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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第2章 vacation
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1 試験への試練

 4月。トウキョウ魔法学校にある一人の男子生徒が入学した。

 彼の名は舞式亮夜。

 最低ランクの10組に入学した彼は、持ち前の知識と技術を駆使して、どうにか過ごしていった。

 4月の後半、魔法師友好会を通じて、1組のトップ、冷宮恭人と知り合い、少しずつ地盤を築いていった。

 亮夜の目標は、決定的な立場を手に入れ、あの一族を見返すこと。

 その野望を胸に秘め、今日もまた、亮夜とその仲間の生活が続く。

 そして、亮夜達が入学して、3か月が経とうとしていた。

 7月に入り、魔法学校になじみ始めてきた新入生。そして、魔法学生にとって、第二の大きなイベントが待っていた。

 それは、第一期末魔法試験。

 魔法に関連するあらゆる分野から出される問題を回答していくという、この学校内において勉学・試験を課せられる場面では、特に重いものであった。

 上級生たちは、この試験はとてつもなく難しいと言う。その余波は、大半の1年生たちに少なからず影響を与えていた。

 例えば、亮夜のいる10組。この噂によって、焦りを生んだことで、毎日のようにちょっとした問題が起きていた。




「舞式君~!」

 その声を聴いて、亮夜はまたかとため息をつきたがっていた。

 亮夜は、10組のクラス委員長だ。つまり、管理責任や監督といったことを求められる。クラス内の風紀などを保つのも亮夜の仕事__と、大半の生徒は思っている。

 だが、既に「いつもの」で処理できるほど頻繁にこんなことが起きていて、周りは亮夜に頼るのが当たり前になっていた。

 一方、肝心の亮夜は、こんなことで問題を起こしている仲間達に呆れたくなっていた。

 劣っているから、別の何かが優れているとは限らないものだが、この様を何度も見ていると、1組などの上級組とは、別ベクトルでダメではないのかと、本気で考えていた。

 しかし、もめ事を起きているなかで、見過ごすことはできない。役割的にも、使命的にも。今も、二人の男子生徒が組み合っているのを、止めさせなければならない。

 次の授業の準備をしていた亮夜は、席から立ちあがり、二人の男子生徒を止めに向かった。

 二人の手を強く握り、力ずくで引き離す亮夜。

 たちまち、亮夜にもう一組の拳__本人たちは気づいていないが、組んだままだった__が襲い掛かるが、すぐにつかみ直して止めた。

「どういうことか、理由を話してほしい」

 亮夜のその言葉により、ようやく二人は冷却されたようだ。

 この二人が言うには、試験への不安を馬鹿にされたことによる逆上だった。

 似たようなパターンが多く、本気で何か対策を立てた方がいいと亮夜は考えつつも、二人へ処分を言い渡す。

「二人とも、お互いの席に戻るんだ。試験に不安を抱くのは当然のことだから、共に気にしすぎないでいたほうがいい」

 何かバツの悪そうな顔を浮かべながらも、二人は共に席に戻った。

 亮夜も、用事が終わったとして、席に戻った。




 放課後を迎える前にもまた問題を止める事態になり、精神的にかなり疲れた亮夜は一刻も早く帰って妹に癒されたかったのだが、早々に帰ることはできなかった。

 今日は6月冒頭以来のクラス会議だ。

 定期的にクラス内の様子を報告して、方向性を打ち立てていくのが基本的な方針だ。

 だが、10組の亮夜の報告は、塵積もった不安に大きな影響を与えたのだった。

「どこのクラスも同じようなものか・・・」

 そう呆れた口調で呟いたのは、1組の楼次だ。

「俺の所も、向上心が強すぎるからか、度々喧嘩を起こしていてな。仲裁するのも大変なのだ」

 老成しているように見える彼からも苦労している言葉が出ると、他のメンバーも揃って同じようなことを考え、溜息を吐いた。

「これは何か対策をした方がいい。異論はないな?」

 楼次がそう言うと、残りの9人も頷く。

「俺は、あまりに試験に意識しすぎているのが問題だと思う。絶対に勝ちあがるという意識が、他の奴を蹴落としてまで上位を狙おうとしているのだろう」

 この指摘は、上位組に深い共感を与えた。程度の差はあるが、より上位を目指すという意識が、他者を蹴落とすという形で表れていたのは、上位組にとっては感じ取っていたものだった。

「私のクラスでは、緊張からなのか、喧嘩などでストレスを解消しているように見えました」

 そう発言したのは、9組の美里香だ。

「僕のクラスも、似たようなところです。違いはありますが、試験に意識しすぎているのが問題でしょう」

 その意見に亮夜も追随する。

 普段ならば4組の礼二が突っ込んで険悪ムードになることが多いのだが、今回は4組でも問題が起きているのか、礼二の難癖はなかった。

「そうだね」

「きっとそうだと思います」

「同じく!」

「ああ・・・」

「だろうな」

「そのとおりだと思います」

「そうだと思うよ」

 代わりに既に意見を述べている3人を除いた7人が次々と賛同の声をあげた。

「そうなると、試験に対しての意識改革が必要だな。何か案のある者はいるか?」

 方向性を定めたのはいいのだが、肝心の対策案は出てこなかった。

 いや、ある程度の案は出たのだが、決定的に有効とは言えないものであった。

 レクリエーションで楽しんでストレス解消(9、7、6組のアイデアだったが、予算と人員の問題により却下)、試験内容の詳細の開示(10、8、2組のアイデアだったが、学校の許可が下りそうにないので却下)、勉強会(10、3組のアイデアだったが、クラスの確執により却下)といったように。

