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魔法適性のない俺は拳で異世界を救う  作者: 長雪 ぺちか
第3章 最強の魔法少女の登場と殺人事件でサスペンスの香り……?『オオイタ』編!
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殺人鬼の正体

 夜の『オオイタ』の街を俺は走っていた。

 月明かりだけでなく、ところどころに街灯があるためそこまで街は暗くない。

 裏路地など街灯の付いていない道は部分的に見えずらいが、走りやすい道が多かった。

 季節柄、また丑満時という時間の関係上、外の空気が身にしみるほど冷たい。

 照明よりもこちらの方が問題だ。

 走る足を止めれば寒さで凍えてしまいそうだった。


 あてもなく走り続けていると不意に、隣の本道から悲鳴らしきものが聞こえてきた。

 クレハのものではないが、行くしかない。


『オオイタ』はギルド中心から放射状に本道が何本も走る街であり、隣の道に移動するためには裏路地を通ることになる。

 真っ暗な裏路地を抜け、俺は悲鳴の響いた道へたどり着くと叫ぶ。


「クレハ! いるか!?」


 俺はそうして彼女の名を告げ、周囲を見渡すと……街頭に照らされ、彼女はそこにいた。

 無事でよかったと思ったのは僅か数秒。

 彼女が何故か、血に染まる黒く長い刀を持っていることに俺は気付く。

 そして、すぐに彼女の前に横たわり血を流す黒づくめの人に気付き、俺は後退りを余儀なくされる。


 彼女はこちらに気付き、俺の行動から自分の犯した間違いに気付く。

 そして、顔面蒼白で絶望の表情を浮かべていた。


「た、タケル……くん……? これは………………これは違うの…………!」


 狼狽したクレハに対し、裏路地から黒い影が接近する。

 恐るべきスピードでナイフを突き刺そうと試みる黒い影。

 クレハは踵をコンッと鳴らすと、飛びかかる黒づくめの下の地面から、10本は余裕で越える数の刀、槍また剣などが突如出現しその者に突き刺さる。

 突き刺さった武器により身動きの取れなくなったそれを無視し、クレハは俺へ一歩、また一歩と詰めてくる。


「クレハ……お前だったのか……? 昨日起きたバラバラ殺人事件の犯人は……」

「…………………………」


 彼女は何も答えない。

 ただ俯いて、唇を噛み血を流す。

 そして数秒の間をおいて、彼女は再び踵を鳴らす。

 さらに数を増した地面から生える剣や槍が、既に死にかけているそれを貫く。


「お前らのせいだ! お爺ちゃんも、タケルくんも奪うなんて…………酷いよ! 私の人生をめちゃくちゃにしやがって…………ふざけるなよ! 死ね……死ねよ…………死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ!!」

「クレハもうやめ……」

「こんなの全然可愛くない!! これじゃあ、タケルくんが好きになってくれないよぉ……」


 最後に既に息を引き取ったそれの首を刀で落とし、彼女は涙を流す。

 膝をついて彼女は両手をだらんと弛緩させ夜空を見上げ泣いていた。


「ごめんねタケルくん。こんなの全然可愛くないね? 守ってあげたくなんてならないよね? 好きになんて……なれないよね? ごめんね? でもこれが私なの。ごめんね……って、謝ってももうどうにもならないか。あはは……」


 そうして彼女は虚ろな目で、不安定な足取りでこの場を去ろうとする。

 まずい。

 彼女はこのまま、恐らくこの街に潜伏しているであろう『アンノウン』の他メンバーを殺して回るつもりだろう。

 彼女は『アンノウン』に自分の祖父を殺されていて、十分すぎるほどに彼らを恨んでいる。


「待てクレハ! まだやり直せる! こんなことやめてすぐに自首しようよ。まだ5人だし、相手が相手だから……」

「無駄だよッ!! タケルくんは分かってない! 私がこんなことするの…………今回が初めてだと思ってる?」


 夜の静けさを、彼女の叫びが圧殺する。

 彼女の気迫に押され、俺は思わず足を震わせる。


「さようなら、タケルくん。私はもう止まれない。あいつらを皆殺しにするまで私は止まれないから」


 険しい表情で彼女は淡々と、これからの犯行を予告する。

 そうして、夜の闇に紛れ、彼女は姿をくらました。


『アンノウン』はここ最近目立った活動が見られないという話を俺は聞いていた。

 だからてっきり、身を潜めて力を蓄えているのだと思っていたが…………それは違う。

『活動をしていない』ではなく『活動ができない』だったんだ。


 正直、『アンノウン』のような悪行を生業にしているようなものたちなんて死んでも構わないと俺は思っている。

 そして、彼らを殺すに足りうる理由を彼女は持っている。

 しかし……だからと言って彼女はそれをしていいのか?


 単身で殺人ギルド1つを滅ぼそうとしている友人の行動を俺はどう咎めればいいのかと俺は頭を悩ませた。


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