表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第9章 tour
106/121

11 来たるべき終焉を

 その時、世界中で異常事態が次々と発生した。

 謎の怪波動により、世界中のほとんどのものに影響を与えた。

 通信など、電波や振動を使ったものはもちろん、世界の自然そのものにも、強い影響を及ぼした。

 生物は、倒れるか、突然変異を起こすものが続出。

 あるところでは、津波が起き、地震が発生し、火山が噴火。

 またあるところでは、猛烈な吹雪が起き、雷が落ち、台風が発生。

 まるで、世界の終わりが来たかのような天変地異に、どこもかしこも、大パニックに襲われていた。


 それが、キョウトにおいて、正体不明の魔獣が誕生した影響だった。




 その産声は、とても誕生した__現れたともいう__直後とは思えないほど、おぞましく大きな声だった。

 司闇の連中でさえ、恐怖を見せ、夜美に至っては、威圧感だけで、尻餅をついてしまった。

「な・・・なんだ、アレは!?」

「おい、誰でもいいから応答しろ!・・・応答してください、華宵様、深夜様、逆妬様!・・・だめだ、通信が使えない!」

「まじでやべーぞ、こいつ!」

 全員が目に見えて動揺する中、夜美は感情の限界を超えすぎた結果、ロクに反応することが出来なかった。

 もし、普通に機能していたら、この男たちと同じく、恐怖に震えただろう。

 少しおかしかったら、この男たちに八つ当たりしていたかもしれない。

 もっとおかしかったら、魔獣と化した亮夜に、歩んでいたかもしれない。

 まるで、映画を見ているような、あるいは、幽霊として、ただ眺めているだけの感覚だった。

「・・・誰か、援軍を呼べ!」

「俺が行く!」

「いや、だめだ、一人はここに残らないと、コイツらの対処どうすんだよ!」

「じゃあ、お前残れよ!」

「嫌だ、お前が残れ!」

 保身故に、非常に醜い争いをしている中、魔獣が男たちに襲い掛かった。

 大きさは、成人男性より一回り大きいくらいだが、黒紫に染められた色は、見ただけで恐怖心を煽る。赤色に光る目、髪の代わりに生えている角、手や足から生えている爪、口から生えている牙、背中から生えている翼。どれをとっても、この世の生物とは思えない、異常さが引き立っている。

 その魔獣が、男たちに一瞬で詰め寄り、爪を振り下ろした。

 脳天を貫かれた、あるいは、腕で吹き飛ばされるか、押しつぶされた男たちは、一瞬で絶命した。

 返り血を浴びた魔獣は、それに応じて、再び咆哮する。

 同じく返り血を浴びた夜美は、ようやく意識が戻り始めた。

 といっても、根性で動いているという状況は変わらず、現状、立ち上がることもままならないが。

(お兄ちゃん・・・)

 声にも出せない中、さらに予想外の出来事が発生した。

 司闇一族のメンバーが次々と現れた。

 しかし、彼らでさえ、その強さをあざ笑うかの如く、次々と死体に変えられた。

 その死体が50人を超えようとする中、司闇の血族の一人、華宵が現れた。

「これは・・・一体・・・?」

その華宵でさえ、この状況には、絶句する他なかった。

まるで、伝承に出てくるような化け物が、この場に現れているのだ。

しかも、自分たちの部下が死体の山となっている。

華宵がどうすべきかと悩んでいると、魔獣が華宵たちに襲い掛かった。

さすがに、華宵直属の部下だからなのか、既に死んだ男たちのような失態は犯さず、辛うじて回避に成功する。

とはいっても、衝撃で怯んだメンバーもいる上、魔獣が腕を振り下ろした後には、それなりの穴が出来ていた。

(これは想定外すぎるな・・・!)

 華宵は、この状況をイレギュラーと判断した。さすがに目に見えて動揺していないものの、胸中には明らかに焦りが目立つ。普段の冷静な態度を崩しているほどに。

「今すぐに撤収準備!深夜に命じて、逆妬を連れて帰還せよ!」

「華宵様は!?」

「私は奴を足止めする!」

「危険すぎます!」

 華宵直属の部下は、華宵の本質をよく知っている。一見、クールに見えて、その実、かなりの仲間想いであるという本質を。

 想像にも及ばないほどの相手に、上司一人をみすみす行かせるわけにはいかないと、部下たちは本気で思っていた。

 だが、

「いいから行け!」

 華宵の命令を優先して聞くほどには、部下の聞く耳はよかった。

 我先にと撤退を始めた部下に背を向けて__死体回収は最初から諦めていた__、華宵は魔獣に単身、立ち向かった。

 まず、魔獣が目の前に一気に接近して、華宵に襲い掛かる。

 華宵は、バックステップで、難なく躱した。

 直後、魔獣から、触手みたいな何かが生えてきた。

(魔法による攻撃か?)

