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とある自宅警備員の日常  作者: 布滝
17/33

第17話 悪循環の始まりは突然に

短いです。

 玄関から出た俺は、思ったよりも強かった陽射しに少しのけぞった。普通の引きこもりならここで家に戻ってしまうだろうが、俺は一味違う。俺は熟練の自宅警備員を自負していて、それゆえに定期的な外出を欠かさないのだ。敵を知らぬ者がどうして自宅を守れようか。それに、親に養ってもらっている身としては、出来る限りの恩返しをするべきだと考えている。そしてその大半は家事によって行われる。当然のことながら、恩返しするのに一番適切なのは働くことだ。しかし俺にそんなことはできない。多少の内職やほとんど人と接することのないものであれば耐えられるかもしれないが、大抵の仕事はそうはいかない。一応、社会不適合者として生きていくのに罪悪感がなかったわけではない。だから、過去に何度かバイトをしようと試みたことがある。しかし、驚くことに一回を除いて面接で落とされた。そして面接に合格した一回は、俺がバイトに入る三日前に店長が夜逃げしてしまった。聞いたところによると、その店は前から慢性的な赤字と人手不足に悩まされていたらしい。売り上げが減ることにより給料が少なくなり、店員の態度が少しずつ雑になっていくことでさらに売り上げが落ちる、という悪循環に落ちていたらしい。そこで、藁をも掴む思いで俺を採用してはみたものの、積み重なっていた借金に耐えられず俺が仕事に入る前に夜逃げした、ということだそうだ。勿論、俺には何の連絡も謝罪もなく、仕事初日のはずだったその日、俺は中身がからっぽの店だったものの前で不審な挙動をするほかなかった。

 俺の社会復帰を妨げることになったエピソードはともかく、相川はタクシーを呼んでくれていた。ついでにいつの間にか紙袋も持っていた。多分あれが用意してくれた菓子折りなのだろうが、今までどこにあったのだろうか。さっきまでは何も持っていなかったはずなのに。相川の四次元収納の疑いはさておき、俺は相川にタクシーを呼んでくれたことに礼を述べて、タクシーに乗った。俺達は車内で、運転手に「カップルなのか」「もしそうだとすれば釣り合ってないのではないか」などと勘違いやそれからくる悪口を受けたりしたが、そんなことに気を取られている場合ではないだろう。少女の容態がいかなるものかは知らないが、俺は非難を受けるであろう。メンタルが豆腐よりも脆い俺は、多少の罵倒にも耐えられる気がしない。事実、俺はタクシーの運転手に食らった理不尽な悪口により、俺の精神には三分の一ほどのひびが入っている。俺は深呼吸して、精神を整える。大丈夫だ。きっと、少女もこれは事故みたいなものだと思ってくれているに違いない。だが、いい方向に考えようとすればするほど、悪い想像が思い浮かんでくる。結局、俺は心の準備ができないまま、病室の扉を開くことになった。

お読みいただきありがとうございました。

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