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第5話 隠された扉

 私は、食堂まで送ってくれた王子プリンスを見送ってから、まずは100を数えた。

 そして、そぅっと食堂の扉を開く。

 食堂の扉の目の前は、もうすぐ玄関だ。家の人に何も言わずに勝手に帰るというのは、普通ならとても失礼な事だけど……。

 でも、背に腹はかえられない。そう思ってホールに出ると……


 ぱちりと、執事バトラーさんと目が合った。

 玄関の前に、ほうきを持ってたたずむ彼が、私に向かってにこりと微笑む。


 ……駄目だ。これでは、外へは出られない。

 私は、次に応接間へ向かった。あそこにも、窓はあった。

 1階の窓からなら、飛び降りるくらいどうということはないと、そう思ったから。

 そっと、ドアを開け、中を覗く。

 ……王子プリンスは居なかったけれど、そこには別の人の姿があった。

 さっき、王子プリンスを呼びに来た騎士ナイトさんだ。

 開け放った窓から庭を眺めて立ってる彼に気づかれずに外へ出るのはどう見ても無理。

 私は諦めて、そっとドアを閉めた。


 もしかしたら、あの使用人スペースに続くのだと教えられた扉の向こうには、裏口とかもあるかもしれない。

 だけど、ホールには執事バトラーさんが居て、彼の目を盗んでの侵入は、やっぱり難しそうだった。


 さっきなら。彼に忠告されたあの時、素直に彼の言うことを聞いていれば、すぐにも出られたはずだったのに。

 でも、後悔しても始まらない。まだ、チャンスはあるかもしれない。

 そう思って、2階への階段を再び上っていく。


 さすがに、さっきと同じ場所には隠れないだろう、とは思ったけれど、念のためにと物置をまず最初に探す。

 王子プリンスは見つからなくても、もしかしたら役に立つ物が見つかるかも知れないという期待も込めて――。

 小奇麗にはなっているけれど、やっぱり他と比べて少し埃っぽいし、かびの臭いもする。

 棚の影や大きな荷物の裏を覗いてみたりもしたけれど、やっぱり王子プリンスの姿はない。

 でも――

 「……あれ?」

 奥の壁際に置かれた、棚。その裏に隠されるようにしてある扉が、一枚。

 代わりに、さっきは気付かなかった物を見つけた。

 「これは……?」

 目立たない場所にある上、さっきは部屋に入ってすぐに王子プリンスが出てきて、そのまま部屋を後にしたから、それには気付けなかったけど……。

 「この奥にも、部屋が……?」

 扉があるのだから、当然のように私はドアノブに手を伸ばした。


 「――ダメだ!」

 そこでまたしても、私一人だけだったはずの部屋の中に突然、声が響いて、伸ばしかけた腕を掴まれ、止められる。

 「その扉は、絶対に開けちゃダメだ」

 相変わらず、少し怒ったような顔で、私を扉から引き離す。

 「人間がその扉に触れれば、たちまち“喰われ”る」

 「食べられる……? まさか、猛獣でも飼っているの? うぅん、それより……」

 さっきも、目の前から突然消え失せ、そして何度も突然現れる彼は……

 「何を言いたいのか、君が何を俺に尋ねたいのか、それは分かっている。でも、駄目だ。何かを知ってしまう前に、早く。……俺が執事バトラーをあそこから引き離すから、だから、君はその間に――」

 言いながら、廊下へ通じる扉の方へと、彼は私の手を引きつつ急ぐ。

 だけど、不意にヒュッと息を詰まらせ、言葉が途切れる。

 するりと、私の腕を掴んでいた彼の手が外れ、彼は首元を押さえてしゃがみこんでしまった。

 声が出ないのか、苦しそうな顔でこちらを見上げ、口の形だけで「に、げ、ろ、」とだけ言い残し、またしてもその場から霞のように消えてしまった。

 一体、突然どうしたというのだろう?

 なんだか怖くなって、私はそっと廊下に出た。

 見れば、さっきまでホールに居た執事バトラーさんの姿がない。

 今なら、行ける……?

 そう考えた私の耳に、くぐもった声が聞こえた。

 

 「――それで、あのお嬢様をどうなさるおつもりなのですか、マスター?」

 「うん? それはもちろん、久方ぶりの人間だからね。我らが長く待ち望んだ今この時を逃さぬよう、丁重にもてなすさ。――日が、暮れるまではね」

 「日が、暮れたら?」

 そう尋ねる声は、執事バトラーさんのものじゃない。どうやら部屋には騎士ナイトさんも居るみたい。

 「日が暮れれば、もう、彼女は我らのもの。それまで、絶対に外には出すなよ。従僕フットがこれ以上妙な動きをしないよう、しっかり捕まえておけ」

 「ご心配には及びませぬ。使用人の管理が私の仕事。あるじに逆らう不届きものめにはしっかと仕置をいたしましたゆえ、しばらくは動くことすらままならぬはずでございますよ――」


 聞こえてくる言葉は理解できるのに、何を言っているのか一瞬分からなかった。


 何故かはよく分からないけれど、でも、王子プリンスたちは私を夜までこのお屋敷に捕まえておきたくて。だけど、彼――王子プリンスたちが従僕フットと呼ぶあの少年は、そんな彼らの意に反して、私を逃がそうとして……そのせいで、お仕置きを受けたの?

 さっき、物置で突然苦しみだしたのは、そのせいだって言うの?

 しばらく動けないって、どういう事なの?

 悪戯をした私へのお仕置きみたいに、どこか物置にでも一晩閉じ込められてるとか?

 でも、さっきの様子や執事バトラーさんの言いようでは、ひどく乱暴でもされて動けないみたいな……。

 怖くなって、そっと扉から離れる。


 今――皆がこの部屋に居る今なら、もしかしたら逃げられるかもしれない。

 だけど、私を助けようとしたせいで酷い目に合わされたかもしれない彼を放って行って良いの?

 でも、私は彼がどこに居るのかさえ分からない。

 それに、彼らの会話からして、今を逃せばもう、2度と逃げるチャンスはないだろう。


 僅かに迷っていた私の耳に、背にした扉とは反対側の、ホール向かいのバルコニーの窓の方からカツカツと小さな音が届いた。

 吹き抜けになったホールの2階、バルコニーに面して設けられた大きな一倍ガラスの窓を、一羽のカラスがくちばしでしきりにつついている。

 それを見て、ふと思い出す。ここへ入ろうとした時、まるでそれを咎めるようだった、あのカラス――。

 私は、何かを考える余裕もないまま、それでもとっさに廊下を駆け出していた。

 バルコニーへ出るドアに飛びつき、開けようとして――


「おや、どこへ行くんだい、レディ?」


 ドアノブに手が届く寸前、後ろから肩を掴まれた。だけど、今度のそれは彼の声じゃない。これは、王子プリンスの声だ。


 「かくれんぼは、もう飽きてしまったのかな?」


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