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魔法適性のない俺は拳で異世界を救う  作者: 長雪 ぺちか
第4章 魔王やら巨大モンスターやらで西も東も大混乱……?『トウキョウ』編!
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『トウキョウ』からは出られない?

 リリの扉をくぐり、転移が完了した。

 先ほどまで『ウツノミヤ』に居たというのに、『トウキョウ』まで数秒で到着できるとは……やはりリリの加護ギフトには圧巻の一言に尽きる。


 そこは芝生の生い茂る、グランドのような場所だった。

 背後には高い白塗りの壁で覆われていて、遠くに洋風な住居の密集地帯とその中でひときわ大きい、白いお城のようなものが見えた。

 モンスターから身を守るためにも、外壁を作っているギルドや国は多いけど、どうやら『トウキョウ』もそうらしい。


 軍服に身を包む『トウキョウ』の兵士たちは転移に慣れているのか、動揺する様子もなく、いたって普通に整列して王様の帰還を待っていた。

 俺よりも先に転移を済ましていたミリアは、懐かしそうに『トウキョウ』の景色を眺めているように思えた。


「ミリア。久しぶりに自分の故郷に戻ってきた気分はどうだ?」

「気分……気分ね。不思議なことに感傷的な気分になったりはしていないわ。そもそも、私はあまり上層部には入ったことがないもの」

「ん? それはどういうことだ?」

「タケルはこっちの世界の人間じゃないから知らないのも無理ないわ。『トウキョウ』は国の中にもう一つ国があるような構造になっていて、それが上層部。私のような一般国民はこの壁の外で生活しているのよ。お役所仕事をしてる人たちとかは今私たちがいる壁の中で生活をしているわ」

「なるほどな。そしたら、ゴウケンの家もこの中にあるのか?」


 俺は近くで話を聞いていた巨人に話を振った。

 個人的な問題が解決した今の彼は非常に気前がよく、質問にすぐ答えてくれる。


「いいや、無いぜ。俺の家はこの壁の外だ。【五宝人】はそこらへんの規制は緩いんだよ」

「そうなんだな……って規制?」

「上層部は国の大事な情報を持ってるからな。他言できねぇようなもんも、あるってわけよ。他国のスパイが上層部に紛れ込んだりしたら危ねえだろ?」


 ゴウケンは淡々と『トウキョウ』の内部事情を話してくれた。まあ、この程度の情報はこの世界の人々なら知ってる人も多いのだろう。

 今後、俺は『トウキョウ』の仲間として行動を共にしていくかもしれないが、そうなった時に、うっかり国家の機密を知ってしまったら、壁の外に簡単に出ることができなくなるかもしれない。そこは注意しないと…………


 俺はそこまで考えたところで、前にミリアが言っていたことを思い出す。


 *


「なあミリア、お酒は二十歳になってからじゃないのか?」

「こっちの世界では特に決まりはないのよ。それぐらい察しなさいよね」

「そうなのか……というかミリアは俺の元いた世界のこと結構詳しいよな。お酒が二十歳ってことも知ってるみたいだし。そういう情報はどこで仕入れているんだ?」

「図書館よ」

「そんな手軽に手に入るものなの異世界の情報!?」


 驚いた。まさか図書館に俺の元いた世界についての文献があるとは思わなかった。

 結構みじかな存在なんだな。こっちの世界にとっての異世界って。

 そう思っていたのだが、ミリアは首を横に振る。


「手軽には手に入らないわ。一応、私の知っている情報は『トウキョウ』の国家機密ってやつなんだと思う」


 *


 バッチリ俺は『トウキョウ』の機密を知っちゃってるな!?


 どうしよう、どうしよう。

 これまで危機感なく、他人事のようにゴウケンの話を聞いていたというのに、一気に俺の背筋が凍るように冷たくなる。

 流石にこの壁の中で一生を終えるのは勘弁だぞ……俺の力でも、流石にこの国の兵士たちから逃げ切れるとも思えないし、割とピンチなのでは!?