 華宵はそのまま宙返りで強引に回避し、ナイフを腕につけた。

 ここに来るまでで、魔法の行使が不安定であるということは、部下ともども、既に知っていた。

 おそらく、魔獣の存在による影響だと、華宵は分析していた。

 しかし、魔法以外の武器は、大した物を持ってきていない。

(これで時間を稼ぐ)

 ナイフを構えた華宵は、魔獣に突っ込んだ。

 勝てる可能性が低すぎるということを、自覚していながら。




 華宵に指示され、先に撤退した部下たちは、便宜上の拠点にしてあった、キョウト・サウス・ウィズザード・ホテルに足を運んだ。

「お前達、無事だったか!」

「華宵様からの命令だ!今すぐに、我々は撤退せよと!」

「なっ!?華宵様は、そこまでこの状況を危険視しておられるのか!?」

「ああ、現在、一人で足止めをなさっている!今すぐに、逆妬様と深夜様にこのことをお伝え」

「聞こえているわよ」

 部下たちがホテルのロビーに待機していたメンバーと大慌てで話していた中、深夜が姿を現した。

「深夜様、いつからそちらに」

「どうでもいいわ。華宵姉さんがそう指示した以上、我々に残っている理由はない」

「ですが・・・」

「この状況で、アイツの捕獲を優先するつもり?私たち「司闇」は無敵であっても、不死でないことを忘れているの?」

「それは・・・」

 冷静な深夜の発言に、部下たちは深夜と華宵の判断が正しいと絶対的に認めた。

「私は逆妬を連れてくる。アンタたちは、捕まえた奴らを輸送する準備を大急ぎでしなさい」

「はっ!」

 逆妬は、華宵直属の部下たちがやってくる直前に、重症であるにも関わらず、単身でこのホテルにたどり着いた。

 その頃、部屋に閉じこもっていた深夜は、異常事態に応じるかの如く(対応すべきと言うべきかもしれない)、メンタルが十分に回復して、そのまま部屋で休んでいた。

 部下からの呼びかけにあっさりと応じて、逆妬を個室まで連れて、回復させていたのだった。

 だから、逆妬を探す必要はなく、すぐに連れていく準備をすることが出来る。

 深夜の指示により、ホテルに集まった司闇一族が動き出した。




 その頃、司闇一族に脅されていたトウキョウ魔法学校の修学旅行生たちは、異様すぎるこの状況に、戸惑いを隠せずにいられなかった。

 突如、正体不明の悪寒を感じた直後、司闇の連中の大半がこの場を去った。

 睨みを利かせている以上、便乗して逃げるわけにはいかなかった生徒たちだったが、戻ってきた司闇の男が何かを話すと、全員が離脱を始めた。

「皆、無事か!?」

「いえ、冷宮君と次元君とその他数人と、あと・・・」

 先生が確認をとると、1組の実質的なサブリーダー的な立場となっている遠藤珂美が、メンバーの欠損について報告した。なお、実質的というのは、生徒会に所属という意味で、単純な実力ならば、次元楼次の方が上である。

 亮夜は言うまでもないが、恭人はいち早く飛び出した後、そのまま行方をくらました。また、亮夜捜索のために、楼次を含めた何人かが駆り出され、そのまま連絡はつかない。ここに残っているのは、運よく人質にされていた人物たちだった。

「舞式亮夜君か」

「・・・あの人たちの話、本当でしょうか?」

 生徒の中には、亮夜の起こした悪事__と捏造されている__について、半信半疑だった者も少なくない。単に、力で脅されたというべきだろう。

「分からん。だが、何より、この状況ははっきり言って異常だ」

 その状況は、生徒たちどころか、一般人でさえわかるほどのものだ。

 突如、暗雲が立ち込めるようになったと思えば、地震が異常な頻度で発生しているわ、間欠泉が噴き出すわ、豪雨が発生するわ、雷が落ちるわと、どう考えても異常としか思えない。

