ミリア vs. リリ 【その1】
ここから3話はしっかりバトルものします!!
「不可避の輝剣…………不可侵の輝剣!」
彼女の叫びに呼応して、彼女を光の粒子が包む。
ミリアはこれまで、4つの宝具を使う戦闘を行っていた。
しかし、今ミリアが持っている武器は俺の知らない5つ目の宝具。
不可避の輝剣とよく似た別の宝具。
『時渡り』によって手に入れた新しい宝具と見て間違いない。
同じような性能の武器が増えただけなのか、または元の不可避の輝剣とは違った性能なのか、それは戦いの中で明らかになるのだろう。
「全開で行くわ! 【時間】……ッ!!」
ミリアは自身の加護により加速する。
その速度はおよそ人の出せる速度ではなく、目で追うのがやっとだ。
超速で剣を突き刺すミリアの攻撃に、リリは左手を少し動かし…………
「【不思議の国の扉】」
転移用と思われた彼女の加護は、ミリアとリリの間に突如出現し、攻撃を防ぐ。
しかし、ミリアはこれを読んでいたのか、剣をすぐさま引くと、空中に現れた扉の下をくぐり、彼女に肉薄する。
そのまま、双剣を使い、下からすくい上げるように斬りつけた。
リリはその攻撃を、自身の鍵型の宝具、不条理へ至る銀鍵を使い防ぐ。
接近戦になると、2つの剣を所持しているミリアに圧倒的に分がある様に見えた。
リリは加護を使い壁を作り、しかしそれだけではミリアの攻撃を防ぎきれず、巨大な鍵までも防御に回す。
転移しようにも、ミリアの圧倒的手数の前にそれをさせて貰えていなかった。
「くっ! 速いの……!」
防戦一方のリリは苦虫を噛む様な表情であったが、戦闘はここで進展を迎える。
守りに入るリリは扉と鍵を巧みに使い、守りを固めている。
基本扉で防ぎ、防ぎきれないものは自前の宝具で防ぐ。
ミリアは、リリが宝具での防御を選択するその一瞬を狙っていた。
上下左右、はたまた前後からの猛攻を繰り出すミリアの攻撃に対応しきれなリリが宝具での防御をした瞬間、ミリアの右手に握られる宝具、不可避の輝剣が僅かに煌めき、それに合わせて刀身の輪郭が揺らぐ。
「不可避の輝剣ッ!!!!」
ゼロ距離からの魔力爆破。
リリは不可避の輝剣の刀身が消えた刹那、鍵での防御から【不思議の国の扉】での防御に切り替えるが、宝具の圧倒的火力の前に出現した扉は木っ端微塵に粉砕される。
猛烈な爆風が起こり、扉の破片がリリを襲うが、それを巨大な鍵の宝具を盾にして防ぎきった。
リリ自身の身長の低さがここで生きてきている。
そして、その爆風の威力を利用して後ろへ大きく跳躍。
一定の距離が離れると同時にリリは左手から黄色い魔法陣を展開した。
それに合わせて、ミリアは不可侵の輝剣を腰に携え、もう一本は固有空間へ。
そのまま疾風迅雷の細剣へと剣を持ち替えた。
「【雷】なのっ!!!!」
「引き裂きなさい……疾風迅雷の細剣!」
リリの魔法陣から加護が発動し、指向性を持った雷がミリアを襲う。
それらの雷を、ミリアの細剣から繰り出される半透明の衝撃波が相殺して行く。
一度空中に浮いたリリが一瞬不利に思われたが、彼女の加護は万能だ。
リリは空中に扉を出現させるとそれを足場とし、さらに別の場所に飛ぶ。
飛びながら、手を身の前でぐるりと一周させ、5つの黄色い魔法陣を一度に展開する。
そして、ワンテンポ遅れ、リリの詠唱が入り、雷の筋がミリアに向かう。
ミリアは一瞬で自身に迫る雷が相殺しきれない量だと察すると、疾風迅雷の細剣の柄でその雷を受け止めた。
雷が当たると同時に、剣先から雷が放出される。
そして、リリの加護が止まったのを見計らうと、未だ帯電した疾風迅雷の細剣をリリに向かって振り、宝具から放たれる衝撃波にリリの魔力を乗せて乱雑に、広い範囲に展開した。
「小賢しい真似をするの! そんなの全然効かないんだから!」
リリは放たれた衝撃波を防ぐために、宝具の力を解放する。
「不条理へ至る銀鍵…………第一の門解錠! でっかい扉なの!!」
リリが生成したのはこれまで通り金縁の赤い扉。
しかしその大きさはこれまでの比ではなく、横幅縦幅ともに5メートルは優に超えるその巨大な扉はミリアの攻撃を受け止めた。
強烈は破裂音とともに、空中で灰色の煙が発生する。
広がる煙に向けてミリアは疾風迅雷の細剣による衝撃波を駄目押しとばかりに打ち込み、10発ほど打ち込んだ後、宝具の柄で後方へ突きを入れる。
その突きを、ミリアの背後に回り込んでいたリリは巨大な銀色の鍵で受け止める。
爆発の煙に紛れ、リリは己の加護で背後に移動していたのだ。
リリは小さく舌打ちをすると、左足で大地を踏み、右足で疾風迅雷の細剣を蹴り上げ、そのまま体を回転させて不条理へ至る銀鍵でミリアの横っ腹を殴りつける。
