第27話 どうせなら美味しく食べてもらいたい
短いです。
ものの見事に寝落ちしてしまった俺が時計を確認すると、いつも起きる時間だった。疲れが溜まっていたのだろうか、我ながら寝落ちとは珍しい。そんなことを考えながら、朝の支度をする。主夫希望の自宅警備員は、常に気を配るのが当たり前なのである。養ってもらうかわりに、家事はなるべく完璧にするのが俺の流儀なのだ。だが、今日の朝飯は普段より簡素なものになってしまうだろう。いつも何か用意しているのを、昨日準備するのを忘れて寝てしまったからだ。それでも今日一日頑張るのに足りるほどの朝食を作れる自信はある。何度も言っていることだが、伊達に自宅警備員をしている訳ではないのだ。美味しい朝食を作ることくらい、俺にとっては文字通り朝飯前という訳だ。
朝食を美味しそうに食べる親を見送ってから、家事を再開する。ほとんど毎日とはいえ、自分の作った料理を美味しそうに食べているのを見ると嬉しくなる。特に、うちの親は美味しそうに食べるのが上手い。何を言っているのかわからないかもしれないが、事実そうなのだ。見ているこちらも美味しいのが伝わってくるというか、美味しく食べているのがわかるというか、とにかくそんな感じなのだ。これのおかげで、俺は朝食を作ってよかったと思えるのである。もしこれが実に不味そうに食べられれば、俺は朝食を作りはするだろうが少し手を抜いてしまうかもしれない。俺ができるだけ美味しい料理を作ろうと思えるのも、全ては美味しそうに食べてくれる親のおかげなのである。恐らく、仮に俺が一人暮らしを始めれば、対して料理に凝らないようになるだろう。たまにはちゃんと作るだろうが、どうせ自分しか食べないのなら出来合いのものでいい。他のものを作るついでならばまぁ作るだろうが、はたしてそんな機会が訪れるかどうか。昨日だって、節約とマーマレードの件がなければ適当に惣菜を買って食べていただろう。
そんなことを考えながら洗濯機を稼働させていると、タイミングよくインターホンが鳴らされた。まだ掃除を始めていないが、だからといって客を無視するのは論外だ。俺は少し待ってくださいと言い、早足で玄関に向かう。そしてドアの向こうにいたのはーー相川だった。俺は速やかにドアを閉めると、鍵をかけた。ついでにチェーンロックもかけておく。これでうっかり合鍵が作られていても大丈夫だ。普通そんなことはないだろうが、相手は相川だ。警戒しておくに越したことはない。だがチェーンロックはさすがに不必要だったらしく、相川はしつこくノックして開けてと喚いている。さてどうしたものか。多分というかほぼ確実に、こいつは帰れと言っても帰らないだろう。大体、この前の一件があってよくもまぁうちに来れるなと思う。どうせ用件もそれに関することだろうし、お引き取り頂く以外に選択肢などないのだが。
「ちょっと!開けてよ!せっかく私が今までのお礼にお菓子とか果物とかいっぱい持ってきたのに!」
「嘘をつくな。お前がそんな殊勝なことするわけないだろうが」
「ほんとだよ!嘘だと思うのなら見てみてよ!」
玄関から相川の方を覗くと、確かにお菓子や果物が詰まっているような袋を持っている。覗き窓越しだから確信はできないが、まあ嘘ではないと考えてもいいだろう。
「しょうがない、じゃあそれ置いて帰れ」
「君はやっぱり酷いね!?一緒に食べようじゃないか」
「絶対に嫌だね」
今までのお礼だと言うのに、自分でも食べようと言うのか。ちょっとおかしいんじゃないかとも思ったが、気にしないことにする。俺は相川を家に招き入れてはいけないのだ。一度入れば最後、こいつは俺に追い出されることはないのだから。
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