 結局、決定的な打開策は見つからず、最終下校時間(午後7時)まで目一杯残ることになった。




 帰る時、亮夜は夜美に先に食事をとっていいと連絡を送った。それでも大分待たせたことに強く罪悪感を覚えていたこともあって、いつもの倍近い速さで帰った。

 だが、家について、リビングに向かうと、二人分の食事が用意してあった。

「遅くなるから、先に食べていいと言ったのに」

「お兄ちゃんはもっと遅いと考えたら、先に食べるなんてできないよ」

 結局、夜美は兄のことを想って、わざわざ待っていてくれたのだ。

 急いで帰ろうとしてよかったと考えつつ、亮夜はいつもより遅い夕食を摂った。

 この後の準備を済ませて、亮夜は遅くなった理由を夜美に話し始めた。

「ふーん・・・それは大変だね」

「全くだよ、思った以上に自分をコントロールするのは難しいみたいだね」

「とてもじゃないけど、お兄ちゃんの言うことじゃないよ」

 夜美の思わぬツッコミに、亮夜は怯んでしまう。

 ケースこそ違うが、亮夜の無意識下にあるトラウマの束や、夜美への愛などを考えると、自分をコントロールできているとは言い難いからだ。

 最もそう突っ込んだ夜美も、亮夜に対しては、とても説明し難い__本当の意味で説明するのが難しい__程の複雑かつ深い感情を抱いており、亮夜とも違うベクトルで、コントロールできているとは言えなかった。

「・・・そうだね。思った以上に無理難題のようだ」

 夜美にも当てはまっていることに気づかず__それどころか、夜美本人でさえはっきりと意識していなかった__、白旗を夜美と問題にあげることにして、話の矛先を変えた。

「でもさ、お兄ちゃんは、クラス委員長でしょ?お兄ちゃんのクラスだけなら、お兄ちゃんが演説でもすればなんとかなるんじゃない?」

 しかし、妹の意外な意見に、またしても一本とられる形になり、亮夜はポカンとした表情を夜美に晒した。

 そして、遂に打開案が閃いた。

「それだ!でかしたぞ、夜美!これならいけそうだ!」

「本当!?」

 兄がはしゃいだかの如く、急に立ち上がったのを見て、解決できそうだと思った。

「良かった・・・」

「夜美のおかげだ。いつも助かるよ」

 そして、亮夜からお礼をもらったことで、この話は終わりとなり、もう夜の九時が近いので、二人は寝ることにした。




 次の日、たまたまあった学級会議__俗に言うホームルーム(HR)のことだ__に、亮夜はクラス委員長として、演説を始めた。

「皆、クラス委員長として聞いてほしい」

 亮夜は教壇に立ち、そう宣言して注目を引く。始まるまでわいわい喋っていたクラスメイトたちもクラス委員長が話をするのを見て、一部の不真面目な生徒を除いて、前を向いた。

「皆はこれから期末試験があることを知っていると思う。先輩や同級生たちから、難しさを聞いて不安になっている人もいると思う。でも、よく考えてほしい。今、試験を乗り切るのに必要なことは何だと思う?」

 一旦区切って、様子を見る。その中には、亮夜を真剣な眼差しで見つめる人物が数多くいた。上手くいっていると心の中で思いながら、亮夜は次の言葉を続けた。

「勉学や魔法に励むことだ。苛立ちを周りにぶつけても、何も解決することはない。大事なのは、よりよい成果を出すために、努力して、確かな手ごたえを得ることだ。自分の力を信じられる分だけ信じてみてくれ。必ず出来る部分がある。それが分かっていれば、焦る必要なんてないんだ。できることが出来ているなら、心配する必要はない。だから、できる所だけでいい。自分に自信をもってくれ!」

 その演説が終わると、一同から拍手が送られた。

「そうだな、俺は魔法学なら得意だ。俺ならできる!」

「私も、火の魔法なら大丈夫!」

「僕は、ええと、正確に魔法を使うことなら、平気かな・・・」

「私は、パワーなら、問題ないかな」

「ありがと、舞式!おかげですっきりしたぜ!俺の早撃ちで、高得点をとってやる!」

 ・・・そんな感じで、10組は大盛り上がりだった。

 亮夜としても、ここまで効果があるとは思っていなかったようだが、目的自体は果たせたのでよしとした。

 この発言は、10組にとって大きな希望となり、10組の活力は大きく増した。

 そのおかげで、以後はクラス内部のトラブルも起きずに、やる気に満ち溢れたまま、クラスの雰囲気は維持された。


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