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転入式前夜②

黄昏部屋に入った僕は、 アラマンドを探すために大声で叫んだ。


「アラマンド! いるかい?」



僕の声だけがゴツゴツした岩に響いて少し気持ち悪い。 空は綺麗な夕焼けが広がっていて遠くに鳥が飛んでいるのが見える。


「アラマンドを探さなきゃ」


僕がいる場所は切り立った崖で辺りを見下ろせる。 この崖を降りていけば下の森に行けそうだ。 辺りを見回してみたけれどアラマンドがいる気配はない。 降りれそうな場所を探して歩いていると急に誰かに引っ張られた。


「誰っ?」


僕はびっくりして後ろを振り向いたが誰もいない。 今確かに誰かが僕の服を引っ張ったのに。


やっと降りられそうな崖を見つけてそおっと足をかけて降りていく。 こんな崖を降りてるなんて知ったら母はびっくりするだろうな。 少しだけ母のことを思い出して懐かしくなった。まだ1日だって離れていないのに。


「うわっ」


途中まで降りてきた時だった。 足を踏み外してしまった。 一瞬で身体に冷や汗がはしる。 まだ下までの距離はあるしこのまま落ちれば骨折か打ち所が悪ければ最悪死に至るだろう。

僕は空中で必死に手を伸ばした。 まだ死にたくない! イヤだ!


次の瞬間不思議な蝶々が僕の目の前に映った。 夕焼け空に照らされて羽についてる粉がキラキラと光っている。 時が止まったようだった。 僕と蝶々はゆっくりと地面へと降りていく。


蝶々は僕の周りをパタパタと飛んでいる。 そして足がようやく地面についた。 蝶々は相変わらず僕の周りを飛んでいる。


「あの、 ありがとう。 助けてくれて」

「どういたしまして」

「えっ!!」



僕がお礼を言うと蝶々が返事をした。 喋ったのだ、 蝶々が!


「なんで、 喋れるの?」

「えっ、なんでって。 当たり前でしょ? 生きてるんだから」


蝶々は何を言ってるんだと言わんばかりの声色で質問に答えた。


「生きてれば誰だって喋るでしょ。 変な人。 それより貴方は誰? 私は黄昏部屋の案内人のスカーヴァよ」

「あ、 僕はケリー。 ケリー・ホワイト。 スカーヴァ、 ここにアラマンドはきてる? 大きくて色は黒くてお腹がでてて」

「あぁ、あの子ね。 あの子ならこの森の先の湖にいるわ。 ちょうどホッポケ湖のガラス蛍たちがご飯を食べる時間だから」

「ホッポケ湖? ガラス蛍?」

「そうよー、 カーヴィンに頼まれて餌を上げてくれてるはずよ」


蝶々は僕の前をひらひらと舞っていて僕はその後をゆっくりと歩いてついていく。 森の木々たちがさわさわと揺れるのを見て少しだけ蝶々についていく足を早める。


「カーヴィンは元気?」

「僕もまだ今日会ったばかりだから。 いつもあんな感じなの?」

「うーん、 そうだね。 人使いは荒いかな」

「なんとなくわかるかも」

「でしょ、 人使いが荒い上に怒るといつまでも根に持つのよ」

「そうなの? そんな風には見えなかったけど」

「人は見かけによらないものよ、 カーヴィンには気をつけてね。 ケリー」

「ありがと、 スカーヴァ」

「さぁ、ついたわよ」

「うわぁ!」


森を進むと湖が見えてきた。 夕日に照らされた湖は真っ赤に染まっていてお日様が反射して映っている。


「すごく綺麗だね、 スカーヴァ!……スカーヴァ?」


辺りを見回して見たが先程まで周りを飛んでいたスカーヴァがいなくなった。 不思議に思ったがカーヴィン先生最初にあった時突然消えたしこの世界では当たり前のことなのだろうとあまり気にしなかった。 そしてアラマンドの元へ走っていく。


