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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第2章 vacation
13/121

3 夏の一時の別れ

 魔法期末試験が終わり、公開された成績には、喜びと悲嘆と驚きがあった。

 クラス別と学年総合、さらに一部共通の総合に分かれて公表された成績には、いくつかの衝撃的な記録が記されていた。

 例えば、魔法知識総合。全ての魔法知識の総合点のことだが、その上位100位に、1年10組の人物の名が、98位として記されていた。

 その人物はそれ以外にも、魔法歴史学をはじめとするいくつかの教科で、総合の上位にいくつか顔を見せていた。

 そう、10組のクラス委員長でもある、舞式亮夜である。




 1年10組である亮夜の試験成績は割とアンバランスであるが、良い所は本当に良い。

 まず、魔法知識総合はクラスでは断トツの1位。学年で見ても、上位3位にも入っている。さらには、総合においても98位とかなりのものだ。

 魔法歴史学、魔法知識、魔法式学なども、魔法現代を除いて1位。学年で見ても、2位以上をとっているのも少なくない。

 一方で、魔法実技は本当にアンバランスだった。

魔法実技戦、魔法団体戦は、どちらも4位。「魔法を使った勝負」という意味で、かなりの不適格な部分があったからである。

しかし、魔法運用力は、赤点一歩手前というかなり悪い成績であった。

結論から言えば、魔法運用力を除けば、全てがかなりの好成績と言えた(ちなみに、普通の分野の試験においても、ほとんどがトップレベルであった)。

 最も、知識において10組どころか1年を遥かに超える成績を出したのは、余りにイレギュラーだったようで、校長に直々に呼び出され、不正疑惑をかけられるという一幕もあったが。

 そんな不正疑惑を数分かけて説得し終えた亮夜が10組の教室に戻る途中に、生徒会長の雷侍宮正と遭遇した。

「貴様の勝負、しかと拝見させていただいたぞ。我が魂にすすったではないか」

「光栄です、宮正会長」

 入学してすぐに生徒会室に招かれて以来、二人は知り合い以上の関係となっている。それは、亮夜が名前で呼ぶようになったことからも現れていた。余談だが、亮夜のクラスメイトである高本陸斗と、花下高美も今では名前で呼んでいる。

「次の日を迎えた時、前期は終焉を迎える。それに伴い、我ら選ばれし者たちは、宴を開催し、祝いの結びを行う。そこで、我の見知った者として、この宮正が直々に招待してやろうと思考していた。どうだ、我の友よ。受諾する気はないか?」

 つまり、前期最後の日に、生徒会でパーティーをやるから、亮夜も誘うということだ。

 亮夜個人としては、特別受けたくないという事情はない。

 だが、明日やる、という点だけでは決めがたいという点がある。

 早起きするならともかく、遅く帰ると、妹に対して色々気にしなくてはならない点ができてしまうからだ。

 亮夜はひとまず、話を促してみることにした。

「少し内容や時間を聞かせてもらっていいですか?」

 どうやら、重要な内容が一部欠けていたことに宮正も気づいたらしい。その証拠に少し困った表情を浮かべ、すぐにポーズを取り直して表情を引き締める。

「何、全てが終焉を迎えてからだ。半年程の宝物を皆で爆発させてエキサイティングするつもりのフェスティバルだ」

 終業後に、思い出話などで盛り上がるということだ。

 どうやら、亮夜にとってはパスすべき内容であるようだ。

「申し訳ありませんが、辞退させてもらっていいですか?」

 それでも棘が立たないように、あくまで許可を得るという形で表明する。

「そうか・・・。無理強いは出来ないから仕方あるまい。しかし、我としては貴様とほんの少しばかり言霊を交わしたかったのだがな」

「・・・日が昇る時間ならば、僅かに時は残留しますが」

 一度は辞退したが、宮正が少し未練を残したような態度を見せたので、亮夜は妥協案を示した。ついでに、宮正のセンスに合いそうな言い方で。

「そ、そうか。よし、明日の早朝、8時でどうだ!早速、我が同胞たちにも伝令せねばな!?」

「承知いたしました。しからば、約束の時に」

 亮夜の狙った通り(?)、宮正はすっかりエキサイティングしていた。

 亮夜は改めて参加の意思を示して、校長室の側を後にした。




 教室に戻ると、早速仲間達から心配の声を浴びせられた。

 亮夜としては、他人の事情など気にしなくてもいいとは思うのだが、少なくとも心配していてくれているのは確かだ。それに応えないのは、人間として失礼だと認識している亮夜は、何回かに分けて事情を話して杞憂だと証明した。