その瞬間、草原に響いたのは、ミリアの肋骨が砕ける音ではない。
宝具と宝具がぶつかり合い、耳を貫くような金属音でもない。
バンッ! ジジジ……
響いたのは何かが破裂する音。
そして、電気が走る低い音。
ミリアの周囲を包む光の粒子が僅かにその色を薄め、リリの周囲に黄緑色のプラズマが浮かび上がり、焦げた臭いが辺りに広がった。
しかし、ミリアとリリはともに無傷。
そして2人は互いの顔を見合わせて、驚きを隠せずにいた。
真剣な眼差しを向ける2人であったが、リリはすぐに表情を変え、口角を吊り上げる。
「ふーん、剣の人も、リリと一緒なんだ。その宝具の能力なの?」
リリがミリアの腰に携えられた輪郭のぼやける黄金の剣を指差すと、ミリアは自慢の金髪を払い、口を開く。
「その通りよ。しかし……まさかあんたも常時無敵だったとはね。インフレ甚だしいわ」
どうやら先ほどの音は2人の防御障壁がぶつかったことによるものらしい。
思えば先の爆発音は彼女の宝具の1つ、不可避の輝剣を解放した時の音に近かった。
恐らくミリアが新しく手に入れた不可侵の輝剣は、不可避の輝剣を防御用に作り変えた代物なんだろう。
リリの攻撃に反応し、自動で発動する高火力の魔力爆発は、まさに一撃必殺のカウンターだ。
対してリリの方は【雷】を体の表面に張り巡らせ、外からの攻撃を打ち消していたようだ。
ミリアの宝具によるカウンターを余裕で耐えきる電気の障壁は、およそ人間の持てる加護の性能を超越していた。
2人はともに、体の表面にバリアを張り戦いを進めている。
今の2人は、俺の持つ【世界の加護】を所持しているのと何ら変わりない状態だ。
それを知った俺はこの戦いのレベルの高さを再び実感する。
リリはミリアの発言を聞き、今度は急に笑い出した。
「剣の人が無敵? 笑わせないで欲しいの。本当に無敵なのはリリだけなの」
「言ってなさい。悪いけどあんたのそのチンケな障壁じゃ私の攻撃は防げないわ」
互いに挑発を繰り返し、ミリアが疾風迅雷の細剣で衝撃波を出したところで、戦闘が再開した。
戦闘が再開するとリリはまずミリアとの距離を取る。
彼女は所持している加護の性質上、中遠距離からの戦闘を得意としているのが伺える。
さっきのバリアは非常事態における最終手段のようなものだろう。
リリは常にミリアと距離を保ちつつ、安全区域から【雷】による牽制および攻撃を繰り返す。
一方ミリアはリリの攻撃を、時にかわし、時に宝具の爆発により身を防ぎながら距離を詰める。
【時間】により加速した体は目にも留まらぬ速さであるが、一度距離が離れてしまった後、雷の牽制や扉による進路妨害、転移によって、その剣先は最強の魔法少女に届かない。
現在攻めているのは間違いなくミリア。
しかし、戦況はどちらに傾いているかと言われれば、確実にリリだ。
加護の性能はもちろんのこと、それを要所要所で使いこなすだけの状況判断力が彼女にはある。
それに…………
俺はミリアの額に流れる汗の量を見る。
尋常じゃない量の汗が額には浮かんでおり、剣を振るたびに汗の雫が振りまかれている。
明らかにミリアは今無理をして体を動かしている。
いや、動くことを強制されている。
遠距離戦になれば圧倒的に分があるのはリリであるのは明白で、それを分かった上でリリは距離を取るから、ミリアはその距離を詰めずにはいられないんだ。
いくら【時間】で自分の速度を強化していようが、結局走っているのには変わらない。
体力面でも問題があるはずだ。
それに魔力面でも綻びが生まれている様に思える。
常時【時間】の使用と不可侵の輝剣の展開。
どれほど彼女の魔力器官に負担をかけているのかは、それを持たない俺には分からない。
しかし、ミリアの表情を見るに全く余裕がある様には見えない。
不意に、ミリアの足が止まる。
ついに恐れていた魔力切れが来てしまったのか。
これを機と見計らったリリは魔法陣を展開する。
「第二、第三の門解錠……ッ! これで終わりなの!」
宝具、不条理へ至る銀鍵の力を解放した瞬間、展開した魔法陣はその直径を倍以上に広がる。
そして、そこから最大級の雷がミリアへと降り注ぐ。
バリバリと音を立てて、極太のレーザーの様に雷がミリアに迫り、彼女にぶつかるかどうかのところで、不可侵の輝剣の光の粒子の防衛機構が反応した。
爆発音とともに、リリの加護を相殺していくミリアの宝具出会ったが、その雲行きは段々と怪しくなっていく。
ミリアにもそれは分かっており、疾風迅雷の細剣によって防御の補助をするが、それでも間に合わない。
拮抗したかに思われた最強の矛と最強の盾。
僅かにリリの矛の力が上回り、ミリアは魔法少女の雷に包まれた。