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第八話 『パーティー紹介:幼馴染は召喚士』

 俺は弱い。

 これはもう、どうにも動かし難い事実であるようだ。

 せっかく転生したんだから最強チートを望んでいたのだが、まるでそんなことはない。

 確かに勇者の末裔というのは熱いポジションとはいえ、その実態は『落第勇者』と呼ばれる無能。

 剣術も魔術も固有スキルも強くない。

 世界を救えるような人間ではないのだろう。


 が、しかしだ。

 俺の仲間たちは強い。

 鬼強い。

 どうしてこんな娘たちが俺……というか、昔の勇者様に全幅の信頼を寄せているのか、さっぱり分からんレベルだ。

 どれくらい強いのか。

 それを説明していきたいと思う。

 まずは一人目、幼馴染の召喚士についてだ。



 _________________________________________


「朝だよー、起きてー」


 声が聞こえる。


「朝だよー、起きてー」


 優しくて柔らかくて、日本だったら声優になれそうな声。


「朝だよー、起きてー」


「……何やってるの?」


 そんな声が、窓の外から響いていた。

 ちなみに、ここは二階である。


 その女の子は木に登っていた。


「何って、幼馴染の男の子を起こすのは、幼馴染の女の子の義務でしょ?」


「多分、何時に起こすかという点で妹と騙し合いを繰り広げるのは幼馴染の義務じゃないと思うけどね」


 毎日毎日、どちらが俺を起こすかで妹と幼馴染が争っている。

 これだけ聞くと一見羨ましく見えるかもしれない。

 ハーレム主人公死ねと思うかもしれない。

 しかし、これはつまり際限なく起床時刻が早くなっていくということに繋がる。

 最終的に、就寝から5分で妹に叩き起こされた時には思わずブン殴りそうになった。

 現在では一応、交代交代で俺の目覚ましをするという協定に落ち着いた。というか、落ち着かせた。

 それでも、時間に遅れるともう一方が起こしてしまうので、どうやら相手の妨害が絶えないようだ。

 恐らく何か妹がやらかした結果、この幼馴染は木登りまでする羽目に陥ったのだと思われた。


「ふふ、今日は勝った……」


「ええと、うん。起こしてくれてありがとう」


 限りなく形式だけのお礼だったが、それでも彼女には十分だったようで。


「ど、どういたしまして」


 さっきまでの勢いはどこへやら、もじもじと俯きながら答える

 しかし俺は知っている。

 演技だ。

 この女は侮れない。

 天然風腹黒ビッチである。

 あー、ほらその角度。

 絶妙な上目遣い。

 完璧だ。世が世ならオタサーで姫が出来ただろう。


 と言っても、俺への好意までが演技かというと、それは違うように思う。

 記憶を失った(ように彼女たちには見える)俺に、最も献身的に尽くしてくれているのはレイアだ。


「今日も好きだよ、ウィル君」


 アピールも凄く直接的だ。いや、その点に関してはメイルも負けてないか……ディアンやアイリーンもだな。あれ?全員じゃん。


「あ、ありがとう」


 とはいえ、それでもこういうのには未だ慣れない。

 人に好かれなさすぎた約30年の弊害か。

 いずれ冷たくあしらったりも出来るようになるのだろうか。いや、そんな酷いことする気はないけど。


「あ、フィーもおはようって」


「ああ、おはよう」


 俺は相変わらず何もない空気に向かって挨拶をする。

 馬鹿馬鹿しい気分にならないでもないが、最初に俺がフィーに頭を下げてから、レイアは時たま俺とフィーを会話させようとする。面白いのだろうか。


「そう言えば、精霊っていつもいるものなの?召喚魔法って言うくらいだから、魔力を使って召喚してるんじゃないのか?」


「え?その通りだけど。今はウィル君に挨拶してもらおうと思って呼び出したの。あ、もう帰ってもらったけど」


「な、なんかそれだけのために来てもらうのは申し訳ないんですけど……」


 最近得た知識によると、精霊というのは普段『こことは違う世界』に住んでいるのだが、契約を交わした召喚士がそれを呼び出した時だけこの世界に顕現するという仕組みのようだ。

