第8話 セクシーとは一体何なのだろうか。
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いつもふざけている相川だが、今回は珍しいことにつまらないうえに悪質だ。無論、つまらないのが珍しいという訳ではなく、いつもよりも格段につまらないということだ。宗教勧誘の真似事など、とてもではないが、あまり面白いとは言えないだろう。そんなこと、相川にもわかっているはずだ。それなのに、何故そのネタを選んだというのか。そんなことを考えつつ、今日も今日とてやって来た相川のことを睨みつけていると、何を勘違いしたのか、相川は俺に向かって一度、魅力も何も無い変なポーズをとってみせた。恐らくセクシーな感じを出したかったのだろうが、本人のふざけた顔のせいで、ただ暇つぶしにおかしなポーズをとっている人にしか見えない。いや、それどころか公道でしようものなら、通報されてもおかしくないくらいだ。とりあえず、相川が何をしたいのかがさっぱりわからない。
「そこにいる不審者は何故俺の家にいるのか、説明してもらおうか」
「不審者とはなんてひどい!愛しい幼馴染みの顔を忘れたの?」
「言いたいことは大体分かったから鏡を見てから出直せ」
「傷ついている今、鏡を見ろ、ってことは私の顔はそんなにも癒しになるってことか!誉めても良いけど何も出ないよ?」
残念ながらナルシストに用はないため、玄関まで行くと、ドアノブを手にかけて無言で扉を指差した。だが、そんな俺の様子を気にすることなく、あろうことか部屋の中を物色していた。鼻歌を歌い、何かを探しているようだ。それにしても、どこかで聞いたことのある鼻歌だ。もしかしたら、最近のコマーシャルでやっていた曲かもしれない。何にせよ、相川の暴挙を止めない訳にはいかない。俺は相川の後方まで行くと、気づかれないように弱めにローキックをいれた。
「痛ぁ!何をするのさ!いい度胸じゃないか!表に出ろ!」
ふざけたことを抜かす相川はどうでもいいので、とりあえず羽交い締めにして玄関まで連れていく。一旦降ろすとリビングに戻ろうとする相川を阻む。しかし数秒間の勝負の末、勝ったのは相川だった。何が悲しくて俺はこんなことをしているのかわからなくなってきた。しかし、それでも相川を追い出さない訳にはいかない。負けられない戦いの火蓋が、切って落とされた。
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