もう1つの輝く剣
タケルたちが去った後、意識の抜けたミリアのそばには、クレハとアイリの2人が護衛として残されている。
自分たちの仕事の重要性が分かっているのか、彼女たちはどこかぎこちなく、緊張感を持って見張り役に勤めていた。
鋭い目つきで監視を続けるクレハに対し、アイリは弱々しく話しかけた。
「ク、クレハさん。昨日、ミリアさんに『時渡り』は3日後にして欲しいと……」
「あー、そのことね。大丈夫。魔法少女リリが私たちに味方しているし、これ以上安全な状況はないよ」
「いえ、生理がどうのという話ですわ」
「アイリちゃん、それを人に聞くのは失礼だよ? それなら大丈夫。お腹が痛くてミリアを守れないと思ったからそう言っただけ。深い意味はないからね?」
表情を全く変えることなく、どこか遠くを眺めたままクレハがそう返した。
アイリは、どこか不気味さを感じる彼女の行動に、そして彼女にしか気付けないであろうある事実から若干の恐怖心を感じていた。
(昨日からクレハさんはどこかおかしい。行動も口調も普段より鋭く厳しく、それに何より………………クレハさんから『死』の臭いがしてますの)
突然、クレハは身を半回転させアイリに向き合うと、その顔を彼女の目前まで持っていく。
思考を読まれたのではないかと疑ってしまいたくなるほどにタイミングの良い彼女の行動に、幼い少女の心臓は跳ね上がる。
暫くアイリを見つめていたかと思うと、クレハは彼女の肩を強く掴む。
「アイリちゃん」
「は、はい! (やられる……)」
「もう私我慢できない! アイリちゃんの加護でタケルくんたちの動向を探って!」
「………………えっ?」
今にも自分を食ってしまいそうな雰囲気を出していたクレハの意外な一言に、アイリの思考は一旦止まる。
アイリは、オカザキクレハという人物がどの様な人間なのかを、旅の中で理解してきた。
一にタケル、二にタケル、三、四もタケルだろうし、五もタケル。
その様な人物であったのだ。
深く考えすぎであったと反省し、アイリは笑顔でクレハに応えた。
「もちろんですわ! 一緒にタケル先生とリリさんのデートを監視ですの!」
*
「新しい宝具…………欲しくない?」
タツヤからの思いがけない問いかけに私の胸の鼓動は勢いを増す。
彼の提案は嬉しいが、彼の言っていることは先程教えてくれた宝具製作の秘密に関わってくることだ。
「欲しいわよ。欲しいけど…………それはダメなのではないかしら? さっきあんたは言ったじゃない。『宝具を作るのは2、3本にしておくこと』って」
そうだ。
彼は先程このようなことを言っていた。
オカザキの一族は自分たちが作り出す宝具が世の中に大きな影響を与えることを分かっている。
だからこそ、大量に宝具を作ったりしない。
各地を転々とし、土地にいくつかの宝具という名の奇跡をもたらし次の街へと移動する。
そうやってこの世の安定を司ってきた。
彼が今言っていることは今までの一族への反逆に等しいことだ。
「でもミリアちゃんに宝具を渡したところで、俺のいるこの世界は何も変わったりしないよね? だからノーカンさ」
「そんな適当でいいのかしら!?」
「いいのいいの。…………その代わり、あの時の約束はきちんと守ってね」
「……もちろんよ。あなたをこの世界では救ってあげる。安心しなさい」
最初にこの世界に来た時にした約束、それはオカザキタツヤが暗殺されない世界まで彼を案内すること。
どうやら最初は私のことを信じてなかったみたいだけど、今回の『時渡り』で信頼を勝ち取った結果、あの時の約束が現実味を帯びて来たんだと思う。
タツヤはあんした様子で笑顔を見せた。
「よし! 早速次の宝具のアイデアを出そう! ミリアちゃんはどんなのが欲しい?」
「どんなもの…………ね。これまでの旅を考えると……」