 その『こことは違う世界』がまさか日本ってことはないだろうが、同じ異世界転生者としてちょっとシンパシーがある。

 軽いノリで何度も呼び出すのはどうなんだろう。


「いいのいいの、どうせ暇してるんだから」


「そうなのか?」


「うん。こっちの世界のほうが楽しいっていつも言ってるし。ずっとこっちにいたいらしいけど、それは私のマナが持たないからね」


 魔力はマナを詠唱で練ったものであるが、そもそも魔力に変える前のマナは大気中から体内に取り込んでストックしおくものだ。

 しかし、無限に溜まるかといえばそうではない。人が体内に溜められるマナ保有量には限界がある。

 それは各人ごとによって異なるが、基本的には才能のようなものだ。

 ちなみに俺は一般人レベル。まぁ、予想通りですね。

 つまり俺なんかは、MPを気にしながら戦闘をしていくわけだ。


 ……という世界観にあって召喚士の強いところは、呼び出した精霊が独自の魔力を有するという点だ。

 つまり、精霊の召喚と維持には体内マナを使うものの、戦闘で魔法を唱えるのは精霊であり、枯渇する心配はほぼない。

 ずっとは無理、と語るレイアも、実は丸一日呼び出しっぱなしくらいなら可能だという。


 しかもその精霊は詠唱なしで好きに魔法を使うことが出来る。

 この世界での魔法というのは詠唱が基本的に必須だ。

 マナは単体では指向性を持たないただの力の塊であり、それを炎や風など意味を持った能力に変換するためにある程度テンプレに乗った魔力の制御が必要となる、というのが理由。

 一般的な魔法師は魔力切れに気を回しつつ相手の隙を伺って詠唱もせねばならない。


 とは言え例外もなくはない。

 例えばメイル。彼女は魔術師であり、そのルーツは固有の能力だ。

 自分で開発したが故に、そこには定石などあるはずもなく、詠唱は必要ない。代わりにその魔力の通し方は自分にしか分からないため誰にも教えられないが。

 ちなみに、彼女は固有魔術が氷に関するものであるため、氷系であれば一般魔法も詠唱なしで使えるらしい。

 その分野に精通しているから、公式を用いずとも暗算出来てしまうようなものか。


 精霊の魔法発動に詠唱が不要なのも、同じ原理と言っていい。

 彼ら……いや、フィーはレイア曰く女性らしいから彼女らなのか、とにかく精霊達は『こことは違う世界』の理に従って魔法を使っている。この世界の公式なんて使うわけがないのだ。

 という訳で、精霊の召喚魔法自体には詠唱がいるらしいが、呼んでしまってからは無詠唱戦闘が可能である。


 こんなレイアとメイルが争った場合、その戦闘は必然的にハイスピードになる。

 初めて会った時から彼女たちは技名と掛け声だけで戦えていたが、魔法同士の戦闘としては異常事態である。

 詠唱している間に剣士に斬られるのが魔法師の哀しさである……と言われるほどに彼らはタイマンに弱く、本来ならサポート役に回るのが基本らしい。

 バチバチに前衛が出来る魔法師、あるいは魔術師など世界に何十人かってところだとメイルは言っていた。

 固有能力が詠唱なしで使えると言っても、オリジナル詠唱を作ってそれを使わなければマトモに術を使えない魔術師も『初級』や『中級』には多いらしいからだ。

 しかし、その何十人かの内二人がここにいると考えると空恐ろしいものがあるな。


「それで、今日は何か予定があるの?」


「あるある!勿論今日の予定は……デートです!」


「デートって、それは恋人同士がすることじゃないか?」


「これから恋人になる予定の人達もするかもよ?」


 確かに、それもデートと呼ぶなぁ。俺には縁がなさすぎてパッとデートの定義が説明できなかった。

 あれ?てことはデートってなんだ?男女が出かけること?

 いやそれだと友達関係の男女でもデートになっちゃうし……。

 本人たちがデートだと考えてたらデートか?

