表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/46

天上の月を食らう時


「ハイジ、月食って何?」

 事務所での雑談中に、クロが質問した。

 その質問に、ハイジは「月食ですか…?」と首をかしげて考えた。

「月食……は、日食とどう違うんでしたっけ?」

「月食も日食も、よくわからんのだが…」

 困った二人は、「シロ」「シロさん」と、シロに助けを求めた。

 呆れるように「はぁ~」と溜め息を一つつくと、シロは答えた。

「月食というのは、地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月にかかることによって月が欠けて見える現象。ちなみに日食というのは、太陽が月によって覆われ、欠けて見えたりする現象のことを言う」

「「はぁ…」」

 当り前のように説明するシロに、クロとハイジは、生返事することしか出来なかった。

「で、月食がどうかしたのか?」

 シロが訊くと、ケータイのニュースを見ながらクロは、微笑を浮かべ、言った。

「今晩、その月食だって」



 今日の夜、月食という名の天体ショーが起こる。

 それを知ったクロとシロは、楽しそうな様子を見せた。

「どうする、シロ?」

「どうするもなにも、見るだろ」

「でも、この事務所からだと見え難くない?」

「あ…」シロは、窓際に寄って外を見上げた。そこから見えたのは、空を隠そうとするビルだった。「たしかに、そうだな…。どっか行くか?」

「出店のあるとこ」

 クロは即答した。

 が、「ねぇよ」とシロも即答する。

「そんなに祭りめいた行事じゃねぇし」

「どんなに巨大な劇場よりも大きな空のスクリーンでやるショーなのに?」

「そういうこともある」

 面倒くさそうにシロは言った。

「じゃあさ」クロが、何かを閃いた。「どこか河川敷とか広い場所に行かない? そこでビニルシートを敷いて、寝っ転がって見るの」

「おっ、いいな」なかなかの好感触を見せるシロは、さらに「飲み物と軽い食いモンも用意して」と提案した。

「いいね」

 どんどん盛り上がる二人の計画。

 それを傍で聞いていたハイジは、楽しそう、と羨ましく感じていた。

 その感情が表に出ていたのか、「ん?」とクロが気付いた。

「ハイジも行く?」

「行きます」

 ハイジは、喜んで参加を決めた。



 ハイジも加わることが決まると、さらにクロとシロは、何時に集合するかなどの予定を話し合った。クロなんかもう手書きのしおりを作り始める勢いだ。

 すると突然、事務所の入口の戸が開き、

「聞きましたよ」

 と、ミタラシが入ってきた。

 ビックリするクロとハイジ。

 シロだけは、苦々しそうに表情を歪めていた。

「いいだろ。じゃあな」

 冷たく素っ気ないシロの態度。

 ミタラシは、不愉快そうに肩眉を動かした。

 だが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「いいの、そんな態度で?」

「あ?」

 優位な立場にいることを勝ち誇ったように、ミタラシはフフンと鼻を鳴らした。

 そして、睨むようなシロの視線を受けながら、ミタラシは言った。

「軽食の準備、引き受けてあげてもいいですよ」

 喫茶店のマスターの娘、ミタラシからの提案。

 自分達で用意するよりも確実に良い物が期待できる、ハイジはそう思った。どうするのだろう、とシロのことを見つめ、彼の答えを待つ。

 そんなハイジの様子に気付き、クロもシロのことを見つめ、答えを待った。

「……勝手にしろ」

 どうでもいい、と投げやりになってシロは答えた。

「やったあ」

「楽しみですね、ミタラシさん」

「うん」

「私、準備手伝いますよ」

「いいよ。でも、ありがとう」ひとしきり喜んだあと、ミタラシは、大体どういう食べ物を用意すればいいか、三人のリクエストをとりながら確認し、空中でそろばんをはじいた。「じゃあ、領収書はシロ宛に送るから」