私はこれまでの旅で何度か境地に立たされている。
何故そのようなことになったのかを考えれば自ずと、今の自分に足りない部分が浮かんでくるはず……
「そうね。魔力の量を補助するようなものが欲しいわね。あんたのくれた不可避の輝剣、あれかなり強いけど魔力消費が大きすぎるわ。4、5回くらいしか打てないもの」
「知ってる! 不可避の輝剣は一撃必殺の宝具を目指したからね! 燃費に関しては全く考慮してなかった。それよりミリアちゃんアレを5回も打てたの? 本当に?」
「本当よ。なんならここで打ってあげようかしら?」
「ちょっと! タイム、タイム!」
「【時間】?」
「違う違う!!!! 剣を下ろして!」
どうやら不可避の輝剣は本来五回も打てることを想定していなかったらしい。
思えばアイリちゃんも一度で魔力が尽きたぐらいだし、やはり私の魔力は相当高いようだ。
「…………だったら、真実を導く光玉の失敗品をいくつかあげるよ。本物の様に魔力を爆発的に上げることは出来ないけど、単純にミリアちゃんの魔力の自己回復を補助する程度は出来るし、無いよりはましだろ。それにしても…………ミリアちゃんの魔力量を持ってしても倒せない敵とかっているのかい?」
「いたわよ、普通に。スライムの力を手に入れた変異種のバフォメットと戦ったことがあったのだけど、そいつに対しては確か二回打っても倒せなかったわ」
「また凄いのと戦ったね、ミリアちゃん。でも勝ったんでしょ? まさかそれを一人で?」
「いいえ、違うわ。私ともう2人……いえ、実質1人ね。旅の仲間と一緒に倒したのよ」
「そうかい。ミリアちゃんにも仲間が出来たようで俺は嬉しいよ! 変異種を前に死ななかったところをみるに、その仲間さんも結構な手練れなのかい?」
「いいえ、あいつは素人よ。ただちょっと頑丈なだけ…………そうよ!」
そういえば、私には魔力切れなんかよりも重大な弱点があることに気付いた。
私がこいつからもらった宝具たち、それら全て……
「私が欲しい宝具が決まったわ! それは防御系の宝具よ! 思えばあんたがくれた宝具、疾風迅雷の細剣はそれっぽいけど、基本攻撃寄りじゃない!」
私が自信を持ってそういうと、タツヤは露骨に不満を顔に出す。
「えー。ミリアちゃんのイメージに合わないから嫌なんですけどー。宝具ブッパ! 一撃粉砕! 終わり! 閉廷! なミリアちゃんが俺は見たいんだけどなー」
「何よそれ! イメージ重視なのかしら!?」
どうして、性能よりも見た目を重視して……いや、性能も凄いのだけどもね、天才の考えることは分からないわね。
「イメージは大事だよ。その人らしくない戦術はやっぱりどこかで破綻するものがある。広く浅くよりも一個のことにを極めた方が基本強かったりするものだろ?」
「言われてみれば……そうなのかしら? だったら、防御系の宝具はキャンセルで……」
「いや、作るよ?」
「なんでよ! あんたすごく嫌そうだったじゃない!」
言ってることとしようとすることが食い違っている。
まだ40代だと言うのにこいつは既にボケが始まっているのかしら。
「だって、ミリアちゃんに4つの宝具を渡した時から俺は分かってたから。この宝具たち、防御ザルだなって。だから、守りの宝具は既に作ってある」
「なっ!?」
タツヤはそう言って、工房の奥にある扉を開き、手招きする。
私は彼に案内されるまま、奥の部屋に入った。
部屋には木でできた四角い机が1つ。
1つだけ取り付けられた窓からわずかに漏れる光に照らされてか…………それとも己の力でかは定かでは無いが、光り輝く剣がその机の上に横たわっている。
あれは……あの武器は私の持っている宝具によく似ている。
どういうわけか、机の上には不可避の輝剣によく似た剣が高貴な光を放っていた。




