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とある自宅警備員の日常  作者: 布滝
16/33

第16話 偶然は疑問の母

短いです。

 俺は、その回答に驚きはしなかった。大体予想はついていたし、聞く必要もやはりなかったからだ。しかしそんな俺の態度が気にくわなかったのか、相川はまたしても不満そうな表情になってしまった。こいつは自己承認欲求が強い3歳児かなにかなのだろうか。しょうがないので、他のことを尋ねてみることにした。

「お前がどうやってその病院の場所を知ったのかはわかった、じゃあどうやってその事故を知ったんだ?」

これに関してはまあまあ気になっていた。普通なら、俺が原因という話になったかはさておき、俺は探されているだろう。そして、少なくとも相川よりは早くその事故のことを知っていただろう。さらに言うなら、かの少女が俺にぶつかったのもその後転んだのも自分の責任としていたなら、俺はこの事故のことを知ることなく終わっていたはずである。相川はたっぷり焦らしたあと、こう答えた。

「実は、私もその事故に立ち会っていたんだよ!」

ただの偶然だった。もっとそれらしい理由があると思っていた俺は、拍子抜けした。すると、その様子が気に入ったのか相川は微笑んだ。予想が大きく外れたのは残念だったが、結果として相川に笑顔が戻ったからよしとしよう。断じてこれは相川が笑顔であるほうが可愛いし楽しそうでいいとかいう訳ではなく、普段からずっと笑顔である相川が不満そうな表情をしているとやたらと不安になるからである。これは俺の精神衛生のために必要なことであり、決して相川のことを思ってのことではないのである。例えるならば、いつも同じ電車の同じ車両に乗っているあの子がいないと不安になるのと一緒である。俺は思春期真っ只中の男子高校生かよ。まあ実際にそうだった時期からまだそんなに経っていないので俺は実質ピチピチの男子高校生と呼ぶこともできそうではあるが、問題の本質はそうでないのである。とにかく、相川の機嫌をまた損ねないうちに病院へと向かうべきであろう。行くのに必要な準備はあまりなく、菓子折りと謝罪の言葉を考えるくらいである。なぜなら俺は引きこもりでありながら常に外出の用意を欠かさないスーパー自宅警備員だからである。とはいえ、よく考えればスーパーに行くくらいの普段着で行ったら失礼にあたるのではないだろうか。もし俺がその少女の親ならば、そんな男に怒りを覚えるだろう。まがりなりにも娘が事故に遭う原因を作った男だとすると、俺はまかり間違って挨拶より先にボディーブローをかましてしまうかもしれない。勿論俺にそんな威力の出せる拳が放てる訳でもないし、なんなら幸せなことに俺には娘どころか妻すらいない。当然のことである。誰がこんな男と結婚したいと思うだろうか。とにもかくにも、俺はそんな無礼を犯す訳にはいかないのだ。

 とりあえず服を着替えようと自室に向かおうとする俺に、相川が声をかけてきた。

「早速出発する準備を始めるのはいいけど、君のために菓子折りも言い訳も考えてあるよ。それに、どうせ君はこんな時に着るべき服なんか知らないだろう?それに関しても私が言い訳を考えてあるから、まずは直行するよ」

なんということでしょう。思考を先回りされた挙げ句、既に対応されていたときた。俺が準備をしなければと考えていた時、相川は既に準備を終わらせていたのだ。ちょっと怖いくらいだが、お言葉に甘えて相川に頼るとしよう。さすがの相川も、こういう時はしっかりとしている。というか、俺を相手にする時だけふざけているだけなのではないだろうか。俺はそんな疑問を小さく浮かべつつ、靴を履いた。

お読みいただきありがとうございました。

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