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魔法適性のない俺は拳で異世界を救う  作者: 長雪 ぺちか
第3章 最強の魔法少女の登場と殺人事件でサスペンスの香り……?『オオイタ』編!
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予想外の一撃

 クレハが裏路地へ逃げてしまってから俺は彼女を追おうとするが、逃げ足の速い彼女はすぐに俺を巻いてしまう。


「クソッ! クレハのやつあんなに足が速いとか聞いてないんだけど!?」


 彼女はこれまで、自分の素性を隠して俺たちと旅をしていた。

 殺人犯であることや、自分の実力までも。

 俺は以前彼女にステータスを聞こうとしたことがあったが「ステータスを聞くってことはスリーサイズとか女の子の日を把握するのと一緒だからね? タケルくんのエッチ」とはぐらかされてしまったのを思い出す。

 彼女ならスリーサイズを自分から言ってきてもおかしくないし、あの理由はおかしかったはずだ!

 これは流石に迷推理すぎる。


 とにかく、隠し事をされていたのは少しショックだと思う。

 しかし、秘密なんて誰にだってあるだろう。

 俺だって、まだ俺自身が知らない秘密があるだろうし、俺自身が秘密に満ちた不思議な存在みたいなもんだ。

 ミリアだって俺たちに話していない人間関係を持っているだろうし、アイリだって家のことで黙っていることがあるはずだ。


 また、クレハが自分の実力を隠していたのは、どうやら俺に守られる様な健気な女の子を演じたかったかららしい。

 前に『ウツノミヤ』の森で彼女はこんな話をしていたが、それは冗談ではなかったのか。

 彼女が嘘をつく理由が、俺たちを騙して陥れるためであったら流石に俺も彼女との距離を置かざるを得ないと感じるだろうけど、恋する乙女らしい、脳内ピンク色のいつものクレハさんらしい理由じゃないか。

 こんなの可愛いもんだ。

 …………いや、今となってはあんな恐ろしいほど強い戦士が俺に熱烈なアプローチをしていたと考えると、少し怖いものがある。

 まあ、俺の加護ギフトがあれば、彼女の鋭く切れたナイフ(ガチ)の様な愛情を受け入れられるだろうし、それはきっと許容範囲だ。


 クレハを放っておけば、今晩中にでも『アンノウン』を崩壊させるだろう。

 彼女が手は既に汚れきっているため、クレハが手を汚すとかそっちの心配はもう俺の中にはない。

 だから俺がするべき心配は、彼女が自分の素性を知られたことで俺たちから逃げてどこかに行ってしまうのではないかということだ。

 一人で、殺人ギルドを滅ぼせるほどの実力者であれば必ず来るべき魔王との戦いで彼女の力は必要になるはず…………もっともらしい理由を言ってはみたが、そんなことも正直どうでもいい。

 単に、俺はクレハという一人の友人を失いたくない。

 クレハの言うような意味で『好き』かと問われれば俺はまだ自分の気持ちが分からない。

 でも、これだけは正直に言える。


 俺は友人として、クレハのことが大好きだ!


 暗い裏路地を抜け、辺りを見回し、抜けては見回すを繰り返す。

 これまで発見できた地面に横たわる死体の位置から、彼女は裏路地で戦闘を行なっていない。殆どが街灯のある本道だ。

 効率よくクレハを探していたところ、アイリの聴覚強化がなくともはっきりと聞き取れる声量で彼女の声が隣の本道から聴こえてきた。


「今行くぞ、クレハ……!」


 怒気の混じった迫力のある彼女の声を頼りに俺は最後の裏路地を抜ける。

 そして明るい一本の街灯がの足元の俺の探していた友人と黒づくめの『アンノウン』の一味。

 そして…………宿にいたはずのアイリが黒いそいつに首を絞められていた。


 何故? 何故アイリが捕まっている?

 彼女のことは宿においてきたつもりだった。

 心配して、ついてきてしまったのか!?

 クソッ! 俺がしっかり宿で待機している様に言っていれば!


「何言ってんのか分かんねえよ! 日本語で話せこのゴミムシが!!!! いいからその子を離して私に殺されろ!」


 クレハが吠える様にアイリを捉えるそいつを威嚇する。

 恐怖に怯える『アンノウン』の女は正気を失っているのか、手に持ったナイフでアイリの腹部を突き刺した。

 アイリの腹部のあたりがジワリと赤く染まり、そして中からしわくちゃしたピンク色の臓器が顔を覗かせた。

 あまりにショッキングな光景に俺は手の力が抜ける様な感覚を覚える。


 あんな幼い子にまで手をあげるなんて『アンノウン』の連中はどんな神経をしてるんだ! 絶対に……


 俺が内心憤慨を抑え切れずにいたところ、黒づくめのそいつはおもむろにポケットから黒く小さい物体を取り出す。


 あれは…………あれは拳銃?


 俺はてっきり、こちらの世界にはあのような武器はないと思っていた。

 あれは良くない。

 子供でも大人でも関係ない……持てばその場で誰もが人殺しになれる、悪しき兵器だ。

 あんなもので撃たれたらアイリは間違いなく死んでしまう。

 助けなければ。

 しかし、今からでは間に合わない。

 敵とは距離がある。

 俺が敵を倒すよりも速く、敵はその引き金を引くだろう。

 でも、ここで諦めることなんて出来ないだろ!!


「えっ?」


 アイリを拘束していた黒ずくめの人物の左腕が宙を舞う。

 不意に、小さな疑問の声が夜の街に響いた。


 それは、あと僅かのところで攻撃を交わしたアイリのものではない。

 刀を持つ手をだらんとさせ、状況の整理が追いついていないクレハでもない。

 腕を吹き飛ばされた『アンノウン』の女のものでもない。


 蹴り上げた脚で、拳銃もろとも女の腕を木っ端微塵にした俺のものであった。


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