「アラマンド!」

「ケリー」


アラマンドは気まずそうに下を向く。 そして袋の中から黒い粉を出すと湖に向かって投げた。


「アラマンド、 何してるの?」

「餌やり」

「ガラス蛍に?」

「あぁ、 先生に聞いたのか?」

「いや、 スカーヴァに」

「スカーヴァ? 誰だよそれ」

「知らないの? ここの部屋の案内人」

「知らないな、 俺は来た時すでにここだったし」

「そっか、 餌やり、 僕にもやらして」

「いいぜ」


そういってアラマンドは腰につけていた袋を1つ僕へとくれた。 僕はアラマンドの隣にたってガラス蛍に餌を上げ始めた。 しばらく無言の2人だったが 、アラマンドがぽつりぽつりと喋り始めた。


「俺さ、 小さい頃に両親に捨てられたんだ」


アラマンドがそう呟くとそっと掌の黒い粉を湖に投げいれた。


「うん」

「それから運良く孤児院に入れられる事になったんだけどさ。 俺、 こんな身なりだからか誰も近寄ってこなくて。 何もしてないのに泣かれたりとか。 悪い事は全部俺のせい。

孤児院の先生達も最初は違ったんだがだんだんなにかあると俺ばかり責めるようになってきて。 だから孤児院を出たんだ。 そんなに悪い事をしたやつにさせたいならやってやるって。 そっからは早かった。 なんでもやった、 強盗、 恐喝、 車だって運転したんだぜ」


ははっと乾いた笑いを零したアラマンドだけど、 なんだか泣きそうなように見えた。


「そんなどうしようもない毎日を過ごしていた時に現れたのがカーヴィン先生だった。 君はこのままでいいのかって。 自分を変えなくていいのかいって。 衝撃的だったな。 今まで俺にそんな事を言ってくれた人なんていなかったから」


アラマンドが餌を湖に投げる。 僕も続けて餌を湖に投げ入れる。


「変わりたかった、 変わって今みたいな生活じゃなくてやり直して普通に友達作って学校いって勉強してって。 そんな、生活をやり直したかったんだ」

「アラマンド……」

「でもダメだな、 本当の事言われて頭に血が上ってハオユーを殴ろうとしちまった。 ケリーも悪かったな。 とばっちり食らわせちまった」

「僕は気にしてないよ。 それにハオユーも今頃先生に怒られてる」

「ははっ、そうか。 でももうここにはいれねーよなぁ」


アラマンドが深い溜息をついた。 僕は湖を見つめながら先生の言った事を思い出す。


ーーそれを決めるのはアラマンドだーー

ーー同じ人間なんだから理解し合えると思わないかい?ーー


脳裏によぎった先生の言葉が僕の胸の中に響いた。


「アラマンド、 なんとなく君の気持ちがわかるよ」

「ケリーが?」

「僕のうちは父親がいないんだ。 僕の幼い頃にいなくなったらしい。 母親はなぜか父親の事を話したくないみたいで、 いつも話題をそらすんだ」

「そうなのか」

「あぁ、 いつもうまい具合に話をそらされる。 だんだん歳を重ねるごとに聞いたらいけないことなんだって納得したんだけど。 中学になったらそれが元で僕をいじめる奴が現れた」

