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転入式前夜①



アラマンドがデザートを食べ終わったあと僕とナタリアとアラマンドはリビングルームを出た。 ロザンナは片付けがあるからと先に部屋を出て僕達はアラマンドがお腹いっぱいになるのを待っていた。 1人で食べても味気ないだろうと思って。


「久しぶりに腹一杯食ったぜ」

「アラマンドのお腹が爆発しそうだね」

「うるせー」


僕とアラマンドのやり取りを聞いてナタリアがくすくす笑っている。 ナタリアを部屋まで送ると僕達も部屋へと向かう。


「石を3回叩いて名前を言う、 言わないと忘れちゃいそうだ」

「まあな、 俺も忘れそうだ」


そんなたわいない話をしながら部屋へと戻る。 第一印象はよくなかったがこの調子なら仲良く3週間過ごせる。 ほっと胸を撫で下ろした。

しかし僕達を待っていたのは荒らされた部屋と引きちぎられたカーテン。 アラマンドの荷物は中身が出され洋服が引きちぎられている。 綺麗に整っていた椅子は倒されて紙が散らばっている。 その真ん中でPCをいじってるのはハオユーだ。


「お前、なにやってんだよ!」


アラマンドがハオユーに掴みかかる。 僕は何もできずに呆然とすることしかできなかった。僕達がご飯を食べてる間に一体何があったというんだ。


「なにやってんだって聞いてんだよ!」


今にも殴りかかりそうなアラマンドをよそにハオユーはボソボソとなにか喋っている。


「あ? もっとでけえ声でしゃべれよ!」


アラマンドの怒鳴り声が部屋に響く。 ハオユーはニヤニヤしながら喋り出した。


「僕は知ってるんだぞ、 お前の名前はアラマンド・ターニャ。 メキシコのチワワ州フアレス市出身の14歳」

「なんでてめーがそんなこと……」

「4歳の時親に捨てられ孤児院に入るものの、 周りと馴染めずに喧嘩ばかり。 10歳から孤児院をでて路上で生活するように。 そして窃盗、 障害なんて日常茶飯事。 お前がメキシコでやってたことを僕はやり返したんだ! お前らみたいに暴力ですべてを解決するやつに僕は制裁を下したんだ! 悔しいか!ざまーみろ! お前の荷物を持ったのだってお前の事を調べるためだ! まさか1人の時間ができるとか思わなかったけどね」


ハオユーの目がアラマンドを睨みつける。 アラマンドの目は戸惑っているようだった。


「殴りたければ殴れよ、 その代わりお前をメキシコに返してやる! カーヴィン先生にそう伝えるからな!帰れ! お前なんか帰れ!」

「ハオユー!」

ハオユーがアラマンドに突き飛ばされる。 僕はハオユーに駆け寄る。


「ケリー、 お前も見ただろ。 これがアラマンドの正体だ。 あいつはこの夏期講習に参加する資格なんてないやつなんだよ」

「ハオユー……」


今まで喋らなかったハオユーが滑舌よく喋っている。 僕はなんだかそっちの方が信じられなかった。


「くそ、 くそっ、 くそぉ!」


アラマンドは椅子を蹴飛ばすと部屋を飛び出していく。


「アラマンド!!」


どうしよう。 アラマンドが外に飛び出してしまった。 明日は転入式だってカーヴィン先生が言ってた。 転入式をしないと命も危ないって。 ハオユーの言ってた事がもし本当だとしても僕はアラマンドを放っては置けなかった。


「ハオユー、 これ明日のプリント。 よく読んでおいて、 ちゃんと渡したからね。 僕はアラマンドを探してくるから!」


先生から貰ったプリントをハオユーに手渡して僕も部屋を出て行く。 どうしよう、アラマンドはどこにいったのだろうか。 そういえばカーヴィン先生がトラブルを解決するのも僕の仕事だってら言ってたような気がする。 まずは、 カーヴィン先生のところにいこう。

そう決意したがいいは肝心のカーヴィン先生がどこにいるかわからない。


「カーヴィン先生! 先生!」


とにかく大声で叫んでみる。


「カーヴィン先生!」

「なんだい?」

「うわっ!」


必死で叫んでたらすぐ後ろから返事が返ってきた。 僕はびっくりして腰を抜かした。


「大丈夫かい? そんなに慌ててなにかあった?」


先生は僕の手を取って立ち上がらせてくれた。僕も素直にその力に従う。そして先程起こった事をカーヴィン先生に話した。


「先生、アラマンドを見ませんでしたか?」

「アラマンド? アラマンドならあの扉の向こうにいるよ」


カーヴィン先生が指差したのは1番最初に案内された時硬く閉じられていた扉だ。 石の色はオレンジ色に輝いている。


「なんでアラマンドが……」

「私が入れてあげたんだ」

「先生が? どうして?」

「1人になりたそうだったから」

「先生は話を聞いてあげないんですか?」

「誰の?」

「アラマンドの」


先生はすこし上を見上げて閃いたように手をポンと叩いた。


「残念だがこれは先生の仕事ではない」

「じゃあアラマンドはどうなるんですか?このままうちに帰っちゃうんですか?」

「それは私が決める事じゃない」

「えっ」

「それはアラマンドが決める事だ。 そしてアラマンドの話を聞くのは私じゃない。 君だよ、 ケリー」

「僕?」

「そう、 君たちは同じ人間なんだ。 同じ人間だからこそ理解できないわけがないとは思わないかい? なんのために言葉も通じるようにしたんだと思う? 会話するためさ!」

「理解する?」

「そうだよ、 君たちは人間という一つの同じ種族だ。 同じ生き物なのに理解できないほうがおかしいと思わないかい?」


僕の方を叩きながら、 カーヴィン先生は笑った。

僕は先生の言っていることがよく理解できなかったが、 ナタリア達と言葉が通じるのはカーヴィン先生のおかげで、 僕がアラマンドと話をしなければいけないことがわかった。


「僕とアラマンドが理解し合えるって先生は言うんですか?」


なんだか僕に理不尽なことをら押し付けられてる気がする。少しムクれながらカーヴィン先生に問いかけるとカーヴィン先生はまた笑った。


「君にしかできないことだよ、 ケリー」



そういって扉の前まで押された。


「これも3回叩くんですか?」

「いや、この部屋は違うよ」


扉の前に付けられた石がキラキラと輝いている。


「ここは黄昏部屋。 私が作った秘密の部屋だ」

「黄昏部屋?」

「そうだよ、 人は誰しも夕焼けを見ながら黄昏たいだろう? そんな空間が欲しくてね。 この部屋では常に夕方なんだ。 いつでも黄昏られる」

「はあ……」

「そして、 この扉は中からしか開かない。 外の扉は僕しか開けれない。 だから君はゆっくりアラマンドと話をしておいで。 大丈夫。 理解し合える。 同じ人間なんだから」


そういってカーヴィン先生は扉を開けた。 そこには本当に夕焼け空が一面に広がっていて切り立った崖の上へと僕は降り立った。


「そういえばハオユーはPCをいじっていたっていったね。 電子機器はだめっていったのに。 先生はハオユーのところに行ってくるからアラマンドをたのんだよ」


先生の声が聞こえて後ろを振り返った時にすでに先生の姿も扉の形もなくなっていた。



「あれ、これどうやって帰るんだ?」




一方扉を閉めたカーヴィン先生は


「あれ?帰り方説明したっけ?ま、いっか」



そういって扉に鍵をかけケリー達の部屋へと向かった。









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