 そんな俺の動揺を見透かしたように、ミリアはジト目で俺に視線を送る。


「タケル、あんた今一生外に出られないとか考えたでしょ?」

「…………はい、思いました。俺自体が『トウキョウ』の国家機密です」

「だから大丈夫なんじゃない? あんたは『トウキョウ』が隠している情報の何かを知ってはいるけど、それが何なのか知っていないわ。問題ないはずよ」

「そ、それもそうか……ちょっと冷やっとしたよ。…………でも、少し疑問があるな」

「何よ? 私が答えられる範囲なら答えてあげてもいいわよ!」

「めっちゃ上から目線だな。ミリアらしいといえばらしいが。……どうして、俺は最初田舎のギルドに飛ばされたんだ? 俺は曲がりなりにも異世界の住民で莫大な異世界の情報を持ってるんだぞ?」

「それは……私にも分からないわ。でも、もしかすると、タケルが無害だから手放しても問題ないと思われたのかもしれないわね。それに少し厄介な存在だからかもしれないわ」

「俺が無害……? でも俺は結構危なめな加護ギフト持ってたわけだし」

「それは結果論。蓋を開けてみたらあんたの加護ギフトはおかしな性能だったってだけでしょ? この世界の人間なら、あんたのもう1つの加護ギフトを見ればすぐに厄介払いしたくなると思うわ」

「もう一つ…………あっちか!」


 俺は心当たりがあったので、ポケットに入れていた手帳をパラパラとめくり、自分のステータスが書かれたページを開いた。

 ______________________________

 オオワダタケル

 筋力:SS

 魔力:F

 体力:A

 技量:S

 経験:C

 加護:【世界の加護(ギフト)

魔力不適合アンチマジック】魔力器官が存在しない

 ______________________________


魔力不適合アンチマジック】。

 確か、最初にミリアと会った時、彼女はこの加護ギフトを見て、俺に疑念をぶつけてきたんだっけ。

 基本的にこの加護ギフトは重度の障がいを持つ人間が持っているようなもので、俺のように普通に話したり歩けたりする人間は持っていないらしい。まあ、俺は異世界の人なので持ってなくて当たり前なのだが、こちらの世界ではそれが特殊なことだから、ステータスに出てしまっているのかもしれない。

 この加護ギフトを持っている(正確には持っていないことを持っている?)俺は日常生活で非常に不便な思いをすることが多い。

 部屋の電気がつけられないだとか、魔力に関係する道具は全て使えないのだ。

 俺を『トウキョウ』から追っ払った際に王様(あの頃はあの青年が本当に王様だとは知らなかったけども)も俺の身を案じてとか何とか言ってたけど、真意は厄介払いだった可能性も高そうだ。


「色々察したよ。俺はこの世界じゃまともに生活出来ないってことも忘れかけてた。魔力器官ってこっちの世界だと、命にも変えられないようなものなのかもな」

「まあ、そうね。でも、そこまで神経質にならなくても良いのよ? 魔力器官は非常に再生が早い器官って事で有名なの。ちょっとやそっとの傷ならすぐに修復できるわ」

「そうなのか。ああ、確かフクダさんとの戦いでミリアは一度魔力器官を潰されてたよな。それもすぐに治ったし、思えばそうかもしれない」

「あれはちょっと違うわよ。私が潰されたのは魔力器官じゃなくって魔力官。魔力器官で作られた魔力を全身に流す魔力用の血管のようなもの。でも、再生力の話をするなら同じね。そちらも大変治りやすい」


 なるほどな、と俺は頷く。

 ミリアの言う通り、魔力に関する体の作りってのは修復がしやすいようだ。

 そう考えれば、俺みたいに健常者で且つ魔力器官が無いという人間はほとんどいないのだろう。そこで、少し疑問が湧いてくる。


「これはちょっとした疑問なんだけど、俺と同じように、普通に歩けて喋れるのに魔力器官が無いって人はいるの?」

「いることにはいるわよ。ただすごく希よね。例えば、モンスターとの戦闘とかで、魔力器官が一度に全部なくなってしまった、とかなら修復が厳しいと思う」


 なるほどな、と俺は相槌をうつ。

 少しでも魔力器官が残って入れば、再生は出来るが、全部無くなってしまった場合は再生ができないって感じか。


 そういえば、王様の腕を俺が握りつぶした際、次の瞬間には元に戻っていた。

 圧倒的な再生速度の彼の加護ギフトももしかしたら、魔力器官を一度に吹き飛ばせば無力化できるのかもしれない。まあ、アイリに手を出さないと約束させた今となっては、彼と戦うことにはならないだろうけどね。


 俺たちの話を聞いて、今まで話に入っていなかったクレハは急に表情を曇らせた。

 何か後ろめたいことでもあるのだろうか。

 彼女が心配になって声をかけようとしたところで、『ウツノミヤ』から帰ってきた王様が俺たちに話しかけてきた。


「今から皆さんには、宿舎の方に向かってもらうとしましょう。僕はこれから他の仕事がありますので、案内はリリさんに任せてもよろしいですか?」

「オッケーなの! おにーちゃんたち付いて来てなの〜」


 これからしばらくの間『トウキョウ』で生活することになる。

 リリからは結構綺麗な宿泊施設だと話は聞いてるので、俺は期待に胸を踊らせるのであった。


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