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学校への道は②

部屋に入るとそこはクリーム色の壁紙と鹿の絵が書かれたとてもシンプルな部屋だった。 少し大きめの窓にはエメラルドグリーンのカーテン。 机が3つと2段ベットが1つ。 普通のベットも1つ。 真ん中には円形の机。椅子の細工がなんだかアンティークみたいだ。 僕たちに与えられた部屋は申し分無いものだった。

しかしここで1つの問題が発生した。 そう、 誰が2段ベットで寝て誰が1つのベットで寝るかということだ。


僕はゆっくりとアラマンドを見る。 彼も同じことを思っていたのかどうしようかと伝えようとした時だった。 アラマンドの荷物を持っていたハオユーがアラマンドの荷物もを2段ベットの下へと放り投げ、 自分は普通のベットへと寝転んだのだ。


「おい、てめぇ……なにやって」


アラマンドがハオユーになにか言いかけたが僕はそれを止めた。


「いいよ、アラマンド。 僕は2段ベットの上で大丈夫。 アラマンドは下の方で大丈夫?」

「俺は大丈夫だけど」

「じゃあ、 これで決まりにしよう」


いまにもハオユーに殴りかかりそうだったアラマンドを止めて、 落ち着かせる。 そうでもしないと喧嘩が始まってしまっては僕一人でアラマンドを止めることはできないだろうと思ったからだ。 落ち着いてくれてよかったけど。


ハオユーはベットの布団に包まったまま、 動こうとしなかった。 僕とアラマンドは荷物を置いてロザンナのところへ戻ろうとする。 なのにハオユーはでてこない。


「ハオユー、 ロザンナのところにいかないの?」

「……」


話しかけても答えは無い。 どうしようか迷っていると、アラマンドが僕のそばに来た。


「もうほおっておこうぜ。 あいつ、 一言も喋ら無いし。 さっきだって黙って俺の荷物もっていくんだぜ」


何がしたいのかわからねーよ、 そういってアラマンドは部屋を出る。 そうか、さっきハオユーがアラマンドの荷物を持っていたのはハオユーが自分から持っていたのか。 でも何故? 気になったがそんなことよりお腹がすいてしょうがない。 早くこの空腹を満たすためにもロザンナのところへ行かなければ。部屋を出ようとした時にみたハオユーはまだ毛布に包まっていて僕は彼の姿を確認することはできなかった。 とにかくそっと扉を閉めて、ロザンナのところへ急いだ。




「遅かったわね、ケリー。 さぁ、たくさん食べて頂戴」


ロザンナの元へつくともう食事は始まっていたようでアラマンドが物凄い勢いで食べ物を飲み込んでいる。 大きな机には8個の椅子が。 ロザンナとカーヴィンがニコニコしながら座っている。 ナタリアも美味しそうにパンを頬張っている。 どうやらエミーもいないようだ。 僕は急いでナタリアの隣に座ったがなぜか僕の料理がいくらまってもでてこない。 アラマンドなんてもうおかわりにはいっている。 ロザンナとカーヴィン先生は談笑中で僕に料理がないことに気づいていない。