 その後は、今ではちょくちょく話すようになっている陸斗と高美から声を掛けられた。

「大変だったな、亮夜。何はともあれお疲れさん」

「ありがとう。常識と不正は別だというのに」

「仕方がないよ。亮夜君、ほとんどクラスどころか、学年で2位ばかりだったもん」

「お前、よくあんなにできたな。委員長とはいえ、頑張りすぎじゃないか?」

 客観的に見れば、10組では手に負えそうにない分野を、亮夜は次々と解いていき、1組の超トップに次ぐ高成績を叩き出した。それに加えて、委員長として、クラスと学年のコントロールまで行っている。陸斗がそう不安視するのもおかしな話ではなかった。

「少しは頑張っているけど、そうでもないかな?少なくとも勉強は」

「・・・天才ってこういう人のことを言うんだね・・・」

「いいや、僕は天才ではないよ。ちょっとあって覚えているだけだよ」

 亮夜がフォローするも、高美からは完全に引かれていた。それにフォロー(言い訳?)するも、高美どころか、陸斗からも呆れの目が刺さっていた。

「亮夜、もしかしてお前、かなりの鈍感なのか?」

「事実を言っただけなんだけど・・・」

「そういうことだよ、亮夜君・・・」

 どうやらこの件は正しく終わらせることができないようだ。

 亮夜本人は嘘を話している自覚は全くない。なのだが、この二人には嫌味などと曲解されているようだ。

 しかし、どう言えばこれを直せるかは分からない。コミュニケーション能力に不安を感じている亮夜ではあるが、このケースは完全にお手上げのようだ。

「それにしてもな、俺、17位だったぜ。お前ら二人よくやるよなー」

「陸斗君は実技が総合10位越えだったからいい方じゃない。私は20位。正確に使うのはホント難しいのよ」

 亮夜にとって幸いすべきことは、二人が話題を早くも変えてくれたことであった。

「二人とも、片方はいい成績があるんだ。そんなに悲観しなくてもいいじゃないか」

「そりゃあ、筆記ダントツ1位の亮夜だから、そう言えるんだよなぁ」

「全くよ。いくら実技が失格目前とはいえ、個別も団体も4位なんて・・・」

 しかし、またしても嫌味と愚痴をぶつけられることとなった。

 同じような話題をもう一度繰り返して、さすがに話のループに疲れが見えてきた3人は夏休みに話題を変えることにした。

「あー、ところでだ。夏休み、3人でどっか行かねえか?」

「いいね、カラオケでも行く?」

「いいや、夏と言えば海だ!な、亮夜?」

「それは同意しかねるけど、海もいいね。でも、僕はあんまり家を空けたくないんだ」

「そっか。じゃあ、機会があったらメールして。楽しみにしているよ~」

「わかったよ。じゃあ、さようなら」

「・・・やれやれ」

 しかし、すぐに行くという予定は立てられなかった。

 このメンバーは亮夜を中心として成り立っている部分がある。その中心である亮夜抜きの、陸斗と高美では、少し気まずい雰囲気となっていた。あくまで「友達の友達」のような関係で、個人として特別仲がいいというわけではなかった。

 それを理解しているのか、していないのか、亮夜はあっさりと話を切って帰った。いくら彼に事情があるにしても、鈍感などと言われても仕方がないのかもしれない。




 次の日。いよいよ、今日が前期最終日である。

 亮夜はいつもよりもさらに早い、8時前に着いた。

 早速、生徒会室に向かうと、入る許可が下されたので、丁重に入る。

 その中には、4人が待っていた。

「待っていたぞ、我が同胞の仲間よ。さあ、こちらに着くがいい」

「おはようございます、会長、皆さん」

 ここにいるのは宮正だけではない。1年1組で新たに書記として加わった冷宮恭人の他、同じく書記の大平武則、会計の桐谷颯樹もいた。だから、亮夜はあくまで会長として扱うかのような挨拶をした。

