ですが、そのごく一部ですら、今までの常識を凌ぐ現象を引き起こせたのです」

 そう説明すると同時に、枯れた植木鉢がステージの上に用意されていた。

 植木鉢に、ゆっくりと、神祖魔法の源が近づいていく。

 その源が、植木鉢に触れた時。

 植木鉢は、緑を取り戻して、目に見えて大きく成長した。

「御覧になりましたか?」

 充也が結論を纏めようとする。

「今のが、神祖魔法の力です。続いて、こちらの映像をご覧ください」

 スクリーンに映し出されたのは、汚れた水。

「こちらに、神祖魔法を施した所、何と、あっという間に綺麗な水へと変化したのです」

 言っている通り、汚れた水は、神祖魔法が入り込むことで、汚れが欠片も見当たらなくなった。

「さらに、枯れた森に、緑を取り戻すことにも成功しました」

 その映像が映し出されて、再び歓喜が目立った。

「現状は仮定ですが、全てに強力な生命力を与える力を持ちます。今はこれだけのことしかできませんが、いずれ、魔法神様が起こした奇跡を、我らの手で出来ると確信しています」

 そう締めくくって、一つの発表が終わった。

 それと同時に、多大な拍手が送られた。




 その様子は、ネットでも中継されていた。

 それは、とある屋敷でも、映し出されていた。

 それを、スクリーンで見ていた男は、端末を取り出した。

 その見た目は、横に広がった髭を持ち、長い髪にパーマがかかっており、服はマント着用に最高級のスーツを連想させるものと、貴族の貫録をたっぷりと持った男だった。

 普段、俗世には滅多に、直接的に、関わろうとしない男だが、今回のそれは格が違った。

 直接、奪い取りに行く程の価値があると、その男の直感がそう告げていた。

 自分たちで、これを実現させれば、さらに強大な力を得られる。

 そのような妄執に取り憑かれた男は、仲間と息子に連絡を送った。

 そのデータを奪い取れ、と。




 同時刻、トウキョウの某所でも、似たようなやりとりが繰り広げられていた。

 総帥もまた、それを見ていた一人だった。

 念のため、部下に直接見させて、データの回収を依頼しておいたが、どうやら、その判断は当たったようだ。

 自分の計画がまた一歩進んだと、それをニヤリと笑うことで表現した。




 一方、魔法協会トウキョウ本部では、充也博士の発表が終わって、多大な拍手とざわめきが起きていた。

 その最中、会場にある異変が起きた。

 次々と、見ていた客と、警備員が、倒れ始めたのだ。

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