最低女は出会ってさらに最低な女だった
俺が体を売ったことで、クライントの気落ちを動かし、俺はなんとかバンドShinneylineのベースメンバーとしてデビューが決まった。
話したこともなく、会ったこともないボーカルの女を最低だと思っていたのに、実際一緒にバンドを組んで、仕事をしていても不真面目な態度でバンドに挑んでいるあの女を本当に最低人間としか思えなかった。
男をたぶらかすことしか考えず、自分の声に自信を持って、まともな練習をしない。
本気で殴ってやろうかと思った。
「どうしたんだよお前!!さっきも女にまで手あげようとして」
「あんなチャラチャラした女、なんで入れたんだ!?」
「まあまあ、なんとかなるっしょ?。俺たちがデビューするにはあの子が必要不可欠なのはどうしようもないことだし。なんだかんだ言って、めちゃいい声してんじゃん?」
「気に食わない…歌えるからって不真面目にやりやがって。どうして、こんなにデビュー前から問題が山積みなんだ…」
「そんな焦んなよ。始動したばかりなんだから。まあ、こんな小さい問題よくあるって。さっきのお前の怒りで、あの子も少しは頭冷えたと思うよ」
「時間がたりない…」
この居場所をくれた親友登也のために、俺はなんとしてでもこのバンドをのし上げたかった。
でも、俺には時間は限られている。残酷に時は過ぎていくようで、時計の刻む音が、心臓の音と重なる。
「なんかまたやばいこと考えてんだろお前…?なんかあの社長に言われでもしたか?」
「別に何もない…」
登也も含めて、みんな言う。あの女の生まれながらの才能を。
立っているだけでも華やかなスターのような圧倒的なオーラを放ち、音を自由自在に操る。曲を何色にも染め上げる表現力。花火のように、パンチの利いた高い声。
しゃべるときの甘ったるい声も、オーバーで自信満々な動作もすべてが気に食わなかった。
どうしてこの世の中には、挫折も苦労も知らず、幸せいっぱいに生きているやつがいるんだろうか。その笑顔も、自信もすべて打ち壊したくなる。
「ねえ、どうしてそんなにいつも練習ばっかりなの?よく飽きないよね」
努力もせずに、もともと生まれつきの才能を持ったやつに、言われたくない。
色目を使って、誰の心でもつかもうとするやつ。本当に目障りだ。
けれど、この場所を守るためには、この女さえも利用しなきゃならない。
必要あれば、その女を身を挺してでも守らなくてはいけない。
すべては、この居場所を守るために。