「久しぶりだな、亮夜。この私とここで話すことを光栄に思うがいい」

「よくきたな、さ、早く着きなよ」

「待っていたよ、これで全員かな、雷侍さん」

「全く、宮正と呼んでいいと言っているのだぞ、颯樹。・・・ああ、これで全員だ」

「じゃあ、残りの二人は忙しかったということですか」

 席についた亮夜がぽつりとつぶやいたセリフに、恭人を除いた3人は「あっ」という顔を浮かべる。

「・・・また、花子を呼ぶのを忘れていた・・・」

「・・・ホント、影が薄いよな・・・」

「・・・どうしていつもこうなるのでしょう・・・」

「だからこの私に任せておけばいいものを、宮正会長が見栄を張るからではないですか」

 どうやら、副会長の佐藤花子をこの予定追加に呼ぶのを忘れていたようだった。__ちなみに同じくここにいない書記の唐沢佐紀は、めんどうくさいという理由で、1次会も、2次会も拒否した。

「お前と亮夜君は少し因縁があるようでな・・・」

「ないといえばウソになりますが、少々面白い奴だと思っていましてね。この私にこんな評価をさせるとは、大した奴ですよ」

 宮正の何気ない発言から始まった、恭人の亮夜への高い評価は生徒会メンバーに強い関心を抱かせた。

「恭人から聞いたぞ。あの冷宮恭人に一矢報いたという話ではないか」

「これは驚きましたよ。期末試験では、実技で2位に大差をつけていましたから」

「颯樹先輩、そういうことはあまり言うことではありませんよ。ですが、この私の実力を示すにはちょうどいい指標でしたけどね」

「相変わらずだな、冷宮は。今度、俺とやるか?」

「面白そうですね。休みが明けたら、膝をつけて差し上げますよ」

「上等だ。先輩を敬う重要さをたっぷりと教えてやるよ」

「これでも武則先輩は尊敬していますよ」

「だったら、その偉そうな態度をやめろ!」

「二人ともその辺にしておけ。あくまで、祝いの場であるぞ」

「すまん」

「私としたことが・・・」

「ああ、すまんすまん。最近、恭人の奴が何かと苛立っているようでな」

「当たり前だ!この私が、亮夜にあと一歩の所まで追い詰められたのだぞ!この賢い私が!いくら1位とはいえ、これでは満足できないわ!」

 そんな会話を聞いて、亮夜はおおむね事情を察した。

 実技、知識、共に学年1位を出したのは、恭人だ。さらに総合の知識でも、総合30位に入っている。1年の1位としては申し分ないどころか完璧と言っても過言ではない程の成績だった。

 だが、知識の2位は、大半が亮夜だ。中には、点差がごく僅かな科目まであり、恭人は正答率90%程度だったということもあって、ナンバーワンを常に目指す恭人としては、不愉快な気持ちになっても仕方のないことだった。

 最も、この二人が知識において、かなりの点数で2トップをとった。つまり、上級生・上位組でも彼らに負けているのも少なくなかった。例えば、同じ生徒会の武則は、恭人どころか、亮夜に負けている成績も多く見られた。

