# 舞台と芝居の条件 #
「それ、何泣きなん?」
先輩からの声が耳に響く。
「泣いてる時間あったらさ、少しでも練習してうまくならんの?」
フルートを演奏する高校一年生が泣いている。
彼女はマーチングの練習中、どうしても演奏に体がついていかないのでドラムメジャーの先輩に
呼び出されて個人練習を受けている。
笑ってこらえて、という番組の一場面だ。吹奏楽部の旅。
最近、響け!ユーフォニアムというアニメで吹奏楽部に興味を持ったのでちょいと調べてみた。
動画サイトで見ているけど、高校生ができる技とは思えない演奏である。
いいものをたくさん、何回も聞くと良い。
福岡の強豪の演奏技術など、神掛かっている。
華麗なる舞曲といったか、素人にもわかる「凄み」がそこにはある。
あなたが学生のときに、これほど全力で物事に打ち込んだことはあっただろうか。
むちゃくちゃに練習して、
厳しさの中に、達成感というものがあるはずなのだ。
***
演劇部に入りたい!
何を勘違いしたのか、ボクは大学の四年生で、思ってしまった。
しばしば、舞台には魔物が潜んでいるということを言われる。
舞台は、一度嵌ってしまうと、抜け出せないほど
魅力を持っている。
大学に進学するころ、アニメがすごく好きで、声優について詳しくなった時期があった。
声優の存在を知ったころはわくわくしたものだが、大人になるにつれてその魅力を
見出せなくなった。
正確に言うのであれば、自分が一生を通じて職業として芝居ができるかを考えたとき、
明確に「無理」という結論を出すことができたからだとおもう。
憧れを仕事にするものではない。
それを身をもって知った小話をしよう。
目標をたてて、行動を起こす、ただそれだけのことなのに、なかなかできないでいた。
後悔をしたくなかったから、周りの目を気にせずに、やりたいことをやろうと決めたのが、
4年生になってから。
5月4日のことだった。
ボクは大学のサークル棟の演劇部を訪れた。
テアトル造士団というサークルは毎年公演を三回ほどやっている。
7月公演の準備が丁度スタートして間もない時期だった。
どうせ、中途半端に興味を持ったアホウで、すぐに練習にキツさに耐えかねて辞めるだろうと
思われていたらしいが、期待を裏切るように、全力で最後までやってやった。
普段は週4回の稽古。直前になると週7になる。
大学の劇団は、資金源はそこそこあるのだが、年によって当たりはずれが大きい。
面白い演劇をすることもあるのだが、いかんせんうまく行くのは誰が所属しているかによる。
士気の高いリーダーがいてこそ、劇団は成立するようにおもう。
つまるところ、「なんとなく」で演技をされてはこまる。
日和見主義なやつが演出をやったら、馬鹿を見るやつがいる。
失態を、誰かが尻拭いをしなきゃならない。
大学の芝居は商業演劇ではない。
広告、宣伝をそこまでしなくても良いのだ。
失敗してもいい。
やりたいことをやればいい。
でも、本気でなくてはそこにいる資格がない。
忘れてはいけないのは、決して演技だけをするべきではない。
その年は、舞台監督をやった。
十数人の劇団だった。
演技にそもそもセンスがなかったので早々に役回りを切り替えた。
周辺の管理を任されたわけだ。
名前はたいしたものだが、実際は「雑務何でも屋」である。
「何のために演技をするのか?」
これがわかっていない人が多すぎた。
独りよがりな考えかもしれないが、部活では、とりわけ劇団では、
「好き嫌い」で人間関係をするものではない。
あの人といると楽しいから、面倒な雑務をしてもいいな。
あいつは嫌いだから話すらしたくない。
台本だけ読んでおこう。
最低限のことをせず、他人に働きかけることをしない連中。
マトモに相手をすれば、
馬鹿じゃないの?と、はき捨てたくなる。
演劇をやること自体がいかに費用対効果が悪いのかがわかる。
おまえは何のために芝居をやるのか?
そんなのは、はじめから決まっている。
観客のためでしょ?
わざわざ会場まで足を運んでもらって、決して安いとはいえない観劇料を払って、
いったい何を見せてくれるのか。
演劇の生の良さを、日常とは違う何かを与えるために
演技をしているのではないか?
なんども、途中で投げ出してやろうかとも思った。
舞台に出るからには、やるべきことをやれ。
覚悟して演技をしろ。
事なかれ主義じゃだめなんだよ。喧嘩するくらい、ぶつからなきゃいいものはできないんだよ。
仕事はいくらでもある。人が少なければ、ほかの手伝いをするのは当然だろうが。
装置班、演技指導(演出)、宣伝・広告などの制作、衣装、照明班。
楽しむのは団員じゃねーんだよ。
僅か12人の団員が生半可な気持ちで演劇をやるとこうなる。
舞台装置のパネルのペンキ塗りが当日の朝までやっている。
集客が歴代でもっとも少ない。
公演直前で音響機器のパソコンが停止する。
撤収後打ち上げ前に団員が過労で救急搬送される。
ひどいものだ。
これに懲りて、劇団運営にはうんざりしている。
何が悪かったのか。自分の女子受けの悪さもあっただろう。
胡散臭さをぬぐいきれず、信頼を獲得できなかったのが一番の原因だろう。
努力の方向を誤ったのか?
「誰もあんたになんか期待してないよ」
やりたいことやって何が悪い。
「でもさ、人の顔色を伺うばっかりだと、萎縮しちゃって何もできなくなるんだよね」
本気でやるのであれば、他人にどう思われようが、突き進まないとわからないことがあるんだよ。
「後悔するなら、やりすぎ打て後悔するくらいが丁度いい」
達成感がほしいのなら、対立するくらいが丁度いい。
それすらできないなら、やる資格はない。
***
深夜、コーヒーを飲みながら、忘れられない思い出にふける。
自己表現をやめられないから、こうやってものを書く。
「お前の演技、めっちゃ面白かった!また見にいくよ!」
その一言がほしいだけ。
漫画描きだって、歌手だって、だれだってそう思ってる。
…ここまで読んでくれてありがとう。
続きはまた雨の降った日にでもかきますよ。