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魔法適性のない俺は拳で異世界を救う  作者: 長雪 ぺちか
第4章 魔王やら巨大モンスターやらで西も東も大混乱……?『トウキョウ』編!
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心に穴が開く

 ゴウケンの部屋での会話が終わった後、俺とアイリはそのままフクダさんのいる役所に向かった。

 普段であれば役所自体もう営業時間外ではあるが、今日は特別な日であったため、今でも明かりが付いていた。

 特別なというのはお祭りがあったということ。役所の人間が後片付けを率先して行うことになっていたのもあり、今日のフクダさんたちは中々忙しそうだ。楽しい時間の裏にはこうしてせっせと働いてくれている人がいることを忘れてはならない。


 役所の自動ドアはオフになっているようなので、手動の扉を使い中に入る。

 中に入ると、役所の人たち10人ほどが椅子に座って、飲み物を飲んで休んでいた。もう後片付けは終わったのだろうか。彼らは、俺たちに気付くと、声をかけ、フクダさんを呼んでくれた。

 フクダさん自身で破壊した国長室の壁は既に元どおりのようだ。扉が開き、白髪スーツの男性が現れる。


「こんばんは、タケルくん。後片付けを手伝いに来てくれたのかい? 気遣いは嬉しいが、後の祭りってね。あいにく片付けは既に終わってしまったよ」

「そうなんですか。結構ゴミとか散らばってたと思うのですけど、案外早く終わったんですね。もう少し早くくればよかったです。えっと、この流れで言いにくいのですけど、実は今回別の用事で来てまして……」


 俺は控えめにそう伝えると、フクダさんは「分かった」と一言告げて奥の部屋へと案内してくれた。

 椅子に座ると、お茶を出そうとフクダさんは魔力でお湯を沸かすポットのようなものに手を伸ばしたので、俺はそれを止める。そこまで長い話でもないだろうし、お茶は結構ゴウケンのところでも飲んだのだ。フクダさんはそのことを知らないけどね。

 フクダさんも椅子に座ったところで、俺は話し出す。


「フクダさんに少しお願いがあるのですけど、いいですか?」

「それは、お願いの内容によるね。あまりに横暴なものであれば不可能だ。君と私たちは友好関係だが、いいように使われるような真似はできないな」

「いえ、そんなに無茶な話じゃないと思います。アイリから言う?」

「タケル先生からお願いしますわ。私は……実を言うとまだ少し悩んでいますもの」

「分かった。フクダさん、実はお願いというのは、今ここにいるアイリを『ウツノミヤ』で保護してくれないかということです」

「保護……? それは随分と大層な物言いだね…………なるほど、そういうことか」


 フクダさんは少し顎に手を当て考えたかと思うと、何か納得したように頷いた。

 まさか今の発言で全て察したと言うのか?


「確かにその子は『トウキョウ』には連れて行くことが出来ないな。あそこの国王があまりに闇魔法を毛嫌いしているのは有名な話だ」

「…………そう言うことになります。というかいつからアイリの加護ギフトについて気付いていたのですか?」

「いつから、と言われれば君達に最初に出会ったときからだ。言っただろう?『そちらの小さなお嬢さんは禍々しい魔力を放っている』聞き覚えはないかい?」

「あっ、そういえばそんなこと言ってましたね。あの時は俺も肝を冷やしましたよ」


 俺は苦笑いでそう返す。

 あの時というのは、ミリアは『ニッコウ』の使者として『ウツノミヤ』に交渉をしに来た時だ。順調に話し合いが続いたと思われたが、帰り際にフクダさんに俺たちの素性を全て明かされ戦闘になったのだった。【魔力探知センサー】の加護ギフトは相手の持っている加護ギフトの内容まで分かってしまうのか。

 でも待てよ。確かフクダさんはあの時、クレハについても鋭い魔力を向けていると言って警戒していた。加護ギフト内容以外も知ることが出来るのか。強すぎるフクダさんの加護ギフト


「本題に戻る。タケルくんはそちらのお嬢さんが『トウキョウ』に連れて行けないことから、『ウツノミヤ』で預かってほしい。しかし、当の本人がいかんせん乗り気ではないという事だね?」