「とはいえ、恭人は2つ前の我より優れたものよ。それに引き換え、武則の筆記は・・・。我が仲間としてちょっとばかし呆れるばかりではないか」

「それは・・・。難しい以上に、冷宮が凄すぎるんですよ!」

「当然だ。この冷宮恭人様はいずれ不可能を可能とする男となるのだからな。さて、そろそろ普通の話に戻しませんか?途中から愚痴にしかなっていませんよ」

「冷宮君の言う通りですよ。大平君も楽しみましょう」

「よし、そろそろ始めましょう会長!」

「そうだな。よし、これより本格的に始めよう!」

 雰囲気の悪そうな流れが続こうとしていたのを、恭人に応じて修復していく。それに合わせて、宮正の号令により本格的に始まった。

「一次会だからゆるく行こうか。我は恭人や亮夜といった面白い奴に会えたのは喜びであったな」

「奇遇ですね、会長。私も亮夜と会ったのは、一つの発見だと思っていますよ」

「お二人ともありがとうございます。僕もあなたたちと会えて、友好的な関係に近づけたことを光栄に思っています」

「なんだよ、皆して出会いの思い出か?俺は、期末試験で実技1位を出せたことだな!」

「僕はそうだな・・・。ある研究に手を貸したことかな」

 こんな感じでそれぞれが思い出に盛り上がっていく。

そんな中、颯樹の発言は全員が注目を集めた。

「け、研究!?颯樹、我にそのようなこと一言も!?」

「すみません、宮正さん、今まで口封じされていたもので。ですが、少し前にようやく情報の最低解禁が認められたので」

「それは興味深いですね。一体何なのですか?」

 少し顔を伏せて颯樹は考え事に沈んでいったようだ。さりげなく宮正を名前で呼んでいたが、宮正は衝撃発言に惑わされて、リアクションを起こせなかった。

「新たな魔法の発見とだけ言っておきましょう。今度の魔法学会公表にも目玉として公表されます」

 全員から感嘆と驚きの声があがる。

 続けて、颯樹は複数のチケットを見せた。

「ここに特別招待枠のチケットが6枚あります。追加でもう2枚くらいなら出せそうですが、どうしますか?」

 新たな魔法の発見は、それは言葉通りの簡単な意味ではない。

 今も、様々な魔法をアレンジ・改良といった形で新たな魔法として出されている。

 だが、魔法学会で挙げられる新たな魔法というのは、今までの定説に加わる、もしくは覆す程の大ニュースである。

 例えば、10年前に幻とされていた「ユニゾン魔法」を現代において証明したことは、当時は衝撃的なことであった。

 二人以上の魔法師が精神的、あるいは肉体的に合体して、2倍以上を遥かにこえる力で魔法を扱う現象を「ユニゾン魔法」と呼ばれていた。

 伝承にしか存在しなかったこの魔法を、発表者、季利充也博士が証明した。

 これにより、魔法師の魔法領域に「合体」という新たな可能性が生まれた。

 現状、これを扱える魔法師は誰一人いないのだが、それでもその3年後に、この理論を応用した魔法自体を合体させる「合体魔法」の実在と運用に繋がった。

 それに匹敵する発表が、次の魔法学会公表で公表される。

 しかもそれを、特別招待として見ることができる。

 魔法の知識に精通している者ならば、喉から手が出る程、欲しいものであった。

 当然、宮正、恭人は次々と手を上げ、颯樹は二人にチケットを渡した。

 チケット3枚を懐に残して、(自分用とここにいない二人のためにだ)武則と亮夜に尋ねた。

「後で渡すことになりますが、舞式君、君は行きたいですよね?」

 確かに行きたいという気持ちは本物だ。

 だが、事が事だ。自分だけでなく、妹の夜美も行くべきだと亮夜は思っている。

 しかし、いくら知り合いの先輩とはいえ、知り合いの妹のためにチケットをねだるのは図々しいと思っていた。

 それに、そんな重大なことなら、メディア的にも露出が激しいに違いない。

 間違いなく目立つ特別招待枠で、二人で見ていれば、あの一族に見つかる可能性は無視出来なくなる。

 そう考えて、亮夜は返事を返した。

「お気持ちはうれしいですが、一般枠で参加しようと思います。武則先輩や知り合いに声を掛けてください」

「言っておくが、俺は行かねえぞ?」

「分かりました。ですが、一般チケットは後でお一つ差し上げましょう。所で大平君、今回は生徒会皆で行くことにしたと、会長が言っていますので」

「分かったよ、たく・・・」

「ありがとうございます。楽しみに待っています」

 結果、颯樹の衝撃ニュースに話題をほとんど持っていかれることとなった。

 話が一段落ついた頃、もう一般生徒の集合時間となっていた。

「あ、もうこんな時間です。すみません、色々ありがとうございました」

「礼には及ばぬ。また会おう、我が同胞よ」

「じゃあな、亮夜。次は壇上で私の雄姿を見せてやろう」

 亮夜はメンバーに挨拶して、生徒会室を去った。




 終業式は、特に問題なく終わった。

 夏休みの注意や前期の思い出などを振り返り、皆の期待はこれとなく高まっていた。

 それは、亮夜や生徒会なども例外なく、次のステップへ進むこととなった。




 そして、夏休みはこれから始まる。

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