エピローグ
「いいかい、あのお山の上のお屋敷には、決して近づいてはいけないよ」
この村の子どもなら、必ず大人からそう言い聞かせられて育つ。
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん。お隣のおばさんも、お向かいのお兄さんも、日曜学校の先生も、教会の神父さんも。
少しずつ言葉は違っても、皆言うことは同じ。
え、なんでダメなのかって?
……本当は、人に言ったらダメだって言われているんだけど、特別に教えてあげる。
あ、僕が教えたってことは内緒にしてよね?
じゃないと、後で晩ご飯抜きにされちゃうから。
あのね、あのお屋敷には、吸血鬼が住んでるんだって。
でも、その吸血鬼は、教会の神父様が言うような、こわ~い魔物とは違うの。
そういう魔物が、魔界からやってこないように見張っている門番なんだって。
だから、あのお屋敷に人間が行ったら、帰ってこれなくなるんだって、僕のお姉ちゃんが教えてくれたの。
昨日は、お菓子ももらったよ。
え、食べて大丈夫なのかって?
もちろん大丈夫だよ、だってこれは、村で採れた小麦粉で作ったクッキーだもの。
あのね、お姉ちゃんも烏も、お山は離れられないけど、お屋敷の外には出られるの。
だからね、僕が時々、村で採れたお野菜とか卵とか、持って行ってあげるの。
その代わりにね、クッキーやケーキをくれるの。
烏は、たまに空の散歩にも連れて行ってくれるんだよ。
だけど、これは僕たち家族だけの秘密なの。村の人には内緒なんだ。
「だから、あなたも。あのお山の上のお屋敷に近づいちゃダメだからね?」