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とある自宅警備員の日常  作者: 布滝
11/33

第11話 良友と悪友は両立している

久しぶりの投稿です。お暇な時にでも。

 どうしようもない境地に立たされた時、人の本性が現れるという。この格言にならうならば、俺はそろそろ本性を現してしまいそうだ。我が良き友であり悪友でもある大亮に電話を切られてから、早くも10分ほど経過してしまった。相川はどうしても我が家に居座るつもりらしく、何度説得しても動く様子がなかった。普段ならこいつはお菓子の一つや二つあげれば上機嫌で帰ってくれるのだが、今日はそうもいかないらしい。しかしお菓子が嫌いになったからかといえばそうではなく、現に俺の目の前で大きなプリンを頬張っている……いや待て。それ人気で滅多に手に入らない俺のお気に入りじゃないか。どうしてくれるんだ。引きこもりにあるまじき外出時間をもってしてようやく手に入れたのだ。正直、行列に並んだときは恐怖で押し潰されそうになったのだ。それは俺が単に人混みが苦手という理由だけから来るものではなく、なんと行列のおよそ8割が女性だったのだ。ひとくちに女性といっても、働くOLさんや青春を楽しむ女学生、無理はしないでほしいような年齢のお婆さんまでいた。いずれにせよ、女性と会話する機会が買い物する時と母親、あとは相川くらいしかない俺にとっては、そもそも未知の存在でさえある。女性と接する機会が著しく少ないため、同じ人間とはとても思えないほど何も知らないのだ。とはいえ、テレビやネットからある程度の情報は得ることができる。自分にされたくないことはしない。幼いころ先生から口酸っぱく言われたことは、しかし相手の立場に立つと俺の存在が邪魔ということを示唆していた。とにかく、そんな葛藤や疲労を越えてようやく手に入れたプリンだったのだ。それなのに、相川は勝手に食べている。訊きさえすれば、半分くらい分けてやっても良かったのだ。いや、それは嘘かもしれない。俺にそんな器量はない。とにかく、腐れ縁で度重なる横暴に慣れている相手にだとしても、何をしても構わないというわけではない。俺はできるだけ睨むような表情を作って、相川に近付いた。別にいちいち表情を作らないと怖がられないという訳ではないのだ。普段から人を憎んだり怒ったりしないから慣れていないだけだ。だってほら、あんまり怒ると額に皺寄るって言うし。

 怒りの表情を浮かべた俺がプリンを夢中で美味しそうに食べている相川に近付き声をかけようとすると、突然相川が食べる手を止めた。驚いた俺が表情を崩すと、相川は俺を向いて言った。

「これ…君のだよね?合ってる?」

「お……おう」

俺が困惑しながら頷くと、なら良かったと言わんばかりに頷き、再び食べ始めた。一度驚いたせいで、さっきの表情に戻せる気がしない。

それでも、俺はちゃんと言うことは言うタイプなのだ。

「いや、なんで食ってるんだよ。それ俺のやつだぞ」

そう言うと今度は相川が驚いたような表情でこちらを見た。なんで?当たり前のこと言っただけなんだけど。そして次の言葉を発するために口を開こうとして、相川の一言で止められた。というか、止まってしまった。

「ヤケ食いくらいさせてくれたっていいじゃないか。元を辿れば君のせいなのだし」

意味がわからない。家族からは失望の眼差しで見られているかもしれないが、俺はその社会的立場の弱さからなるべく敵は作らないようにしている。どんなにムカついてもとりあえずへらへら笑ってやり過ごせばいいのだ。どこにでも嫌な奴はいる。それにいちいち怒っていてきりがないし、精神衛生の観点から言ってもあまりよくはない。だから、何らかのトラブルの責任が俺にあると言われても、さっぱり心当たりがない。他人に迷惑をかけていないわけではないが、誰だってある程度他人に迷惑をかけて生きているものだろう。そして急に心当たりのないトラブルのことを言われても何が何やらさっぱりわからない。普段は一言多いのに、こんなときは言葉が足りない相川を本物かどうか疑ってしまうほどだ。だからだろうか、忘れていた。ヤケ食いだからという理由で、俺のプリンを食ってもいいわけじゃない。

お読みいただきありがとうございます。

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