 生徒たちがパニックに襲われていないのは、ここまでのトラブル地獄で、疲れ切っているという事情が間違いなく大きい。

「とにかく、俺が言えることはただ一つだ」


「生きろ!」


 その言葉を最後に、生徒たちにまともな会話がなかった。




 世界の終わりを目の当たりにしているようなこの状況下で、夜美は姉である華宵と、魔獣との対決を見詰めていた。

 さすがの華宵も、攻撃を受け止めることなど出来ずに、辛うじて回避するのがやっとだった。

 数回だけ、ナイフで攻撃することに成功するも、まるで手応えがない。

 切り口から、即座に紫色の液体が噴き出して、再生される。

 華宵の足は、明らかに鈍っている。

 だが、1分は持たせられたおかげで、生き残っていた部下たちは全員、離脱に成功していた。

 華宵は既に、離脱する隙を伺う段階に入っているが、とても逃げられる雰囲気ではない。

 魔獣の気迫は言うまでもないが、魔獣から発生していると思われる波動が、魔力のオリジナルともいえる精霊に、かなり強い影響を与えているのだ。

 つまり、魔法の支配を実質的に行えるということであり、この力から逃れられない限り、魔法を発動させることは出来ない。

 それが原因で、華宵は上手く離脱することができないのだ。

 そんな中、魔獣が華宵に詰め寄り、腕を振り下ろす。

 華宵は、魔獣の攻撃に直撃した。

 何と、200メートル近く吹き飛ばされたにも関わらず、腕を使って、宙がえりして受け身をとった。

 そして、華宵は姿を消した。

 この一連の動きは全て、華宵が狙ったものだった。

 イチかバチか、魔獣の攻撃を利用して、大幅に距離をとることを狙い、そのために、腕のベクトルが下向きになる前に、わざと攻撃を受けたのだ。

 どれほどのダメージかは想像を絶する__少なくとも、大出血といくつかの骨が折れていることは容易に想像できる__が、それにも関わらず、受け身をとって、敵の支配下から逃れた。

 華宵が戦線を離脱したことにより、残るは夜美のみ。

 夜美の意識には、辛うじて、戦闘意識が蘇っていた。

 だが、使える魔力の余裕はほぼなく、疲労も尋常ではない。

 この状態では、狙われた直後に、倒されてもおかしくない。

「お兄ちゃん・・・」

 夜美は、あの魔獣が、亮夜の成れの果ての姿だと思っている。

 魔力が暴走を起こして、彼を構成する要素のほとんどが崩壊したと思っている。

 それでも、夜美はまだ、あの魔獣が、亮夜だと信じていた。

 しかし、今の亮夜に、言葉は届かなかった。

 代わりに返ってきたのは、魔法による波動。

 なすすべもなく仰向けに倒れ、更なるダメージを負った。

 しかし、ここで夜美にとって、予想外のチャンスが訪れた。

 周囲に散らばっていた魔力が、自然に吸収することが出来ていた。

 兄妹だからなのか、単なる偶然なのかは分からないが、思いがけない転機とは言えた。

(この力・・・!)

 後は、立ち上がる気力さえあれば__。

 幸い、すぐに立ち上がることはできた。

(お兄ちゃんのため・・・!)

 今、亮夜は苦しんでいると夜美は直感していた。

 悪意に敏感である夜美は、亮夜が悪意に支配されていることを見切っていた。

 おそらく、自分が酷い目に遭わされそうになった時、封印していた人格と力が目覚めてしまったのだろう。

 姿が変わるほどの魔力と悪意であったのは想定外だが、そのことは、夜美を止める理由とはならなかった。

 亮夜を救うため__。

 その意識が、今の夜美を立たせていた。

(行くよ・・・!)

 しかし、夜美の決意は、あっという間に崩された。

 亮夜がいきなり夜美に突撃し、爪で抑え込もうとしたのだ。

 掴まれる直前に抜け出したが、僅かに当たった頭から、血が流れた。

「ゲホッ!」

 大きく隙を晒すことになったが、亮夜からの追撃はない。

 その間に、どうにか態勢を立て直し、再び魔法を放つ準備をする。

 その直後、再び亮夜が襲い掛かった。

 今度は、かす当たりもなく、回避に成功した。

(あんな攻撃、一度でも受けたら終わる・・・)

 改めて感じた事実に、夜美は全てを諦めた意思を含んだ溜息を吐きそうになったが、そんなことをしている余裕もない。

(でも、どうにかして止めないと、お兄ちゃんも、あたしも・・・)

