第28話 馬耳東風も難しい
短いです。
時は昼前。俺と相川の押し問答の始まりである。どちらも己の意思を曲げる気などさらさらない。俺は相川に帰ってほしく、相川は俺に家に入れてほしいと思っている。この勝負、俺は相川の言うことを全て無視して鍵を閉めチェーンロックをかけてもいいのだが、そうすれば相川は間違いなく家の前で騒ぎ出すだろう。近所迷惑になるくらいに。そうなれば俺は開けざるをえない。つまり、強硬手段は取れないのである。しかしながら、相川だって俺が話を伸ばして時間を稼げば、そのうち帰らざるをえなくなる。つまり、拮抗はしても決着はつくということだ。すると、俺がやるべきことは自ずと決まってくる。相川の話を流しつつ、相川が帰らねばならなくなるまで待つのだ。その間一切家事ができないという大きなデメリットは負うが、さすがに昼飯時までには帰るだろうし、それならまだギリギリ挽回できる時間だ。相川も何か手を打ってくるはずだが、俺が有利なのはさして変わらないはずだ。俺がやるべきことは、ただ時間を稼ぐことだけだ。
さてもうそろそろ昼食の時間だが、相川は動かなかった。それどころか、俺と相川の舌戦は白熱していた。俺がいかに話を逸らし論点をずらそうとも、相川は頑として家に入り込もうとしてくる。猫は頭さえ通ればそのまま通り抜けられるというが、相川もそうなのではないだろうか。あろうことか、相川を玄関まで通してしまった。チェーンロックをかけていなかったのが原因だが、それにしても人間が通れるとはとても思えない隙間を縫ってきた。驚くのはともかく、玄関で押し留めなくてはならない。そこで、俺は勝負に出ることにした。
「玄関まで来たならしょうがない、話を聞いてやるよ。けど話したらすぐに帰れ。俺の返答に関わらずにすぐに、だ」
「絶対にお断りだね。大体こんなうら若き乙女を長時間ドアの前に放置するなんてありえないよ!玄関にくらい入れてくれたっていいのに!」
「お前は玄関に入れたらそっから普通に上がり込んでくるだろ。それに今はあんまり話がしたい気分じゃないんだよ」
というか、自分で自分のことをうら若き乙女って言うのはどうなのだろうか。うら若き乙女は、自らのことをそう呼ばないと思うが。まあそんな些細なことはどうでもいい。あとは話を聞くふりをして全て聞き流し、追い返すだけである。
「もう、君ってやつは本当に酷いね?別にいいけど。とりあえず、許可は貰ったし話はさせてもらうよ」
そう、聞き流せばいいのだ。何を言われても俺には関係ない。俺はただの一般的などこにでもいるような凡人であり、何か面倒事に巻き込まれるような奴ではないのだ。だから、相川が何を言おうと俺は無視すればいい。聞いているようなフリをすればいい。
「あの子の親がね、君と話がしたいんだってさ」
聞き流せなかった。
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