君を憎む理由
この世に自分が生きていることを一番憎んでいるのは、紛れもなく自分自身だった。
自分には特別な才能なんてないって、ずっと前から知っていたはずなのに。
もしかしたら、この場所にいれば何もかも変わることができるかもしれないと始めたバンド。初めて、その時無二の親友ができた。
「俺たちメジャーデビューするってよ!!」
これで、やっと俺は人として生きていける才能を持つことができる。日の当たる場所に出られる。
そう思っていたはずだった。
「ユリの声に君のベースは合わない。君はそれほど大したうまいわけでもない。世の中には君くらいの能力なんていくらでもいる。でも、ユリの声は違う。天から授けられたような宝物だ。君には外れてもらう」
デビューすると聞いたとき、俺だけはそう社長から告げられた。
心臓の鼓動が早く打ち、目の前にもやがかかったように、鈍い鉛色のような景色が目の前に一気に広がる。
『お前には何もないんだ。必ずお前に与えてやった仕事の道を踏みにじるなら、後悔する時がくるぞ。きっと生きてはいけなくなる』
昔、こんなことを育ての親に言われたのを思い出した。
今歩いている感覚を忘れ、どこにいるかも分からず、あてもなく彷徨う。
『なんのために…』
『なんのために今までやってきた?』
『なんで俺はここまで生きてきた』
『何を求めて生きてきたんだ』
途中で立ち止まり、俺は胸を抑えて、息を吐き出すことがきず、窒息しそうになるほどに苦しみ、倒れた。
「ああ…‥死ぬのにふさわしいんだな…」
苦しいのに、笑いが込み上げてきた。
冷え切ったアスファルトの上に横たわり、声を出して笑った。
数日前に医者に宣告されたんだ。もう俺の体は5年ももたない体だと。
この時からだった。何もない自分が悪いと分かっているはずなのに、俺は生まれながらの才能に恵まれた彼女を心底恨んだ。
そして、俺は自分自身を守るために、昔の自分に戻った。
必要な金を得るため、権力を得るため、俺は権力のある女に体を売った。