第15話 何度でも得意げな表情をする
今回も短いです。お暇な時にでもぜひお読みください。
俺のせいで起こった事故は、実にわかりやすかった。馬鹿らしく、そんなことかと言ってしまえるようなものだった。少女は俺とぶつかったあと、俺の言った通り足を挫いた。そして、そこでは立ち上がってそのまま歩き出したものの、たまたま荷物を車道に少しはみ出した所に落としてしまった。そしてそれを拾おうとした所、足を滑らせて車道へ飛び出してしまったということらしい。思えば、俺も悪いことをしたものだ。ぶつかった時、俺が受けた衝撃は軽くかすった程度のものだった。だから相手もその程度だろうとたかをくくってスルーしていたのだ。あそこで軽く謝るついでに少女の様子を少しでも見ていれば、その事故はきっと防げていたのだろう。俺は面倒事に巻き込まれるのは嫌だが、明らかに俺が原因なのを無視するなんてことはできない。何て言ったって俺は紳士なのだ。まだ他人から紳士と呼ばれたことがないから自称だが。なんにせよ、俺は気付いてさえいたら喜んで少女に手を貸していただろう。勿論、そこに下心などない。いや、全くないと言ったら嘘になるかもしれない。そこから始まる恋愛を想像しないかと言ったら間違いなくする。それはさておき、過去のことを悔やんでも仕方ない。その少女は間違いなく車に轢かれたのであり、俺のせいで事故に遭ったといえるのだから。
しかし、相川が割と得意げに明かした答えを頭の中で反芻しているうちに、ある疑問が浮かび上がってきた。ほんとうにその程度で足を挫くなんてことがあるのだろうか。思い切り体当たりしたとかならともかく、先ほど思い出した通り俺は間違いなくすれ違い際に軽くぶつかっただけで、決してそんなに強くぶつかってはいないはずだ。言うまでもなく、だから俺は悪くないというつもりはない。もしこれが言いがかりだとしても、その疑いを晴らすだけで、真実だとすれば素直に謝るのが正しい行いだろう。相川は、まだ得意げな目でこちらを見ている。それはまるで、驚いているだろうとでも言っているかのようだ。
「わかった。それで、その少女は今どうしてるんだ?一ヶ月も経てばそれなりに回復してるだろうし、俺も会いに行きたい」
「まさか謝罪しに行くって言うの?君にしては殊勝だね?その娘はまだ入院してるよ、病院の場所も知ってる」
「俺はいつでも誠実だ。とにかく、場所がわかるなら教えてくれ」
とまで言うと、相川は目をやや睨みつけるようにして、不満そうな顔になった。俺がいつも誠実だと言ったことが気にくわないのだろうか。しかし、こいつはいつも言葉より先にわかりやすい表情をするなぁ、とか考えていると相川は不満そうな顔をしている理由を自分から言った。
「君はなんで私がその場所を知っているか疑問に思わないの?あとは、どうして君より先に私がこの事故のことを知ったかとかさ」
意外だった。相川はいつも、答えられる質問でも俺を連れ回すだけの時はそんなのどうでもいいからとしか答えなかったからだ。それが自分から質問を振るなど、何かあるに決まっている。言われてから気付いたが一応気になった俺は、必要はないが尋ねておくことにした。そして、相川は満足げな表情で答えた。
「病院の場所を知っているのは、もう私がお見舞いに行ったから、だよ!」
お読みいただきありがとうございました。