 うーん、謎だ。おっと、本当にどうでもいい思考のループに入りかけてしまった。


「なるほど。そうだとして、誰と誰がデートするの?」


「私と、ウィル君」


「いつ?」


「今日」


「無理でしょう……」


 レイアの答えを聞いて、俺は耳を澄ます。

 いや、澄ますまでもない。

 大地を揺らすかの如き轟音が家中に鳴り響いている。

 発信源は外。

 原因は……雨だ。

 この世界の雨が常にこんな滝のような仕様なのかと問われれば、それは違う。

 今は春と夏の間にある、雨期と呼ばれる時期で、この期間の雨は非常に激しい。

 雨というよりも、水の塊が上から落ちてくるような感じさえする。

 洪水で家が流されないのは、レイス村が丘のように盛り上がった位置にあるからだが、これは人工的なものだったんだなと理解出来た。

 なんで前後左右を森に挟まれているこの村が浮き上がっているんだろうと疑問だったのだ。

 土属性の魔術で強引に周囲より高くして、雨の逃げ道を作ったのだと分かる。


 とはいえ、本当にこんなの『流されてないだけ』だ。

 家は動いていないものの、村はほぼ河である。

 外でデートなんて狂気の沙汰と言えた。

 レイアは隣の家だからいいものの……あれ?


「なんで濡れてないんですか?」


 隣といえども、この雨の中を少しでも歩いたらグシャグシャになると思うのだが。


「ふふん、フィーのおかげ」


「フィーの?魔法を使ったんですか?」


「うん。フィーは風の精だから、別に水を制御できるわけじゃないんだけど、守護精霊だから守るということに関しては特殊なことが色々出来るの」


「守護精霊、か……他にはどんな精霊がいるの?」


 また知らん用語が出てきてしまった。

 こういうのは逐一訊いていかないと。


「色々いるよ?探知精霊とか攻撃精霊、呪術精霊なんかもいるかな」


「呪術ね……その精霊にはあまり出会いたくないな」


「まぁ現役の精霊使いなんて、世界に私が知る限り三人しかいないんだから、まず会わないと思うよ」


「それは良かった」


 知らない内に呪い殺されてました、とか洒落にならんし。


「えーと、話を戻すけど、フィーが傘になってくれるから大丈夫。暴風も遮断出来るし。余裕だよ余裕。さぁ、嵐の中で二人きりのデートをしましょう!」


 レイアが笑顔で俺を誘う。

 えぇ、マジで?マジで行くの?

 嫌だなぁ……。

 雨の日に外に出るという行為自体、引きこもりに慣れ過ぎた俺には信じがたい。

 買い物に行くとしても晴れた日を待つのが俺のスタンスだった。

 晴耕雨読……いやごめんそれはウソ、晴れてても働いてなかったから。

 ……そうだな。こういうとこから治してくか。

 いつまでもヒキニートじゃいられないしな。


「分かった。行こうか」


「やたっ!……ぐふ、こんな日に外に出てる人間なんて私たちくらいのもの。絶対に面倒な妹とか姉とか先生とか妹とか妹とか妹とかには邪魔されないぞ」


 聞こえてるし。

 てか、妹多すぎだろ。俺は何人家族なんだよ。あるいは、何人分メイルが嫌なんだ。


「それで、このまま外に出ていいの?」


「え?あ、いや、私が先に出るね。それと……フィーの効果範囲から出ちゃったら不味いんだけど、ウィル君にはフィーが見えないでしょ?だから……その、手をですね」


「繋げばいい?」


「は、はい!その通りでしゅ!」


 でしゅ?


 正直、女の子と手なんて繋いだら緊張で汗が吹き出してきそうで嫌なのだが、この雨なら大丈夫……あ、待てよ?フィーの結界的なので雨なんて入ってこない?

 いやそれだとヤバいって!何せ俺の中身は童貞野郎なんだから!

