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魔法適性のない俺は拳で異世界を救う  作者: 長雪 ぺちか
第4章 魔王やら巨大モンスターやらで西も東も大混乱……?『トウキョウ』編!
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酒呑み巨人

 酒瓶に囲まれた巨人……フジミヤゴウケンは右手を挙げ手招きする。

 まさかあいつが『ウツノミヤ』に来ているだなんて。

『トウキョウ』の方にはミリアが仲間になったことが伝えられているはず。

 わざわざここまで来るということはミリアに何か用事でも……俺はそこまで考えて、あることを思い出した。


 あいつはアイリがミリアと行動を共にしていることを知っている。目的はアイリの方か?

 まさか、アイリと向き合う覚悟が出来たということだろうか? それとも状況が変わってアイリを隠す必要がなくなった?


 真意は分からない。しかし、ただ宴会がしたくて『ウツノミヤ』に来たわけではないだろう。そこまで能天気が過ぎる人物では無いはずだ。

 俺はゴウケンに一歩一歩と近づくと、彼を取り囲んでいた人々がはけていく。意識していないが俺は少しピリピリしているのかもしれない。


「ゴウケン、また会ったな。なんの用でここにいる?」

「おいおい、坊主。随分と警戒してるようじゃねえか。肩の力抜けや。今日は別にお前らと戦いに来たってわけじゃねえんだ。酒だよ酒、酒を飲みに……」

「アイリを家に戻す覚悟が出来たのか?」


 彼の言葉を遮るようにそう言うと、少し驚いたように目を見開き、次にガハハと笑い始めた。

 酒瓶から酒をグイッと一口飲むと彼は答える。


「……ちげえよ。その逆だ。俺はそこのクリーム色の、世界で一番可愛い女の子を……『トウキョウ』に連れて行くのを阻止するためにここに来た」


 巨人は重い腰をあげると、俺の前に直立する。

 圧倒的な存在感に周囲の人々が後ずさった。俺は構わず前に出る。


「ただの女の子じゃ無い、アイリだ」

「いいや、違うね。あいつはただの女の子だ。俺とは全く関係のない、小さくちっぽけな女の子だ」

「お前な…………」

「お前はフジミヤ家の家訓を知っているか?」

「…………そんなもの知らん」

「だったら教えてやる、小僧。我が家の家訓はただ一つ……『常に強くあること』。あの子はフジミヤの家の子ではない。そこらに転がっている有象無象の、その1人だ」


 アイリが途端に表情を曇らせる。

 分かっていたことだが、ゴウケンはアイリのことを娘だとは認めない。

 アイリを家に戻すことが彼女の不幸に繋がるのだろうと予想できるが、家族であることすら認めないとはどういうことだと思う。

 きっと訳があるのだろう。


「ゴウケン、お前はいつ頃まで『ウツノミヤ』にいるつもりだ?」

「なんだよ。もう帰宅の話か? 酔いが覚めるぜ。全然酔ってなんだけどな! がはは! 明日には帰るつもりだぜ。明日こっちにリリがくる。それでいっぺんに転移させてもらうって寸法よ」

「まじか。リリこっちに来るのかよ」


 つい一週間前ほどに分かれたばかりだというのにまた彼女に会うことが出来るとは。リリがこっちに来るとすると……今度は流石に1人ではないだろう。

 もし本当にゴウケンがアイリを家族にできない理由があるとしたら、それはきっと『トウキョウ』と関係がある。一度彼と手合わせした時点でそれは分かっていた。だとすれば、今夜がタイムリミット。『トウキョウ』の関係者が少ない今の状況でこそ彼から事情を聞くチャンスなのだ。


「まあいい。今夜お前の部屋行くからな。ちょっと話がある」

「話……ね。俺はそれまで祭りを堪能するとすっかな。がはは! 酒が切れてるぞ! 次の持ってこい!」


 ゴウケンはそう言って、再び酒を胃に流し入れ出す。

 あいつ、酔っ払ってまともに話ができない状態とかにならないよな?

 俺はアイリの手を握ると、小さく語りかける。


「アイリ、今夜ゴウケン……お父さんと話をしよう。どうしてアイリを捨てたのか、きちんと説明してもらうんだ」

「で、でも…………」

「アイリのことだから、ゴウケンの事情を配慮してとか思ってるんだろうけど、こんかいはそんなの気にしなくていい。だって、アイリとゴウケンは家族なんだから」


 俺の手を握る小さな手は、ぎゅっと力を込めて握り返してきた。


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