「イジメか……」

「あぁ、母親からもらった夕ご飯代をいつも盗んでいくし僕は殴られるし教科書は砂だらけ。 ある日頭にきて殴り返したんだ、 ぼこぼこに」

「ぼこぼこに!? お前がか?」

「そうだよ、 しないように見える?」

「あぁ、 見える」

「僕だって人間だよ、 怒って頭にきたんだ! そしたら、 先生に見つかって僕だけ自宅禁止」

「殴られた奴が悪いだろう?」

「そう思うだろう? なのに僕だけ。 カツアゲされてましたなんて恥ずかしくて言えなかったけど」

「そっか 、 なんだ、 お前もなにか理由があってこの夏期講習に参加したんだな」

「そうだよ、 きっとみんな何か理由があって夏期講習に参加したんだ。 だからいなくならないでよ、アラマンド。 僕はまだ君と一緒にいたいよ。 友達になりたい」

「ケリー」


アラマンドがびっくりした顔で僕を見る。 僕はニッコリとアラマンドに笑顔を返すとアラマンドも笑って手を差し出してきた。


「よろしくな、 ケリー」

「よろしく、 アラマンド」


2人で最後の餌を投げ入れ終わるとガラス蛍が一斉に食事をしだす。 透明なガラスでできたガラス蛍は餌を食べるとガラスの中で炎が灯る。


「すごい、 綺麗だね!まるで湖の中が燃えてるようだ」

「すごいな、 綺麗だな。 こんなのどこ探したってないんじゃないか?」


2人でガラス蛍の食事が終えるのを待っていると急にあたりが暗くなる。


「なんだ、 急に夜になったのか!」

「え? カーヴィン先生はずっと夕焼けだっていってたよ?」

「おい、 ケリー! 上を見ろ!」

「上? っ、 なんだあれ!」


夕焼け空のホッポケ湖の上には巨大なドラゴンの姿が。


「ドラゴン!?」

「こっちにくるよ!」


とりあえず2人で森の奥へと走り出す。


「なにあれ! あんなのいるなんて聞いてないよ!」

「とにかく走れ! 出口はどこだ?」

「アラマンド知らないの!?」

「お前も知らないのか!?」


「ギャアオオオオォオ!」

けたたましいドラゴンの鳴き声にますます走る速度が速くなる。


「「うわあぁああああぁあ!」」

「ちょっと、 耳元で大声出さないで頂戴」

「スカーヴァ! どこいってたの!?」

「女には色々準備があるのよ」

「準備!?なにそれ」

「おこちゃまにはまだ早いわ、 それよりいばら龍におっかけられるなんてついてるわね」

「いばら龍!?」

「えぇ、 いばら龍。 この辺じゃ珍しいのよ。 体中にいばらのような棘があって中々姿を現さないのに」

「そんなこと僕に言われても……、 それより! 出口を知らない?」

「出口! あぁ、 出口ね。 この先に細い洞窟があるのよ。 その中に記憶石があるわ」

「わかった! アラマンド! この先に細い洞窟があるって! そこに記憶石が」

「わかった! 急ぐぞ! ケリー!」


自慢じゃないが僕は体力には自信がない。 足なんてつる一歩手前だしお腹は痛いし。 でもアラマンドと2人でこうやって走っていると怖いんだけど少しだけ楽しいって思えたんだ。 1人じゃないんだって、 友達が一緒なんだって。


「あそこだ! 見えたぞケリー」

「あぁ!」


崖に亀裂が入っており、 僕とアラマンドくらいなら余裕で通れる。 僕たちがすぐ飛び込むといばら龍もそのまま細い洞窟へと突っ込んできたのだ。

ものすごい衝撃に耐えながら、 音が静かになるのを待つと、 いばら龍は消えており龍の残した棘だけがあたりに散漫していた。


「一体なにがどうなったんだ」

「わからない、 でも助かったみたい」


2人で洞窟の壁へと寄りかかる。


「喉乾いたね」

「ああ、 デザート食いに行こうぜ」

「今度は僕も食べる」

「あそこの飯は病みつきになるぜ」


2人で笑いあう。 立ち上がると洞窟の中は涼しくてヒンヤリしていて走ってきた僕たちにはちょうどよかった。

そしていばら龍の棘が目に入る。


「アラマンド見て、 すごく綺麗じゃないか?」

「あのドラゴンの棘だろ? 大丈夫か?」

「ナタリアに見せたら喜ぶかも」


そーっと、 近づいて手頃なサイズのいばら龍の棘を拾う。 まるで金のように光り輝いている。


「すごいな」

「ナタリア喜ぶといいな」

「あぁ」


そういって僕とアラマンドは奥へと進んだ。 するとすぐに広い空洞になっていて水晶でできた泉と記憶石があった。


「あー、 これで帰れる」

「悪かったな、 付き合わせちまって」

「いいよ。 楽しかったし」

「あぁ、 楽しかったな」



そういってアラマンドは記憶石を叩いて名前を言うと先に寮へと戻っていった。 さて、 僕も戻ろう。記憶石を叩こうとした時だった。


「楽しかったわよ、 ケリー。 また会いましょうね」

「スカーヴァ! 君またどこにいってたの?」

「秘密よ、 さ、 戻りなさい。 カーヴィンによろしく伝えて頂戴」

「あぁ、 出口を教えてくれてありがとう。 スカーヴァ、 またね」

「えぇ、 またね」



僕はスカーヴァに手を振るとスカーヴァもヒラヒラと舞ってくれる。 そして記憶石を3回叩いて自分の名前を言った。



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