聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とかいうけど、どうなのかね
まだ面接中です
この面接の場で聞いておかなければならない。
ハイジは、そんな気がした。
「バカみたいな質問の仕方をしますけど、ここは何をしているのですか? そして、私は、何をすればいいの?」
意を決した、という感じでハイジは言った。
しかし、質問された方は、どこか間の抜けた態度だ。
「どこもバカみたいではない、良い質問だと思うけどねぇ」とクロ。
「ああ。初心に帰って己を見つめ直す、たまには必要なことだぜ」
「けど、意外に己を見つめ直すって、容易なようで難しいぞ」
「たしかに。知っているようで実は知らない事、知っているつもりでいるだけなんて事はざらにあるからな」
「当然のことでも、改めて問われると困惑するな」
「意外と、当り前のことが大切だったりするよな」
「「はぁ~」」と溜め息をつき、二人は、感慨に浸った。
「……それで!」
ハイジは、強く問い掛けた。
「私は、何をしに来たの?」
「壮大な疑問だな。人間はなぜ生まれるの、みたいな」
シロがふざけると、ハイジが強く睨みをきかせた。
思わず、シロは口をつぐんだ。
なんとなく、クロも口をつぐんだ。
「俺等の仕事は、多岐にわたるのよ」
「タッキー」
「一言で言い表せない、みたいな」
「みたいな」
「頼まれれば何でもやる、というか何でもやってやるよ 的な気合を持ちたいかもしれないなぁとか思ってやっているから」
「フワフワ、フワフワ」
テキトーなことばかり言う二人をハイジが訝ったのは、言うまでもない。
「言葉にし辛いってことだ」自分に非はないことを主張するように、シロは言った。「いろいろやるけど、そのいろいろは言葉にし難い。敢えて言うなら、多種多様だ」
「なんか、うまいことまとめた感じですね」
「そんなうまくもない気がするけど、俺は何も言うまい」
クロの心の呟きは、皆に聞こえた。
「とりあえず、私は何をすればいいのか、あなた方は何をしているのか、その二点だけでも教えてください」
頼むように、ハイジは言った。
「仕方ないな」
クロは、面倒くさそうに頭をポリポリ掻いた。
「仕方ないこと無いだろ」とハイジ。
「俺は、依頼があった時に動く」とクロ。
「俺は、クロが出来ない事をしたりしなかったり」とシロ。
「「ハイジは、俺達がしない事をする」」
二人が声を揃えていった。
「私の負担、際限なくない?」
ハイジは、声を大にしてつっこんだ。
「仕方ないのよ」クロが、納得してくれとでもいうように、口を開いた。「俺は、ある特殊な能力を持っていることにより、活動の幅に限界がある」
「特殊な、能力…?」
不思議な能力を持つ人間がいるということは、ハイジも耳にしたことがある。
常識では理解できない力を持つ人間が、社会人になってもケータイ電話を所有していない人の数ほど、この世にはいるらしい。
その数がどのくらいか定かではないが、ゼロということはなさそうだ。
だから、ハイジも、目の前の男が能力者である可能性を真っ向から否定できなかった。
「それは、どんな…?」
ハイジは、訊いた。
しかし、「ま、それは、追々話すとして」とクロがはぐらかした。
「俺には突出した能力がある。が、その能力を持っているがために、それ以上に足りない部分が多い。だから、一人では、まともに事を成せない」
「なるほど…」
ハイジは、納得した。
たしかに、どれだけ一芸にだけ秀でていても、それで上手く事が運べるなんてことは、むしろ少ないのだろう。どんなに突出した能力があっても、普通のことが出来なければ、それだけで弱みになる。
特異な能力を持ったことで、失ったこともあるのだろう。
普通ではない力を持ったから、普通の事が出来ない、そんなこともあるかもしれない。
ハイジは、二人の事を侮蔑していた自分を、省みた。
人は、支えって生きている。
こんなふざけている人達も、誰かの力を必要としているのだ。
そんな二人に呼ばれるようにして、私はここに居るのだ。
「ちなみに…」
シロが重い口を開いた。
この人も、何か特別な理由があるかもしれない。
そう思い、ハイジは耳を傾けた。
「俺は…、自分で言うのも何だが、バックアップは出来るつもりだ」
「……え?」
「本当なら、クロのサポートぐらい、俺一人で出来る」
「……はい?」
ハイジは、耳を疑った。
――今、この人、なんて言った?
それって、私は要らないのでは? と数秒前に思ったことを疑った。
「でも、面倒くさいだろ」
平然と、シロは言った。
「つまりだ」
クロが、まとめに入った。
ハイジは、呆気に取られたまま、その説明を聞き入れた。
「俺は、やる気はあっても機会が無い」
「俺は、やれば出来るがやらないだけ」
「あ、あと俺は、出来ることが少ない」
付け加えるように、クロが言った。
クロが言い足したことは、簡単なことだった。一+一にもうひとつ一を加えたら、ということを理解するようなものだ。
が、本当にそうか? とハイジは疑問に思った。
コレって、本当に三になるのか?
こいつらって、本当に大丈夫なのか?
私は、ここに居ていいのか?
なんか聞かなければよかった気がする、そんなハイジだった。
そろそろ面接は終わります