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魔法適性のない俺は拳で異世界を救う  作者: 長雪 ぺちか
第3章 最強の魔法少女の登場と殺人事件でサスペンスの香り……?『オオイタ』編!
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あなたが好き

 タケルがリリの加護【不思議の国の扉(ワンダードア)】で連れ去られた後、残された女性陣はすぐに合流する。

 傷だらけのミリアを心配したアイリはミリアの手を握ると、己の加護でミリアの痛覚を消した。

 ミリアはアイリに加護をかけてもらったのは初めてということ、それと幼女特有のまるで肉球のように柔い感触に目を見開き驚きを隠せないでいる。


「ミリアさん! どうしてこんなことに……」

「アイリちゅわん手柔らかっ……じゃなくって、災害みたいなものよ。台風とか地震とかそういうもの。本当に運が悪かったわ。リリは各地を転々としていたのは知っていたけど、まさか旅行中に出会ってしまうとは思わなかった」

「それで、リリにミリアはコテンパンにされちゃったと」

「やられてないわよ!? やられかけたの!」


 ミリアは挑発的なクレハの言葉に焦りを含んだ声音で返した。


「そんなことより、クレハ。あんたこれから何をすればいいか分かってるわよね?」

「何をするって……タケルくんを助けに行く?」

「違うわよ! ……確かにタケルも助けに行かなくちゃいけないけど、多分問題ないわ。それよりも、ちゃんと口裏合わせてくれなきゃ困るわ! 勿論、アイリちゃんもね」

「口裏ですの?」


 アイリはミリアの言葉の意味が分からないのか、首を傾げた。


「ちゃんと打ち合わせしましょうってことよ。タケルはきっとそれを望んでリリと私たちを引き離したわ」

「それで、口裏っていうけど、どうすればいいの?」

「非常に簡単よ。いい、クレハ、アイリちゃん。私とあなた達は今日ここで初めて出会ったということにしなさい。じゃないと、あなた達はリリに何をされるか分からない」

「えっ……あ、そうか……」


 クレハはワンテンポ遅れて理解すると言葉を返す。


「そういえばミリアは『トウキョウ』の指名手配犯だったねー!」

「ちょっと! 声のトーンを落としなさい! 嫌がらせか何かかしら!? ……んっ! とにかく、私と知り合いってことがバレたら良い結果にならないことだけは分かるわ。あなた達はタケルと一緒に『オオイタ』に観光に来た。そして私も偶然同じ観光地に来た。いいわね?」

「そういうことなら仕方ないね。じゃあ、ミリアと私たちは別行動のほうがいい?」


 クレハがそう言ってアイリの手を取ろうとしたところ、ミリアはなにかを思い出したかのように飛び上がり、クレハの手を掴む。


「ちょっと待って。私、大事なことを忘れていたわ……これは大問題ね……」

「大問題って、それってもしかしてアイリちゃんと一緒に観光できなくて困るーとかいう感じ?」

「そういう話じゃないわ。いやそれも問題だったんだけど、今回の問題はクレハ、あんたに関係があることよ」


 ミリアはクレハの顔を下から覗き込む。

 まっすぐな視線にクレハは逃げられない。


「『オオイタ』には観光目的の他にもう一つ。『時渡り』……つまりはクレハのお爺ちゃんに会う目的もあったのよ」

「お爺ちゃんに…………! いつかなーいつかなーって思ってたんだけど、ついに……だね……!」


 クレハの口調に熱がこもる。

 彼女がミリアのたびに同行しているのは、そもそも正体不明なギルド『アンノウン』に殺された祖父から宝具の製造方法を聞き出すためであり、そのことがクレハの胸を熱くさせた。


「それで『時渡り』について、前に少しは説明したと思うけど、もう一度説明するわね」

「う、うん……」

「『時渡り』、まずは発動条件から。発動条件は【時間】保持者であること、そして膨大な量の魔力があることよ」

「へえーじゃあミリアにはリア……ファル、だっけ? あの宝具があるから発動は出来るってことね」

「いえ、違うわ。『時渡り』に真実を導く光玉(リア・ファル)は使えない、というより使ってはいけないが正しいわね。いつも魔法石の強化の要領でしか使ってこなかったから勘違いされていたわけだけど、真実を導く光玉(リア・ファル)は元々違う目的で作られた。それはクレハのお爺ちゃんのいた時代に迷うことなく辿り着くという目的よ。あの光の玉にはクレハのお爺ちゃんの魔力が混ざっているの」


 勢いよく説明をするミリアの話が理解できている様子ではなかったが、クレハは首を縦に振る。

 そのことを察したミリアは、本題へと切り込む。


「発動条件はあまり関係なかったわね。とにかく問題は発動した後よ。『時渡り』を発動した後、私の精神は【時間】の魔力に導かれ、過去へと遡るわ。その時私の、今話している私の肉体は一時的に停止する。つまり気絶するの」

「ふーん。話が分かったよ。つまり、気絶しちゃっている間、誰かに見ててもらいたいんだけど、私たちと別行動になったらそれができなくなるってことだよね」

「その通りよ。素早く理解してくれて助かるわ」

「じゃあ、私たちでミリアの護衛かー。私に護衛なんか出来るかなぁ……」


 ミリアは細く伸びた金の髪を払う。

 その後、クレハは少し頭を捻り意見を絞り出そうと唸っていたが、一度大きく目を見開いた後、ミリアの遥か後方へ一度視線をやる。

 そして、何度か視線を泳がした後、再び視点はある一点へ注がれる。

 その冷ややかな眼差しはミリアに向けられたものではなかったが、彼女は背中から足元にかけて悪寒が走る。

 いつも温厚なクレハの奥に潜む、触れてはならない恐怖をミリアは感じ取った。

 ミリアはこの目を知っている。

 初めて彼女に出会ったときに自身に向けられた、暗く冷たい目だった。


「…………あなたが好き」


 彼女がそう小さく、誰にも聞き取れないほどの音量で呟くと、視線をミリアの方へと戻した。


「ミリア。その『時渡り』はいつ頃するつもり?」

「……それは『オオイタ』滞在の7日間のどこかでするつもりだったわ。出来れば夜の方がいいのかもしれないわね。見ている人も少ないだろうし」

「それは逆だよ。話を聞くにミリアのそれは出来るだけ多くの人が活動している間にやった方がいい。だから日中にやって」

「…………クレハあんたちょっと怖いわよ」

「怖くなんかないよ。私はいつも通り。私はいつもこうだったじゃない。ただ少しピリピリしてるだけ、生理かも」

「ちょっとクレハ、はしたない冗談言わない……」

「3日待って」


 クレハはミリアの言葉を遮って話を続ける。

 彼女から湧き出る言いようのない不安感にミリアとアイリは何も言うことができなかった。


「3日で私の整理が終わるから。『時渡り』はその後でお願いするね」


 クレハに差し出した手を、アイリは一度引くのであった。


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