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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第3章 birth
20/121

1 集い来る者たち

 魔法学校に入学して、それなりの経験と成果を得た亮夜に待っていたのは、魔法試験だった。

 苦戦した科目もあったが、アンバランスかつイレギュラーな成果を出してこれを突破。

 夏休みに出会った愛姫ステラこと藤井舞香との5年前の決着を一応つけると同時に、魔法の1つの可能性を見た。

 新たな成果と、可能性を見た亮夜。

 そして、時は8月末。

 トウキョウ魔法学校で、2学期が始まろうとしていた。

 8月末。その日は始業式である。

 長くて楽しかった夏休みが終わって、だらけたような態度で学校にやってきた人物も少なくなかった。

 その中の例外の一人、舞式亮夜は、周囲のだらけ具合に呆れていた。

 流石に、亮夜にだらけたいという欲望がないと言えばウソになる。ずっと、妹の夜美と楽しく過ごしたいという心があるのは確かだ。

 だが、亮夜の使命を果たすためには、その想いの一部を断ち切って、勉学や修行で成果を出す必要があることをよく理解していた。

 だから、こうしてだらけすぎのメンバーに比べればまだましと言えるのだが、仲間として、この態度は流石に呆れの感情が混じっていた。

「亮夜君、おはよう」

 時間までどう過ごすか迷っている__読書するか、新たな理論を考えるか__と、亮夜の一応の親友である花下高美が声をかけてきた。

「おはよう、高美さん」

「うん、結局、夏休み、一度も連絡出さなかったよね」

 微妙に怒っているように見える__周囲には悲しんでいるようにも見えた__高美の態度を見て、亮夜はどうしたものかと頭を悩ませていた。

 亮夜の夏休みは、宿題、アルバイト、修行、開発、デートでほとんど構成されていた。

 それ以外にも、愛姫ステラと出会ったあの2日間は、印象に強く残っている。

 これで友人に声をかける時間がなかったと言うと、疑問がつくかもしれない。実際、夜美とのデートで4分の1は占めているのだから。__ちなみに、その夜美は、亮夜より少し早く中学校に戻っていた。

 いずれにしても、謝罪するだけの理由はある。

「ごめん、夏休みは色々あって、苦労していたんだ」

 亮夜はそう説明して、高美に頭を下げた。

 高美はどこか不満そうな顔をしていたが、少し経つと、元の顔に戻っていた。

「そういえばさ、あのニュース見た?ステラが予定キャンセルしたあれ」

「見た見た、何か私用でキャンセルしたって」

「もしかして、熱愛とか」

「キャー!!」

 そんな声を聞いて、亮夜はあの時、メールアドレスを受け取らなくて良かったと思っていた。

 それにしても、愛姫ステラが魔法学校でも有名人扱いされる程、人気のあるアイドルとは思っていなかった。亮夜がそう思っているのは、プライベートのカオスすぎる態度の印象が強すぎるからだろう。