「金とるのかよ!」

「格安にしとくね」

 そう言うと、ミタラシは事務所を出て行った。



「会費制にするか」シロが言った。

「え~、俺も金出すの?」

「だよな、イヤだよな。じゃあ、最年長のミタラシに出してもらうことにするか」

 ミタラシのいない所で、勝手に決めた。

 いいのかな、っていうかダメだろ、とハイジは思った。

 だが、あまり下手なことも言えないので、

「下の喫茶店で準備するなら、シロさんも手伝えば…?」

 と言ってみた。

「あ?」何を言っているのだ、と嫌そうな顔をするシロ。

「なにか不都合でも…?」

「ハイジ、プロの殺し屋とただの殺人鬼やチンピラの違いは何だと思う?」

 突然の質問に困惑したハイジだが、「報酬…?」と思い付いた事を口にした。

「その通り。誰彼構わず傷付けるなんてこと、プロはしない。『普段やっている事でしょ』『仕事と同じでしょ』なんて、冗談言え。プロを動かすには金がかかるし、オンとオフを区別できるからプロなんだ」

 つまり、やりたくないわけだ、とハイジは察した。

「殺し屋だったのか、シロ」

「気付かれちゃあ、しょうがない。お前もここで消しておこう」

「た、助けて…」

「バキュ~ン」

 ふざけて遊ぶ二人。

 プライベートでも殺しをしようとしているではないか、とハイジはつっこみたかった。



 太陽が真上に行き、そして落ちてきた。

 もうすぐ太陽は隠れ、外は暗くなるだろう。

 月食はまだでも、そろそろ日暮れ。

 クロたちは、仕事もなかったので、月食が起きるのを待ち遠しく思いながら待っていた。

 そしたら、ちょうど暇を潰してくれそうなカボチャ頭が来た。

「おじゃまします」

「よく来た、パンプ」

 突然の訪問を歓迎され、パンプは面食らった。

「ど、どうしたんすか、クロさん?」

「退屈だったのさ。何かして」

「なんすか、その無茶ブリ!」

 なにがなんだか分からず、パンプは混乱した。こんな時は、と この事務所の良心的存在に視線を向ける。

「実はですね、今晩起こる月食を楽しみにしていて…」

 ハイジは、事情を説明した。

「なるほど、月食ですか…」パンプは、楽しそうにニヤッと笑った。「面白そうですね、それ。どっかに見に行くんすか?」

「空ならどこからでも見えるだろ」

 シロは、面倒臭そうにあしらった。

「見えるって、この事務所からだと月は見えにくくないですか?」

「まぁ、な」

「せっかくっすから、どっかに見に行きませんか?」

「月にでも行くか?」

「何を言ってんすか、シロさん。こんな時に月に行ったら、食われちまいますよ」

「お、バカ発言」

「パンプさん…別に月食と言っても、実際に月が何かに食べられるワケじゃないですよ」

 バカにしないように気を付けながら、ハイジは言った。

「……あ、そっすよね」パンプも、そりゃあそうだ、と納得した。「月、一個しかないのに、食うのはマズイっすよね」

「お、またバカ発言」

「お、そうだ」クロが、閃いた。「せっかくの天体ショー、ハイジ、知り合いに声掛けたら?」

「そうだな」シロも同意した。「万が一のこともある、会費制になった時のことを考えれば、頭数は多いに越したことはない」

 そういう理由? と、どこか釈然としない思いを抱えたハイジだが、せっかくだしアニマちゃんにメールしてみよう、と考えていた。

「じゃあ、俺も参加させてください」

 パンプは、勢い良く手を上げた。

「参加費、一万な」

「高っ!」



 ハイジからアニマに連絡が行き、悪の組織の二人も来るらしい。

 参加費一万円は払えないが、パンプも来るそうだ。

 参加人数の増加という連絡は、ちゃんとミタラシにも行った。食べ物も飲み物も、多目に用意してくれるそうだ。

 何も問題はない。

 地球を巻き込んだ天体ショーの主催者として、クロとシロは、満足感を覚えていた。

 日が暮れ、会場に着く前までは。

「「広っ!」」

 待ち合わせ場所として指定した『河川敷』は、想像以上に広かった。

 この砂漠で待ち合わせ、と言うのと同じとまでは言わないが、似たようなモノだ。目印も何も無いこの広い河川敷で集合するのは、なかなかに困難だと言わざるを得ない。自分達のように月食を見に来たらしいグループもちらほら見えるし、相手に探してもらうのは難しいかもしれない。