 しかも手汗をかきやすい体質で……あ、体は違うな。

 掌を見てみる。

 おお?心は焦ってるのに、手はいつも通りサラサラだ。

 すげぇな、恐るべしイケメンフィジカル。


「ウィル君?」


「あ、あぁ、何でもない。じゃあ行こうか」


 俺は差し出されたレイアの手をギュッと握る。

 中学校のフォークダンス以来の女の子の手は、不思議な気持ち良さがあった。

 当たり前だけど男とは違うものなんだな。

 柔らかさというか、折れそうな儚さというか。

 伝わってくる体温というか。


 ……なんて、呑気なことを考えていた俺は、大馬鹿者だった。




 _____________________________________


「がっ、ゴボッ!」


 数分後。


 俺は溺れていた。


「ク、そぉ!」


 濁流の中で藻掻く。

 ここは既に村から流された森の中。

 河のように暴れ狂う洪水を前に、小学校時代に習っていただけのクロールは当然役に立たない。

 息だけ確保して流されるだけの藻屑と化している。


「だ、れか……!」


 なんて、いるわけがない。

 奇しくもさっきレイアが入っていた通り、こんな日に外に出てるのは俺たちだけだろう。


「ガボォッ!?」


 口に濁流が入って息が出来なくなる。

 吐き出すか飲み込むかで1秒だけ迷い、結局飲み込んだ。

 こんなの、吐いてる間に次の水を飲まされる。


「なん、で……こんな、目に」


 理由は明らかであった。

 俺が……童貞だったからだ。




 ___________________________________


「凄いな。本当にこの中は何ともない」


 レイアと手を繋いで家から出ると、そこにはおかしな空間が出来ていた。

 何もないように見えるのに、何故か大荒れの雨や濁流が一切入ってきていない、円形のスペース。

 言うなれば、透明の巨大ビーチボールの中に入り込んでいるような感じだ。


「面白いでしょ?」


「うん。これは貴重な体験だ」


 こういう、間違いなく日本では出来なかったことをするのは面白い。


「どこ行こっか?」


 レイアがこっちを見ながら訊いてくる。

 雨音もほとんど弾いてるのか聞こえないため、その声はちゃんと聞こえた。


「決めてないの?」


「うん」


「俺も外に出られた時点で満足してる節があるけど……そうだなぁ、じゃあちょっと歩こうか」


「だね。村の中を見て回る?」


「そうしよう」


 ということで俺たちはエルス村を一周することになったのだが。


「……悲惨だね。何というか」


 そこは観光スポットとは言い難い状況下にあった。

 濁流の中で家々が地面にしがみついている、と表現するのが一番適切か。

 見ているだけで気落ちする光景だった。


「こ、これは……失敗したかも。二人きりになれれば後は何とかなると思ったのが間違いだった……」


 確かに、デートで雰囲気を出すのには向いてない景色だろう。

 というか、こうなってることは分かってたんじゃないのか?


「あそこは……確か倉庫だったよね?このままじゃ危ないんじゃないか?」


「えと、一見危なそうでも、実はこの村の建物は雨期の前に魔力によって補強してあるから……」


「あれくらいだったら問題ないのか。他は……」


 デートどころか、被害状況確認の様相を呈してきた。

 色気など欠片もない。いや、正直俺はその方がありがたいけど。


「これは……おかしくない?おかしいよね。なんで私はこうなった?どこで間違えたんだろう。こんな日に他のパーティーメンバーを出し抜こうとしたこと?いや、方向性は合ってるはず。ただちょっと想像力が足りなかっただけで……」


「どうしたの?」


「な、何でもない!」


 レイアは瞬時に否定する。

 いや、口に出してることは全部聞こえてるんだけどね。


「どうすればデートっぽく……うーん……」


「あの……」


 この流れは危険な気がする。

 放置しておくと嫌な予感が……。

 と思って話しかけた時。


 空に閃光が走った。


「うおっ、と」


 雷。そりゃあこれだけ天候が荒れてれば鳴るだろう。

 多少読んでいたので、そこまで驚かずに済んだのだが……。


「これだぁ!」


 明らかにレイアがハイになったことに、俺は心底驚いた。


「ど、どうし……」


「いやぁん。雷こわいよぉ」


 うるっとした目つきで、こっちを見る。

 ていうか、ワンテンポ遅い。もう光どころか音も鳴り終わったよ。怖いわけない。


「お願い……抱きしめて……安心させて?」


 そのまま俺にしなだれかかってくる。

 ちょ、ヤバい。

 胸が。

 ていうか、これヤバい。

 完全に二人きりの空間でそういうことをされるとだな。

 あ、バカ……。


 下の方は、手の汗腺と違って俺の欲望に正直であった。


「ご、ごめん!」


 それを悟られないよう、一言謝ってから軽く彼女を突き放そうと、右手を離して……。


 離して?