 それを思い出して、複雑な気分になっていた。

 それが顔にわずかに出ていたことを、高美は見逃さなかった。

「亮夜君、少し顔色が悪いけど・・・」

「何でもない」

 ステラは口止めしなかったが、皆のイメージを守るために、秘密にしておこうと考えた亮夜であった。




 始業式は雷侍宮正の演説が行われた。

 それが終わると、2学期の簡単な概要の説明で終わりだった。

 そのまま帰る人も少なくなかったが、夏休みが終わって久々に会えたということで、友達と長話をするという人たちも目立った。

 亮夜は一応の親友の高本陸斗と余り話していなかった。

 そしてそのまま今日は、話す機会がなさそうだった。

 生徒会に呼ばれたからである。

 別に断ってもよかったのだが、今日は夜美と比較して帰るのが大分早いこともあって、気まぐれで参加することにした。

「久しいな、諸君。この夏の休暇、しかと満たせたか?」

「要するに、夏休み楽しかったか、ということですよね?僕は楽しみましたよ」

「一日中寝られるのサイコ―」

「佐紀先輩は相変わらずですね。私は「冷宮」として、修行に励みましたよ」

「俺は、海・・・だな」

「あの・・・私は、友達と遊べたことです」

 生徒会では、それぞれが思い出話に花を咲かせていた。

「そういえば舞式君、この前の魔力暴走理論読ませていただいたよ。仮説とはいえ本当にすごいと思ったよ」

「ああ、我も恭人も興味深いぞ。貴様が10組という評価が納得いかない程にな」

「僕は普通の魔力がさっぱりなので・・・。先輩たちにも読んで頂いて光栄です」

「・・・」

 亮夜が(周囲には)照れているような表情で答えている中、恭人は口を出すべきか迷っていた。

 なぜ彼が魔力暴走現象をよく知っているのか。なぜあそこまで詳細に追記できたのか。

 それが、恭人にとって気になることだった。

 しかし、プライベートに立ち入ったことを聞くのは、マナーとしてよろしくない。

 冷宮としてのプライドを棚上げするにしても、「聞きにくい」ことと「話させにくい」こととは、全く別物であった。

「随分な仮定ではないか。新説でなかった以上、公表に選考外であったのは残念だったな。とはいえ、お前はいずれ偉大な土台となれるだろうから、そのまま精進するといい」

 代わりに、称賛しているのか、馬鹿にしているのか分からないコメントを、亮夜に返した。

「所で、魔法学会公表について、少し困ったことがあるのです」

 颯樹が新たな話題を投げ込んできた。

「どういうわけか、チケットを僕に20枚押し付けてきて、それを仕分けなくてはならないのです・・・」

「随分なことだな、それを思慮した奴は」

 事情を説明すると、宮正がそう吐き捨てた。他のメンバーも考えていることは似たり寄ったりだった。

「何でも、転売者がこのチケットを買い占めて、詐欺を行ったとのことで、僕の手で信用できる人に買い取ってもらうということになっているのです」

 その発言には、いい加減な態度である佐紀を除いて、全員が呆れていた。仮にも一高校生に押し付けるなど、職業意識はないのかと、全員がそう思っていた。

「ですが、僕には、20人に上手く渡すなんて出来ません!お願いです皆さん、助けてください!」

 亮夜としても、余りに理不尽な命令を押し付けられた颯樹をどうにか助けたいと思っていた。

 他の人物もそう思っていたようで、あっという間に__佐紀を無理やり引っ張って、花子がさりげなく参加して__一致団結した。

「早速だが、我に考慮すべきものがある」

「早いですね、会長。何なのですか?」

「我生徒たちに、争奪戦を行わせよう!」

 全員が何を言い出したのか理解できずに、ポカンとしていた。

 宮正は言葉が不足していたと思って、補足を加えた。

「つまり、体育祭の前哨戦として、チケット20枚を掛けた大勝負をしてもらうということだ」

「随分思い切りましたね・・・」

「1組や上級生に有利すぎませんか?」

「面白そうだな!」

「そもそもできるのでしょうか?」

「へえー」

「適当に渡すよりはましだね・・・」

 颯樹が呆れたような態度を、恭人が冷静に懸念点を、武則が盛り上がり、花子が心配して、佐紀がいい加減に、亮夜が仕方なく認めるような態度を、それぞれ示した。

「心配するな。最悪、雷侍として、お父様たちに金を出させればいい。それに、ルールは魔法要素控えめだ。誰でも勝ち上がる可能性はあるはずだ」

 宮正が勝手に話を進めていって、結局、チケット争奪戦の開催が(強引に)決定した。




 翌日。

 生徒たちに衝撃のニュースが届いた。

 内容は、生徒会主催の体育祭前哨戦だった。

 しかも、勝ち残り20名に魔法学会公表チケットが手に入るという、とんでもなく太っ腹な内容だった。

 チケットは販売を開始してわずか数時間で売り切れてしまったかなりのレアもので、それを逃した人にとっては朗報そのものであった。

 なお、事前に入手してある、もしくは行きたくない人は、最終結果にはカウントされず、無関係な人も楽しむことができる、そんなお得な仕様となっている。

 チケットの需要と供給があまりに一致していないと思う人もいるかもしれないが、学会の様子がネット配信されるので、手に入れられなかった、開催地が遠すぎる、人が多い所がイヤ、そんな人たちでも一安心だ。

 しかし、生で見るのとはわけが違う。もしかすると、世紀の大発見の説明に立ち会えるかもしれない、そのような夢を追ってチケットを手に入れようとする人も少なくなかった。

 同時に、貴重性から、無理やり買い占めて、自分の都合よく売るという、転売者といった、ロクでもない奴が現れたりもしていた。

 これらの対策もあってか、エレメンタルズや、司闇を除いた魔法六公爵、その他、位の高い人には、特別枠チケットを交渉できるチャンスが用意されていた。颯樹は、今回の発表者とエレメンタルズの雷侍宮正のお気に入りの地位を利用して、普通、特別枠問わずに、多数のチケットの配布を任されていた。

 その結果、今のように、チケット争奪戦が学校の中で起きようとしているのだが。

 1年10組で先行入手できたのは、亮夜と高美の2名のみ。

 それ以外のクラスでも、学年を問わず、数名しか入手できていなかった。

 つまりどういうことになるというのか。

 学校のほぼ全員が、この争奪戦に参加するということなのだ。

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