(・・・もし、あの時のステラと同じなら・・・)

 一切、気を抜かないでいる中、夜美は一つの可能性を見出した。

(・・・でも、失敗したら・・・)

 しかし、ここにいるのは、夜美一人。

 そして、相手は、未知の力を手に暴れている亮夜。

 仮にここで失敗してしまえば、今度こそ、未来は消える。

(・・・いや、やるしかない)

(逃げても負けなら、どんな手を使ってでも、止める)

 夜美はこの相手に立ち向かう覚悟を決めた。

 そして、再び亮夜が襲い掛かった。

 今度は、爪と身体の間に潜り込んで、内側に向かって回避した。

 それと同時に、夜美は亮夜の身体に手を伸ばした。

 触れた手は、業火に焼かれるような痛みを味わったが、離すわけにはいかない。

 そのまま、亮夜の正面に回り込み、腕を抑えようとした。

 しかし、亮夜の方が力は上だ。

 なすすべもなく、腕を振り下ろされ、爪が夜美の身体に食い込む。

 今すぐにでも気を失うような凄まじい痛みを感じたが、気絶することは許さなかった。

 むしろ、亮夜と完全に密着できた状態となり、夜美の狙いからすれば、好機と言えた。

 夜美は、ありったけの魔力を、亮夜に直接注ぎ込んだ。

 今の亮夜を、構成する要素を破壊するかの如く。

 しかし、亮夜も次々と魔法による刃を仕掛けた。

 無論、尋常でないダメージではあるが、魔法を少しでも崩すことは許されない。

 気力を振り絞り、引き続き亮夜に魔力を注入する。

 あまりに深く、巨大な力であったが、夜美は止まらなかった。

 さらに、亮夜本人の攻撃が、夜美にとっては、反撃の足掛かりにするには絶好のチャンスと繋がっていた。

 うまく内側に潜り込むことに成功した夜美は、そのまま自身の魔力を拡散させた。

「ウウ・・・」

 亮夜から、うめき声が聞こえ始める。

 それと同時に、亮夜の力がさらに増し、翼によるものなのか、魔法によるものなのか、少しずつ宙に浮き始めた。

 夜美の意識は今にも消えそうであったが、まだ魔法を行使することができた。

(もう少し・・・!)

 亮夜を支配する魔力が弱まり、少しずつ、彼を化け物とした魔力が解放されてきた。

 物理的な力も弱まりはじめたが、それと同時に、亮夜から放出される魔力が、夜美を蝕む。

 内臓から、内側から、焼き尽くされる感覚を受けたが、もはや止まることは出来ない。

(はああああああ!!)

 目すらまともに見えない今、もはや自棄になったのか分からないレベルの気合で、夜美は魔力を亮夜に注入しきった。

 そして、亮夜を構成する肉体が弾け飛んだ。

 いや、亮夜を支配した魔力が弾け飛んだ。

 亮夜は本来の姿に戻った。

 辛うじて映った姿は、亮夜がいつものように、自分に手を差し伸べる姿が視えた__。

(よか・・・った・・・)

 それと同時に、役目を終えたかの如く、夜美の意識はこと切れた__。




 何かに支配されたかのような感覚から、ようやく解放された。

 しかし、すぐさま落下した。

 そして、吐血。

 もはや、命は長くないと錯覚するほどだった。

 意識が戻りつつある中、夜美が目の前で、いや、自身の上で倒れていた。

 頭や身体の大部分から血が出ており、肌には大量の傷と火傷の跡があり、あきらかに致命傷と言えるものだった。

 だが、自身も異常レベルの致命傷だと感じていた。

 どうにかすべきと判断しても、使えそうな道具はまったくない。

 手はほとんど動かせず、そもそも、道具はほとんどが散乱していた。

 ふと、直接病院に連絡するという手段が思いついた。

 魔法がまともに使えないという普段のハンデも意識せず、亮夜は魔法による再現を始めた。

 しかし、不自然なほど、ショックは発生せず、すんなりと再現が終わった。

 魔法による信号を、キョウトにある病院に送りこんだ。

 それと同時に、再び吐血。

 夜美を抱き寄せようとするが、壊れた身体では、それすら許さなかった。

 持ち上がることも出来ない手は地に堕ち、意識は地獄へと沈んだ。


 何一つない、形用も出来ない、謎の世界へと、迷い込んだ。


 10月1日、この日、現実世界から、亮夜と夜美の魂は消えた。


[続く]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