フリーゲームのアレ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
俺はあまりの激痛に枯れた声で叫ぶ。
痛い、痛い、痛い、痛い!!!!
左手が燃えるように熱い。
熱した鉄塊を押し当てられたみたいに痛く熱く、そして苦しい。頭の中を完全に痛覚が支配する。
目の奥がチカチカするほどの痛みに苛まれる中、アイリの声が俺の耳を通り抜け、フッと体が一瞬のうちに軽くなる感覚を覚える。
先ほどまでの痛みは全く感じられない。
俺の隣には天使のような幼女が右手を握り、不安げにこちらを見つめていた。
「ありがとう、アイリ。死ぬほど痛かった」
アイリの持つ一つ目の加護、【感覚操作】。能力はその名の通り、感覚を操作する加護。
アイリは今、俺の右手に触れて、この加護を俺にかけている。詳しくは分からないけど、俺の痛覚が遮断されているのは間違いない。
「お安いご用ですわ! それよりタケル先生、逃げるのですわ! あんな化け物に勝負を挑んだら命がいくつあってもたりませんもの!」
「アイリの言う通りだよ。ダンジョンから一刻も早く脱出しよう。アイリおんぶしてもいいか?」
「はい! もちろんですわ! タケル先生におんぶされるなんてちょっと嬉しいですわ……」
頬を赤く染め、恥ずかしそうにアイリは俺の背中にしがみついた。
そして、その手には俺の左腕が握られていた。うげ。
「アイリ、俺の左手グロテスクだから持って帰らなくていいって……見てると痛く感じちゃうしさ」
「それはダメですわ。後で先生の腕をくっつけるためにも持ち帰るのですわ」
「ええっ!? 腕治るの!?」
「たぶん、ですけど…………ミリアさんの【治癒】の魔法石があればもしかしたら治る可能性もありますわ!」
なるほど、と俺は頷く。
俺はまだ魔法がどこまでの効力を持っているのかについてよく分からない。
しかし、明らかに複雑骨折していたと思われる腕が回復魔法によってすぐに元の状態に戻っていたりしたんだ。切れた腕が元に戻ってもおかしくない。希望は最後まで取っておくんだ。
迫り来る青いミノタウロスの斧をバックステップでかわし、俺は身を翻しダンジョンの上の階に向かう階段に走った。
ミノタウロスに追いつかれてはいけない、そして腕の出血量を見るに長くこのままにするのは絶対にいけない。
だからこそ、早く、早くミリアの元まで逃げ帰らなければならないのだ。
階段を駆け上がったところで、少し後ろを振り返るとミノタウロスが階段を無視し、それを壊しながら登ってくる。
恐い! 恐い!
ミノタウロスさん体の色的にも◯鬼みたいになってるよ!
ゲームで見るのも恐いけど、今はリアルだからもっと恐い!
もう1人で夜中トイレいけないレベルの恐さだよ!
その後も俺はミノタウロスを巻こうにも巻けず、付かず離れずの距離でダンジョンの出口に向かった。
途中、複雑な曲がり道をうまく利用して巻こうとも考えたが、結局失敗に終わる。
そもそもミノタウロスはこのダンジョンのモンスターなんだから、俺なんかよりも土地勘があってしかるべきなんだ。
地元民最強ってことだ。地元民ってなんだ。
そう言うわけで、小賢しい真似で巻こうと考えず、俺は一目散に出口に向かう。目の前がチカチカし、視界の外側が白く濁っている。タイムリミットは着々と近付いて来ていた。
最後の階段を登りきり、太陽の光が差す出口を見つけた。
そして逆光でよく見えないが少女の影が1人。
後ろには青いミノタウロスが俺とアイリを殺そうと迫ってきている。
確信は持てないがそれでも俺はこう叫ぶしかない。
「ミリア! 宝具をダンジョンにぶっぱなせ!!!!」
叫び、最後の力を振り絞り、今日一番の加速でダンジョン出口までの一本道を走り抜ける。
そのスピードはミノタウロスの速度を遥かに凌駕し、2人の差は一気に開く。
そして俺がダンジョンを抜けたその瞬間
「不可避の輝剣!!!!」
ゴゴゴと鼓膜を震わせる大きな音とともにダンジョンが崩れ去った。