「その通りです……察しが早くて本当に助かります」

「そういう事であれば、こちらとしては問題なくアイリくんを保護することは可能だろう。十分、義理と人情で解決出来る範囲のお願いだ」

「あ、ありがとうございます……! フクダさんの元であれば俺も安心です」

「ありがとうございます……ですわ」


 アイリは俯いたままお礼を言う。

 やはり実父の願いとはいえ、再び家族と引き離されることをすぐに受け入れらないのだろう。

 フクダさんはアイリの手を取ると柔和な表情で彼女を見た。


「アイリくんはタケルくんたちと一緒に居たいんだね?」

「はい…………しかし、それをすれば……わたくしはきっと……それにタケル先生たちにも迷惑がかかってしまいますわ」

「そうだろうね。君がいてはタケルくんたちに迷惑がかかる。だが、君はタケルくんたちと離れない方がいいだろう」

「っ!? フクダさんさっきまでアイリを保護してもいいって」

「もちろん、彼女を保護することは出来る。だが、私は反対だ。1人の大人として、これから彼女が辿ろうとしている道の先にいる大人として、そう提言する」


 フクダさんは鋭い視線で俺を見る。

 敵意は感じないが、彼の感情が俺の心に響いた。


「アイリくん。君はこれまでもそうして、頻繁に我慢することが多かったのではないかい?」

「そ、そんなことは…………ない…………と思いますわ」

「では何故、君は今辛そうなんだね? 不安定に揺れる魔力など見なくても、この程度表情で分かる。そうだろうタケルくん」

「その通りだと……思います」


 彼の言う通りだ。アイリは我慢することに慣れすぎている。良い子と言ってしまえばそれまでだが、年に似合わないほどに大人びてしまっている。同世代のリリと比べてもそれは顕著だ。


「いいかい、君はまだ子供だ。子供のときはめいいっぱい自分を表現した方がいい。いずれ、それは出来なくなる。したいことがあれば大人にきちんと伝えなさい」

「しかし、それをしたら…………いえ、やっぱりわたくしは『ウツノミヤ』に残りたい……」

「ストップだ。自分の『したい』を切り替えて話の終着点を変えようとしたね。私の次の言葉を読んだのだろう? その通り、『大人がなんとかしよう』。人を気遣うことは良いことだが、気遣いすぎるのは君の悪い癖だ」

「………………」

「物事の結末を頭の中ですぐにシミュレーション出来るのは素晴らしい。私も君と同じだったよ。常に自分がこれをしたらこうなる、相手がこうしたらこうなる。事象の始まりから終わりをよく考えて行動していた」

「……これまでの、貴方の行動からそれは良く分かりましたわ」

「少しは信頼できるとは思わないかね。君の行く道の先にきっと私はいる。私が『ニッコウ』を助けた経緯について君は知っているだろう? 私の父はこの国の長でね、私が子供の頃から毎日忙しそうに働いていたよ」


 フクダさんは懐かしそうに遠くを見つめ話し始めた。


「私は理解のある子だったからね、父が忙しいのを知って、迷惑のかからないように身の回りのことは全て自分で行った。親からの愛情を受けることなく、寧ろその機会を自分で消して回っていたよ。その結果、私が大人になった頃に気付いたんだ。心にすっぽりと穴が開いてしまっていることにね」

「心に穴……ですの」

「ああ、君にはまだ実感がないだろうが、不意に悲しくなったり苦しくなったりするんだ。どうしようもない遣る瀬無さが胸を締め付けるんだよ。そして、父が他界する直前、私は初めて彼に頼られ、それが堪らなく嬉しかった。言い様のない高揚感で、空いた穴が一時的にではあるが、塞がったよ」


 アイリはまっすぐとフクダさんを見つめながら「それが初めてのおつかいなのですわね」と小さく呟くと、彼はコクリと首を縦に振った。


「私はこの高揚した気持ちが悪いものではないと思っているが、外から見たらきっと子供っぽく見えてしまうのだろう。子供が大人になるのは普通だが、大人子供はいずれ子供大人になる。私はこれからも心に空いた穴を埋め続けながら生きていくんだ。これが結構辛い。アイリくんも将来同じ苦しみを味わうことになるはずだ」

「では……わたくしはどうすれば。わたくしの決断で絶対に、誰かが不幸になってしまいますわ!」

「それはそうだろう。子供の意思決定は大抵、大人にとって迷惑なものだ」


 そういった後に、フクダさんは俺の方を見て続ける。


「しかし、タケルくん。それは、本当に迷惑なだけかい? 今君はこの子の親のような立場なのだろう? その立場から見て、アイリくんのわがままはどう見える」

「それは……嬉しいですよ。もっとアイリに頼ってほしいと思っています」


 そして、俺はフクダさんが続けるはずのセリフをおれから告げる。


「アイリ、君が『トウキョウ』までついていくと言えば、きっと向こうの王様と俺たちとで問題が起こる。でも、それ以上に俺はアイリのために頑張りたいって思ってるんだ。だから……心配はしなくていいよ」

「タケル先生…………!」


 アイリは涙を瞳に浮かべると俯き1人泣き始める。

 俺は彼女を上から抱きしめ、背中をさすった。

 知らないうちにアイリに我慢をさせてしまった自分が憎い。

 良い子だからなどと理由をつけて感心していただけで止まっていた自分を殴ってやりたい。

 覚悟を決めろオオワダタケル。

 俺はこの世界で最強国の、得体の知れない能力をもつ王様とやらと真っ向から勝負することを決心した。


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