「どうする? シロ」

「どうするか…」

 主催者として早目に来ていた二人は、考えた。

 そして、同時に「「あっ!」」と閃いた。

「目印がないなら、作ればいい」

「作る?」ハイジは、首をかしげた。

「作るというか、呼ぶ」

 クロが、意味深な笑みを浮かべた。



 広い砂漠で木が一本立っていれば、それなりに目立つ。遠くからでも眼にとまり、見付けた人は、その下に水があるのではないか、少なくとも日陰はあるから休める、と目指すことだろう。

 広い河川敷でも似たような事は言える。平均値を大きく超える身長の男がいれば、遠くからでも容易に見付けられる。たとえ似たようなグループがあったとしても、この目印があれば、心配はない。

「よく来た、アメ助」

「食事を奢ってもらえるって聞いたんすけど…?」

 食べ物が何も用意されていないことに、アメ助は不満を募らせた。

「ウソは言ってない」シロは、そう焦るな、と言った。「食べ物は、向こうから来る。だから、食べ物が道に迷わないように、目印が必要なのだ」

「…誰かが弁当か何かを持って来てくれるから、それまで目印として立っていろ、そういうことですね」

「察しがイイね」

 クロは、少しでも目立つようにアメ助に直立不動の体勢をとらせた。



 大きな目印は人目を引き、クロ達を見付け易くした。

 そして、すっかり暗くなった頃。河川敷に、クロ、シロ、ハイジ、ミタラシ、パンプ、アニマ、カグラ、アメ助の八人が集まった。

「ハイジさん、誘ってくれてありがとうございます」アニマは、礼を言った。

「こちらこそ、来てくれてありがとう」

「俺からも礼を言わせてもらう」カボチャ頭の生物や大男との面会の場を用意してもらえた事に、カグラは感激していた。「ありがとう」

「ど、どういたしまして…」愛想笑いで応えたが、この人だれ? とクロは疑問に思った。

「シロ! 運ぶの手伝ってって、メールしたでしょ」重箱に詰めた弁当を持ってきたミタラシは、シロを見付けると、苦言を飛ばした。

「そこのカボチャを遣いに出しただろう」

 パンプがミタラシを手伝っているのを見て、シロは言った。

「何言っているんすか、シロさん! これは偶然、俺が困っている女性に手を差し伸べた結果でしょうよ」

「どうでもいいけど、弁当…」

 アメ助のお腹が、ぐぅ~と鳴った。



 肝心の天体ショーは、というと。

「シロ、まだなの」

「始まっているよ。ほれ、少し欠けてきただろ」

「え、地味」

 と、クロは早々に飽きてしまった。

 そして、天体ショーもそこそこに楽しく飲み食いをした後、クロは眠ってしまった。

「お~い、起きろ、クロ」

 シロが声をかけるが、クロが眼を覚ます気配はない。

 結局、月が完全に隠れるのを、クロは見る事が出来なかった。

 そして後日、テレビのニュースで完全に月が隠れた幻想的な状態を見たクロは、

「なんで起こしてくれなかったのさ!」

 と、シロに怒鳴りかかり、「起こしたっつーの」と逆に怒られてしまう。


「天体ショー」という言葉の響きだけで心動かされます。

ちなみに、軽食などの費用は、会費制にしてピンハネしようと企む男がいたのですが、ある女性がその会費料を格安に設定したため、不足分を会費制を提案した男が責任を取って払わされたそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