「あっ」


 フィーの効果範囲から飛び出た俺は、抵抗虚しく波に飲まれて消えて行った。




 ___________________________________


「はぁ、はぁ……!」


 のんびり回想してる場合じゃなかった。

 俺は何とか途中で森の木に掴まったものの……。


「こっから、どうする?」


 登るには枝が上の方にしかないタイプの木だ。

 かといって他の木を求めて再び流れる雨水プールへとダイブする気は到底起きない。


「レイアに知らせる、しかねぇよな……」


 他の人間ではこの天候の中ここまで来れないだろう。

 雨が上がるのを待ってたんじゃ、雨期は半月ほど続くというんだから餓死待ったなしだ。


「けど、その方法が分かんねぇ」


 大声を出す?冗談だろ。雨音で全部掻き消される。

 魔法を使う?でもそんなに便利な魔法なんて覚えてない。


「ガフッ!」


 またしても水が口に。しかも泥混じりだから飲むのもキツい。


「も、もう……」


 ダメかも。

 嘘ぉ、俺こんなことで死ぬの?

 何のための転生だったんだよ。

 クソ……死にたく、な……。


「ウィル君!」


 俺はそこで、天使の声を聞いた気がした。




 ____________________________________


 フィーの魔法結界に入って休むこと数分。

 何とか体力を回復させた俺は、レイアに気になっていたことを訊くことにした。


「どうして俺の位置がわかったんだ?」


 これは当然の疑問のつもりだったのだが、レイアは思ったよりも動揺した。


「べべ、別に偶然かな?」


「本当に?」


 いや、偶然でも構わないのだが、そんな言い方をされると気になるじゃないか。


「えと、あの、実はこれ……『探知石』って言うんだけど」


 そうして観念したように差し出したのは割れた石だった。

 それは魔法具。

 要約すると、対象者の魔力を設定すると、砕いた時に大気のマナを伝った光が発されて、辿るとその人のところに行けるという寸法だという。


「へぇ、こんな便利なものがあるんだ」


「ま、まぁ魔法具は基本的に砕いて使うから使い捨てだし、それに設定するのにも割りかし魔力を食うし使い勝手がいいわけじゃないんだけど」


「へぇ」


 それでも十分面白い物だと思うけど。

 そう、例えばこれを使えば……。


「ストーカー、しようとしてました?」


 びくっとレイアの体が震える。

 寒さからではないだろう。ここには雨が入ってこないし。


「俺を尾けるために使ってませんこれ?ていうか、ほぼそのための道具じゃないですか?」


「あははぁ、何のことやら……あと、敬語に戻ってるよ?」


「質問に答えてくれたら、戻しますよ?」


「うぅ……実は」


 と、縮こまりながらレイアが口を割ろうとした瞬間。

 俺たちの周りに雨と濁流が飛び込んできた。


「わぷっ!?」


「うおっ!?レイア!!」


 慌てて流されかけたレイアの腕を掴んで引き寄せる。何とか木にしがみつくことだけは出来た。


「な、フィーはどうしました!?」


「……マナ切れで。昨日『探知石』の設定をした時に思ったより取られてたみたいというか、その」


「バカ!だから挨拶くらいで呼ばないでと!」


「しょ、しょうがないじゃん!そもそもウィル君が手を離して流されたのが悪いんでしょ!」


「うぐっ!その節は本当に……すみません」


 そうだ。明らかに元凶は俺だ。

 いや、もっと言えばこんな日に外に出ようとしたレイアもアレだが、俺が遭難したのも相当問題行為だった。

 絶対肯定妹のメイルと違い、レイアは割とこういう状況になった時言い返してくるから責任のなすりつけあいになる。そんなことやってる場合じゃないが。


「お互いの言い分は置いといて……どうしようか?」


「私のマナが回復するまで……ここで待機?」


「何分かかる?」


「……2時間くらい」


「……まぁ、しょうがないよね。俺が支えておくから、レイアは回復に専念して」


 ギュッと左手でレイアの腰を抱く。

 ちなみに右手ではもっとギュッと木を抱いている。

 うわぁい、両手に花だぜ。おっと、片方は植物といえど花じゃなくて木でした……って、ふざけんな。


 ふと見れば、レイアはこんな最悪の状況ながら、にへらっとだらしない笑みを浮かべていた。


「や、役得!」


「それどころじゃないと思うけど……」


 その後、メイルは回復しても30分くらい言い出さないで俺にまとわりついていたので、次の日から目覚まし係を一週間妹だけに任せる刑に処した。

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