「ロザンナ、 僕の料理はどこですか?」

「あら、 まだ運ばれてきてないの?おかしいわね」


そういって何故か天井を見るロザンナ。


「あ、わかったわ。 ケリー、 急いでて部屋の前の記憶石に名前を言って無いでしょう?」

「部屋に入る時だけじゃないの?」

「あれはこの学校での身分証明書のようなものよ。 これから行く学校でも教室に入る際必ず必要になるから忘れちゃダメよ」

「たしか、 3回叩いて名前を言うって」

「そうよ、 食べているみんなも忘れないで頂戴ね。 今日は特別よ。 いいわ」



そういってロザンナが机を3回トントントン、 と指で鳴らすと天井から葉っぱが降りてきて僕の目の前に埋まると不思議なことに目の前には美味しそうな料理がでてきた。


「すごい! なんですか、 これ」

「これは運び柳よ。 お願いすると色々な物を運んでくれるの。 今は料理専門だけどね」

「運び柳なんて聞いたことがない! さっきの湖の石といいここはどこなんですか?」


僕の問いかけにロザンナは目を丸くして驚いた。それをみたカーヴィンがしまった、という顔をした。


「ちょっとカーヴィン! あなたなんの説明もしないでここに連れてきたの!?」

「そっちの方が面白い、 じゃなかった。 いいと思って」


ロザンナはまったくという顔をしながら首を横にふった。僕の質問に答えてくれないロザンナとカーヴィン。 僕は運び柳が運んできてくれたミートパイを頬張った。 美味しい。


「きっとカーヴィンが秘密にしてるならきっと事情があるのだと思って見過ごすことにするわ。 ケリー、 ごめんなさいね。 明日あなたたちの転入式をするからその時きちんと説明できると思うわ。 それまで待っててもらえるかしら?」

「わかりました、明日わかるなら。 それと、 料理すごく美味しいです」

「まあ! 嬉しいわ! アラマンドもナタリアもケリーもたくさん食べて頂戴ね」


ロザンナは嬉しそうに笑った。 僕はミートパイのお代わりを運び柳に伝えるとナタリアが不思議そうな目でこちらを見ている。


「ケリーの食べている食べ物はなに?」

「ミートパイだよ? 知らないの?」


そう聞くとナタリアはうん、 と言って顔を下へと向けてしまう。 彼女はロシアの人だしミートパイを知らないってこともあるのかな、 なんて思った。


「一口食べる?」

「いいの? 迷惑じゃない?」

「迷惑じゃないよ、 なんで迷惑になるのさ」


フォークで一口より少し大きめに切れ目を入れてナタリアのお皿に入れた。 少しぐちゃぐちゃになってしまったが味は変わらないから美味しいはず。

ナタリアもフォークを使ってミートパイを一口頬張る。


「美味しい……!」

「だろ? 今度はナタリアも頼んでみなよ」

「うん、 そうする」


美味しそうにミートパイを頬張るナタリアの腕は痩せ細っていて、 ちゃんと食べているのか心配になった。




「そういえばエミーは?」

「荷物を整理するのが忙しいから後でいいと言っていたわ。ハオユーは?」

「部屋に入るなりベットに入っちゃって一言も喋らない」

「そっか、 ご飯美味しいのにね」

「そうだよね」


食後のデザートのアイスまで丁寧に食べ終えるとカーヴィン先生が立ち上がって僕達に1枚の紙を渡してきた。



「ロザンナも言っていた通り、 明日は君たちの転入式だ。 朝8時にエントランスに集合してもらうからね」

「転入式ってなにやるんだ?」


よっぽど、ここのご飯が美味しかったのかアラマンドはまだデザートをおかわりして食べている。 そんなに食べるからお腹がでてるんだ、 そう思ったのは秘密だ。




「んー、簡単に言えば今いる生徒たちに君たちがきたよって知らせる式かな?」

「知らせるって、まるで知らなかったら危ねぇみたいじゃないか?」

「危ないよ、 本当に。 命がね」



一瞬にしてカーヴィン先生の空気が変わる。 今までのカーヴィン先生じゃない。 僕は唾を飲み込んだ。


「まあ、明日の転入式が終われば君たちの夏期講習がはじまるからね。 あ! 学校の制服は部屋のクローゼットに入ってるから。 必ず明日着てきてね! ハオユーとエミーにも渡しといてね、この紙」



それじゃ解散! そう言って僕達には質問する時間さえ与えないままカーヴィン先生は部屋を出て行った。 僕の前に1枚差し出された紙がこれをハオユーに渡せという命令だ。



「なんだか今のカーヴィン先生怖かったね」

「あぁ」

「あいつ何考えてるかわからねえよな」

「ほんと、そう思う」



僕はひどく緊張してるのに、 アラマンドはカーヴィン先生が出て行った後も運び柳にアイスのおかわりを頼んでいた。 僕はその様子を羨ましそうに見ていた。






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